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クライアントは神様です!
謎の究極美女シェリー
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イーヴァルは目の前の肉料理を頬張りながら、フォークをソニンに向けた。
「ずいぶん早起きだね。大事なクエスト前はしっかり寝たほうがいいよ」
「あ……の……、なんでイーヴァルさんが、ここに?」
「あ、ちょっと待ってて」
イーヴァルはスープをごくごく飲んだ。
そのイーヴァルの隣にソニンが知らない女性が座っていた。
どこかの貴族令嬢だろうかと一瞬ソニンは思った。肌の露出が少ないスラリとした黒いワンピースを着ており、手には白いレースの手袋をしている。艶のある長い黒髪に、透き通るような白い肌。その顔はとても同じ人間とは思えないほどの美貌だった。
ただ、貴族令嬢だろうかという第一印象をソニンはすぐに否定した。イーヴァルと同じメニューをその女性もモリモリ食べていたからだ。
「これはたしかに美味しいのう」
頬をパンパンにしながら女性が言った。
「シェリー、スープも美味いぞ」
シェリーと呼ばれた女性はスープを皿ごと口に運んでごくごく飲んだ。
「美味いのう!」
呆気にとられるソニンに、シェリーはスプーンを向けた。
「おぬしも食べろ! 大事なクエストの前は食事も大事じゃ! あと食べたら感想も聞かせるのじゃ!」
「え、なん、で……、あ、はい」
気圧されながらソニンは二人の向かい側に座った。すぐに宿の料理当番らしき女が同じ料理を運んできた。
「たぶん美味しいよ!」
なぜか女は無責任なことを言って厨房に戻っていく。
「さあ、冷める前に食べちゃいな」
イーヴァルが料理の皿をずいとソニンに寄せた。
「食べたら感想じゃぞ」
正面から見るとますます美人のシェリーが、口の周りをソースだらけにしながら言った。
ソニンは頷くとナイフとフォークを手に取った。内心、料理の事はどうでもよくて、イーヴァルがここにいる理由が早く知りたかった。もしかしたら今日のクエストに行かなくてもいいのかもしれない。もしかしたらイーヴァルが交代してくれるのかもしれない。それを聞くためにも早く食べてしまおうと、ソニンは料理を掻き込んだ。
「ほほう、これは感想を聞くまでもなさそうじゃのう」
シェリーは満足そうに頷きながらナプキンで口を拭いている。
「よく噛まないとうまく消化吸収されないぞ」
イーヴァルは言いながら、ソニンの食べっぷりを気にもせず小さなメモ帳に何か書いていた。
「ごちそうさまです。あの、美味しかったです」
「そうじゃろう。うむ、これは良いかもしれんのう」
「そうだねえ」
シェリーとイーヴァルは意味ありげに言った。それからイーヴァルは書いていたものをポケットにしまうと、二人して立ち上がった。
「あ、二人とも、あの、どこへ……」
「ん? 用が済んだから帰るよ」
「は? ええっ!」
ソニンは頭の中が真っ白になった。そんなハズはない。いや、そんなハズとはどんなハズなのか。するとほんの数分だけ目を逸らしていた考えたくない現実が怒涛のように脳内に押し寄せてきた。
——クエスト、ドラゴン、卵、死——。
「うそうそ、冗談だって」
「いくらなんでもその冗談はワシでも引くのう」
ソニンの耳には二人の声が届いていなかった。急激に気持ちが悪くなり、今食べたものを体が拒否しはじめた。ソニンは口を抑えた。
「ほれ、おぬし、真っ青じゃないか。助けに来たんじゃよ。おぬしに死なれたら困るってヴァルちゃんが言うから」
シェリーは正気付けにソニンの頬を引っ叩いた。
「それと一度食べたものは出してはいかんぞ。飲み込むんじゃ」
ソニンは痛む頬を手で抑えて、二人を見上げた。
「……ヴァル、ちゃん?」
「そこはスルーでいいよ」イーヴァルは照れたように鼻を掻いた。「とにかく俺たちはソニンさんを助けにきた」
「ほんっ、本当ですか?」
「本当だよ。からかって悪かった。だけど俺たちがクエストに参加するのは"ドラゴンスレイヤーズ"に知られないようにしたい」
"ドラゴンスレイヤーズ"に向けた嘘のシナリオは事前に用意してあり、概要も"アトラス"側から既に伝達済みだった。
"アトラス"のメンバーは洞窟内に入っても、巣までは行かないことになっている。表向きは「数日前に調査で訪れて行方不明になったギルド員の捜索」だ。危険があれば捜索は打ち切ることになっている。"ドラゴンスレイヤーズ"に求めることはあくまで時間稼ぎなので、リスクはあるが高難度というわけでもなかった。
「"ドラゴンスレイヤーズ"は聞いたことがあるのう。ドラゴン退治に特化したギルドじゃったか」
「さすがシェリーは物知りだね。彼らには偽の任務に集中してもらいたいんだ。俺たちの姿を見られて余計な疑念を抱かれては困る」
