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第二章
68.友人の存在感
昼食を終えると、ジェラルドと並ぶ様にして廊下を歩いていた。
先程偶然見てしまった、ロランとルチアが楽しそうに話している姿が脳裏から離れない。
私が俯きながらずっと黙ったままでいると、ジェラルドが「シャル」と声を掛けて来たのでハッとして顔を上げた。
思わず泣きそうな顔でジェラルドの事を見てしまう。
「その顔じゃ、何かあったんだね」
「……何もないよ」
私は咄嗟に視線を逸らして、否定してしまう。
ジェラルドにはルチアの事を話せないからだ。
理由を聞かれてもどう答えて良いのか分からなくて、誤魔化すしか方法が見つからなかった。
「相変わらず僕には冷たいな。ロランには何でも相談する癖に。僕だってシャルとは長い付き合いなのにな」
ジェラルドは不満そうに呟いたので、私は再び視線を戻した。
「違う!そういうつもりではないの。ごめんなさい……」
「話せない理由があるのは何となく分かったよ」
「……っ!?」
「シャルとは随分長い付き合いだからね。それに長い間シャルの婚約者をやって来たんだ。顔を見れば大体のことは予想が付くよ。シャルを悩ませているのは、あのルチアとかいう男爵令嬢のことか?」
ジェラルドには何も話していないというのに、まるで知っているとでも言うように話す。
私が驚いた顔を見せてしまうと、ジェラルドは「やっぱりな」と呟いた。
(なんで?私、何も話してないのに……)
「とりあえずここで話すのも何だし、静かな所に移動しようか」
「……うん」
私は戸惑った顔で答えるとジェラルドに着いて行った。
歩いて行くと以前使った応接間に入る。
私は過去の記憶を思い出し、苦々しい表情を見せてしまう。
「ごめんね。ここ、嫌な思いでしか無いよな。だけど、誰の目を気にすることなく話をするのなら、やっぱりここが最適かなって思ったんだ。誰かに聞かれたくない話だよね?」
ジェラルドは苦笑しながら謝って来た。
ここは過去にジェラルドとの婚約解消を言い渡された部屋だ。
だけどあれはもう終わった事で、私はジェラルドのことを責めていない。
「ううん、大丈夫。それよりも、気を遣ってくれてありがとう」
「いいんだよ。シャルは僕にとっては何よりも大切な友人だからね。いつまでもそんなに暗い顔をされていると、僕の方まで気になってしまうからな。だから気にしないで。それにここなら誰にも聞かれることは無い。僕もその事を誰かに口外はしない。内容が何であろうと僕の心の内だけに留めておくから、シャルは安心して話してくれればいいよ」
ジェラルドは「言いたく無ければ無理にとは言わないよ」と付け加えた。
私は正直ジェラルドに打ち明けて良いのか迷っていた。
ロランは私が誰にも話さないと信じて、打ち明けてくれたのだ。
それをロランに黙って勝手にジェラルドに話してしまったら、私の信用が失われてしまう可能性がある。
私はロランに嫌われたくなかった。
一度はジェラルドと関係を持ってしまったけど、ロランはそれを許しくれた。
だから余計に裏切れないという気持ちが強くなってしまう。
「シャル、そんな辛そうな顔をしないで。僕では力になれない?」
ジェラルドの優しい言葉に胸が高鳴り、泣きそうな顔で首を横に振った。
「それじゃあこういうのはどう?全ては話さなくていい。シャルが話しても大丈夫と思う範囲で構わないよ。それでもダメかな?」
「……それなら、大丈夫かも」
ルチアの家の問題さえ話さなければ、大丈夫だと思った。
私はジェラルドに、話せる範囲の事を伝えた。
ロランが最近ルチアの傍に居るのは、ある相談に乗っているため。
そして以前ルチアはロランの屋敷で使用人をしていて、昔から顔見知りだったことを伝えた。
全てを話すとジェラルドは不満そうな顔で言った。
「その相談と言うのは、ロランじゃなければ出来ないの?」
鋭いことを言って来るジェラルドに私は苦笑してしまう。
「多分、そうだと思う」
ロランは公爵家の人間であるので、言いかたは悪いがロランが口添えをすれば、ルチアの両親も婚約者になる男も簡単に黙らせることが出来るのだろう。
