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最終顧客は神様です
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「人類は、もはや救いようがない」
神様はそう言って、地球の電源ボタンに手をかけた。その日、私はちょうどスーパーの特売で半額になった卵を手にしていた。これで夕飯は豪華なオムライスだ、なんて考えていた矢先の出来事だった。まあ、電源ボタンを押す前に、もう少し待ってくれても良かったんじゃないか? 卵、割れちゃうじゃないか。
私の名前は鈴木。しがない広告代理店の営業マンだ。しがないと言っても、一応そこそこの会社ではある。ただ、最近のクライアントが妙なのだ。
数ヶ月前、突如として舞い込んできた「創造主代理」という会社からの案件。最初は宗教団体か何かのふざけた新興企業かと思った。担当者もやたらと威圧的で、名刺には**「宇宙統括事業部 地球担当課 創造主代理補佐 大天使ガブリエル」**と書いてある。冗談だろ、と思ったが、提示された契約金はとんでもない額だった。
「我々は、地球というプロジェクトの最終監査に入っている。君たちの仕事は、この星の『存続価値』を示す広告を制作することだ」
大天使ガブリエルは、そう淡々と言った。地球の存続価値?何を言ってるんだこの暑苦しい男は。最初は意味が分からなかったが、話を聞くうちに背筋が凍りついた。彼らは本当に、地球を「プロジェクト」と呼び、その継続か終了かを検討しているのだ。
「ターゲットは、もちろん神様です。最終顧客は全知全能の創造主。最高のクリエイティブで、地球の素晴らしさをアピールしていただきたい」
我々は困惑した。神様相手にどうやってプレゼンしろと? とりあえず、会議室でブレーンストーミングを始めた。
「地球の自然の美しさとかどうでしょう? 夕焼けとか、桜とか」
「いや、それでは神様も退屈するだろう。もっとこう、人間の叡智とか、文明の発展とか!」
「でも最近、戦争とか環境問題とか、ネガティブなニュースばかりですよね……」
アイデアは出尽くし、我々は途方に暮れた。そんな時、同期の佐藤が突然叫んだ。
「そうだ! 猫だ! 猫を出すんだ!」
全員が佐藤に注目した。
「猫ですよ! あんなに可愛い生き物、他にいますか!? 気まぐれで、ツンデレで、ゴロゴロ喉を鳴らす! 神様だって猫には勝てないはずだ!」
そのアイデアは、バカバカしいと同時に、なぜか説得力があった。
結局、我々は**「地球は猫が住むには最高の惑星である」というコンセプトで広告を制作することにした。
動画には、日向ぼっこをする猫、段ボールに入る猫、飼い主に甘える猫、時にツンと澄ましている猫など、ありとあらゆる猫の魅力を詰め込んだ。キャッチコピーは「我々は、猫を愛する星です。」**
最後には、様々な人種の人々が猫を抱きしめる笑顔のモンタージュ。そこに、深々と頭を下げる大天使ガブリエルの姿を合成した。
完成した広告は、大天使ガブリエルに納品された。彼は静かにモニターを見つめ、動画が終わると、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「……悪くない」
彼の口から、初めて感情のこもった言葉が出た。
「これなら、神様も……いや、あのお方も、少しは考えてくださるかもしれない」
我々は安堵した。これで地球は救われたのだ。
そう思った矢先だった。
数日後、神様が地球の電源ボタンに手をかけたというニュースが、世界中に一斉に流れた。
私は半額の卵を落としそうになりながら、テレビのニュースを見た。
「地球の存続は、最終審判の結果、見送られることになりました」
アナウンサーが淡々と読み上げる。続けて、神様からのメッセージが流れた。
『あの猫の広告は、非常に可愛らしかった。大変癒された。感謝する。
しかし、あの後、ふと気付いたのだ。
なぜ猫は、私に媚びず、あんなにも堂々としているのか?
それは、彼らが人間という便利な下僕を手に入れたからではないか?
