冬の十日間、十年の愛執《再会したホテルオーナーと椅子職人》

フィカス

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第9話「僕はあの人と再び……」

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【12月27日土曜日21:00】

指定された号室を、時刻ちょうどにノックする。
程なく、本日のカラスがドアを開け、迎え入れてくれた。

彼は僕の背中にそっと手を添え、暗い室内をベッドまでエスコートしてくれる。
このホテルは9月にあの人に抱かれた場所だ。
だから正直少し期待していた。

けれど、ウッディな深い森の香りもしないし、背中に触れた手からも何も感じない。
どうやら今日もハズレだったようだ……。

フットライトのみが灯った暗がりの中で見える彼は、堅苦しいスーツ姿だった。
まだシャワーも浴びていないようだ。

「シャワー、お先にどうぞ」

そう告げた僕に、彼は顔を寄せ小さな声で囁く。

「ちょっとこのまま待っていてください」

その言葉とともに、フットライトが消された。
カーテンも閉められた部屋は、闇に包まれる。

「え?なに?」

布がこすれるような人が動く気配がして、誰かが近づいてくる。
暗闇の中に、気配がもう一つ増えた。
まさか、他にも人がいるのか?

二対一など聞いてない。
フクロウさんからの電話が頭に蘇り、怖さを感じた……。

近づいてきた気配は、ベッドに腰掛けている僕の横に、ゆっくりと座る。
そのとき、深い森のような、あの香りがした。

「え?」

戸惑っている僕を、隣に座った人がふわっと優しくハグしてくれた。

「あぁ……」

身体にビリッと甘い電流が走り、思わず声が零れる。
あの人だ。9月のあの人……。

「彼です」

あの人は小さな声でそう言った。
僕にではなく、別の誰かに。
おそらくは最初に僕を部屋に招き入れてくれた本日のカラスに、そう告げた。

「では、私はこれで失礼します」

コツコツと歩く音が聞こえ、ドアが開く。
廊下の明かりが室内に漏れたが、ベッドのある場所までは、その光が届かない。

カチッと音がしてドアが閉まった途端、あの人は手探りで僕の顔に触れる。
冷たい手が、耳を、頬を、そして唇の位置を指で確かめ、僕にキスをしてくれた。

それはあっという間に深くなり、唇を割って舌が口内に入ってくる。
僕はそれに応えようと、必死に舌を絡め合う。

「んっ」

息継ぎのように喘ぎ、彼の背中に手を回して、しがみつく。
あぁ、気持ちがいい。
頭がぼーっとして、全てを彼に捧げたくなる。

どうしてこの人は、僕をこんなにも蕩けさせるのか?
なぜこの人は、僕にとって特別なのか?

「君は私の特別です。会いたかった」

どこか懐かしいような声……。
そして僕と同じように、彼も特別な何かを感じてくれているという奇跡に、胸がいっぱいになる。

指が愛おしそうに、僕の首をなぞった。
しかし。

「ドガッ」

突然、ドアが開いた。

「そこまでだ。離れろ」

その声が誰なのかは、すぐに分かった。
声の主以外にも、屈強な男が数人、入ってきたようだ。

「立て。そうだ。そのまま廊下に出ろ」

懐に凶器でも忍ばせてそうな威圧的な声で、岩山があの人に命令する。
あの人は、僕のそばを離れる時、手をぎゅっと握り、小声で囁いた。

「誤解を解いて必ず戻ります。ここで待っていて」

暗闇の中、屈強な男たちに囲まれ、あの人はドアの向こうへ連れていかれた。
僕は岩山に反論したかったが、「ここで待って」と言われた言葉に踏みとどまる。

そんなタイミングで、あの人からは廊下の灯りに照らされた岩山の顔が見えたようだ。
そして声を震わせる。

「貴方は……。だとしたら、彼は……」

あの人が振り向いて僕の顔を見ようとしたけれど、岩山がバタンとドアを閉めてしまった。

部屋には、深い森の匂いが少しだけ、残っていた。
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