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第二部
44.好きな人
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シリルの言う、手に入れたい人とはエレノアの事なのだろうか。
こんなに思い悩んだ姿のシリルを見るのは初めてで、私は少し戸惑っていた。
だけどシリルにはずっと助けられてばかりだったので、悩んでいるなら力になりたいとも思った。
「シリル様、何か私に出来ることはありませんか…?」
私はシリルの隣に座ると、じっと顔を見つめた。
「アリア…?」
「私、協力します!シリル様には本当に良くして貰ってばかりで…いつか恩返しをしたいなと思っていたんです。だから力になれることがあるのなら、なんだって協力したいんですっ!」
私が力強い口調で答えると、シリルは少し困った様な表情を見せていた。
(もしかして…私張り切り過ぎた?それとも…私にはあまり踏み込んで欲しく無かった事だったのかな…)
「アリアは…どうしたら良いと思う?」
「え…?そう…ですね。もう少し情報を聞いてからじゃないと…なんとも…」
「たしかにそうだな。その相手は多分俺の事は何とも思ってはいない。あえて言えば友人程度にしか思われていないと思う…。彼女は心に傷を負っているから簡単には手出し出来ないんだ…。傷つけたくないからな…。それに良好な関係を壊したくないと言うのもある…」
シリルの口調は落ち着いていたが、表情はどこか儚げに見えた。
(その人の事…本当に大事に思っているんだ…。どこかの誰かとは大違いだわ!だけど、心に傷を負っているのはシリル様も同じだよね?自分がそうだから余計に怖いのかな…。復縁ってなんだか難しそうだし…)
「シリル様の思いはなんとなく分かりました。だけど決断しない限り、先には進めないと思います…。今の状態で満足しているのなら、そのままでもいいとは思うけど…その先の関係に進みたいと思っているのなら行動を起こさないと変わりませんよ。エレノアさんは綺麗な方なので…周りの人もほっとかないと思うし…」
「エレノア…?どうしてそこでエレノアの名前が出て来るんだ?」
私の話を大人しく聞いていたシリルは、眉を寄せ怪訝そうな顔をした。
「…え?シリル様の好きな人ってエレノアさんじゃないんですか?」
「やめてくれ…、エレノアを好きになるとか有り得ない…。出来れば避けたいと思っている相手だ…」
シリルはエレノアと名前を出した途端顔色が変わり、その表情からも嫌悪感が滲み出ている様だった。
「で、でも…今日来てたじゃないですか…」
「ああ、あれはエレノアが何の連絡もなく突然現れたから仕方なく会っただけだ。恐らく事前に連絡を入れれば断られると分かって、連絡無しに来たんだろう…。彼女はとてもしたたかな女だ、アリアは関わる機会は無いとは思うが…出来る限り近づかない方が良い」
(エレノアさんて危険な感じな人なんだ…。シリル様がここまで嫌っているのって、やっぱり浮気されたことを今でも許せないのかな…。それなら好きな人って誰だろう…。まさかあのメイド!?)