「たしかに……そうです、ね」
ソニンとしては、できれば最初からイーヴァルに同行してもらいたかった。そうすれば他の"アトラス"メンバーの士気も高揚するだろう。しかし昨夜さんざん読んだクエスト票の内容がネックだった。
「卵の確保は秘密裏に行わなければならないからね」
イーヴァルの言葉に他の二人は頷いた。
「あの、その、ところでイーヴァルさん。こちらのシェリーさんという方は一体どういう……」
「ああ、話せば長くなる」
「長くなるのう」
「とりあえず強力な助っ人だから安心してよ」
「ドラゴンなんざワンパンじゃ」
「はあ……」
腕を組んで得意げなシェリーを見てソニンは何も安心できなかったが、イーヴァルにはきっと何か考えがあるに違いない。
「あ、それで、私は……どうすればいいのでしょうか」
「予定通り、クエスト票に従って動いてくれ」
「ワシらは先回りして洞窟で待っとるからのう」
「それからうちの子らにも俺たちのことは秘密にしておいてね」
「え……言っちゃ駄目なんですか?」
「うん、士気は上がるかもしれないけど心に油断が生じる。みんなには悪いけど、命を賭けてやってほしいんだ」
「はい……」
命を賭けて。そう言われてソニンは、イーヴァルが現れて少し浮かれていた自分に気がついた。
ソニンにとってイーヴァルは、伝説級の経験と実績をもつ頼れる大先輩だった。しかし今考えなくてはならないのはクエストを必ず成功させることだ。ほんのちょっとの油断がクエストの失敗を招く。卵の確保を、ドラゴンにも"ドラゴンスレイヤーズ"にも知られてはならない。そもそも確保自体に失敗する可能性もある。卵が割れたり、ドラゴンのブレスでゆで卵になるかもしれない。たとえイーヴァルがいても、ドラゴンを相手に誰かが命を落とす事だって充分にありえる。
ソニンは静かに立ち上がると、真っ直ぐにイーヴァルの目を見た。
「私も油断はしません。命を賭けて……、命を賭けて、生きて帰ります」
イーヴァルは嬉しそうに何度も小さく頷いた。
「じゃあみんなが起きてくる前にワシらは行こうかのう」
「そうだね。じゃあソニンさん、先に行って待ってるから早く来てね」
「は、はい! お二人も気をつけて」
「ようし、それじゃあ洞窟まで競争じゃあ」
突然シェリーがドタドタと外に駆け出していってしまった。見た目は本当に絶世の美女で貴族にしか見えないのに。
「あーっ! 負けねーし!」
イーヴァルも後を追って飛び出していく。
「なんなの本当に……」
急に静かになった食堂でソニンは空いた皿を見下ろした。
「おばちゃん! おかわり持ってきて!」
命を賭けて、生きて帰る。ソニンはもう一度自分に言い聞かせて椅子に座った。
「ずいぶん早起きだね。大事なクエスト前はしっかり寝たほうがいいよ」
「あ……の……、なんでイーヴァルさんが、ここに?」
「あ、ちょっと待ってて」
イーヴァルはスープをごくごく飲んだ。
そのイーヴァルの隣にソニンが知らない女性が座っていた。
どこかの貴族令嬢だろうかと一瞬ソニンは思った。肌の露出が少ないスラリとした黒いワンピースを着ており、手には白いレースの手袋をしている。艶のある長い黒髪に、透き通るような白い肌。その顔はとても同じ人間とは思えないほどの美貌だった。
ただ、貴族令嬢だろうかという第一印象をソニンはすぐに否定した。イーヴァルと同じメニューをその女性もモリモリ食べていたからだ。
「これはたしかに美味しいのう」
頬をパンパンにしながら女性が言った。
「シェリー、スープも美味いぞ」
シェリーと呼ばれた女性はスープを皿ごと口に運んでごくごく飲んだ。
「美味いのう!」
呆気にとられるソニンに、シェリーはスプーンを向けた。
「おぬしも食べろ! 大事なクエストの前は食事も大事じゃ! あと食べたら感想も聞かせるのじゃ!」
「え、なん、で……、あ、はい」
気圧されながらソニンは二人の向かい側に座った。すぐに宿の料理当番らしき女が同じ料理を運んできた。
「たぶん美味しいよ!」
なぜか女は無責任なことを言って厨房に戻っていく。
「さあ、冷める前に食べちゃいな」
イーヴァルが料理の皿をずいとソニンに寄せた。
「食べたら感想じゃぞ」
正面から見るとますます美人のシェリーが、口の周りをソースだらけにしながら言った。
ソニンは頷くとナイフとフォークを手に取った。内心、料理の事はどうでもよくて、イーヴァルがここにいる理由が早く知りたかった。もしかしたら今日のクエストに行かなくてもいいのかもしれない。もしかしたらイーヴァルが交代してくれるのかもしれない。それを聞くためにも早く食べてしまおうと、ソニンは料理を掻き込んだ。
「ほほう、これは感想を聞くまでもなさそうじゃのう」
シェリーは満足そうに頷きながらナプキンで口を拭いている。
「よく噛まないとうまく消化吸収されないぞ」
イーヴァルは言いながら、ソニンの食べっぷりを気にもせず小さなメモ帳に何か書いていた。
