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第1章 その翼は何色に染まるのか
24話 更生施設
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職場から車を走らせおよそ1時間半。ビルが立ち並んでいた市街地から抜け、灯真たちは緑に囲まれた道路をのんびりと進んでいた。左右に見えるのは生い茂った木々や飛んでいる鳥たち。コンビニを最後に見かけたのは30分以上前だ。
「こんなところにあるんですね」
助手席に乗る岩端は、代わり映えしない景色を見ながらそう呟いた。施設の存在は知っていたが、実際に赴くのは初めて。まさかこんな場所にあるとは思っていなかった。しかし、収容されているのが魔法をコントロールできない子供たちであることを考えれば、それは仕方のないことであった。
「なるべく人がいないところを選んで建てたと、施設の方が言ってましたね。街中で使ったら危ない魔法を使う子もいますから」
「そういうことですか」
岩端がいることもあってか、ディーナは後ろの席で運転席にしがみついたまま。縮こまってシートの影に隠ているが、灯真の住んでいるところとは違う植物ばかりの世界が現れてからは、緊張を忘れてずっと景色に目を奪われている。
これまでの道のりで交わされた言葉は少ない。ディーナは岩端を警戒しているし、灯真は自分から話すタイプではない。施設に岩端が一度も行ったことがないという話をわずかにした程度だ。世間話をしようにもどう切り出せばいいか分からない。
(事務所で仕事してた方がマシだったな……)
無言のドライブに精神をすり減らしていた岩端だったが、適当に眺めていた外の景色に変化が現れたことに気付く。
「灯真さん、あれはなんですか!?」
それまで口を開かなかったディーナが突然窓の外を指して灯真に尋ねる。
「あれは牛だ。ここにいるのは確か乳牛だったかな」
「にゅうぎゅう?」
「いつもディーナが美味しく飲んでいる牛乳は、あの牛たちが作ってくれてるものだよ」
「本当ですか!? じゃあ、後でお礼を言わないと」
まるで幼い子供のようなディーナの発言に呆れる岩端だったが、それ以上に彼の意識は窓の外に向いている。ディーナが興奮して見ている右側は、おそらく牛を放牧するための土地だ。奥の方に牛舎もある。左側には畑や田んぼが続いている。しかもかなり大規模なものだ。道も気がつけば一直線になっており正面には建物らしきものが見えてきた。
「着きました」
未成年魔法使い犯罪者更生施設、通称『ドルアークロ』。収容施設というから病院や刑務所のようなものを想像していた岩端の目の前に現れたのは、一軒の古民家だった。正面に見える玄関の大きさや横に広がる漆喰の壁は、そこがかなりの大きさの家であることを彼に気付かせる。電線は見当たらないが、瓦屋根には太陽光パネルが確認できる。
建物前の適当なところに駐車し3人が車を降りると、ガラガラッと玄関の引き戸が勢いよく開かれる音が耳に入った。
「あっ、せんせーだ!」
「せんせー!」
そういって玄関から二人の子供が灯真に駆け寄ってくる。腕を大きく振って走る二人は、速度を落とすことなくそのまま灯真の足へ渾身のタックルを仕掛けた。子供たちの攻撃を受けても全くその場から動かない灯真は、子供たちの頭を掴み自分の足から離そうとする。
「俺、前より長く飛べるようになったんだぜ!」
「あたしだってたくさん花火出せるようになったんだよ!」
「わかったから退いてくれ。まずは森永さんのところにいかないと」
「おーまーえーらー!」
玄関の方から一際大きな声がしたかと思うと、一人の青年が怒りの形相で灯真へと近づいてきた。栗色の短い髪を逆立て白いタオルを鉢巻のように巻き、色あせた黒いTシャツとタイトなジーンズに身を包むその青年は、灯真にしがみ付こうとする子供達の襟を引っ張り強引に彼から引き離した。子供たちは「げっ」と声を上げ、まずい人に見つかったと言わんばかりの苦い顔を見せる。
