WSG ANOTHER 異世界に死を運ぶ少女

第１章 魔王マナ

第３話 魔人貴族の連続失踪

マナの元にティナが来てから人族への進行はピッタリと止まっていた。
 人族に残されたのはリムルダールのみ。
しかも近隣の村々は全て魔人族によって支配されており最後に残された人々はいつ滅ぼされるのか恐怖に震える毎日。
 魔人族にとってもその光景は今まで差別的扱いをされていた事もあり喜ばれた。
 魔王マナはジワジワと人族を追い詰めて絶望の中で滅ぼすつもりなのだと魔人族は魔王を応援するのであった。





 「これは美味い！皆も食べてみよ！」
 「沢山在りますのでどうぞ」

 魔王の城ではティナが作った料理を振舞っていた。
 魔王と婚約に近い形で城に住む事になったティナはせめて何か仕事をしたいと申し出て今日は料理を振舞っていたのだ。

 「ほぅ・・・これはまた斬新な味付けですな」
 「うむ、悪く無い」
 「心なしか魔力が回復しているようにも感じますな」

 長テーブルに着席してティナの手料理を食べる面々は誰もがその味に舌を打っていた。
そして、ティナの手料理が魔力回復の効果が在る事を見抜いた男性にティナが伝える。

 「マナ様が狩りをして下さった魔物を調理する時にお肉に魔力が残るように調理してみたのですが上手く言ったようでよかったです」
 「なんと？！この肉に魔力が込められてるのですか？！」
 「それではこれは回復ではなく魔力を増強する効果が？！」
 「素晴らしい！これがティナ様の魔法の力なのですね！」

 攻撃魔法や防御魔法、回復魔法に補助魔法と言った基礎的な魔法の他に事象に影響を与える珍しい魔法が使える者もいる。
 一見普通の魔法が使えない者はこういった特殊な魔法が使えると言うのが魔人族の考え方であった。

 「これは益々この国に必要な存在になるな」
 「そう言って頂けると嬉しいですわマナ様」

マナとティナは見詰め合いながら微笑みあう。
その光景にその場の誰もが微笑ましくその様子を見詰める。
 生まれた時からずっと戦火にあった世界であったが人族ももう直ぐ滅び平和な時代がやって来る。
その頂点にマナとティナが立ち魔人族を導いている光景を誰もが夢見ているのであろう。
そんな周囲の期待は本人達には届かずティナとマナの甘い空間は今日も周囲を安らかな気持ちにさせるのであった。




 「それでは今日も狩りに同行させていただいても宜しいですか？」
 「本当に料理が好きなのだな！私もティナの料理の虜だから今日も頑張るぞ！」

ティナの手を取りマナは魔王という立場を忘れて今日も森の方へ狩りに出る。
そして、手頃な獲物を上手く見つけてマナの魔法で仕留め持ち帰る。
それを台所でティナが調理してその日の夕飯に出す。
まるで一般人の猟師の様な生活であったがマナにとっては何もかもが初めての体験で毎日が充実していた。
しかし、そんな日々も長くは続かなかった・・・





「第４貴族のサラブリッドが行方不明だと？！」
 「ハッ、数日前から姿が見えなくなりそれ以降は・・・」
 「これで第１３貴族に続き３人目か・・・」

 城の王座に腰掛けるマナに告げられた報告、それは３人目の行方不明者が出たと言うことであった。
その誰もが２０人居る一般魔人とは異なる大きな力を持つ者で、言わばこの国の代表とも言える立場の魔人が３人も突如消えたのだ。
そして、誰もが考える事・・・
 それは裏切りと暗殺である。
 長く続いた争いはもうすぐ終わる、それを良しとしない者も居るのは確かである。
 平和な世になれば武力や攻撃魔法を得意としている者はその存在意義を失う。
そう考える者が居てもおかしくないのである。

そしてもう一つが・・・人族の反撃である。
 正攻法で戦ったところで魔人１人を集団で襲わない限り人族に勝ち目など無いであろう。
それくらい魔法が使える魔人族と魔法の使えない人族の間には大きな力の差がある。
 幾ら不意を突いたとしてもそう易々と痕跡も残さずに消される事などあるはずが無いのである。
つまり、一番可能性が高いのが・・・

「両方・・・確か最初に消えたのは第８貴族であったな？」
 「はっ確かそうであります」
 「第８貴族か・・・」

ここでマナの中でパズルのピースが揃う。
 第８貴族の魔法・・・それは空間を捻じ曲げて遠くと近くを繋ぐ魔法である。
これも様々な条件が揃わないと使用できない魔法であるが、もし上手く使う事が出来ればその効果は抜群であろう。
シナリオとしてはこうだ・・・
 この争いが終わると困る第８貴族が他の貴族を手を組んだ人族の元へ騙して送り込みそれを一斉に集団リンチにする。
そうする事で力の差が大きくあったとしても罠に嵌められた貴族は殺されるであろう。

 「マナ様、どうなさいますか？」
 「うん・・・仕方ない、他の貴族には注意を促し消えた者達は指名手配する形としよう」
 「畏まりました」

そう返事をして去っていく兵士の後姿を見詰めながらマナは大きな溜め息を吐く。
そんなマナの肩に手を置くティナ。
マナにとってティナだけが癒しとなり、既にティナの居ない生活なんて考えられなくなっているのであった。