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41.屋敷に帰る①
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アレクシスの熱い舌先が私の腔内で無遠慮に蠢く。
上顎の裏側をなぞられると、ゾクゾクとした感覚に体が震えてしまう。
お互いの吐息が混ざり合い、次第に息遣いも荒々しくなっていくが、それと同時に私は興奮状態に入っていた。
王宮で口付けをされたことで、既に体が疼き始めていたのだと思う。
そこで再び腔内を犯され、何かのスイッチが入ったのだろう。
彼を感じれば感じるほどに、もっと強欲に求めてしまいたくなる。
こんなのが自分だなんて思いたく無いのに、舌先を必死に伸ばし彼を求め続けた。
「……んっ、はぁっ、もっと」
「リリアから求めてくれるなんて、凄く嬉しいよ。これならもうすぐかもしれないな……」
私はキスに夢中になっていて、アレクシスが呟いたことに感心を持たなかった。
彼と口付けをしていると、考えること自体どうでも良く思えてきてしまうのだ。
自我を捨てて、欲望に従い求めるだけ。
ガタガタと揺れていた馬車が止まると、アレクシスはゆっくりと唇を剥がした。
離れていくアレクシスの顔に、私は切なげな表情を向けてしまう。
激しいキスを交わしていたせいで、私の口端からは飲みきれなくなったお互いの唾液が肌を伝うようにだらしなく零れていた。
「勿体ない」
「……っ」
アレクシスは小さく呟くと、口の周りに付いている唾液を舌先で綺麗に舐め取ってくれた。
馬車の扉が開かれると不意に現実に引き戻され、私はハッとした。
我に返ったというべきであろうか。
理性が戻ってきて、今まで自分がしていたことを思い出し一気に顔の奥が熱くなる。
(私、なんてことを……。すごくはしたないことをしてた気がするわ)
私は口元を掌で押さえ、恥ずかしさから俯いてしまう。
今の私はこの場から消えてしまいたいほど、羞恥心に苛まれていた。
不思議なことだけど、先程の私は完全に自我を忘れていた。
何故あんな風になってしまったのは、良くは分からない。
だけど、無性にアレクシスに惹かれていたのは覚えている。
「リリア、照れているの?」
アレクシスは俯いている私の耳元で、艶のある声で囁いた。
私はびくっと体を震わせて、ゆっくりと顔を上げた。
そこには優しく微笑んでいるアレクシスの顔があって、ドキドキしてしまう。
「到着だ。おかえり、リリア」
「アレクシス様も、おかえりなさい」
こんな状況なので、ただ挨拶しただけなのに妙に照れてしまう。
アレクシスは私の手を取って、馬車から降ろしてくれた。
そして再び抱きかかえようとしてきたので、思わず「待って!」と叫んでしまった。
「どうしたの?」
「自分で歩けます」
「転んだら危ないから、今日は私に運ばせて」
「そんなこと言って、いつも運んでくれるくせに……」
アレクシスの言う『今日は』は、私にとっては『今日も』という意味だ。
以前渋ったら、抱きかかえるまで心配だと言われ続けた。
本当に過保護過ぎる程、彼は心配性な人間だ。
少なくとも私の前では。
「体調が悪いリリアを歩かせるなんて出来ないよ。また私に掴まって。いい子だから、ね?」
「……っ」
そんな風に言われたら、私は駄々を捏ねた子供のように思えて来てしまう。
何度も抱き上げられているが、今日は特に恥ずかしい。
だけど諦めて私は彼の首に手を回した。
するとふわっと体が浮き上がり、彼に視線を向けるとニコニコと満足そうな顔をしていた。
(なんだか負けた気分……)
そして「行こうか」と彼が呟き、私はコクンと小さく頷いた。
***
ここ半年の間ずっと過ごしていた屋敷だが、たった数日離れただけで少し懐かしさを感じてしまう。
アレクシスが屋敷の扉を開くと、入り口にはマリーとサリーの姿があった。
「アレクシス様、リリア様、おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま」
