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第1章 魔王マナ

第5話 マナの愛は永遠に・・・

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指示を出し森を探索したマナであったが数時間後に戻ってきた者達からの報告はこれまでと全く同じ・・・

「何処にも姿は見当たらずおかしな事もありませんでした」

マナは王座に座り天井を眺めるのであった・・・

 その後、数日に1回のペースで魔人貴族はその姿を次々と消していった。
どれ程調査をしようが前もって手を打とうが全てが無駄と思えるくらい結果は同じであった。
 数日に一度ティナと共に狩りに出てティナの手料理をその日の夕飯にする事がマナの心の唯一の安息であった。

 「一体何がどうなっているんだ・・・」
 「まさか人族の仕業かもしれませんね・・・」

マナの言葉に返すのは最後の魔人貴族となった第1貴族『リバウンド』であった。
 2日前に第20貴族の『ムーデンブルグ』が消息を絶ってからここに寝泊りをして貰っているのだ。
そして、マナの精神状態が落ち着かないのにはもう一つ理由があった。
ティナが2日前の夜から体調を崩し寝込んでしまっているのだ。

 「人族の仕業か・・・ここに来てその可能性はまず無いだろう」
 「しかしマナ様、我等魔法を使える人を相手に数百年も戦い続けた種族ですぞ」

リバウンドの言葉にその可能性も考えようとするマナであったがティナの事が心配で直ぐに思考が乱れる。
 第一最後の町であるラダトームにしか人族は生き残っていない。
そこまで追い詰められる前にこんな効果的な方法があるのならもっと早くにそうしている筈だ。
そう考えるマナは人族の反撃の可能性を口頭では言うが視野に全く入れていなかった。
そして、その夜・・・
運命の時がやってくるのであった。






 「魔王様!大変でございます!」
 「っ?!何事だ?!」

マナの寝室に飛び込んできた兵士が大声で叫んだ。
これまでこんな事は一度も無かったのでマナは驚きに浅い睡眠から飛び起きた。
そして、兵士の口から出された言葉は・・・

「人族の襲撃です!数百人に現在一気にこの城は攻め込まれています」
 「馬鹿な?!あの町には人族は1000人程しか残っていないはずだぞ?!」

 数百人と言う言葉が真実なのは彼等の中に探知魔法を使える者が居るから間違いは無いだろう。
マナは急いで着替え王の間へ移動した。
そして、王座に座り現在の状況を尋ねようとした時であった。
 王の間の扉がまるで紙の様に切り裂かれそこから多くの人が攻め込んできたのである!
マナは目を疑った。
その人族の中央に掲げられた槍の先端には第一貴族リバウンドの生首が掲げられていたのだ。
リバウンドの得意とする魔法は自らが体験した全ての事象を数倍にして相手に返す呪魔法。
もし殺されるほどの痛みを与えられれば彼を殺そうとした者は逆に即死させられる筈だ。
にも関わらずどんな方法を使ったのかリバウンドは殺されているのだ。
マナは全て悟った。
 全ては人族の仕組んだ事だったのだと・・・

「そうか・・・我が同胞の魔人貴族を一人ずつ消してこのチャンスを待っていたと言うわけか!」

マナに襲い掛かろうとした人族の数名がマナの魔法で頭を抱えたまま目、鼻、耳から血を流してその場に崩れ去る。
これが数百年の歴史の中で人族を殺す為だけに生み出された殺人魔法の一つであった。
だが仲間が殺されたと言うのに人族の者達は次々と武器を手にマナへ襲い掛かってくる。
まるで自分が死ぬ事を一切恐れていないと感じさせる狂気にマナは気圧されてしまう。
だが、マナがもしも倒れることが在ればティナはどうなる?
それがマナを奮い立たせた。

 「我が城へ攻め込んできた人族は一人残らず皆殺しにせよ!」

マナの言葉は言霊となり城に常駐している兵士達に伝わる。
 深夜の襲撃と言う事もあり就寝している兵士達を一斉に起こして戦わせようと考えたのだ。
しかし、マナに返ってきたのは兵士達の悲鳴であった。
 城内では確実に人族は反撃に遭い殺されているのだがそれと同じく兵士たちも次々と殺されていったのだ。
 通常なら魔法が使える魔人族と使えない人族の間には大きな力の差がある筈である。
にも関わらず数名に逆に殺される同胞の最後の叫びを聞いてマナは目を見開く。

