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第二章
70.素直な気持ち
「それに……?」
私がぎゅっとロランに抱きついていると耳元で小さく問いかける声が響き、体をゆっくりと剥がした。
奪われたくないという気持ちからぽろっと漏れてしまった言葉だが、どうやらロランの耳にも届いていたようだ。
私はじっとロランの瞳の奥を見つめていた。
「ロランの今の婚約者は誰?」
「シャル」
「ロランが一番好きなのは?」
「シャルだな」
ロランは迷うことなくさらりと答えた。
その言葉を聞くと安心感を覚え、私の表情は緩んでいく。
嬉しさが込み上げて来て、笑みが零れてしまっているのかもしれない。
「ごめんな。シャルのことを不安にさせていることには気付いていたんだ。だけど、彼女はずっと昔から俺の傍にいたから放っておくことが出来なくて」
ルチアはロランの屋敷に仕えるただの使用人で、年齢が同じだった事もあり話しやすかったのだろう。
私の屋敷にも使用人はいるが、その中には仲の良い者が何人かいる。
ロランにとってルチアは、その様な存在だったのだろうと思い込むことにした。
私はロランのことを信じているし、出来ることなら疑いたくはない。
だけど何も言ってくれないと不安になる。
ロランが別の子と仲良くしているのを見るのは本当に辛い。
「ロランがルチアさんを助けてあげたい気持ちは分かる。傍にいたから放っておけないことも。だけど、私だってロランがいなければだめなの……。それくらいロランの事が好き。ロランがいない生活なんて考えられない」
胸の奥に留めていた気持ちを口に出すのと同時に、目元が熱くなっていくのを感じていた。
今の私は全身で『離れないで』と伝えたいのかも知れない。
「シャル……。っ、ごめん」」
ロランは驚いた顔を一瞬見せると、次の瞬間強く私のことを抱きしめていた。
私の気持ちはロランに届いたのだろうか。
「シャル、ごめんな。そんな事を言わせるくらい、不安にさせていたんだな。俺は本当に馬鹿だ。一番大切にしたい人を泣かせてしまうだなんて」
「本当だよ。私のことを忘れないでっ……。ロランが離れていってしまうみたいでずっと寂しかった。こんな気持ちにさせたんだから、ずっと傍にいてよっ」
感情が昂ぶり私の目からは熱いものが流れていく。
これは寂しいからだけではない。
きっとロランの気持ちをしっかりと確かめることが出来て、安心と幸福感に包まれて感情が溢れているのだろう。
最近はロランに触れる機会も減っていたから尚更だ。
「そうだな。そのつもりでシャルに婚約を申し入れたんだ。シャルを手放したくないのは俺も一緒。というよりは俺の方がその気持ちが強いと思っていたけど、シャルも同じくらい思っていてくれたんだな。嬉しいよ。それなのに俺はいつもダメだな。肝心なところで選択肢を間違えている気がする」
ロランは自嘲するようにぼそりと呟いた。
「それは私も一緒だよ。私達は一人だといつも間違っちゃうから、一緒にいないとダメなのかも」
私が思いついたように答えると、ロランは笑って「そうだな」と答えた。そしてゆっくりと抱きしめている手を解いた。
「シャルが好きだ。俺が心から思っているのは婚約者であるシャルだけ。だけどルチアの事はこのままってわけにはしておけない」
「……うん」
「シャルをこれ以上不安にさせないためにも、ルチアの事は他の者に任せようと思う。今日は急だからさすがに無理だけど、シャルも一緒にいるから許してくれるか?」
「ロランはそれでいいの……?」
「ああ。最初からこうしておけば良かったな。俺が直接関わらなくても、代理の者に頼んでおけばシャルを不安にさせることにはならなかったんだよな。どうして今まで気付かなかったんだろうな」
「気付いてくれたから許してあげる。でも今まで我慢してきた分、少し甘えたい……」
私は甘いのかも知れない。
ロランに好きだと言われて舞い上がり簡単に許してしまう。
ロランは「甘えて来るシャルは可愛いな」と笑って答えていた。
私がドキドキしながらロランを見つめていると、頬にロランの手が触れて目元に溜まっている涙を優しく指で拭ってくれた。
そして顔がゆっくりと近づいてきて、唇がそっと重なる。
ただ触れるだけの静かなキスだったが、唇からロランの熱と思いが伝わってくるようで、私はゆっくりと目を閉じた。
(ロランに気持ちを伝えて良かった。これできっともう大丈夫だよね)
一時の穏やかな時間。
あるべきはずの本当の姿に戻れた瞬間だった。
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