「アリアは好きな男はいないのか…?」
「私ですか?…いないですね。恋愛には興味はあるんですけど…、なかなか出会いが…」
突然シリルにそんな質問をされ、私は乾いた笑みを漏らした。
屋敷の中にはそれなりに異性もいて、素敵だなと感じることも無いわけではない。
だけどそれは恋では無く、憧れや尊敬に近いものだと思う。
元々私は恋愛小説が好きなので、素敵な恋に憧れを持っているし、機会があれば私も恋をしたいと思っている。
しかしローレンとの一件があり、どこか身構えてしまう。
だから中々人を好きになれないのかもしれない…。
ローレンと1か月近く一緒に生活し、強引ではあったけど毎晩体を重ね、好きとか愛してるとか洗脳するかの様に何度も聞かされ、もしかして本当にローレンの事を好きなのかもしれないと錯覚しそうになったこともあった。
だけどローレンと離れた今だから言えるが、あれは恐怖から逃れる為に、そう思い込む事で楽になりたかっただけなんだと思う。
両親の事は気がかりではあるけど、家に戻ればきっとローレンと会う事になるだろう。
それならば、ずっと此処にいたいとさえ思ってしまう。
きっと私は今でもローレンに恐怖心を持っているんだと思う。
「出会いか…。恋愛に興味があるのなら、俺として見る気は無いか…?」
「………」
シリルの言葉に私は苦々しい顔を浮かべた。
「シリル様の友人として…言わせて頂きますね…。そんなに誰にでも声をかけるのは止めた方が良いと思います。そんな事ばかりしていたら、好きな人にも不誠実だと思われて敬遠されてしまう可能性があるから…。本当に好きならそういう…遊びみたいな関係の人は全部切って、本気だってアピールした方が良くないですか?」
私が言い切るとシリルは少し考えた様に黙り込み、暫くしてから「本気のアピールか」と小さく呟いた。
「そうです、本気のアピール!私、前世では結構恋愛小説を読んでいたので…経験は無くてもうまく行く秘訣?みたいなものは心得ています。なのでアドバイスなら出来ますよ…多分」
「頼もしいな…。アリアは一途な男が好きなんだな…。分かった、これからは他の女には一切手は出さない…。だけど、重すぎると思われて引かれるのが心配だ…」
「行きすぎなければ問題無いと思います。愛情表現は少ないよりは多い方がきっと喜ばれますよ!結構重過ぎる愛が好きって人もいるみたいだし…、特に私が読んでた小説ではそう言うのを好んでる人が多かった気がします…。だから大丈夫ですよっ…!多分…」
「なるほどな…。アリアは重すぎる愛は許せるのか…」
「だって好きな人には愛してもらいたいって思うのは当然じゃないですか?シリル様だって、好きな人に沢山愛してもらいたいって思うでしょ…?そういう事ですよ…」
私は良いことを言ったと、心の中で一人で満足していた。
それから暫くすると、シリルの掌が私の手に重なる様に触れた。
私はそれに気付くと顔を上げた。
シリルは優しい顔で私を見つめていた。
「こんな気持ちを持つのは初めてで…戸惑っていた。だけど、この気持ちは諦めなくてもいいんだな…」
「シリル様…?」
「俺が好きなのはアリアだ…。ずっと誤魔化そうとして来たけど、日に日にこの気持ちは大きくなって、自分でももう抑えるなんて出来そうもない…。もう他の女には一切手は出さない。だから…俺との事を考えてはくれないか?」
こんなに思い悩んだ姿のシリルを見るのは初めてで、私は少し戸惑っていた。
だけどシリルにはずっと助けられてばかりだったので、悩んでいるなら力になりたいとも思った。
「シリル様、何か私に出来ることはありませんか…?」
私はシリルの隣に座ると、じっと顔を見つめた。
「アリア…?」
「私、協力します!シリル様には本当に良くして貰ってばかりで…いつか恩返しをしたいなと思っていたんです。だから力になれることがあるのなら、なんだって協力したいんですっ!」
私が力強い口調で答えると、シリルは少し困った様な表情を見せていた。
(もしかして…私張り切り過ぎた?それとも…私にはあまり踏み込んで欲しく無かった事だったのかな…)
「アリアは…どうしたら良いと思う?」
「え…?そう…ですね。もう少し情報を聞いてからじゃないと…なんとも…」
「たしかにそうだな。その相手は多分俺の事は何とも思ってはいない。あえて言えば友人程度にしか思われていないと思う…。彼女は心に傷を負っているから簡単には手出し出来ないんだ…。傷つけたくないからな…。それに良好な関係を壊したくないと言うのもある…」
シリルの口調は落ち着いていたが、表情はどこか儚げに見えた。
(その人の事…本当に大事に思っているんだ…。どこかの誰かとは大違いだわ!だけど、心に傷を負っているのはシリル様も同じだよね?自分がそうだから余計に怖いのかな…。復縁ってなんだか難しそうだし…)
「シリル様の思いはなんとなく分かりました。だけど決断しない限り、先には進めないと思います…。今の状態で満足しているのなら、そのままでもいいとは思うけど…その先の関係に進みたいと思っているのなら行動を起こさないと変わりませんよ。エレノアさんは綺麗な方なので…周りの人もほっとかないと思うし…」
「エレノア…?どうしてそこでエレノアの名前が出て来るんだ?」
私の話を大人しく聞いていたシリルは、眉を寄せ怪訝そうな顔をした。
「…え?シリル様の好きな人ってエレノアさんじゃないんですか?」
「やめてくれ…、エレノアを好きになるとか有り得ない…。出来れば避けたいと思っている相手だ…」
シリルはエレノアと名前を出した途端顔色が変わり、その表情からも嫌悪感が滲み出ている様だった。
「で、でも…今日来てたじゃないですか…」
「ああ、あれはエレノアが何の連絡もなく突然現れたから仕方なく会っただけだ。恐らく事前に連絡を入れれば断られると分かって、連絡無しに来たんだろう…。彼女はとてもしたたかな女だ、アリアは関わる機会は無いとは思うが…出来る限り近づかない方が良い」
(エレノアさんて危険な感じな人なんだ…。シリル様がここまで嫌っているのって、やっぱり浮気されたことを今でも許せないのかな…。それなら好きな人って誰だろう…。まさかあのメイド!?)
