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第二章
64.誤解が解ける
私が不安そうな顔で見ていると、ロランと視線が絡む。
本当は文句を沢山言ってしまいたいはずなのに、返ってくる言葉が怖くて何も言えない。
「シャル、その事なんだけど。今から話すよ」
「……うん」
ロランは落ち着いた声で呟き、私は小さく頷いた。
「彼女、ルチア・グレインのことは多分知っているよな?」
「ルチアって名前くらいしか知らないかも。あとロランの婚約者のフリをしていた子ってことくらいしか」
「たしかにシャルは知らなくて当然かもな。彼女は男爵家の次女で、以前俺の屋敷で使用人として働いていた事があるんだ」
「え?貴族なのに……?」
私は不思議そうに顔を傾けた。
だけどなんとなく想像は付いた。
貴族でも稀にそういった事をして、生計を立てている者がいると聞いたことがある。
そういった場合は大抵領地経営において、資金面で何かしらのトラブルが起こった時だ。
「俺も詳しいことは知らないけど、そうせざるを得ない事情があってのことなんだろうな」
「ロランは、ルチアさんと仲が良かったの?」
「同年齢ということもあって話しやすかったからな」
「……そう、なんだ」
私は幼い頃から何度もロランの屋敷を訪れていたけど、使用人に興味を示したことなど一度も無かった。
きっとその中に彼女もいたのだろう。
「ちなみに使用人として働いていたのは学園に入学する前までだ。今は働いていないし、俺の屋敷にもいない。シャルが気になっているのは、今日何を話していたか、だよな?」
「うん……」
「俺が今から話すことは、シャルの心の中だけに留めておいてもらえるか?この話が他の者に聞かれたら、ルチアが困ることになるんだ」
「……分かったわ」
ロランは心配そうな顔で前置きをすると、語り始めた。
「結論から言えば、グレイン男爵家は今かなり厳しい状況に置かれている」
「ロランの屋敷で娘を働かせる位だもんね」
「そうだな。他の貴族からの援助でなんとか繋いでいっているようだが、それを切られてしまえば簡単に終わるだろうな。援助している貴族というのは、商業で成り上がっていったエルド男爵家なんだ」
「あ、王都に沢山店を構えているところね」
エルド家の経営する店は王都に何軒もあり、どこも繁盛していると聞いたことがある。
流行をどこよりも早く取り入れ、安い価格帯で提供しているため、平民はもちろん、貴族さえも贔屓にしている者が多いと聞く。
私もエルド家が経営する店には何度か訪れたことはあるし、そこで買い物をしたこともある。
「でもあそこなら問題ないんじゃない?最近また店舗を増やしたって噂を聞いた気がするけど……」
「ああ、エルド家は繁盛していて何も問題は無い。問題はそこではないんだ」
「どういうこと?」
「エルド家の三男であるカールがルチアを気に入って、婚約を迫っているようなんだ」
その話を聞いて嫌な予感がした。
ルチアのいるグレイン家はエルド家に資金援助をしてもらっている。
助けて貰っているのだから、嫌でも断ることは出来ないのだろう。
もし、この婚約を断ればどうなるか容易に想像が出来てしまう。
私が嫌そうな表情をしていると、ロランもそれに気付き苦笑した。
「シャルが今思っていることで多分あってる。エルド家の三男というのは今年35になるどうしようもない男で、何度も再婚と離婚を繰り返しているような人間らしい。しかも噂では気性が激しく、都合が悪くなるとすぐ手が出るようなんだ」
「なんなのその男、最低ね!」
「ああ、全くだ。だから長続きせず離縁を繰り返しているんだろうな。ルチアはこのことで相当参っているようで、毎日泣いているそうだ」
「そんなの誰だってそうよ!なんとかならないの?資金さえあればそんな男と結婚しなくて済むんでしょ?」
ロランは公爵家の人間だ。
資金の問題だけなら、きっとどうにか出来るはずだ。
「そうだな。今日屋敷に戻ったら父上に一度話しをしてみようと思ってる。ルチアはうちで働いていたこともあるから、きっと手を貸してくれるはずだ」
「そうね。上手くいくといいわね…」
私はロランの話を聞いて、自分が少し恥ずかしくなった。
ロランのことを信じていると言いながら、簡単に疑ってしまった。
こんなことで気持ちが揺らいでしまう自分が嫌になる。
「ロラン……」
「どうした?」
「ごめんなさい」
私はしゅんと肩を落として、小さく謝った。
「どうしてシャルが謝るんだ?」
「私、勝手に誤解してたから。ロランが、もしかして……浮気してるのかなって」
私が恥ずかしそうに答えると、ロランは「ぷっ」と小さく笑い出した。
私は驚いてロランの方に視線を向けた。
「怒って……ないの?」
「どうして、俺が怒るんだ?そもそも俺があの時嘘を付いたのが原因だからな。俺にだって非はあるよ」
「……うん」
「それにシャルに嫉妬してもらえて嬉しいよ。それだけ俺の事を気にしてくれたってことだろ?」
ロランの言葉を聞いて、恥ずかしさが込み上げてきて顔が赤く染まっていく。
「照れてるのか?可愛いな。だけどこれだけは覚えておいて。俺が思っているのはシャルだけだ。好きなのはシャルだけだよ」
「……っ」
ロランから『好き』って言葉を聞いただけで、嬉しさが込み上げてくる。
先程までの曇っていた表情は、もうどこにも残っていない。
誤解が解けて私の心もすっきりとしていた。
