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燃えつくされた街、そして現在へ
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僕は廃屋の床下からじっと外の世界を眺めていた。
辺り一面に漂う色々なモノが焼け焦げた匂い。崩れ落ちた多くの家々。道端に転がる焼け焦げた人間たち。
あちらこちらから聞こえるのは多くの人間のすすり泣く声と、助けを求めるうめき声だ。まったく人間は愚かしい。喰いもしない人間を殺し、身体を暖めるわけでもないのに火を使いすべてを燃やしまくる。
僕はゆっくりと床下から這い出し、辺りを見回した。あれだけ混み合っていたこの町の建物群はすっかりただのでかい炭の塊になっている。その風景を見ていた僕は、何だか可笑しくなってしまった。この日、僕が根城にしていたこの町では、9万人以上が焼き殺されたらしい。人間という生き物は、同じ種である人間を無駄に殺し、無駄に殺される。そして、そのことに全く意味がないことを知らない。
化け物になった僕は可笑しくても笑うことは出来ないが、もし僕が人間だったら腹を抱えて笑い転げているだろう。
「本当に人間はクソだな!」
だが、そのクソのおかげで僕はこれまで命をつないでこられた。糧になってくれる人間に僕は常に感謝をしている。人間も、無駄に殺されるより僕の糧になる為に殺された方が余程「命」に意味が生まれるだろう。
scene4「この世の終わり」
バカみたいな戦争が終わってから70年以上が経った現在。
目が覚めると、またあの生臭さを口中に感じた。いつものことながら僕はこの起きた瞬間が嫌いだ。生臭さから始まり、急いで狩りをし、血肉を味わい、そしてまた眠りにつくというたった4時間だけの僕の一日。
僕はそんな一日が始まるこの瞬間が本当に嫌だった。でも仕方がない。この毎日を繰り返さなければ、僕は死ぬ。
僕は林檎をかじりながら、今日からどこへ狩りに行こうか悩んでいた。あの動物園には、また警察が潜んでいるに違いない。あの動物園を狩り場にできない以上、また別の動物園の近くに引越しをしなければならないが、冬の引越しは苦手だ。僕は寒いとすべての身体能力がグンと落ちる。さらには危機察知能力も落ちるので僕にとって冬の引越しはとても危険なのだ。
冬の間の引越しを諦めた僕は、近くにたくさんいる人間を狩ることにした。まずは街を歩き、人の目が届かない狩り場を探す。夜の街には人の目が届かない場所が少なくない。ビルとビルの隙間、まるで森のような広い公園、照明の無い駐車場、その他にもたくさんの狩り場候補がある。
問題は、その狩り場に人間を誘い込む方法だ。僕には狩りをする時間が限られているので、待ち伏せしているだけでは確実に狩りが出来る保証はない。だから僕はこの時代で人間を狩る場合は、必ず狩り場に人間を誘い込んでから狩りを行っている。
人間は単純だから、狩り場の近くでうろうろしている僕を見ると、わざわざ人間側から声をかけてくれる。そこで僕が「助けて」とか、「困っている」などど言うと、まるで自ら火に飛び込む蛾のように、狩られる者自ら狩り場までやってきてくれるのだ。
僕は今日の狩り場に、木が鬱蒼とした森のような公園を選んだ。ここなら自宅にも近いし、人の目も全く気にならない。それに運が良ければ、公園を根城にしている人間を見つけることが出来るかもしれない。
真っ暗な公園の入口。公園の中は所々薄暗い外灯に照らされている。しかし、公園の大部分には深い暗闇が広がっていた。ここを根城にしている人間以外、真夜中に自分の意志でこの公園を訪れる者はいないだろう。僕はまず、ここを根城にしている人間を探すことにした。
真夜中の公園には、静寂に包まれた暗闇が広がり、時折風に揺られ擦れ合う木々の音が響く。
夜の公園で僕が興味を引かれるのは、公園に残っている昼間の残骸たちだ。ベンチの下にはタバコの吸い殻や空き缶が散乱し、芝生の上には人間の子どもが遊んでいたプラスチックの玩具が放置されている。
そんな昼間の残骸たちを見ながら、僕は昼間の情景を思い浮かべる。昼間の空は青く、どこまでも高い。太陽の光は公園で遊ぶ親子やベンチでくつろぐ人たちを優しく温め続けてくれている。