ルチアはそんなロランに目を付けて頼むなんて、本当に狡賢い人間だと思ってしまう。
「その女はシャルよりも価値がある人間なのかな」
「え?」
ジェラルドは冷たい声でぼそりと呟く。
私が驚いてジェラルドの方に視線を向けると、表情はいつも通りの顔に戻っていた。
そして私と視線が合うと、ジェラルドは優しく微笑んだ。
「なんでもないよ。ロランだって、シャルが寂しがっていることには気付いていると思うよ。シャルは素直に顔に出るタイプだからね」
「……っ」
「こんなに寂しそうにしているのに気付かない程鈍感なら、遠慮なく僕が奪ってしまおうかな」
「ジェラルド、こんな時にふざけないでっ」
ジェラルドは冗談ぽく言うので、私はムッとした顔で言い返した。
「ごめん。今のは不謹慎だったね。シャルが本気で悩んでいるのに。ごめんね」
「ううん、大丈夫」
確かに今は冗談なんて言われたく無かったけど、私の表情を変える為にわざとそんな態度を取ってくれた様な気がした。
ジェラルドは場の空気を読めない様な人間でないことは分かっている。
「今みたいに、シャルの素直な気持ちをそのままぶつければいいんじゃない?どうせすぐに顔に出てバレてるし」
「……っ!!」
「それにシャルはロランの婚約者だろう?我儘を言うことも許されるし、何より無条件で傍にいられる権利だってあるんだから。シャルが我慢する必要なんて無いと思うよ」
「……そうかな。嫌われたり、しないかな?」
私が本気で心配そうな顔を見せるとジェラルドは「それは絶対に無い」ときっぱり否定した。
「僕から奪ったくらいだからね。ロランの気持ちは簡単に離れたりはしないはずだよ。少しくらい困らせてやればいいんだよ。シャルにはその権利があるし、もし上手く行かなくなったら僕がいつでも相談に乗ってあげるから」
「……そう、だよね!私、文句を言ってもいいんだよね?」
ジェラルドに相談したことで、心の靄がとれて気持ちが幾分か楽になった。
「それに今日はこの後ロランと王都でデートだろう。その時にでも言ってやればいいよ」
「うんっ!ジェラルド、ありがとう。そうしてみる」
私はジェラルドに背中を押されて元気を取り戻すことが出来た。
先程偶然見てしまった、ロランとルチアが楽しそうに話している姿が脳裏から離れない。
私が俯きながらずっと黙ったままでいると、ジェラルドが「シャル」と声を掛けて来たのでハッとして顔を上げた。
思わず泣きそうな顔でジェラルドの事を見てしまう。
「その顔じゃ、何かあったんだね」
「……何もないよ」
私は咄嗟に視線を逸らして、否定してしまう。
ジェラルドにはルチアの事を話せないからだ。
理由を聞かれてもどう答えて良いのか分からなくて、誤魔化すしか方法が見つからなかった。
「相変わらず僕には冷たいな。ロランには何でも相談する癖に。僕だってシャルとは長い付き合いなのにな」
ジェラルドは不満そうに呟いたので、私は再び視線を戻した。
「違う!そういうつもりではないの。ごめんなさい……」
「話せない理由があるのは何となく分かったよ」
「……っ!?」
「シャルとは随分長い付き合いだからね。それに長い間シャルの婚約者をやって来たんだ。顔を見れば大体のことは予想が付くよ。シャルを悩ませているのは、あのルチアとかいう男爵令嬢のことか?」
ジェラルドには何も話していないというのに、まるで知っているとでも言うように話す。
私が驚いた顔を見せてしまうと、ジェラルドは「やっぱりな」と呟いた。
(なんで?私、何も話してないのに……)
「とりあえずここで話すのも何だし、静かな所に移動しようか」
「……うん」
私は戸惑った顔で答えるとジェラルドに着いて行った。
歩いて行くと以前使った応接間に入る。
私は過去の記憶を思い出し、苦々しい表情を見せてしまう。
「ごめんね。ここ、嫌な思いでしか無いよな。だけど、誰の目を気にすることなく話をするのなら、やっぱりここが最適かなって思ったんだ。誰かに聞かれたくない話だよね?」
ジェラルドは苦笑しながら謝って来た。
ここは過去にジェラルドとの婚約解消を言い渡された部屋だ。
だけどあれはもう終わった事で、私はジェラルドのことを責めていない。