「ごちそうさまです。あの、美味しかったです」
「そうじゃろう。うむ、これは良いかもしれんのう」
「そうだねえ」
シェリーとイーヴァルは意味ありげに言った。それからイーヴァルは書いていたものをポケットにしまうと、二人して立ち上がった。
「あ、二人とも、あの、どこへ……」
「ん? 用が済んだから帰るよ」
「は? ええっ!」
ソニンは頭の中が真っ白になった。そんなハズはない。いや、そんなハズとはどんなハズなのか。するとほんの数分だけ目を逸らしていた考えたくない現実が怒涛のように脳内に押し寄せてきた。
——クエスト、ドラゴン、卵、死——。
「うそうそ、冗談だって」
「いくらなんでもその冗談はワシでも引くのう」
ソニンの耳には二人の声が届いていなかった。急激に気持ちが悪くなり、今食べたものを体が拒否しはじめた。ソニンは口を抑えた。
「ほれ、おぬし、真っ青じゃないか。助けに来たんじゃよ。おぬしに死なれたら困るってヴァルちゃんが言うから」
シェリーは正気付けにソニンの頬を引っ叩いた。
「それと一度食べたものは出してはいかんぞ。飲み込むんじゃ」
ソニンは痛む頬を手で抑えて、二人を見上げた。
「……ヴァル、ちゃん?」
「そこはスルーでいいよ」イーヴァルは照れたように鼻を掻いた。「とにかく俺たちはソニンさんを助けにきた」
「ほんっ、本当ですか?」
「本当だよ。からかって悪かった。だけど俺たちがクエストに参加するのは"ドラゴンスレイヤーズ"に知られないようにしたい」
"ドラゴンスレイヤーズ"に向けた嘘のシナリオは事前に用意してあり、概要も"アトラス"側から既に伝達済みだった。
"アトラス"のメンバーは洞窟内に入っても、巣までは行かないことになっている。表向きは「数日前に調査で訪れて行方不明になったギルド員の捜索」だ。危険があれば捜索は打ち切ることになっている。"ドラゴンスレイヤーズ"に求めることはあくまで時間稼ぎなので、リスクはあるが高難度というわけでもなかった。
「"ドラゴンスレイヤーズ"は聞いたことがあるのう。ドラゴン退治に特化したギルドじゃったか」
「さすがシェリーは物知りだね。彼らには偽の任務に集中してもらいたいんだ。俺たちの姿を見られて余計な疑念を抱かれては困る」
「たしかに……そうです、ね」
ソニンとしては、できれば最初からイーヴァルに同行してもらいたかった。そうすれば他の"アトラス"メンバーの士気も高揚するだろう。しかし昨夜さんざん読んだクエスト票の内容がネックだった。
「卵の確保は秘密裏に行わなければならないからね」
イーヴァルの言葉に他の二人は頷いた。
「あの、その、ところでイーヴァルさん。こちらのシェリーさんという方は一体どういう……」
「ああ、話せば長くなる」
「長くなるのう」
「とりあえず強力な助っ人だから安心してよ」
「ドラゴンなんざワンパンじゃ」
「はあ……」
腕を組んで得意げなシェリーを見てソニンは何も安心できなかったが、イーヴァルにはきっと何か考えがあるに違いない。
「あ、それで、私は……どうすればいいのでしょうか」
「予定通り、クエスト票に従って動いてくれ」
「ワシらは先回りして洞窟で待っとるからのう」
「それからうちの子らにも俺たちのことは秘密にしておいてね」
「え……言っちゃ駄目なんですか?」
「うん、士気は上がるかもしれないけど心に油断が生じる。みんなには悪いけど、命を賭けてやってほしいんだ」
「はい……」
命を賭けて。そう言われてソニンは、イーヴァルが現れて少し浮かれていた自分に気がついた。
ソニンにとってイーヴァルは、伝説級の経験と実績をもつ頼れる大先輩だった。しかし今考えなくてはならないのはクエストを必ず成功させることだ。ほんのちょっとの油断がクエストの失敗を招く。卵の確保を、ドラゴンにも"ドラゴンスレイヤーズ"にも知られてはならない。そもそも確保自体に失敗する可能性もある。卵が割れたり、ドラゴンのブレスでゆで卵になるかもしれない。たとえイーヴァルがいても、ドラゴンを相手に誰かが命を落とす事だって充分にありえる。
ソニンは静かに立ち上がると、真っ直ぐにイーヴァルの目を見た。
「私も油断はしません。命を賭けて……、命を賭けて、生きて帰ります」
イーヴァルは嬉しそうに何度も小さく頷いた。
「じゃあみんなが起きてくる前にワシらは行こうかのう」
「そうだね。じゃあソニンさん、先に行って待ってるから早く来てね」
「は、はい! お二人も気をつけて」
「ようし、それじゃあ洞窟まで競争じゃあ」
突然シェリーがドタドタと外に駆け出していってしまった。見た目は本当に絶世の美女で貴族にしか見えないのに。
「あーっ! 負けねーし!」
イーヴァルも後を追って飛び出していく。
「なんなの本当に……」
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