ブラックギルド勤めの俺がホワイトギルドに転職無双!?

番 印矢

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クライアントは神様です!

卵を狙え!!

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「やっと戻ってきたようじゃ」

 なかなかソニンは戻ってこなかった。他のメンバーと揉めていたのだろう。

 そろそろ様子を見に行った方がいいかと悩み始めた頃に、ようやく半べそをかきながらソニンが戻ってきた。

「なんとか説得できたみたいだね」

「……みんなに……、クエストが終わったら、一発殴らせろって言われました。私、女の子なのに……」

「ははは。彼らには生きて帰る目的ができたようだね」

「良かったのう」

「……」

 ソニンはもう言い返す気も起きなかった。涙が枯れそうだった。

 イーヴァルがソニンの頭の上に手を置いた。撫でているわけではない。そのまま頭を掴むようにして、洞窟の奥を向かせた。

「本番はこれからだよ。気を強く持って。悲しむ余裕も恐れる余裕もない。死物狂いでやらないと、君も、他のみんなも焼け死ぬことになる」

 ソニンは歯を食いしばって頷いた。そもそも自分がこんな状態になっているのはイーヴァルのせいだと思っていたが、とてもそんな事が言えるような状況ではなかった。

「集中するんだ。どんなクエストだろうと必ず成功させる。心のどこかで無理だと思っていると、無駄なミスを招くよ」

「はい……」

 ソニンの喉はカラカラだった。今朝から状況がめまぐるしく変わりすぎて、冷静な判断ができそうになかった。何が正しいのかも分からない。今はただ、指示された事を無心で実行するしかなかった。

 失敗すれば死ぬ。集中しなければ。

 ソニンは何度もチェックしたクエスト票の内容を思い出した。

「……やります」

「おお、いよいよ始まるのじゃな」

 シェリーが、まだかまだかと待っている。

 ソニンは運んできた荷物から折りたたみ式のロングボウを出した。ごしごしと手の甲で涙を拭って、ロングボウの組み立てを始める。

「なんじゃ、今はこんなのが売っとるのか」

「弓を使えなくても、なんか欲しくなっちゃうよね」

 シェリーとイーヴァルが呑気にその作業を眺めている。

 ロングボウを組み立てているうちに、ソニンは冷静さを取り戻してきた。次に矢を用意する。ギルドから支給された爆破魔法が仕込まれた矢だった。矢の先端は筒状になっていて、そこから紐が出ている。ソニンが紐を引き抜いた。これで爆破魔法が発動できるようになる。

 イーヴァルがまじまじとその矢を覗き込む。

「これがケイブ・ドラゴン挑発用の矢か。予備はあるの?」

「ありません……。予算の都合上、一発勝負です」

 クエスト票には、この矢の重さや空気抵抗を計算に入れた飛距離の目安が細かく記載されていた。

 このクエストに限らず、アーチャーの任務は敵を射つ以外にも多種多様だ。ソニンは普段から、あらゆる条件を想定した飛距離調整の訓練を行っている。今回支給された矢も、訓練通りに扱えば問題ないものだった。

 ソニンは自分の手の平を見た。細かく震えている。この精神状態を想定した訓練もずっと昔から繰り返していた。だが、いざ命を懸けた実践となると臆病になる。

 ソニンは三度、深呼吸した。外には"ドラゴンスレイヤーズ"が待機している。もう時間がなかった。

 イーヴァルとシェリーは静かに見守っていた。ソニンの気が散らないよう、視界から外れる。

 ソニンが荷物から親指大の玉を二つ取り出した。一つは発光の魔法、もう一つは超暗視の魔法を発動する玉だった。

 玉は、膜に覆われた液体のようにプニプニしている。この玉を握り潰すと魔法が発動するのだ。

 ソニンは作戦の概要を頭の中で反芻はんすうした。



 最初に発光の魔法で前方にいる仲間に合図を送る。作戦開始の合図だ。これはケイブ・ドラゴンの気を引く効果も期待している。

 次に超暗視の魔法を発動する。これで十秒ほど、洞窟内が真昼のように明るく見える。明るく見えているうちに、ケイブ・ドラゴンに向けて爆破魔法の矢を射つ。

 ケイブ・ドラゴンに矢が命中するのと同時に、前方の仲間が洞窟の壁に爆破魔法で穴を開ける。ソニンが射つ矢には、挑発の他に目眩ましの意味もある。

 ケイブ・ドラゴンがうまく挑発に乗れば、矢を放ったソニンめがけて突進してくる。その隙に前方の仲間が卵を確保。洞窟に開いた穴から卵を運び出す。ソニンはその間、時間稼ぎをする。

 洞窟の外には既に別働隊が待機しており、卵の受け渡しを行う。

 ケイブ・ドラゴンは挑発された程度ならば、すぐに落ち着きを取り戻す。その頃合いを見て、全員洞窟から脱出する。

 怪我人や死者が出た場合は、ケイブ・ドラゴンに見つかったと"ドラゴンスレイヤーズ"に伝え、撤退する。



 予算、時間、人員。その他諸々の要因でなんとも粗い作戦だった。不安要素はいくつもある。

 一番は当然、ソニン一人で時間稼ぎができるわけがないということだ。他のメンバーが可能な限りソニンの補助をすると言ってくれていたが、ケイブ・ドラゴンに見つかってはいけない条件下では、あまり期待できなかった。

 それに、先程ソニンが奥まで行ったとき、巣にいる六体のケイブ・ドラゴンを確認した。爆破魔法程度で、その六体全てが挑発に乗るのだろうか。

 だが今は、ソニンの後ろにイーヴァルがいる。イーヴァルが大丈夫だと言ってくれた。

 ソニンは発光魔法の玉を握ってから、振り返ってイーヴァルを見た。

「こ、このまま始めて大丈夫ですか?」

 イーヴァルは腕組みをして考え事をしているようだった。

「あの……」

 イーヴァルを信じたいが、これから何をどう助けてくれるのか全く聞かされていない。今朝のイーヴァルからは、クエスト票に従ってやるように言われた。だが本当にこのまま始めていいのか。ソニンは決心が揺らいでしまった。

 イーヴァルが口を開く。

「うん、クエスト票に書かれている通りにやってほしいんだけど……、その矢で狙うのはあの緑の卵にしよう」

「はい!?」

 今度は何を言い出すのか。ソニンは頭に血が上るのを感じた。これから確保する緑の卵を、今度は爆破しろというのか。現場でこんなコロコロと指示を変えられたら、命なんていくつあっても足りない。

「なにを……!!」

 気が動転して、ソニンの手に力が入った。何かが潰れる感触がする。そして握り拳が眩い光を発した。

「あっ、あっ……!」

「眩しいのう!」

 作戦が始まった。
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