僕はもう二度と昼間の明るさや温かさを体感できないだろう。そんな僕に夜の公園はひとときだけだが昼間の愉しさを空想させてくれた。
公園の中心近くには屋根付きの水飲み場がある。その奥にはいくつかのベンチが並んでいて、もし人間がいるならここだろうと僕は踏んでいた。暗闇のなか、目と耳を凝らして人間の気配を探る。
「居た…」
いくつか並べられたベンチの一番端、その上に段ボールと新聞紙に包まれた男が眠っていた。僕はそっとその男に近づく。やはり人間は危機回避能力がとても低いようだ。手が届くところまで近づいても一向に起き出す気配もない。
僕は、男がくるまっている段ボールと新聞紙を一気に引き剥がした。突然の出来事に驚き飛び起きた男は、僕を見て目を丸くしている。男は口をモゴモゴしていたが何を言っているかは分からなかった。
僕は男にこう告げた。
「お前は僕の糧になる。心から感謝する」
すると男は何故か、けたけたと笑い始めた。次の瞬間、僕が男の喉を食いちぎると、男は自分の身に何が起こったのか気付かずに、口をパクパクさせながら絶命した。
思いのほか簡単に狩りを終えた僕は、しばらくこの公園を狩り場にしようと決めた。獲物を素早く自宅に運び、今日も無事に食事を終えた僕はすぐに眠りについた。
その夜、とても久しぶりに夢を見た。ずっと昔の夢だ。
僕ら兄弟は母に連れられ細い畦道を歩いている。とても心が弾み、みんな笑顔だ。
どこへ何をしに向かっていたかは覚えていない。ただ、あの時も飢えてはいたはずだが、とても楽しかったという記憶だけが鮮明に残っている。
母の温かい手、兄弟達の笑い声、太陽の光、涼やかな風。
「次に目覚めたらあの時に戻っていたい」、心からそう願ったが、翌々日目覚めたとき、僕が手にしたのはあの忌まわしい口中の生臭さだけだった。
人間ではない僕が使ってもいい言葉ではないかもしれないが、この「人生」もそろそろ潮時なのだろう。
僕はもう、十分に生きた。だが、人として生きたわけでは無い。ただ殺し、ただ喰らい、ただ眠り、また殺す。この悪夢のようなリフレインは僕に「怪物としての生」をもたらしたが、それ以外のすべてを僕から奪ってしまった。
僕は、もう狩りに行くのをやめることにした。
もちろん、この耐え難い空腹に、僕の精神が耐えられたならの話だが。
辺り一面に漂う色々なモノが焼け焦げた匂い。崩れ落ちた多くの家々。道端に転がる焼け焦げた人間たち。
あちらこちらから聞こえるのは多くの人間のすすり泣く声と、助けを求めるうめき声だ。まったく人間は愚かしい。喰いもしない人間を殺し、身体を暖めるわけでもないのに火を使いすべてを燃やしまくる。
僕はゆっくりと床下から這い出し、辺りを見回した。あれだけ混み合っていたこの町の建物群はすっかりただのでかい炭の塊になっている。その風景を見ていた僕は、何だか可笑しくなってしまった。この日、僕が根城にしていたこの町では、9万人以上が焼き殺されたらしい。人間という生き物は、同じ種である人間を無駄に殺し、無駄に殺される。そして、そのことに全く意味がないことを知らない。
化け物になった僕は可笑しくても笑うことは出来ないが、もし僕が人間だったら腹を抱えて笑い転げているだろう。
「本当に人間はクソだな!」
だが、そのクソのおかげで僕はこれまで命をつないでこられた。糧になってくれる人間に僕は常に感謝をしている。人間も、無駄に殺されるより僕の糧になる為に殺された方が余程「命」に意味が生まれるだろう。
scene4「この世の終わり」
バカみたいな戦争が終わってから70年以上が経った現在。
目が覚めると、またあの生臭さを口中に感じた。いつものことながら僕はこの起きた瞬間が嫌いだ。生臭さから始まり、急いで狩りをし、血肉を味わい、そしてまた眠りにつくというたった4時間だけの僕の一日。
僕はそんな一日が始まるこの瞬間が本当に嫌だった。でも仕方がない。この毎日を繰り返さなければ、僕は死ぬ。
僕は林檎をかじりながら、今日からどこへ狩りに行こうか悩んでいた。あの動物園には、また警察が潜んでいるに違いない。あの動物園を狩り場にできない以上、また別の動物園の近くに引越しをしなければならないが、冬の引越しは苦手だ。僕は寒いとすべての身体能力がグンと落ちる。さらには危機察知能力も落ちるので僕にとって冬の引越しはとても危険なのだ。
