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【覇道・新国家編】
鉄甲馬車、雪原を走る要塞
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石狩(いしかり)の平原は、白一色に閉ざされていた。
そこへ、黒い嵐のような軍勢が現れた。
ボロクル率いるモンゴル軍主力、残存兵力およそ二万。
彼らはもう、捕虜を盾にはしていなかった。
怒りだ。
仲間を焼き殺された憎悪と、正面から叩き潰してやるという戦士のプライドが、彼らを鬼へと変えていた。
「……いい面構えだ」
平原の中央。俺は愛馬に跨り、双眼鏡を下ろした。
遮蔽物のない雪原。モンゴル騎兵が最も得意とする狩り場だ。彼らはここで、我々を包囲殲滅(エンサーキュルメント)するつもりだろう。
「殿。陣形、整いました」
弁慶の声が響く。
俺たちの周囲には、奇妙な物体が正方形(スクエア)を描いて並んでいた。
鉄甲馬車(てっこうばしゃ)。
荷馬車を分厚い鉄板で覆い、銃眼と砲門を備えた、簡易的な「装甲車」だ。
これを五十台連結させ、即席の要塞とする。歴史上、フス戦争で使われた「ワゴン・ブルク」の近代改修版だ。
「来るぞ! 衝撃に備えろ!」
地平線が震えた。
モンゴル軍が動き出したのだ。
二万の騎兵が、まるで一つの巨大な生き物のように加速する。大地を叩く蹄の音は、雷鳴を超えて心臓を直接揺さぶる。
「殺せェッ! 悪魔どもを挽き肉にしろォッ!!」
ボロクルの咆哮が轟く。
ヒュンヒュンヒュンッ!!
空が暗くなった。数万本の矢が、雨のように降り注ぐ。
だが。
カンッ、カカカカンッ!!
矢は鉄甲馬車の装甲に弾かれ、乾いた音を立てて雪に刺さるだけだった。
中にいる兵士たちは無傷だ。
「……ターン・エンドだ」
馬車の隙間から、俺は冷徹に告げた。
「こちらの番だ。……撃て」
ズドォォォォォンッ!!
五十台の馬車から、一斉に青龍砲が火を噴いた。
装填されているのは鉄球ではない。
「葡萄弾(グレープ・ショット)」。
無数の鉄屑や鉛玉を詰め込んだ、対人用の散弾だ。
巨大な散弾銃が、密集するモンゴル騎兵の群れを薙ぎ払った。
前列の数百騎が、馬ごと蜂の巣になり、肉片となって吹き飛ぶ。
後続の馬が、死体の山に躓(つまず)き、転倒する。
「な……ッ!?」
ボロクルが絶句する。
彼らの常識では、敵は矢の雨で怯むはずだった。だが、目の前の「鉄の箱」は無傷のまま、雷のような暴力を吐き出し続けている。
「怯むな! 懐に飛び込め! 鉄の箱を乗り越えろ!」
ボロクルが先頭に立ち、馬車の列へ突っ込む。
さすがは世界最強の兵士たちだ。死体の山を乗り越え、馬車に取り付き、隙間から槍を突き入れてくる。
ガァンッ!
鉄板が凹む。馬車が揺れる。
内部の鎌倉武者たちが悲鳴を上げる。
「入ってくるぞ! 抑えろ!」
「安! 出番だ!」
俺の合図と共に、馬車要塞の中央から、安(安徳)率いる竜騎兵隊が飛び出した。
「喰らえェッ!」
安が両手に持った二丁の短筒(ソードオフ・ショットガン)を放つ。
馬車に取り付いていた敵兵が顔面を撃ち抜かれ、仰け反る。
その隙に、竜騎兵たちがサーベルを抜き、一撃離脱の斬り込みをかける。
混乱する敵陣。
その混乱を切り裂いて、一人の巨人が俺の元へ一直線に突っ込んできた。
ボロクルだ。
彼は本能で悟ったのだ。この鉄の要塞を指揮している「核」を殺さなければ勝てないと。
「源義経ェェェッ!!」
ボロクルの巨躯が、馬ごと俺のいる指揮車へ跳躍した。
手には巨大な戦斧。
俺を守る鉄板ごと叩き割る気迫。
俺は動かなかった。
なぜなら、俺には「最強の盾」があるからだ。
「……殿の御前である」
ドゴォッ!!
