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第6話「僕はその姿を見かけた」
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【12月27日土曜日10:00】
昨晩なかなか寝付けなかったせいで、目が覚めたのは10時過ぎだった。
カーテンを開けたまま寝てしまったから、部屋には燦々と午前中の日差しが降り注いでいる。
チェックアウトは11時。
シャワーを浴び、身支度を整え、僕は部屋をあとにする。
フェイジョアホテルのロビーは、いつでも洗練された華やかさがある。
正面には、正月を迎えるのに相応しい花々が、大胆かつ美しく活けられており目を引く。
年末年始の間に、もう一度ぐらい、このホテルに文鳥として呼ばれたいものだ。
ただ、それは贅沢な望みだと分かっている。
ここまでグレードの高いホテルに呼んでくれるのは、カラスの中でも一握り。
正月の宿泊代金が高騰するタイミングでは、さらに難しいことだろう……。
—
客室直結のエレベーターから、誰だか知らない金髪で背の高い外国人が降りてきた。
50歳くらいのその男性の脇を、SPらしき人が固めていて、ただ者ではないことが分かる。
昨晩滞在し、今日出発するVIP客なのだろう。
彼の元に、ホテルの支配人といった風情の男が近寄った。
彼らは何かを話しながら、エントランスへ向かっている。
見るともなしにそれを眺めていると、その外国人の元へ、悠然と一人の男が近づいていった。
後ろ姿しか見えないが、背筋が綺麗に伸びた、すらりと長身の男性。
彼が着ているチャコールグレーのスーツも上等なものだと、一目で分かった。
きちんと身体にフィットしているスーツは、背中だけ見ても、上品でセンスが良い。
外国人が振り向き、スーツの彼に気がついて、破顔する。
「Oh~!」
会えたことを喜ぶように両手を広げた。
彼らが何を話しているのか、僕のいる位置からはよく聞こえない。
けれど、その外国人が彼を「オーナー」と呼んだのは分かった。
オーナー?フェイジョアの?
あの人が、この木製の椅子にこだわったホテルを作ったオーナー!
僕は、そのオーナーらしき人物の顔を、一目見てみたくなった。
さりげなさを装い、彼らのほうへ早足に近づいていく。
そんな行動が怪しく映ったのか、外国人のSPが僕に睨みを効かせてきた。
仕方なく、彼らを追い越すようにそのまま直進し、エントランスから外へ出る。
少し先で振り向くと、外国人とスーツの男が車寄せからハイヤーに乗り込むところだった。
残念ながら、オーナーらしき人物の顔は見えないまま、ハイヤーは走り去る。
それでも、今まで影も形も分からなかったフェイジョアオーナーを見かけたことは単純に嬉しい。
「いいもの見たな」
僕は、足取り軽く東京駅へ向かって歩き始めた。
—
思えば昨晩サンドイッチを軽く食べただけで、しっかりとした食事を取っていない。
どこかでランチを食べて帰ろう。
東京駅付近で食べるか、家の近所まで戻って食べるか。
迷っていると、自分の少し後ろを、誰かがついてくる気配を感じた。
またか……。
ため息が出そうになったけれど、僕を見張っているあの男にランチを奢らせようと思いつく。
だから立ち止まって、ゆっくりと振り向いた。
昨晩なかなか寝付けなかったせいで、目が覚めたのは10時過ぎだった。
カーテンを開けたまま寝てしまったから、部屋には燦々と午前中の日差しが降り注いでいる。
チェックアウトは11時。
シャワーを浴び、身支度を整え、僕は部屋をあとにする。
フェイジョアホテルのロビーは、いつでも洗練された華やかさがある。
正面には、正月を迎えるのに相応しい花々が、大胆かつ美しく活けられており目を引く。
年末年始の間に、もう一度ぐらい、このホテルに文鳥として呼ばれたいものだ。
ただ、それは贅沢な望みだと分かっている。
ここまでグレードの高いホテルに呼んでくれるのは、カラスの中でも一握り。
正月の宿泊代金が高騰するタイミングでは、さらに難しいことだろう……。
—
客室直結のエレベーターから、誰だか知らない金髪で背の高い外国人が降りてきた。
50歳くらいのその男性の脇を、SPらしき人が固めていて、ただ者ではないことが分かる。
昨晩滞在し、今日出発するVIP客なのだろう。
彼の元に、ホテルの支配人といった風情の男が近寄った。
彼らは何かを話しながら、エントランスへ向かっている。
見るともなしにそれを眺めていると、その外国人の元へ、悠然と一人の男が近づいていった。
後ろ姿しか見えないが、背筋が綺麗に伸びた、すらりと長身の男性。
彼が着ているチャコールグレーのスーツも上等なものだと、一目で分かった。
きちんと身体にフィットしているスーツは、背中だけ見ても、上品でセンスが良い。
外国人が振り向き、スーツの彼に気がついて、破顔する。
「Oh~!」
会えたことを喜ぶように両手を広げた。
彼らが何を話しているのか、僕のいる位置からはよく聞こえない。
けれど、その外国人が彼を「オーナー」と呼んだのは分かった。
オーナー?フェイジョアの?
あの人が、この木製の椅子にこだわったホテルを作ったオーナー!
僕は、そのオーナーらしき人物の顔を、一目見てみたくなった。
さりげなさを装い、彼らのほうへ早足に近づいていく。
そんな行動が怪しく映ったのか、外国人のSPが僕に睨みを効かせてきた。
仕方なく、彼らを追い越すようにそのまま直進し、エントランスから外へ出る。
少し先で振り向くと、外国人とスーツの男が車寄せからハイヤーに乗り込むところだった。
残念ながら、オーナーらしき人物の顔は見えないまま、ハイヤーは走り去る。
それでも、今まで影も形も分からなかったフェイジョアオーナーを見かけたことは単純に嬉しい。
「いいもの見たな」
僕は、足取り軽く東京駅へ向かって歩き始めた。
—
思えば昨晩サンドイッチを軽く食べただけで、しっかりとした食事を取っていない。
どこかでランチを食べて帰ろう。
東京駅付近で食べるか、家の近所まで戻って食べるか。
迷っていると、自分の少し後ろを、誰かがついてくる気配を感じた。
またか……。
ため息が出そうになったけれど、僕を見張っているあの男にランチを奢らせようと思いつく。
だから立ち止まって、ゆっくりと振り向いた。
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