「アリアは好きな男はいないのか…?」
「私ですか?…いないですね。恋愛には興味はあるんですけど…、なかなか出会いが…」
突然シリルにそんな質問をされ、私は乾いた笑みを漏らした。
屋敷の中にはそれなりに異性もいて、素敵だなと感じることも無いわけではない。
だけどそれは恋では無く、憧れや尊敬に近いものだと思う。
元々私は恋愛小説が好きなので、素敵な恋に憧れを持っているし、機会があれば私も恋をしたいと思っている。
しかしローレンとの一件があり、どこか身構えてしまう。
だから中々人を好きになれないのかもしれない…。
ローレンと1か月近く一緒に生活し、強引ではあったけど毎晩体を重ね、好きとか愛してるとか洗脳するかの様に何度も聞かされ、もしかして本当にローレンの事を好きなのかもしれないと錯覚しそうになったこともあった。
だけどローレンと離れた今だから言えるが、あれは恐怖から逃れる為に、そう思い込む事で楽になりたかっただけなんだと思う。
両親の事は気がかりではあるけど、家に戻ればきっとローレンと会う事になるだろう。
それならば、ずっと此処にいたいとさえ思ってしまう。
きっと私は今でもローレンに恐怖心を持っているんだと思う。
「出会いか…。恋愛に興味があるのなら、俺として見る気は無いか…?」
「………」
シリルの言葉に私は苦々しい顔を浮かべた。
「シリル様の友人として…言わせて頂きますね…。そんなに誰にでも声をかけるのは止めた方が良いと思います。そんな事ばかりしていたら、好きな人にも不誠実だと思われて敬遠されてしまう可能性があるから…。本当に好きならそういう…遊びみたいな関係の人は全部切って、本気だってアピールした方が良くないですか?」
私が言い切るとシリルは少し考えた様に黙り込み、暫くしてから「本気のアピールか」と小さく呟いた。
「そうです、本気のアピール!私、前世では結構恋愛小説を読んでいたので…経験は無くてもうまく行く秘訣?みたいなものは心得ています。なのでアドバイスなら出来ますよ…多分」
「頼もしいな…。アリアは一途な男が好きなんだな…。分かった、これからは他の女には一切手は出さない…。だけど、重すぎると思われて引かれるのが心配だ…」
「行きすぎなければ問題無いと思います。愛情表現は少ないよりは多い方がきっと喜ばれますよ!結構重過ぎる愛が好きって人もいるみたいだし…、特に私が読んでた小説ではそう言うのを好んでる人が多かった気がします…。だから大丈夫ですよっ…!多分…」
「なるほどな…。アリアは重すぎる愛は許せるのか…」
「だって好きな人には愛してもらいたいって思うのは当然じゃないですか?シリル様だって、好きな人に沢山愛してもらいたいって思うでしょ…?そういう事ですよ…」
私は良いことを言ったと、心の中で一人で満足していた。
それから暫くすると、シリルの掌が私の手に重なる様に触れた。
私はそれに気付くと顔を上げた。
シリルは優しい顔で私を見つめていた。
「こんな気持ちを持つのは初めてで…戸惑っていた。だけど、この気持ちは諦めなくてもいいんだな…」
「シリル様…?」
「俺が好きなのはアリアだ…。ずっと誤魔化そうとして来たけど、日に日にこの気持ちは大きくなって、自分でももう抑えるなんて出来そうもない…。もう他の女には一切手は出さない。だから…俺との事を考えてはくれないか?」
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