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1.突然の婚約破棄と再会①
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「リリア・シュトール。貴様との婚約は本日をもって破棄させて貰う」
「…………」
(貴様って……)
今日は王立学園の卒業パーティー。
天井から吊された煌びやかなシャンデリアの下では、最後の思い出を作ろうと着飾った卒業生や教師達が楽しそうにお喋りをしている。
そんな賑やかで楽しい雰囲気をぶち壊そうとしているのは、私の婚約者であるラルス・ルーベンだった。
悪い意味で期待を裏切らない男。
こんな態度を取れるのは彼がこの国の第二王子であるからだろう。
(相変わらず、この人は周囲のことなんてお構いなしね)
「おい、リリア! 聞いているのか?」
「はぁ……」
反応しない私に不満そうな顔を向けてきたので、面倒くさそうに呆れた声を漏らしてしまう。
もう何年もの間、この男の婚約者をやってきたので、ラルスがどういう人間なのかは嫌な程分かっている。
それに周りも『またか』という冷え切った視線を向けている。
熱くなっているのは、間違いなくこの男ただ一人だけだろう。
「なんだ、その気の抜けた声は。ふざけているのか? 本当に貴様を見ていると腹が立つ」
「申し訳ありません。婚約破棄の件は謹んでお受けいたします」
ラルスにとっては私の存在自体が気にくわないのだろう。
だけどそれは私も同じだ。
立場が下だから、何を言われてもずっと耐えていただけ。
だけどそれが今日で終わるというのであれば、喜んで受け入れるまでだ。
「……は? み、認めるのか? 本当にいいんだな?」
「はい」
あっさり私が受け入れるとラルスは戸惑い始めた。
こんなにも簡単に認めるとは思っていなかったようだが、再度問われると私は間髪入れずに即答した。
この男が考えていることなど容易に想像出来る。
最後に私に恥をかかせたかった、そんなところだろう。
皆の前で婚約破棄をして、私が泣いて許しを請う姿を周囲に晒したかった。
思い通りに進まなかったから、今こんなに焦っていると言ったところか。
本当に器が小さくて馬鹿な男だ。
「い、いいのか? 僕に婚約破棄をされたとなれば、貴様を貰う人間なんていなくなる。シュトール伯爵は貴様のことを道具にしか思っていない男だ。価値が無くなったと分かれば直ぐに修道院送りだ。それでも構わないのか?」
「……はい、構いません」
「なっ……!」
「もう宜しいでしょうか?」
今ラルスが言ったことは正しい。
きっと私は勘当され屋敷を追い出されることになる。
だけど一生この男の傍で耐える人生であれば、追放されたとしても悪くない選択だと思う。
私だって好き好んでこんな男の婚約者になったわけではない。
ラルスとの婚約は幼い頃に決められた政略結婚だ。
思い返してみれば、私を見るなり『つまらない女だ』とか『こんな地味な女は趣味じゃない』などと、顔を合わせる度に散々言われ続けて来た。
出会った頃からこんな調子だったので、一度だってラルスにときめきを感じたことはない。
ちなみに私、リリア・シュトールは伯爵家の長女であり現在19歳。
癖のない漆黒の長い髪は亡くなった母親譲りで、瞳の色は淡い紫。
私はこの黒い髪を気に入っているが、ラルスは華やかに見える明るい髪色を好んでいるようだ。
そして、ある人の提案で度の入っていない黒縁眼鏡をつけている。
元々少し幼さが残る顔立ちであるが、眼鏡をつけているとそれすらも隠れてしまい、周囲は私のことを地味女と蔑んでいる。
そう思われているということは、私達の策略が上手く言ったということになる。
私は少しでもラルスと距離を広げたかった。
お互いここまで嫌い合っているのに婚約者だなんて、本当に馬鹿げた話だ。
だけどまさか向こうから婚約破棄をしてくるなんて思ってもいなかった。
突然沸いて出たチャンスに私は嬉しくなり、自然と口元が緩んでしまいそうになる。
気付かれない様に、慌てて頭を下げて誤魔化してみせた。
(……どうしよう。嬉しすぎて顔がにやけてきてしまうわ。私、あの男からやっと解放されるのね。凄く嬉しい……!)
「そ、そうか。よし! ここにいる全員が証人だからな! それなら……、今から僕の婚約者にはサーシャ・リードレを迎え入れる」
私が必死に笑いを堪えている間も、茶番は続いていた。
今度は新たな婚約者の名前を出してきたが、周囲の反応は薄かった。
それもそのはず、学園ではいつも二人は恋人のようにべったりくっついており、皆が知っている光景なので今更誰も驚かない。
サーシャ・リードレというのは、金色のふわふわした髪にピンク色の瞳をしている可愛らしい子爵令嬢だ。
色々な子息に声をかけて玉の輿を狙っていると言う噂があったが、ラルスは格好のカモにされたのだろう。
だけど私の役目をサーシャに押しつけられるのだから、彼女は女神に見える。
(サーシャ様、良くやってくれたわ! 本当にありがとう!)
