4 / 8
クライアントは神様です!
洞窟周辺で暇つぶし
しおりを挟む
ケイブ・ドラゴンが棲む洞窟までは、村から歩いて五時間ほどかかる。緩やかな傾斜が続く低山の中腹あたりに、岩肌が剥き出しになっている場所がある。そこに体長数メートルに及ぶケイブ・ドラゴンが悠々と出入りできるほどの大きな穴があった。
イーヴァルとシェリーは走って一時間ほどでその洞窟が見えるところまでやってきた。息はあまり切れていない。
「ふー、ワシの勝ちじゃな」
「いやいや、こんなゴールがないところで何言ってるのさ」
「ゴールはさっき通り過ぎた大きな木じゃろう。ワシが最初にタッチした」
「そんな木あった?」
「あったじゃろ。白い幹の木が」
「ないない、そんな木なかったよ」
「あったわ! 根本にキノコが生えてたやつ」
「そんな細かいとこまで覚えてるわけないって。絶対ウソだね」
「生えてたわ! 九本!」
軽く言い合いながらも、二人は無駄のない動きで慎重に木々の間を進んでいた。常に洞窟側から死角になりやすい位置を選んで移動していく。
「このあたりで少し待つか」
ある程度近づいたところでイーヴァルは地面に腰を下ろした。シェリーも服が汚れることなど気にもせず座った。
「けっこう待つのかのう」
「そんなに待たないと思うよ。そろそろ何体かが狩りに出ると思う。そしたら侵入しよう。ああ、その前に——」
イーヴァルはシェリーに指を向けると、空中に絵を描くように動かした。
「ほう、ワシに魔法かのう」
「うん。ニオイ消しの魔法。便利だよ、これ」
ケイブ・ドラゴンは嗅覚が特に発達している。二人は気配を消すことには長けているが、ニオイとなると魔法の力を使わない限りどうしようもなかった。
「これはトイレの後にも使えるのかのう」
「むしろトイレの後にこそ絶大な効果を発揮するよ」
「あとでワシに教えるのじゃ」
それから二人は洞窟の内部について確認をした。
「すでに事前調査は行われていてね。その報告書は数日前にギルドで読んでいたんだ」
イーヴァルは、ギルド本部にいる間は可能な限り全てのクエストをチェックするようにしていた。"アトラス"は命懸けのクエストが多いが、少しでも生存率を高めるためには情報収集が意外と効果的だった。
ギルド全体が抱えるクエスト、イーヴァルのクエスト、他のギルド員のクエスト、成功クエストの報告書、失敗クエストの報告書などなど。それら全てに目を通し、生き残るための方策を常に考える。
ニオイ消しの魔法もその過程で習得したものの一つだ。地味で素朴な魔法だが、生死を分けるのはいつだってこういうものだとイーヴァルは実感していた。
「ちょっと描こうかな」
イーヴァルは木の枝を使って地面に洞窟内部の図を描き始めた。
「下手くそな絵じゃのう」
「上手いも下手もあるかい」
事前調査によると、入り口から巣までの距離は数百メートルだという。中は広大で、横穴が緩いカーブを描きながら奥まで続いている。地面や壁面の凹凸は激しく、複雑な形状をしている。それらを遮蔽物にすれば比較的安全に奥まで進むことができるということだった。
「洞窟の中は暗いじゃろう」
「大丈夫、暗視の魔法がある」
「歩いたら足音が反響しそうじゃが」
「大丈夫、遮音の魔法がある」
「ヴァルちゃんは何でもできるのう」
「伊達に十五年も"アトラス"で生き延びてないよ」
イーヴァルはクエスト中に少しでも時間が空けば、それを様々なスキル習得のために費やした。
基本的に休みは取れない。だから長期クエストの時などは早めに終わらせて、余った日数で冒険者向けスキル講座に通ったりもしていた。もちろんギルドには、その間ずっとクエスト中だったと虚偽の報告をする。
最初のうちはしんどかった。しかし徐々に能力がアップすると好循環が生まれる。クエスト達成までの時間が早まり、スキル習得に費やせる時間が増え、その結果クエスト達成がさらに早まり……という具合だ。
ケイブ・ドラゴンが洞窟から現れるまで、二人はしりとりや石ころを使ったゲームをして時間を潰していた。
「あまり時間がかかるとソニンさんたちに追いつかれちゃうね」
全く不安そうでない様子でイーヴァルが不安を口にした。
「いや、ようやく動きがあるようじゃぞ」
シェリーが小声になった。
そのシェリーの様子にイーヴァルは警戒し、素早く茂みに身を隠す。シェリーも既に木の陰に隠れていた。
シェリーはケイブ・ドラゴン程度を恐れることなど絶対にない。普段なら「出てきたのう!」などと、むしろ抑えてほしいぐらいのボリュームで言いそうなものだ。そのシェリーが小声になったのだ。
「なるほど」イーヴァルは視認した。「ドラゴニュートがいるね」
イーヴァルとシェリーは走って一時間ほどでその洞窟が見えるところまでやってきた。息はあまり切れていない。
「ふー、ワシの勝ちじゃな」
「いやいや、こんなゴールがないところで何言ってるのさ」
「ゴールはさっき通り過ぎた大きな木じゃろう。ワシが最初にタッチした」
「そんな木あった?」