なるほど。猫は完璧な生態系を築いた。
だが、人間は、彼ら自身の欲望と愚かさによって、地球を汚し続けている。
もはや、そのサイクルは断ち切るべきだと判断した。
君たちの存在は、猫の至高の存在感を霞ませる。
よって、プロジェクト『地球』は、これにて終了とする。
――ただし、猫は別枠で、今後も私が可愛がることを約束する。』
神様からのメッセージは、まさかの「猫」が原因で地球滅亡、というブラックすぎるオチだった。
私は手元の卵を見つめた。
くそ、この卵は、もう割ることもできないのか。
地球が消滅する直前、世界中の猫が一斉に宙に浮き上がっていくのが見えた。
神様はそう言って、地球の電源ボタンに手をかけた。その日、私はちょうどスーパーの特売で半額になった卵を手にしていた。これで夕飯は豪華なオムライスだ、なんて考えていた矢先の出来事だった。まあ、電源ボタンを押す前に、もう少し待ってくれても良かったんじゃないか? 卵、割れちゃうじゃないか。
私の名前は鈴木。しがない広告代理店の営業マンだ。しがないと言っても、一応そこそこの会社ではある。ただ、最近のクライアントが妙なのだ。
数ヶ月前、突如として舞い込んできた「創造主代理」という会社からの案件。最初は宗教団体か何かのふざけた新興企業かと思った。担当者もやたらと威圧的で、名刺には**「宇宙統括事業部 地球担当課 創造主代理補佐 大天使ガブリエル」**と書いてある。冗談だろ、と思ったが、提示された契約金はとんでもない額だった。
「我々は、地球というプロジェクトの最終監査に入っている。君たちの仕事は、この星の『存続価値』を示す広告を制作することだ」
大天使ガブリエルは、そう淡々と言った。地球の存続価値?何を言ってるんだこの暑苦しい男は。最初は意味が分からなかったが、話を聞くうちに背筋が凍りついた。彼らは本当に、地球を「プロジェクト」と呼び、その継続か終了かを検討しているのだ。
「ターゲットは、もちろん神様です。最終顧客は全知全能の創造主。最高のクリエイティブで、地球の素晴らしさをアピールしていただきたい」
我々は困惑した。神様相手にどうやってプレゼンしろと? とりあえず、会議室でブレーンストーミングを始めた。
「地球の自然の美しさとかどうでしょう? 夕焼けとか、桜とか」
「いや、それでは神様も退屈するだろう。もっとこう、人間の叡智とか、文明の発展とか!」
「でも最近、戦争とか環境問題とか、ネガティブなニュースばかりですよね……」
アイデアは出尽くし、我々は途方に暮れた。そんな時、同期の佐藤が突然叫んだ。
「そうだ! 猫だ! 猫を出すんだ!」
全員が佐藤に注目した。
「猫ですよ! あんなに可愛い生き物、他にいますか!? 気まぐれで、ツンデレで、ゴロゴロ喉を鳴らす! 神様だって猫には勝てないはずだ!」
そのアイデアは、バカバカしいと同時に、なぜか説得力があった。
結局、我々は**「地球は猫が住むには最高の惑星である」というコンセプトで広告を制作することにした。
動画には、日向ぼっこをする猫、段ボールに入る猫、飼い主に甘える猫、時にツンと澄ましている猫など、ありとあらゆる猫の魅力を詰め込んだ。キャッチコピーは「我々は、猫を愛する星です。」**
最後には、様々な人種の人々が猫を抱きしめる笑顔のモンタージュ。そこに、深々と頭を下げる大天使ガブリエルの姿を合成した。
完成した広告は、大天使ガブリエルに納品された。彼は静かにモニターを見つめ、動画が終わると、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「……悪くない」
彼の口から、初めて感情のこもった言葉が出た。
「これなら、神様も……いや、あのお方も、少しは考えてくださるかもしれない」
我々は安堵した。これで地球は救われたのだ。
そう思った矢先だった。
数日後、神様が地球の電源ボタンに手をかけたというニュースが、世界中に一斉に流れた。
私は半額の卵を落としそうになりながら、テレビのニュースを見た。
「地球の存続は、最終審判の結果、見送られることになりました」
アナウンサーが淡々と読み上げる。続けて、神様からのメッセージが流れた。
『あの猫の広告は、非常に可愛らしかった。大変癒された。感謝する。
しかし、あの後、ふと気付いたのだ。
なぜ猫は、私に媚びず、あんなにも堂々としているのか?
それは、彼らが人間という便利な下僕を手に入れたからではないか?
なるほど。猫は完璧な生態系を築いた。
だが、人間は、彼ら自身の欲望と愚かさによって、地球を汚し続けている。
もはや、そのサイクルは断ち切るべきだと判断した。
君たちの存在は、猫の至高の存在感を霞ませる。
よって、プロジェクト『地球』は、これにて終了とする。
――ただし、猫は別枠で、今後も私が可愛がることを約束する。』
神様からのメッセージは、まさかの「猫」が原因で地球滅亡、というブラックすぎるオチだった。
私は手元の卵を見つめた。
くそ、この卵は、もう割ることもできないのか。
地球が消滅する直前、世界中の猫が一斉に宙に浮き上がっていくのが見えた。
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