空中で、ボロクルの戦斧が止められた。
受け止めたのは、一本の鉄棒――いや、巨大な**「金砕棒(かなさいぼう)」**。
それを握っているのは、老いてなお盛んな鬼神、武蔵坊弁慶。
「控えよ、蛮族」
弁慶の腕が膨れ上がる。
ボロクルの巨体が、馬ごと空中で押し返され、雪の上に叩き落とされた。
「ぐっ……貴様、何者だ!」
ボロクルが呻く。
弁慶は金砕棒を担ぎ直し、ニヤリと笑った。
「ただの道具屋だ。……ちと、在庫一掃セール中でな」
弁慶が踏み込む。
豪速の一撃。
ボロクルが戦斧で受けるが、衝撃で膝が折れる。
二撃目。斧にヒビが入る。
三撃目。
バキャァァッ!!
戦斧ごと、ボロクルの頭蓋骨が粉砕された。
モンゴル帝国の四駿、北の大地にて散る。
総大将の死。
それが決定打となった。
無敵を誇ったモンゴル軍が、ついに背を向けた。
雪原に残されたのは、無数の死体と、赤く錆びついたような雪解け水だけ。
「……勝った、のか?」
北条泰時が、馬車の影から這い出てくる。
彼の顔は煤と油で真っ黒だったが、その目は輝いていた。
自分たちが、あの「世界災害」を食い止めたのだという実感。
「第一次、防衛成功だ」
俺は愛馬から降り、ボロクルの死体の前に立った。
強敵だった。技術の差がなければ、負けていたのは我々だ。
「丁重に葬ってやれ。……彼もまた、国のための鬼だった」
俺は北の海を見た。
空は青く晴れ渡っている。
だが、これは終わりではない。チンギス・カンは必ず報復に来る。次は十万、いや二十万で。
「帰るぞ、宇須岸へ」
俺は告げた。
「勝鬨(かちどき)は上げるな。……すぐに次の準備だ。我々には、休んでいる暇などない」
文永の役よりも半世紀早く、元寇は撃退された。
だが、この勝利が世界史を大きく歪めたことを、俺はまだ知らなかった。
東の果てに「モンゴルを倒した国」があるという噂は、シルクロードを伝って西へ飛び、やがて意外な来訪者を招くことになる。
そこへ、黒い嵐のような軍勢が現れた。
ボロクル率いるモンゴル軍主力、残存兵力およそ二万。
彼らはもう、捕虜を盾にはしていなかった。
怒りだ。
仲間を焼き殺された憎悪と、正面から叩き潰してやるという戦士のプライドが、彼らを鬼へと変えていた。
「……いい面構えだ」
平原の中央。俺は愛馬に跨り、双眼鏡を下ろした。
遮蔽物のない雪原。モンゴル騎兵が最も得意とする狩り場だ。彼らはここで、我々を包囲殲滅(エンサーキュルメント)するつもりだろう。
「殿。陣形、整いました」
弁慶の声が響く。
俺たちの周囲には、奇妙な物体が正方形(スクエア)を描いて並んでいた。
鉄甲馬車(てっこうばしゃ)。
荷馬車を分厚い鉄板で覆い、銃眼と砲門を備えた、簡易的な「装甲車」だ。
これを五十台連結させ、即席の要塞とする。歴史上、フス戦争で使われた「ワゴン・ブルク」の近代改修版だ。
「来るぞ! 衝撃に備えろ!」
地平線が震えた。
モンゴル軍が動き出したのだ。
二万の騎兵が、まるで一つの巨大な生き物のように加速する。大地を叩く蹄の音は、雷鳴を超えて心臓を直接揺さぶる。
「殺せェッ! 悪魔どもを挽き肉にしろォッ!!」
ボロクルの咆哮が轟く。
ヒュンヒュンヒュンッ!!
空が暗くなった。数万本の矢が、雨のように降り注ぐ。
だが。
カンッ、カカカカンッ!!
矢は鉄甲馬車の装甲に弾かれ、乾いた音を立てて雪に刺さるだけだった。
中にいる兵士たちは無傷だ。
「……ターン・エンドだ」
馬車の隙間から、俺は冷徹に告げた。
「こちらの番だ。……撃て」
ズドォォォォォンッ!!