「ラルス様ぁ、嬉しいですぅ」
「ふんっ、誰かと違ってサーシャは本当に可愛らしいな。僕の求めていた相手だ」
(お似合いですよ。どうぞ、お幸せになってください)
二人は大衆の面前でイチャイチャし始めた。
ここに長居していればまたラルスの攻撃の的にされるかもしれない。
その前にさっさとその場を後にすることにした。
暫くして私の存在が消えていることに気付いて騒ぎ始めていたが、その頃には扉の前まで来ていたので気付かないことにして部屋を出て行った。
「…………」
(貴様って……)
今日は王立学園の卒業パーティー。
天井から吊された煌びやかなシャンデリアの下では、最後の思い出を作ろうと着飾った卒業生や教師達が楽しそうにお喋りをしている。
そんな賑やかで楽しい雰囲気をぶち壊そうとしているのは、私の婚約者であるラルス・ルーベンだった。
悪い意味で期待を裏切らない男。
こんな態度を取れるのは彼がこの国の第二王子であるからだろう。
(相変わらず、この人は周囲のことなんてお構いなしね)
「おい、リリア! 聞いているのか?」
「はぁ……」
反応しない私に不満そうな顔を向けてきたので、面倒くさそうに呆れた声を漏らしてしまう。
もう何年もの間、この男の婚約者をやってきたので、ラルスがどういう人間なのかは嫌な程分かっている。
それに周りも『またか』という冷え切った視線を向けている。
熱くなっているのは、間違いなくこの男ただ一人だけだろう。
「なんだ、その気の抜けた声は。ふざけているのか? 本当に貴様を見ていると腹が立つ」
「申し訳ありません。婚約破棄の件は謹んでお受けいたします」
ラルスにとっては私の存在自体が気にくわないのだろう。
だけどそれは私も同じだ。
立場が下だから、何を言われてもずっと耐えていただけ。
だけどそれが今日で終わるというのであれば、喜んで受け入れるまでだ。
「……は? み、認めるのか? 本当にいいんだな?」
「はい」
あっさり私が受け入れるとラルスは戸惑い始めた。
こんなにも簡単に認めるとは思っていなかったようだが、再度問われると私は間髪入れずに即答した。
この男が考えていることなど容易に想像出来る。
最後に私に恥をかかせたかった、そんなところだろう。
皆の前で婚約破棄をして、私が泣いて許しを請う姿を周囲に晒したかった。
思い通りに進まなかったから、今こんなに焦っていると言ったところか。
本当に器が小さくて馬鹿な男だ。
「い、いいのか? 僕に婚約破棄をされたとなれば、貴様を貰う人間なんていなくなる。シュトール伯爵は貴様のことを道具にしか思っていない男だ。価値が無くなったと分かれば直ぐに修道院送りだ。それでも構わないのか?」
「……はい、構いません」
「なっ……!」
「もう宜しいでしょうか?」
今ラルスが言ったことは正しい。
きっと私は勘当され屋敷を追い出されることになる。
だけど一生この男の傍で耐える人生であれば、追放されたとしても悪くない選択だと思う。
私だって好き好んでこんな男の婚約者になったわけではない。
ラルスとの婚約は幼い頃に決められた政略結婚だ。
思い返してみれば、私を見るなり『つまらない女だ』とか『こんな地味な女は趣味じゃない』などと、顔を合わせる度に散々言われ続けて来た。
出会った頃からこんな調子だったので、一度だってラルスにときめきを感じたことはない。
ちなみに私、リリア・シュトールは伯爵家の長女であり現在19歳。
癖のない漆黒の長い髪は亡くなった母親譲りで、瞳の色は淡い紫。
私はこの黒い髪を気に入っているが、ラルスは華やかに見える明るい髪色を好んでいるようだ。
そして、ある人の提案で度の入っていない黒縁眼鏡をつけている。
元々少し幼さが残る顔立ちであるが、眼鏡をつけているとそれすらも隠れてしまい、周囲は私のことを地味女と蔑んでいる。
そう思われているということは、私達の策略が上手く言ったということになる。
私は少しでもラルスと距離を広げたかった。
お互いここまで嫌い合っているのに婚約者だなんて、本当に馬鹿げた話だ。
だけどまさか向こうから婚約破棄をしてくるなんて思ってもいなかった。
突然沸いて出たチャンスに私は嬉しくなり、自然と口元が緩んでしまいそうになる。
気付かれない様に、慌てて頭を下げて誤魔化してみせた。
(……どうしよう。嬉しすぎて顔がにやけてきてしまうわ。私、あの男からやっと解放されるのね。凄く嬉しい……!)
「そ、そうか。よし! ここにいる全員が証人だからな! それなら……、今から僕の婚約者にはサーシャ・リードレを迎え入れる」
私が必死に笑いを堪えている間も、茶番は続いていた。
今度は新たな婚約者の名前を出してきたが、周囲の反応は薄かった。
それもそのはず、学園ではいつも二人は恋人のようにべったりくっついており、皆が知っている光景なので今更誰も驚かない。
サーシャ・リードレというのは、金色のふわふわした髪にピンク色の瞳をしている可愛らしい子爵令嬢だ。
色々な子息に声をかけて玉の輿を狙っていると言う噂があったが、ラルスは格好のカモにされたのだろう。
だけど私の役目をサーシャに押しつけられるのだから、彼女は女神に見える。
(サーシャ様、良くやってくれたわ! 本当にありがとう!)
「ラルス様ぁ、嬉しいですぅ」
「ふんっ、誰かと違ってサーシャは本当に可愛らしいな。僕の求めていた相手だ」
(お似合いですよ。どうぞ、お幸せになってください)
二人は大衆の面前でイチャイチャし始めた。
ここに長居していればまたラルスの攻撃の的にされるかもしれない。
その前にさっさとその場を後にすることにした。
暫くして私の存在が消えていることに気付いて騒ぎ始めていたが、その頃には扉の前まで来ていたので気付かないことにして部屋を出て行った。
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