「ただい……」
私が挨拶をしようとすると、涙を浮かべているサリーの顔が視界に入り、私の言葉が止まった。
「うっ、リリア様ぁ、ご無事で何よりですっ……」
「ごめんね、心配掛けてしまったよね。私ならこの通り大丈夫だから、もう泣かないで」
私が声を掛けると、更にサリーの目からはぼろぼろと涙が零れていく。
そんな様子に私は困って苦笑してしまう。
(あー……、こんなに泣くまで心配させちゃったんだ。本当に悪いことしちゃったな)
「サリー、二人の前で泣くなんて失礼よ」
「ううっ、ごめんなさいっ」
呆れた顔でマリーに指摘され、サリーは泣きながら謝っていた。
「大丈夫だから、謝らないで。心配させてしまったのは、私の方なのだし。サリーは何も悪くないわ」
私は慌てるように答えた。
そもそもの原因を作ったのは私だ。
サリーは私を心配してくれただけで、何も悪くない。
「リリア様はお優しいですね。もう、サリーったら……。いつまで泣いているの。全く困った子なんだから。早く部屋に戻ってリリア様の湯浴みの準備をしてあげて」
「は、はいっ……。それでは私は準備に戻りますので、お先に失礼します」
サリーは涙で濡れた目元を、ごしごしと手の甲で拭うと、慌てるように挨拶をして奥の方へと消えていった。
「リリア、騒がしくしてしまってすまないね」
「そんなことはないです。久しぶりに二人の顔が見れて、少し安心しました」
「そうか」
「はいっ」
「マリー、私は一度リリアを部屋まで運んでくるから、その間に食事の方を頼むよ」
「かしこまりました」
アレクシスはマリーに指示を送ると、再び奥の方へと歩き出した。
「湯浴みの準備、ありがとうございます。汗を掻いていたから、少し気持ち悪かったんです」
「三日間もずっとベッドの上だったのだから当然だ。ゆっくり入って、すっきりしておいで。その後に一緒に食事にしよう」
「はいっ」
まずは色々とすっきりしたい。
湯浴みをすれば、体だけでは無く気持ちも少しはすっきり出来るかも知れない。
そして食事の後に、あの話を切り出してみようと思う。
上顎の裏側をなぞられると、ゾクゾクとした感覚に体が震えてしまう。
お互いの吐息が混ざり合い、次第に息遣いも荒々しくなっていくが、それと同時に私は興奮状態に入っていた。
王宮で口付けをされたことで、既に体が疼き始めていたのだと思う。
そこで再び腔内を犯され、何かのスイッチが入ったのだろう。
彼を感じれば感じるほどに、もっと強欲に求めてしまいたくなる。
こんなのが自分だなんて思いたく無いのに、舌先を必死に伸ばし彼を求め続けた。
「……んっ、はぁっ、もっと」
「リリアから求めてくれるなんて、凄く嬉しいよ。これならもうすぐかもしれないな……」
私はキスに夢中になっていて、アレクシスが呟いたことに感心を持たなかった。
彼と口付けをしていると、考えること自体どうでも良く思えてきてしまうのだ。
自我を捨てて、欲望に従い求めるだけ。
ガタガタと揺れていた馬車が止まると、アレクシスはゆっくりと唇を剥がした。
離れていくアレクシスの顔に、私は切なげな表情を向けてしまう。
激しいキスを交わしていたせいで、私の口端からは飲みきれなくなったお互いの唾液が肌を伝うようにだらしなく零れていた。
「勿体ない」
「……っ」
アレクシスは小さく呟くと、口の周りに付いている唾液を舌先で綺麗に舐め取ってくれた。
馬車の扉が開かれると不意に現実に引き戻され、私はハッとした。
我に返ったというべきであろうか。
理性が戻ってきて、今まで自分がしていたことを思い出し一気に顔の奥が熱くなる。
(私、なんてことを……。すごくはしたないことをしてた気がするわ)
私は口元を掌で押さえ、恥ずかしさから俯いてしまう。
今の私はこの場から消えてしまいたいほど、羞恥心に苛まれていた。
不思議なことだけど、先程の私は完全に自我を忘れていた。
何故あんな風になってしまったのは、良くは分からない。
だけど、無性にアレクシスに惹かれていたのは覚えている。