「ううん、大丈夫。それよりも、気を遣ってくれてありがとう」
「いいんだよ。シャルは僕にとっては何よりも大切な友人だからね。いつまでもそんなに暗い顔をされていると、僕の方まで気になってしまうからな。だから気にしないで。それにここなら誰にも聞かれることは無い。僕もその事を誰かに口外はしない。内容が何であろうと僕の心の内だけに留めておくから、シャルは安心して話してくれればいいよ」
ジェラルドは「言いたく無ければ無理にとは言わないよ」と付け加えた。
私は正直ジェラルドに打ち明けて良いのか迷っていた。
ロランは私が誰にも話さないと信じて、打ち明けてくれたのだ。
それをロランに黙って勝手にジェラルドに話してしまったら、私の信用が失われてしまう可能性がある。
私はロランに嫌われたくなかった。
一度はジェラルドと関係を持ってしまったけど、ロランはそれを許しくれた。
だから余計に裏切れないという気持ちが強くなってしまう。
「シャル、そんな辛そうな顔をしないで。僕では力になれない?」
ジェラルドの優しい言葉に胸が高鳴り、泣きそうな顔で首を横に振った。
「それじゃあこういうのはどう?全ては話さなくていい。シャルが話しても大丈夫と思う範囲で構わないよ。それでもダメかな?」
「……それなら、大丈夫かも」
ルチアの家の問題さえ話さなければ、大丈夫だと思った。
私はジェラルドに、話せる範囲の事を伝えた。
ロランが最近ルチアの傍に居るのは、ある相談に乗っているため。
そして以前ルチアはロランの屋敷で使用人をしていて、昔から顔見知りだったことを伝えた。
全てを話すとジェラルドは不満そうな顔で言った。
「その相談と言うのは、ロランじゃなければ出来ないの?」
鋭いことを言って来るジェラルドに私は苦笑してしまう。
「多分、そうだと思う」
ロランは公爵家の人間であるので、言いかたは悪いがロランが口添えをすれば、ルチアの両親も婚約者になる男も簡単に黙らせることが出来るのだろう。
ルチアはそんなロランに目を付けて頼むなんて、本当に狡賢い人間だと思ってしまう。
「その女はシャルよりも価値がある人間なのかな」
「え?」
ジェラルドは冷たい声でぼそりと呟く。
私が驚いてジェラルドの方に視線を向けると、表情はいつも通りの顔に戻っていた。
そして私と視線が合うと、ジェラルドは優しく微笑んだ。
「なんでもないよ。ロランだって、シャルが寂しがっていることには気付いていると思うよ。シャルは素直に顔に出るタイプだからね」
「……っ」
「こんなに寂しそうにしているのに気付かない程鈍感なら、遠慮なく僕が奪ってしまおうかな」
「ジェラルド、こんな時にふざけないでっ」
ジェラルドは冗談ぽく言うので、私はムッとした顔で言い返した。
「ごめん。今のは不謹慎だったね。シャルが本気で悩んでいるのに。ごめんね」
「ううん、大丈夫」
確かに今は冗談なんて言われたく無かったけど、私の表情を変える為にわざとそんな態度を取ってくれた様な気がした。
ジェラルドは場の空気を読めない様な人間でないことは分かっている。
「今みたいに、シャルの素直な気持ちをそのままぶつければいいんじゃない?どうせすぐに顔に出てバレてるし」
「……っ!!」
「それにシャルはロランの婚約者だろう?我儘を言うことも許されるし、何より無条件で傍にいられる権利だってあるんだから。シャルが我慢する必要なんて無いと思うよ」
「……そうかな。嫌われたり、しないかな?」
私が本気で心配そうな顔を見せるとジェラルドは「それは絶対に無い」ときっぱり否定した。
「僕から奪ったくらいだからね。ロランの気持ちは簡単に離れたりはしないはずだよ。少しくらい困らせてやればいいんだよ。シャルにはその権利があるし、もし上手く行かなくなったら僕がいつでも相談に乗ってあげるから」
「……そう、だよね!私、文句を言ってもいいんだよね?」
ジェラルドに相談したことで、心の靄がとれて気持ちが幾分か楽になった。
「それに今日はこの後ロランと王都でデートだろう。その時にでも言ってやればいいよ」
「うんっ!ジェラルド、ありがとう。そうしてみる」
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