五十台の馬車から、一斉に青龍砲が火を噴いた。
装填されているのは鉄球ではない。
「葡萄弾(グレープ・ショット)」。
無数の鉄屑や鉛玉を詰め込んだ、対人用の散弾だ。
巨大な散弾銃が、密集するモンゴル騎兵の群れを薙ぎ払った。
前列の数百騎が、馬ごと蜂の巣になり、肉片となって吹き飛ぶ。
後続の馬が、死体の山に躓(つまず)き、転倒する。
「な……ッ!?」
ボロクルが絶句する。
彼らの常識では、敵は矢の雨で怯むはずだった。だが、目の前の「鉄の箱」は無傷のまま、雷のような暴力を吐き出し続けている。
「怯むな! 懐に飛び込め! 鉄の箱を乗り越えろ!」
ボロクルが先頭に立ち、馬車の列へ突っ込む。
さすがは世界最強の兵士たちだ。死体の山を乗り越え、馬車に取り付き、隙間から槍を突き入れてくる。
ガァンッ!
鉄板が凹む。馬車が揺れる。
内部の鎌倉武者たちが悲鳴を上げる。
「入ってくるぞ! 抑えろ!」
「安! 出番だ!」
俺の合図と共に、馬車要塞の中央から、安(安徳)率いる竜騎兵隊が飛び出した。
「喰らえェッ!」
安が両手に持った二丁の短筒(ソードオフ・ショットガン)を放つ。
馬車に取り付いていた敵兵が顔面を撃ち抜かれ、仰け反る。
その隙に、竜騎兵たちがサーベルを抜き、一撃離脱の斬り込みをかける。
混乱する敵陣。
その混乱を切り裂いて、一人の巨人が俺の元へ一直線に突っ込んできた。
ボロクルだ。
彼は本能で悟ったのだ。この鉄の要塞を指揮している「核」を殺さなければ勝てないと。
「源義経ェェェッ!!」
ボロクルの巨躯が、馬ごと俺のいる指揮車へ跳躍した。
手には巨大な戦斧。
俺を守る鉄板ごと叩き割る気迫。
俺は動かなかった。
なぜなら、俺には「最強の盾」があるからだ。
「……殿の御前である」
ドゴォッ!!
空中で、ボロクルの戦斧が止められた。
受け止めたのは、一本の鉄棒――いや、巨大な**「金砕棒(かなさいぼう)」**。
それを握っているのは、老いてなお盛んな鬼神、武蔵坊弁慶。
「控えよ、蛮族」
弁慶の腕が膨れ上がる。
ボロクルの巨体が、馬ごと空中で押し返され、雪の上に叩き落とされた。
「ぐっ……貴様、何者だ!」
ボロクルが呻く。
弁慶は金砕棒を担ぎ直し、ニヤリと笑った。
「ただの道具屋だ。……ちと、在庫一掃セール中でな」
弁慶が踏み込む。
豪速の一撃。
ボロクルが戦斧で受けるが、衝撃で膝が折れる。
二撃目。斧にヒビが入る。
三撃目。
バキャァァッ!!
戦斧ごと、ボロクルの頭蓋骨が粉砕された。
モンゴル帝国の四駿、北の大地にて散る。
総大将の死。
それが決定打となった。
無敵を誇ったモンゴル軍が、ついに背を向けた。
雪原に残されたのは、無数の死体と、赤く錆びついたような雪解け水だけ。
「……勝った、のか?」
北条泰時が、馬車の影から這い出てくる。
彼の顔は煤と油で真っ黒だったが、その目は輝いていた。
自分たちが、あの「世界災害」を食い止めたのだという実感。
「第一次、防衛成功だ」
俺は愛馬から降り、ボロクルの死体の前に立った。
強敵だった。技術の差がなければ、負けていたのは我々だ。
「丁重に葬ってやれ。……彼もまた、国のための鬼だった」
俺は北の海を見た。
空は青く晴れ渡っている。
だが、これは終わりではない。チンギス・カンは必ず報復に来る。次は十万、いや二十万で。
「帰るぞ、宇須岸へ」
俺は告げた。
「勝鬨(かちどき)は上げるな。……すぐに次の準備だ。我々には、休んでいる暇などない」
文永の役よりも半世紀早く、元寇は撃退された。
だが、この勝利が世界史を大きく歪めたことを、俺はまだ知らなかった。
東の果てに「モンゴルを倒した国」があるという噂は、シルクロードを伝って西へ飛び、やがて意外な来訪者を招くことになる。
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