「リリア、照れているの?」
アレクシスは俯いている私の耳元で、艶のある声で囁いた。
私はびくっと体を震わせて、ゆっくりと顔を上げた。
そこには優しく微笑んでいるアレクシスの顔があって、ドキドキしてしまう。
「到着だ。おかえり、リリア」
「アレクシス様も、おかえりなさい」
こんな状況なので、ただ挨拶しただけなのに妙に照れてしまう。
アレクシスは私の手を取って、馬車から降ろしてくれた。
そして再び抱きかかえようとしてきたので、思わず「待って!」と叫んでしまった。
「どうしたの?」
「自分で歩けます」
「転んだら危ないから、今日は私に運ばせて」
「そんなこと言って、いつも運んでくれるくせに……」
アレクシスの言う『今日は』は、私にとっては『今日も』という意味だ。
以前渋ったら、抱きかかえるまで心配だと言われ続けた。
本当に過保護過ぎる程、彼は心配性な人間だ。
少なくとも私の前では。
「体調が悪いリリアを歩かせるなんて出来ないよ。また私に掴まって。いい子だから、ね?」
「……っ」
そんな風に言われたら、私は駄々を捏ねた子供のように思えて来てしまう。
何度も抱き上げられているが、今日は特に恥ずかしい。
だけど諦めて私は彼の首に手を回した。
するとふわっと体が浮き上がり、彼に視線を向けるとニコニコと満足そうな顔をしていた。
(なんだか負けた気分……)
そして「行こうか」と彼が呟き、私はコクンと小さく頷いた。
***
ここ半年の間ずっと過ごしていた屋敷だが、たった数日離れただけで少し懐かしさを感じてしまう。
アレクシスが屋敷の扉を開くと、入り口にはマリーとサリーの姿があった。
「アレクシス様、リリア様、おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま」
「ただい……」
私が挨拶をしようとすると、涙を浮かべているサリーの顔が視界に入り、私の言葉が止まった。
「うっ、リリア様ぁ、ご無事で何よりですっ……」
「ごめんね、心配掛けてしまったよね。私ならこの通り大丈夫だから、もう泣かないで」
私が声を掛けると、更にサリーの目からはぼろぼろと涙が零れていく。
そんな様子に私は困って苦笑してしまう。
(あー……、こんなに泣くまで心配させちゃったんだ。本当に悪いことしちゃったな)
「サリー、二人の前で泣くなんて失礼よ」
「ううっ、ごめんなさいっ」
呆れた顔でマリーに指摘され、サリーは泣きながら謝っていた。
「大丈夫だから、謝らないで。心配させてしまったのは、私の方なのだし。サリーは何も悪くないわ」
私は慌てるように答えた。
そもそもの原因を作ったのは私だ。
サリーは私を心配してくれただけで、何も悪くない。
「リリア様はお優しいですね。もう、サリーったら……。いつまで泣いているの。全く困った子なんだから。早く部屋に戻ってリリア様の湯浴みの準備をしてあげて」
「は、はいっ……。それでは私は準備に戻りますので、お先に失礼します」
サリーは涙で濡れた目元を、ごしごしと手の甲で拭うと、慌てるように挨拶をして奥の方へと消えていった。
「リリア、騒がしくしてしまってすまないね」
「そんなことはないです。久しぶりに二人の顔が見れて、少し安心しました」
「そうか」
「はいっ」
「マリー、私は一度リリアを部屋まで運んでくるから、その間に食事の方を頼むよ」
「かしこまりました」
アレクシスはマリーに指示を送ると、再び奥の方へと歩き出した。
「湯浴みの準備、ありがとうございます。汗を掻いていたから、少し気持ち悪かったんです」
「三日間もずっとベッドの上だったのだから当然だ。ゆっくり入って、すっきりしておいで。その後に一緒に食事にしよう」
「はいっ」
まずは色々とすっきりしたい。
湯浴みをすれば、体だけでは無く気持ちも少しはすっきり出来るかも知れない。
そして食事の後に、あの話を切り出してみようと思う。
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