「すんません、兄貴。こいつら練習の成果見せてやるんだって意気込んでて」
腰を90度以上曲げ灯真に頭を下げる青年に、岩端は見覚えがあった。彼の名前は来栖 和也。灯真が調査機関での仕事で初めて対応した真報の犯人である。
「大丈夫だから、気にしないで。森永さんは?」
「あ~、鬼教官ならきっと畑の方に行ってるはずっす」
「鬼教官とは誰のことだ?」
「そりゃもちろん、うちの施設長のおにばば……」
その聞き覚えのある声に気がつき、全身から汗が吹き出る来栖。震えながらゆっくりと声がした方を顔を向けると、そこに立っていたのはツナギ姿で鍬を肩に担ぎ、目尻を釣り上げた妙齢の女性であった。ついさっきまで畑仕事をしていたのだろうか。履いている長靴や軍手は土で汚れ、顔にも泥をつけた彼女の鋭い目を、帽子のつばで出来た影が威圧感をより一層際立たせている。
「ずいぶん言うようになったじゃないか、和也」
「いや、先に言いだしたのはこのガキたちで俺は……」
先ほど引っ張った二人の子供は、いつの間にか灯真の後ろに隠れ来栖に向かってべーっと舌を出している。先手を打って逃げた二人を睨みつけながら来栖は小声で「後で覚えてろよ」と呟く。
「この後の訓練、覚悟しておくんだな」
にやりと口角をあげるその表情を向けられた和也は思わず背筋をまっすぐ伸ばし気をつけの姿勢になった。灯真の後ろに隠れる子供達となぜかディーナも一緒に、女性から何か恐ろしいものを感じガタガタと震えている。
「森永さん……森永 かなえさんですよね!?」
「あんたは確か……岩端隊長の。なんでこんなところに?」
「今日はその……こちらの如月さんの訓練の様子を見に行くように言われまして」
「灯真の訓練を?」
緊張している岩端の話を訝しげに聞く森永と呼ばれた女性が灯真の方に視線を送ると、それに気付いた彼は首を縦に振る。
(訓練の様子を、よりもよって岩端隊長の息子に見せるなんて……ルイスさんは何を考えてるんだか)
森永は岩端がここに来たことが腑に落ちなかった。灯真がここに来るようになって既に2年近く経つが、最初にルイス・ブランドが案内で一緒に来た初回以外に同じ職場の人間が様子を見に来たことなどない。彼の事情を知られまいと、ルイスが意図的にそうして来たはずだった。
(おまけになんだあの子は……不思議な匂いさせて)
鼻の頭を軽く人差し指で押さえながら、森永はディーナのことをまじまじと見つめる。森永に見つめられたディーナは彼女の視界に入らないよう、灯真の体で身を隠した。彼女の方から漂ってくる複雑な香りを確かめると、森永は突然大きく息を吐き直立不動となった来栖の首を掴んで玄関まで引きずっていく。
「ここで話すのもなんだ。とりあえず中においで。あんたたちも、いつまでも灯真にくっついてないでこっちに来なさい」
「は~い」
子供達は森永に言われるがまま後をついて行く。玄関に入る直前、子供達は灯真に向かって「あとでね!」と大きく手を振る。それを見た灯真が自分の前で小さく手を上げたのを確認したところで、森永に抱えられ無理やり中に連れて行かれた。
「如月さん……森永さんとお知り合いだったんですか?」
「知り合いも何も、森永さんはここの施設長ですよ。俺の訓練もあの人に言われて来てるんです。岩端先輩こそ」
「何言ってるんですか、あの人は魔法使いの中でも知らない人の方が少ないくらいの有名人ですよ!」
森永 かなえ——法執行機関において未だ破られていない捜査員の最年少記録を作り、数多くの事件を解決して来た女傑。父親の付き添いで幼い頃に何度か顔を合わせたことのある岩端にとって、魔法使いとしての憧れの存在である。
「彼女の生み出す水流は、ある時は敵を捕縛する渦となり、ある時はあらゆるものを切り裂く刃となる。水を操る魔法の中でも応用力が高く、A級魔法に分類されています」
「A級?」