「あったじゃろ。白い幹の木が」
「ないない、そんな木なかったよ」
「あったわ! 根本にキノコが生えてたやつ」
「そんな細かいとこまで覚えてるわけないって。絶対ウソだね」
「生えてたわ! 九本!」
軽く言い合いながらも、二人は無駄のない動きで慎重に木々の間を進んでいた。常に洞窟側から死角になりやすい位置を選んで移動していく。
「このあたりで少し待つか」
ある程度近づいたところでイーヴァルは地面に腰を下ろした。シェリーも服が汚れることなど気にもせず座った。
「けっこう待つのかのう」
「そんなに待たないと思うよ。そろそろ何体かが狩りに出ると思う。そしたら侵入しよう。ああ、その前に——」
イーヴァルはシェリーに指を向けると、空中に絵を描くように動かした。
「ほう、ワシに魔法かのう」
「うん。ニオイ消しの魔法。便利だよ、これ」
ケイブ・ドラゴンは嗅覚が特に発達している。二人は気配を消すことには長けているが、ニオイとなると魔法の力を使わない限りどうしようもなかった。
「これはトイレの後にも使えるのかのう」
「むしろトイレの後にこそ絶大な効果を発揮するよ」
「あとでワシに教えるのじゃ」
それから二人は洞窟の内部について確認をした。
「すでに事前調査は行われていてね。その報告書は数日前にギルドで読んでいたんだ」
イーヴァルは、ギルド本部にいる間は可能な限り全てのクエストをチェックするようにしていた。"アトラス"は命懸けのクエストが多いが、少しでも生存率を高めるためには情報収集が意外と効果的だった。
ギルド全体が抱えるクエスト、イーヴァルのクエスト、他のギルド員のクエスト、成功クエストの報告書、失敗クエストの報告書などなど。それら全てに目を通し、生き残るための方策を常に考える。
ニオイ消しの魔法もその過程で習得したものの一つだ。地味で素朴な魔法だが、生死を分けるのはいつだってこういうものだとイーヴァルは実感していた。
「ちょっと描こうかな」
イーヴァルは木の枝を使って地面に洞窟内部の図を描き始めた。
「下手くそな絵じゃのう」
「上手いも下手もあるかい」
事前調査によると、入り口から巣までの距離は数百メートルだという。中は広大で、横穴が緩いカーブを描きながら奥まで続いている。地面や壁面の凹凸は激しく、複雑な形状をしている。それらを遮蔽物にすれば比較的安全に奥まで進むことができるということだった。
「洞窟の中は暗いじゃろう」
「大丈夫、暗視の魔法がある」
「歩いたら足音が反響しそうじゃが」
「大丈夫、遮音の魔法がある」
「ヴァルちゃんは何でもできるのう」
「伊達に十五年も"アトラス"で生き延びてないよ」
イーヴァルはクエスト中に少しでも時間が空けば、それを様々なスキル習得のために費やした。
基本的に休みは取れない。だから長期クエストの時などは早めに終わらせて、余った日数で冒険者向けスキル講座に通ったりもしていた。もちろんギルドには、その間ずっとクエスト中だったと虚偽の報告をする。
最初のうちはしんどかった。しかし徐々に能力がアップすると好循環が生まれる。クエスト達成までの時間が早まり、スキル習得に費やせる時間が増え、その結果クエスト達成がさらに早まり……という具合だ。
ケイブ・ドラゴンが洞窟から現れるまで、二人はしりとりや石ころを使ったゲームをして時間を潰していた。
「あまり時間がかかるとソニンさんたちに追いつかれちゃうね」
全く不安そうでない様子でイーヴァルが不安を口にした。
「いや、ようやく動きがあるようじゃぞ」
シェリーが小声になった。
そのシェリーの様子にイーヴァルは警戒し、素早く茂みに身を隠す。シェリーも既に木の陰に隠れていた。
シェリーはケイブ・ドラゴン程度を恐れることなど絶対にない。普段なら「出てきたのう!」などと、むしろ抑えてほしいぐらいのボリュームで言いそうなものだ。そのシェリーが小声になったのだ。
「なるほど」イーヴァルは視認した。「ドラゴニュートがいるね」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが
夏見ナイ
ファンタジー
過労死した俺が転生したのは、大好きな乙女ゲームの悪役貴族アレン。待つのはヒロインたちからの断罪と処刑エンド!?冗談じゃない!
絶対に生き延びて平穏な老後を送るため、俺はゲーム知識を総動員して破滅フラグ回避に奔走する。領地を改革し、民を救い、来るべき災厄に備えて血の滲むような努力を重ねた。
ただ死にたくない一心だったのに、その行動はなぜか周囲に「深謀遠慮の聖人」と勘違いされ、評価はうなぎ登り。
おまけに、俺を断罪するはずの聖女や王女、天才魔導師といったヒロインたちが「運命の人だわ!」「結婚してください!」と次々に迫ってきて……!?
これは、破滅を回避したいだけの悪役貴族が、いつの間にか国を救う英雄に祭り上げられ、ヒロインたちに溺愛される勘違い救国ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる