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3.森の奥で眠れる勇者に出会いました①

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 あれから二ヶ月程が過ぎ、私はこの世界に少しずつではあるが馴染んでいった。
 帰る方法が無い以上、この世界で生きていくしか道はない。
 無責任に呼んでおいて、能力が無いと分かると簡単に見捨てるようなこの国に対しては腹が立っている。
 あれから王宮の者からは何の音沙汰も無く、きっと帰る方法なんて見つける気などないのだろう。
 だから私はこの国から出て行くことに決めた。

 ちなみにこの世界ではセラと名乗っている。
 真名は隠しておいた方が良いと何かで見たことがあったので、少しだけ名前を変えてみることにした。

 私は魔力ゼロであるので、当然魔法を使うことが出来ない。
 少し残念に思ってしまうところもあるが、この国の事情を知った後その考えは変わった。

 この国では魔力を持たない者は平民扱いとなり、逆に魔力を持つ者に対しては貴族籍が与えられているようだ。
 そしてその魔力量によって爵位が決まってくる。
 貴族間での婚姻は、大体が生まれた時点で決められている場合が多い。
 こういったシステムを作ったのには、魔力を持つ者を衰えさせたくないと言った国の事情が絡んでいるのだろう。

(だからあの時、王子はあんなことを言ったのかな)

 聖女として選ばれた彼女には、王族に並ぶ爵位を授けると。
 もし私に魔力があったとしたら、どこかの貴族と強引に婚姻させられたり、利用されていたのかもしれない。
 そんなことを考えると、少しぞっとしてしまう。

(あの力のことは、絶対にバレないようにしないと!)

 確かに私は魔力ゼロであり魔法を使うことは出来ないが、すごい能力が備わっていることが後になって判明した。

 まず錬金術∞という能力だ。
 何を作っても成功率は100%なので、失敗することがない。
 毎日薬を作っているけど、全て成功している。
 この情報が正しければ、素材さえあれば特級クラスの薬品も作れてしまうと言うことだ。
 しかも何の知識も、技術も持っていない初心者の人間がだ。

 それとアイテムボックスを所持していて、その中に私専用の小型の錬金釜とレシピ本が入っていた。
 釜はポットのような形状で、蓋を開けて中に素材を入れるだけで簡単に作ることが可能だ。
 これは特殊な魔道具のようで、魔力を持っていない私でも扱う事が出来る。
 サイズも両手に収まる程の大きさなので、持ち運びも楽でかなり便利だ。
 ……と言っても、普段は異空間に繋がっている、アイテムボックスと言う便利なものにしまっているのだけど。
 これはどんな時でも好きな時に出し入れが出来る。
 多分重い物でも入れられるので、運ぶのがかなり楽になる便利グッズだ。
 これだけでも十分すごいことだと思うのだが、実はそれだけではなかった。

 何故か私には女神の加護がかけられていて、薬を作ると必ず何かしらの追加効果が付与されている。
 時間制限は付いているが、基礎値上昇、耐性上昇、中には経験値二倍や、ドロップ率二倍なんてものまである。
 これらはランダムで付与される為、欲しい効果を選べないのが難点だが、これのおかげでパーティーを組まずにソロで楽々レベル上げをすることが出来る。

 こんな大層な物が作れると周囲に知られたら、捕らえられて利用されるかもしれない。
 だから作った物は全て自分で使うことにしている。 
 しかしお金を得ないと生活は成り立たなくなってしまうので、倒した魔物の素材を売ったり、ギルドの討伐依頼などで集めることにしていた。

 そして、ある程度レベルが上がり戦闘にも慣れてきた頃合いを見て、この国から出ることを決心した。
 目的地は西にある貿易の都ラーズなのだが、そこに行くためには大きな森を抜けなければならない。
 行商人に聞いたところ、この森を抜ける人間は割と多いので、分岐地点には看板があり迷うことは余り無いと言っていた。
 だから安心して出発したのだけど……。

(おかしい……。もう随分歩いた気がするけど、全然抜けられる気がしない。なんで!? まさか、迷った? いやいや、ちゃんと案内の看板通りに進んでいるし、大丈夫だよね)

 まだ昼間なので空は青いが、木々に包まれているせいか森の内部は薄暗くて、肌に触れる空気はどこかひんやりと感じる
 来た時はもっと明るかった気がするのだが、奥部に入って来ているからそのように感じるだけなのだろう。
 中々現れない出口に、次第に不安と焦りが高まっていく。
 そのせいか私の足取りも少し速くなっていた。

 そんな時、不意に視線を上げると、天から光が差し込んでいる場所を見つけた。
 出口ではなさそうだが何となくその場所が気になってしまい、私はそちらに向かってみることにした。
 この薄暗い森の中、一人で歩いていることが心細く感じて、少しでも明るい場所に行きたいと無意識に思ってしまったのかもしれない。
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