魔法使いの能力に応じたランクは灯真も知っている。しかし、魔法につけるそのような制度は協会で制定しておらず灯真は聞いたことがない。もし協会が定めているならヴィルデム語が使われているはずだが、アルファベットが使われているということはそれが公式ではないということを意味している。
「元々は法執行機関が犯人の使う魔法の危険度指標として使っていたものですが、魔法そのものの価値を表す指標みたいなものとして最近使われるようになってて。協会は認めてないみたいですが」
「当然でしょうね」
そう言い切る灯真の言葉に棘のようなものを感じ、心の中に湧いてくる感情を抑えながら岩端は聞き返す。強張る顔の筋肉を必死に動かすが、その目が笑っていないことに気付いたディーナは彼の目線に入らないよう灯真を盾にする。
「どういう意味ですか?」
「たった一つしか覚えられない魔法は、使い手そのものを表すものです。それをランク付けするってことは、そのまま人の評価になり差別を生みます。協会でも似たようなものを作っていますが、あれは魔法使いとしての熟練度を評価するもので使い手の評価です。生まれ持った体や境遇で評価するのと、本人の経験と努力を評価するのとでは全然違いますから」
「でも、魔法は一度覚えてしまったら変えることができないんだから、より強力な効果を持った魔法が評価されるのは当然のことじゃないですか!?」
口調を荒げる岩端の様子は、灯真が知るいつもの彼と明らかに違う。彼の興奮と怒りを含んだ声に怯えるディーナに寄り添いながら、一体何が彼をそこまで怒らせたのかと灯真は考える。
「……もしかすると、今日の訓練を見てもらえたら俺の言ったことの意味をわかってもらえるかもしれません」
魔法に対する認識の違い……岩端の反応したのがそこであると踏んだ灯真だったが、それを言葉で理解させるのが難しいことも彼はわかっている。実際に見せるのが早い。それにはこれからの訓練が一番都合が良かった。
「わかりました。元々そのために来たわけですから」
不機嫌な面持ちのまま、岩端はズカズカと玄関の方へ足を運んでいく。彼の反応に不安を残しながら、灯真は中に入ることに緊張しているディーナを連れて後を追った。
「こんなところにあるんですね」
助手席に乗る岩端は、代わり映えしない景色を見ながらそう呟いた。施設の存在は知っていたが、実際に赴くのは初めて。まさかこんな場所にあるとは思っていなかった。しかし、収容されているのが魔法をコントロールできない子供たちであることを考えれば、それは仕方のないことであった。
「なるべく人がいないところを選んで建てたと、施設の方が言ってましたね。街中で使ったら危ない魔法を使う子もいますから」
「そういうことですか」
岩端がいることもあってか、ディーナは後ろの席で運転席にしがみついたまま。縮こまってシートの影に隠ているが、灯真の住んでいるところとは違う植物ばかりの世界が現れてからは、緊張を忘れてずっと景色に目を奪われている。
これまでの道のりで交わされた言葉は少ない。ディーナは岩端を警戒しているし、灯真は自分から話すタイプではない。施設に岩端が一度も行ったことがないという話をわずかにした程度だ。世間話をしようにもどう切り出せばいいか分からない。
(事務所で仕事してた方がマシだったな……)
無言のドライブに精神をすり減らしていた岩端だったが、適当に眺めていた外の景色に変化が現れたことに気付く。
「灯真さん、あれはなんですか!?」
それまで口を開かなかったディーナが突然窓の外を指して灯真に尋ねる。
「あれは牛だ。ここにいるのは確か乳牛だったかな」
「にゅうぎゅう?」
「いつもディーナが美味しく飲んでいる牛乳は、あの牛たちが作ってくれてるものだよ」
「本当ですか!? じゃあ、後でお礼を言わないと」