 「その武器・・・呪いの武具か・・・」

 人族達の手にしているその武器を見てマナは悟ったのだ。
 人族は最後の反撃として命と引き換えに禁断の武具に手を出したのだ。
だがいくらその覚悟が在ったとしてもこれだけの禁断の武具を用意できると言うのは明らかな異常事態であった。

 「くっ寄るな!」

 近付く人族の男を魔力の圧力で触れる事無く攻撃し、その首の骨をへし折り絶命させる。
 部屋に残るのは3人の青年剣士だけであった。
 残りは全てマナの魔法で殺されてしまったのだ。

 「うぁああああああ!!!!」

 3人のうちの一人が飛び出しマナはその人間の胴体に魔法で大きな穴を開けて即死させる。
 続いて横に回りこんで襲い掛かってきた人物を地面から火柱が出現する魔法で焼き殺す。
 最後に残った青年も剣を構えて飛び出そうとした所を壁まで吹き飛ばし殺した。

そして、部屋に生き残っているのは自分一人になったのを見て、深い深呼吸をして考える。
この攻撃を乗り切れば人族に勝ち目は完全に無くなる。
ならば俺がやるべき事はココを死守する事だ。
マナは今後扉を通過してこの部屋に侵入した人族は例外無く殺すと心に近う。
そして、廊下から聞こえるこちらへ向かう足音に意識を集中させ魔力を練っていく・・・
部屋に入った瞬間に焼き殺すつもりなのだ。

 「我は、我々は負けない・・・負けるわけにはいかないのだ!」

そう口にして入り口に手を翳した時であった。
 魔王は唖然としていた。
 自分の胸から剣が生えていたのだ。
そして、喉から上がる血を口から吐き出し直ぐに腕に魔力をまとって払いながら振り返る。

 「ぐぇええ・・・・」

その腕に胴体を裂かれ上半身と下半身が分かれた青年が地面を転がる。
その人物に背後から刺された事を理解したマナは流れ出る血のせいで力を無くしその場に跪く。
 呼吸と共に口から溢れる血を見て自分がもう長くない事を悟った。
 背中から刺さっている剣が呪いの剣で今も自分の体内を破壊し続けているのを理解したのだ。
もし抜く事が出来れば魔法で傷を塞いだりも出来たかもしれないが刺された位置が悪かった。
マナは霞む視界を部屋の奥の扉に向けた。
するとそこにティナが立っていたのであった。

 「ティ・・・ナ・・・」

マナの言葉にティナはゆっくりと歩いて近付いてくる。
そして、マナは手を伸ばす。
ティナはその手を自らの頬に当てて微笑む。

 (あぁ・・・私は何て幸せ者なのだ・・・)

マナはもしもの時の為にティナにこの城からの脱出方法は伝えてあるのにも関わらずティナは逃げずにマナの元へ戻ってきたのだ。
それにマナは心底幸せを実感していた。

 「すまな・・・い・・・ティナ・・・・・・私はもう・・・・長くな・・・い・・・・・せめて・・・・君だけ・・・・で・・・・」

そこまで口にしたマナの口はティナの唇によって塞がれてしまった。
その行為にマナはゆっくりと目を瞑りティナを抱きしめる。

 (もしも死んだ後、生まれ変われるのなら我は必ず再びティナと巡り会ってやる)

マナはティナを抱きしめ部屋に入ってくる人間達の方へその無抵抗な背中を晒す。
そして、次々と突き立てられる武器の数々。
だがマナはティナを抱きしめて離さない・・・
 その目は既に見えておらず音も聞こえず体を次々に襲う衝撃だけが自分がまだ生きている事を知らせてくれていた。
 痛みも既に感じずマナはゆっくりと意識が闇の中へ沈んでいくのを感じながら最後の言葉を口にする・・・

「・・・・・・ティナ・・・」

 自らの体を貫く武具が抱きしめているティナに届いているのは確実であった。
だからこそマナは祈る・・・

来世でも・・・ティナと・・・また・・・








第1章 マナ   完
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