この時の私は、簡単に解決する問題だと思って疑わなかった。
本当は文句を沢山言ってしまいたいはずなのに、返ってくる言葉が怖くて何も言えない。
「シャル、その事なんだけど。今から話すよ」
「……うん」
ロランは落ち着いた声で呟き、私は小さく頷いた。
「彼女、ルチア・グレインのことは多分知っているよな?」
「ルチアって名前くらいしか知らないかも。あとロランの婚約者のフリをしていた子ってことくらいしか」
「たしかにシャルは知らなくて当然かもな。彼女は男爵家の次女で、以前俺の屋敷で使用人として働いていた事があるんだ」
「え?貴族なのに……?」
私は不思議そうに顔を傾けた。
だけどなんとなく想像は付いた。
貴族でも稀にそういった事をして、生計を立てている者がいると聞いたことがある。
そういった場合は大抵領地経営において、資金面で何かしらのトラブルが起こった時だ。
「俺も詳しいことは知らないけど、そうせざるを得ない事情があってのことなんだろうな」
「ロランは、ルチアさんと仲が良かったの?」
「同年齢ということもあって話しやすかったからな」
「……そう、なんだ」
私は幼い頃から何度もロランの屋敷を訪れていたけど、使用人に興味を示したことなど一度も無かった。
きっとその中に彼女もいたのだろう。
「ちなみに使用人として働いていたのは学園に入学する前までだ。今は働いていないし、俺の屋敷にもいない。シャルが気になっているのは、今日何を話していたか、だよな?」
「うん……」
「俺が今から話すことは、シャルの心の中だけに留めておいてもらえるか?この話が他の者に聞かれたら、ルチアが困ることになるんだ」
「……分かったわ」
ロランは心配そうな顔で前置きをすると、語り始めた。
「結論から言えば、グレイン男爵家は今かなり厳しい状況に置かれている」
「ロランの屋敷で娘を働かせる位だもんね」
「そうだな。他の貴族からの援助でなんとか繋いでいっているようだが、それを切られてしまえば簡単に終わるだろうな。援助している貴族というのは、商業で成り上がっていったエルド男爵家なんだ」
「あ、王都に沢山店を構えているところね」
エルド家の経営する店は王都に何軒もあり、どこも繁盛していると聞いたことがある。
流行をどこよりも早く取り入れ、安い価格帯で提供しているため、平民はもちろん、貴族さえも贔屓にしている者が多いと聞く。
私もエルド家が経営する店には何度か訪れたことはあるし、そこで買い物をしたこともある。
「でもあそこなら問題ないんじゃない?最近また店舗を増やしたって噂を聞いた気がするけど……」
「ああ、エルド家は繁盛していて何も問題は無い。問題はそこではないんだ」
「どういうこと?」
「エルド家の三男であるカールがルチアを気に入って、婚約を迫っているようなんだ」
その話を聞いて嫌な予感がした。
ルチアのいるグレイン家はエルド家に資金援助をしてもらっている。
助けて貰っているのだから、嫌でも断ることは出来ないのだろう。
もし、この婚約を断ればどうなるか容易に想像が出来てしまう。
私が嫌そうな表情をしていると、ロランもそれに気付き苦笑した。
「シャルが今思っていることで多分あってる。エルド家の三男というのは今年35になるどうしようもない男で、何度も再婚と離婚を繰り返しているような人間らしい。しかも噂では気性が激しく、都合が悪くなるとすぐ手が出るようなんだ」
「なんなのその男、最低ね!」
「ああ、全くだ。だから長続きせず離縁を繰り返しているんだろうな。ルチアはこのことで相当参っているようで、毎日泣いているそうだ」
「そんなの誰だってそうよ!なんとかならないの?資金さえあればそんな男と結婚しなくて済むんでしょ?」
ロランは公爵家の人間だ。
資金の問題だけなら、きっとどうにか出来るはずだ。
「そうだな。今日屋敷に戻ったら父上に一度話しをしてみようと思ってる。ルチアはうちで働いていたこともあるから、きっと手を貸してくれるはずだ」
「そうね。上手くいくといいわね…」
私はロランの話を聞いて、自分が少し恥ずかしくなった。
ロランのことを信じていると言いながら、簡単に疑ってしまった。
こんなことで気持ちが揺らいでしまう自分が嫌になる。
「ロラン……」
「どうした?」
「ごめんなさい」
私はしゅんと肩を落として、小さく謝った。
「どうしてシャルが謝るんだ?」
「私、勝手に誤解してたから。ロランが、もしかして……浮気してるのかなって」
私が恥ずかしそうに答えると、ロランは「ぷっ」と小さく笑い出した。
私は驚いてロランの方に視線を向けた。
「怒って……ないの?」
「どうして、俺が怒るんだ?そもそも俺があの時嘘を付いたのが原因だからな。俺にだって非はあるよ」
「……うん」
「それにシャルに嫉妬してもらえて嬉しいよ。それだけ俺の事を気にしてくれたってことだろ?」
ロランの言葉を聞いて、恥ずかしさが込み上げてきて顔が赤く染まっていく。
「照れてるのか?可愛いな。だけどこれだけは覚えておいて。俺が思っているのはシャルだけだ。好きなのはシャルだけだよ」
「……っ」
ロランから『好き』って言葉を聞いただけで、嬉しさが込み上げてくる。
先程までの曇っていた表情は、もうどこにも残っていない。
誤解が解けて私の心もすっきりとしていた。
この時の私は、簡単に解決する問題だと思って疑わなかった。
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