まるで幼い子供のようなディーナの発言に呆れる岩端だったが、それ以上に彼の意識は窓の外に向いている。ディーナが興奮して見ている右側は、おそらく牛を放牧するための土地だ。奥の方に牛舎もある。左側には畑や田んぼが続いている。しかもかなり大規模なものだ。道も気がつけば一直線になっており正面には建物らしきものが見えてきた。
「着きました」
未成年魔法使い犯罪者更生施設、通称『ドルアークロ』。収容施設というから病院や刑務所のようなものを想像していた岩端の目の前に現れたのは、一軒の古民家だった。正面に見える玄関の大きさや横に広がる漆喰の壁は、そこがかなりの大きさの家であることを彼に気付かせる。電線は見当たらないが、瓦屋根には太陽光パネルが確認できる。
建物前の適当なところに駐車し3人が車を降りると、ガラガラッと玄関の引き戸が勢いよく開かれる音が耳に入った。
「あっ、せんせーだ!」
「せんせー!」
そういって玄関から二人の子供が灯真に駆け寄ってくる。腕を大きく振って走る二人は、速度を落とすことなくそのまま灯真の足へ渾身のタックルを仕掛けた。子供たちの攻撃を受けても全くその場から動かない灯真は、子供たちの頭を掴み自分の足から離そうとする。
「俺、前より長く飛べるようになったんだぜ!」
「あたしだってたくさん花火出せるようになったんだよ!」
「わかったから退いてくれ。まずは森永さんのところにいかないと」
「おーまーえーらー!」
玄関の方から一際大きな声がしたかと思うと、一人の青年が怒りの形相で灯真へと近づいてきた。栗色の短い髪を逆立て白いタオルを鉢巻のように巻き、色あせた黒いTシャツとタイトなジーンズに身を包むその青年は、灯真にしがみ付こうとする子供達の襟を引っ張り強引に彼から引き離した。子供たちは「げっ」と声を上げ、まずい人に見つかったと言わんばかりの苦い顔を見せる。
「すんません、兄貴。こいつら練習の成果見せてやるんだって意気込んでて」
腰を90度以上曲げ灯真に頭を下げる青年に、岩端は見覚えがあった。彼の名前は来栖 和也。灯真が調査機関での仕事で初めて対応した真報の犯人である。
「大丈夫だから、気にしないで。森永さんは?」
「あ~、鬼教官ならきっと畑の方に行ってるはずっす」
「鬼教官とは誰のことだ?」
「そりゃもちろん、うちの施設長のおにばば……」
その聞き覚えのある声に気がつき、全身から汗が吹き出る来栖。震えながらゆっくりと声がした方を顔を向けると、そこに立っていたのはツナギ姿で鍬を肩に担ぎ、目尻を釣り上げた妙齢の女性であった。ついさっきまで畑仕事をしていたのだろうか。履いている長靴や軍手は土で汚れ、顔にも泥をつけた彼女の鋭い目を、帽子のつばで出来た影が威圧感をより一層際立たせている。
「ずいぶん言うようになったじゃないか、和也」
「いや、先に言いだしたのはこのガキたちで俺は……」
先ほど引っ張った二人の子供は、いつの間にか灯真の後ろに隠れ来栖に向かってべーっと舌を出している。先手を打って逃げた二人を睨みつけながら来栖は小声で「後で覚えてろよ」と呟く。
「この後の訓練、覚悟しておくんだな」
にやりと口角をあげるその表情を向けられた和也は思わず背筋をまっすぐ伸ばし気をつけの姿勢になった。灯真の後ろに隠れる子供達となぜかディーナも一緒に、女性から何か恐ろしいものを感じガタガタと震えている。
「森永さん……森永 かなえさんですよね!?」
「あんたは確か……岩端隊長の。なんでこんなところに?」
「今日はその……こちらの如月さんの訓練の様子を見に行くように言われまして」
「灯真の訓練を?」
緊張している岩端の話を訝しげに聞く森永と呼ばれた女性が灯真の方に視線を送ると、それに気付いた彼は首を縦に振る。
(訓練の様子を、よりもよって岩端隊長の息子に見せるなんて……ルイスさんは何を考えてるんだか)
森永は岩端がここに来たことが腑に落ちなかった。灯真がここに来るようになって既に2年近く経つが、最初にルイス・ブランドが案内で一緒に来た初回以外に同じ職場の人間が様子を見に来たことなどない。彼の事情を知られまいと、ルイスが意図的にそうして来たはずだった。
