🐱山猫ヨル先生の妖(あやかし)薬学医術之覚書~外伝は椿と半妖の初恋

蟻の背中

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再会と初雪

密偵

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「そうなんだよな、ゲームって疲れるしキリがないんだよ」

 岩梵はそう言って渋い顔で頷いている。

「終われないんですよね、なかなか」

 実央は岩梵の脇を通り、やっとレジから抜け出し外に出た。
 まだ暗い空を見上げ胸を開き息を吸い込む。
 すると朝の冷たい空気が肺を満たし頭が冴えていくのを感じた。



 早朝に目覚めた椿は、すぐ携帯を手に取った。
 梵天からメールが来ている。

 ボンボン『鈴木くんは黒!』

 やっぱりそうなんだ、やっぱり、私と同じものが見えるんだ!
 ていうか、黒って、なにその表現……

 椿は嬉しさのあまり声を出して笑った。

 ボンボン『シフトは月、木以外10時から朝5時まで。家は近所で兄弟はなし』

 ボンボン『特記事項、付き合っている人はいない』

 そこまで聞いてないよ……。

 椿はクスクスにやけ、布団の中にもぐり返信を打った。

 椿『ボンボンありがとう!』

 夜の10時なら塾の帰りに少しだけ会いに行けるかも。
 母が迎えに来る時間を少しだけずらせたら……そんなことに頭を巡らせているうち、すぐに会いたいという気持ちの方がだんだん強くなる。

 時間は朝の4時を少し過ぎていた。

 急げば間に合うかも?
 今から行こうか?

 そう思ったら、いてもたってもいられず布団を蹴り上げていた。
 急いで制服に着替え身支度をする。

 母宛に『学校で自習をするので早く行きます』
 とメモを残した。

 玄関のドアをそっと閉め近くの公園まで走る。
 まだ電車の始発には早く、公園にあるレンタル自転車をかりた。

 冷たい風が椿の顔を冷やしていくが、寒さも冷たさも何も感じない。

 とにかくペダルを踏む足を止めたくなかった。
 赤信号もまどろっこしく気持ちだけが先に道路を渡っていく。

「はやく……よし!」

 青信号に変わると同時にペダルを踏みコンビニへ着いたのは5時少し前。

 外から店の中を覗くと、実央がレジの中にいて、梵天は新聞を並べているところだった。

 分厚いレンズの丸眼鏡越しにピタリと目が合う。
 梵天は驚いたのか抱えていた新聞をバサバサと落とす。

 (なんでいるの?!)

 という顔で椿を見ている。

 落ちた新聞を拾い上げ、ちらりと実央の方へ顔を向けた。

 実央は気付かず雑誌の返品数を数えている。

 梵天は眼鏡を外し、丸い目を大きく見開き椿を見た。そして口をパクパクさせ話かける。

 (どうしたの?!)

 (来ちゃった!!)

 椿が口パクで答えると、梵天は呆れたように首を左右に振った。

 梵天が手で頭を下げろ、という合図を送ってきたので、椿はその通り頭を下げた。

 ちょうど雑誌コーナーの後ろに隠れ店内からは見えなくなる。

「鈴木くん、お疲れ様でした。もう時間ですよ」

 梵天は眼鏡をかけ店内の時計を見ると実央へ声をかけた。

「あ、はい」

 実央は腕の時計に目をやってレジから出る。

「お疲れ様でしたお先に」

「お疲れ様でしたー」

 梵天はにこやかに実央を見送った。

「なんで来たの?!」

 梵天が急いで外へ出てきた。

「だって、なんか待てなくて……ねぇ、ちょっとなに?そのヒゲなんなの?」

「ふふん、これか? これはね、わざとだ」

「やつ、このヒゲを見て目を丸くしていたしな、俺がコピー機に仕込んでおいたヒシャゲにも気付いてた。俺があれを食べる真似をしたら腰を抜かしそうになっていたぞ」

 梵天は可笑しそうに笑いながら早口で報告した。

「ヒシャゲってあの気持ちの悪いカニみたいなやつだっけ?」

「そう、薄くて平べったい椎茸みたいなやつだ」

「そんな、驚かせてなんて頼んでないよ」

 椿は眉間に皺を寄せ梵天を睨んだ。

「ま、そういうことだから頑張れ」

「よ、余計なっ」

 梵天は意味深な笑みを残し、跳ねるように店へ戻って行った。

 椿が事務所の扉をじっと見張っていると、間もなく扉が開きそこから実央が出てくる。

 椿は自動扉の横で待ち構え、実央が外へ出てきたタイミングで声をかけた。

「あ、の」

 実央は突然現れた椿に驚き足が止まる。

「え、え?」

「あ、あの前に、か、傘を借りて……そのそれを返しに!!」

 椿は両手でビニール傘を付き出した。

「あ、ええと、それは返さなくていいって……」

「いえ、それじゃ、なんか悪いかなって思って」

「こんなに早くに? 部活? にしても早いでしょう」

「早く、返したかったから」

「あれ、それ、私の傘じゃない?」

 椿が差し出した傘を店長が受け取った。

「ほら、ここにテープ貼ってある」

「店長、朝帰りですか?」

 実央は店長から漂う酒の匂いに嫌な顔をする。

「おはようお疲れ様でした、ありがとう!」

「これ、俺のですから」

 実央はそう言って店長から傘を奪い取った。

「え、でもさ、ほら持ち手にテープ巻いてあるじゃない、これ私が巻いたの、私のだよって印なわけ」

「これは、俺が巻いたんです」

「あー、そうなの……似てるけど」

「酔っぱらいの目は信用出来ませんて」

「ん、こんなに早く登校か、部活?大変だねぇ、鈴木くん危ないから学校まで送ってあげなさーい。今も最近この辺治安悪くなってるよね、って、パトロールでもしようかって、話が出てたんだぁよぉ~」

「あの、大丈夫です」

「しっ!! 子供は黙ってなさい!子供は大人の言うことを黙って聞けばいいんですぅ!!」


☆☆☆

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