冬の間の引越しを諦めた僕は、近くにたくさんいる人間を狩ることにした。まずは街を歩き、人の目が届かない狩り場を探す。夜の街には人の目が届かない場所が少なくない。ビルとビルの隙間、まるで森のような広い公園、照明の無い駐車場、その他にもたくさんの狩り場候補がある。
問題は、その狩り場に人間を誘い込む方法だ。僕には狩りをする時間が限られているので、待ち伏せしているだけでは確実に狩りが出来る保証はない。だから僕はこの時代で人間を狩る場合は、必ず狩り場に人間を誘い込んでから狩りを行っている。
人間は単純だから、狩り場の近くでうろうろしている僕を見ると、わざわざ人間側から声をかけてくれる。そこで僕が「助けて」とか、「困っている」などど言うと、まるで自ら火に飛び込む蛾のように、狩られる者自ら狩り場までやってきてくれるのだ。
僕は今日の狩り場に、木が鬱蒼とした森のような公園を選んだ。ここなら自宅にも近いし、人の目も全く気にならない。それに運が良ければ、公園を根城にしている人間を見つけることが出来るかもしれない。
真っ暗な公園の入口。公園の中は所々薄暗い外灯に照らされている。しかし、公園の大部分には深い暗闇が広がっていた。ここを根城にしている人間以外、真夜中に自分の意志でこの公園を訪れる者はいないだろう。僕はまず、ここを根城にしている人間を探すことにした。
真夜中の公園には、静寂に包まれた暗闇が広がり、時折風に揺られ擦れ合う木々の音が響く。
夜の公園で僕が興味を引かれるのは、公園に残っている昼間の残骸たちだ。ベンチの下にはタバコの吸い殻や空き缶が散乱し、芝生の上には人間の子どもが遊んでいたプラスチックの玩具が放置されている。
そんな昼間の残骸たちを見ながら、僕は昼間の情景を思い浮かべる。昼間の空は青く、どこまでも高い。太陽の光は公園で遊ぶ親子やベンチでくつろぐ人たちを優しく温め続けてくれている。
僕はもう二度と昼間の明るさや温かさを体感できないだろう。そんな僕に夜の公園はひとときだけだが昼間の愉しさを空想させてくれた。
公園の中心近くには屋根付きの水飲み場がある。その奥にはいくつかのベンチが並んでいて、もし人間がいるならここだろうと僕は踏んでいた。暗闇のなか、目と耳を凝らして人間の気配を探る。
「居た…」
いくつか並べられたベンチの一番端、その上に段ボールと新聞紙に包まれた男が眠っていた。僕はそっとその男に近づく。やはり人間は危機回避能力がとても低いようだ。手が届くところまで近づいても一向に起き出す気配もない。
僕は、男がくるまっている段ボールと新聞紙を一気に引き剥がした。突然の出来事に驚き飛び起きた男は、僕を見て目を丸くしている。男は口をモゴモゴしていたが何を言っているかは分からなかった。
僕は男にこう告げた。
「お前は僕の糧になる。心から感謝する」
すると男は何故か、けたけたと笑い始めた。次の瞬間、僕が男の喉を食いちぎると、男は自分の身に何が起こったのか気付かずに、口をパクパクさせながら絶命した。
思いのほか簡単に狩りを終えた僕は、しばらくこの公園を狩り場にしようと決めた。獲物を素早く自宅に運び、今日も無事に食事を終えた僕はすぐに眠りについた。
その夜、とても久しぶりに夢を見た。ずっと昔の夢だ。
僕ら兄弟は母に連れられ細い畦道を歩いている。とても心が弾み、みんな笑顔だ。
どこへ何をしに向かっていたかは覚えていない。ただ、あの時も飢えてはいたはずだが、とても楽しかったという記憶だけが鮮明に残っている。
母の温かい手、兄弟達の笑い声、太陽の光、涼やかな風。
「次に目覚めたらあの時に戻っていたい」、心からそう願ったが、翌々日目覚めたとき、僕が手にしたのはあの忌まわしい口中の生臭さだけだった。
人間ではない僕が使ってもいい言葉ではないかもしれないが、この「人生」もそろそろ潮時なのだろう。
僕はもう、十分に生きた。だが、人として生きたわけでは無い。ただ殺し、ただ喰らい、ただ眠り、また殺す。この悪夢のようなリフレインは僕に「怪物としての生」をもたらしたが、それ以外のすべてを僕から奪ってしまった。
僕は、もう狩りに行くのをやめることにした。
もちろん、この耐え難い空腹に、僕の精神が耐えられたならの話だが。
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