(おまけになんだあの子は……不思議な匂いさせて)
鼻の頭を軽く人差し指で押さえながら、森永はディーナのことをまじまじと見つめる。森永に見つめられたディーナは彼女の視界に入らないよう、灯真の体で身を隠した。彼女の方から漂ってくる複雑な香りを確かめると、森永は突然大きく息を吐き直立不動となった来栖の首を掴んで玄関まで引きずっていく。
「ここで話すのもなんだ。とりあえず中においで。あんたたちも、いつまでも灯真にくっついてないでこっちに来なさい」
「は~い」
子供達は森永に言われるがまま後をついて行く。玄関に入る直前、子供達は灯真に向かって「あとでね!」と大きく手を振る。それを見た灯真が自分の前で小さく手を上げたのを確認したところで、森永に抱えられ無理やり中に連れて行かれた。
「如月さん……森永さんとお知り合いだったんですか?」
「知り合いも何も、森永さんはここの施設長ですよ。俺の訓練もあの人に言われて来てるんです。岩端先輩こそ」
「何言ってるんですか、あの人は魔法使いの中でも知らない人の方が少ないくらいの有名人ですよ!」
森永 かなえ——法執行機関において未だ破られていない捜査員の最年少記録を作り、数多くの事件を解決して来た女傑。父親の付き添いで幼い頃に何度か顔を合わせたことのある岩端にとって、魔法使いとしての憧れの存在である。
「彼女の生み出す水流は、ある時は敵を捕縛する渦となり、ある時はあらゆるものを切り裂く刃となる。水を操る魔法の中でも応用力が高く、A級魔法に分類されています」
「A級?」
魔法使いの能力に応じたランクは灯真も知っている。しかし、魔法につけるそのような制度は協会で制定しておらず灯真は聞いたことがない。もし協会が定めているならヴィルデム語が使われているはずだが、アルファベットが使われているということはそれが公式ではないということを意味している。
「元々は法執行機関が犯人の使う魔法の危険度指標として使っていたものですが、魔法そのものの価値を表す指標みたいなものとして最近使われるようになってて。協会は認めてないみたいですが」
「当然でしょうね」
そう言い切る灯真の言葉に棘のようなものを感じ、心の中に湧いてくる感情を抑えながら岩端は聞き返す。強張る顔の筋肉を必死に動かすが、その目が笑っていないことに気付いたディーナは彼の目線に入らないよう灯真を盾にする。
「どういう意味ですか?」
「たった一つしか覚えられない魔法は、使い手そのものを表すものです。それをランク付けするってことは、そのまま人の評価になり差別を生みます。協会でも似たようなものを作っていますが、あれは魔法使いとしての熟練度を評価するもので使い手の評価です。生まれ持った体や境遇で評価するのと、本人の経験と努力を評価するのとでは全然違いますから」
「でも、魔法は一度覚えてしまったら変えることができないんだから、より強力な効果を持った魔法が評価されるのは当然のことじゃないですか!?」
口調を荒げる岩端の様子は、灯真が知るいつもの彼と明らかに違う。彼の興奮と怒りを含んだ声に怯えるディーナに寄り添いながら、一体何が彼をそこまで怒らせたのかと灯真は考える。
「……もしかすると、今日の訓練を見てもらえたら俺の言ったことの意味をわかってもらえるかもしれません」
魔法に対する認識の違い……岩端の反応したのがそこであると踏んだ灯真だったが、それを言葉で理解させるのが難しいことも彼はわかっている。実際に見せるのが早い。それにはこれからの訓練が一番都合が良かった。
「わかりました。元々そのために来たわけですから」
不機嫌な面持ちのまま、岩端はズカズカと玄関の方へ足を運んでいく。彼の反応に不安を残しながら、灯真は中に入ることに緊張しているディーナを連れて後を追った。
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