ブラックギルド勤めの俺がホワイトギルドに転職無双!?

番 印矢

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クライアントは神様です!

決死の作戦変更

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 イーヴァルとシェリーは後退することにした。

 物語などによくある「うっかり小枝を踏み割って敵に気づかれる」行為には細心の注意を払った。万が一そうなったとしても、二人なら強引に卵の確保はできるかもしれない。だが「秘密裏に」という部分は叶えられそうにない。

「そろそろ"ドラゴンスレイヤーズ"たちが外で待機している頃だよね」

 ケイブ・ドラゴンの巣からしっかり離れたことを確認して、イーヴァルはようやく小さな声を出せた。

 もし今ここで大騒ぎが起これば"ドラゴンスレイヤーズ"は躊躇せず突入してくるだろう。そして卵を抱えるイーヴァルたちを見つけて、現場はさらに修羅場と化す。

「ということは、もうすぐソニンちゃんたちが合流するということじゃのう」

 シェリーはウキウキしていた。これからケイブ・ドラゴンを相手に派手な立ち回りが始まるのだ。メインで動くのは"アトラス"の他のメンバーだが、ソニンが命を落とさぬよう補助をするには、それなりの手助けが必要だった。

「ソニンさん以外に会わないよう、一旦隠れようか」

 もしもイーヴァルの姿を"アトラス"のメンバーが見つけたら、緊張が解けてしまうだろう。クエストで大切なのは成功のイメージと失敗のイメージだ。それらをどれだけ多く具体的に持てるかで結果が大きく変わる。そのイメージがイーヴァルの存在で乱れてしまうのは非常に危険なことだった。

 できればソニンに会うこともイーヴァルは避けたかったが、あの時間にソニンが起きてくるとは思っていなかったのだ。



 身を隠して少し経つと、入口の方から複数人の気配が近づいてきた。イーヴァルは、飛び出そうとするシェリーの頭を押さえつけた。

 近づいてきた人影は間違いなく"アトラス"の面々だった。ヒソヒソと一箇所にかたまって、何やら作戦を練っているようだ。

 一人が魔法の杖を振りかざした。すると洞窟内の空気がすっと重くなったような感覚があった。

「何をしたんじゃ?」

 シェリーが小さく聞いた。

「高度な遮音魔法だね。これから洞窟内で発生する音は入り口の方まで伝わらないよ」

「ほーう、すごいのう。めちゃくちゃ大きな音でも大丈夫なのかのう」

「ケイブ・ドラゴンの咆哮でも大丈夫だよ」

 "アトラス"のメンバーはその後も話し合いをしていた。最後の作戦の確認だろうと思われた。それから一人を残して全員が奥に向かって注意深く進みだした。

「あ、残ったのがソニンちゃんじゃのう」

「間違いないね。俺たちを探してる」

「なんであんな場所に残されとるんじゃ」

「そりゃあ、あそこがソニンさんの死に場所だからだよ」

 イーヴァルは人とドラゴンの気配がないのを確認して、音を立てずにソニンの場所まで移動した。シェリーもぴったりと後ろについてきていた。

「ひっ……むぐっ」

 二人の気配に気づかなかったソニンが、闇から現れたイーヴァルを見て悲鳴を上げかけた。しかしそれを想定していたイーヴァルがすぐさま口を手で塞ぐ。

「さっそくだけど、作戦変更だよ」

 ソニンはぎょろぎょろと目だけを動かして状況を理解したようだった。鼻息荒く頷いている。

 イーヴァルは手を離した。

「この奥の巣に卵が複数ある。その中に一つだけ緑の卵があるんだ。我々が確保するのはその緑の卵だ。他の色じゃない。いいかい、それを奥に行ったみんなに伝えてきてほしいんだ」

「え……、そんな突然……。卵を選ぶ余裕なんて……」

「行くんだ」

 圧。

「行くのじゃ」

 便乗の圧。

「そ、それにクエスト票にはそんな情報なかったですし……。いきなり言われたって、他のみんなは絶対に納得しませんよ」

 イーヴァルは考えた。一秒ほど。

「ソニンさんは村に遅れて到着しただろう? その理由はこうだ。『緑の卵を確保するよう、緊急のクエスト修正を受けていたから』だ」

「さすがじゃな、ヴァルちゃん」

 イーヴァルが強く頷いた。

「い、いえいえ! 無理ですって!」

「しっ、声が大きいよ」

「あ、すみま……、あ、いや、無理ですって。そんな重要な情報をこんなタイミングでみんなに伝えるっておかしいじゃないですか」

「言うの忘れてたって言いなさい」

「そんな……、みんなの命が懸かってるんですよ」

「こういうところがブラックなんじゃろうなあ」

 「どの卵でもいいから確保する」というのと「沢山ある中に一個だけ存在する緑の卵を確保する」だと、難易度は雲泥の差だ。しかし——。

「クライアントは確実に緑の方が喜ぶよ」

 ソニンの顔が引きつった。

「クライアントの満足度向上は大事だよ。クエストのリピートにも繋がるし」

 ソニンは口をぱくぱくさせながら首を振っていた。

「時間がないぞ。行くんじゃ」

 狼狽するソニンの背中をシェリーが優しく押した。

 ソニンの中で唐突に、本当に生き残れるのだろうかという不安が頭をもたげてきた。この暗い洞窟が、今立っているここが、死に場所になるかもしれない。いや、自分だけではない。洞窟内にいる全員が危険に晒される。

「し、信じて、いいんですよね……?」

「大丈夫。俺とシェリーで必ず成功させる」

 成功とは何を意味するのだろうか。ソニンには分からなくなってしまった。ただ分かるのは、これからソニンが伝える内容で、みんなが絶望の淵に立たされるということだった。そんな事はしたくなかった。だけど、もう後には引けない。イーヴァルを信じるしかないのだ。

「……わ……、ゔぁがりまじだぁ」

 どっと涙と鼻水が吹き出て、ソニンの顔がぐちゃぐちゃになった。そのまま泣きじゃくりながら奥に向かって走りだす。

「ちょっとちょっと。静かにね」

 イーヴァルは慌てて遮音の魔法をソニンにかけた。
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