ブラックボックス ~開けるな危険、だが手は伸びる~

鮭茶漬け

文字の大きさ
3 / 9

最終顧客は神様です

しおりを挟む
「人類は、もはや救いようがない」

神様はそう言って、地球の電源ボタンに手をかけた。その日、私はちょうどスーパーの特売で半額になった卵を手にしていた。これで夕飯は豪華なオムライスだ、なんて考えていた矢先の出来事だった。まあ、電源ボタンを押す前に、もう少し待ってくれても良かったんじゃないか? 卵、割れちゃうじゃないか。

私の名前は鈴木。しがない広告代理店の営業マンだ。しがないと言っても、一応そこそこの会社ではある。ただ、最近のクライアントが妙なのだ。

数ヶ月前、突如として舞い込んできた「創造主代理」という会社からの案件。最初は宗教団体か何かのふざけた新興企業かと思った。担当者もやたらと威圧的で、名刺には**「宇宙統括事業部 地球担当課 創造主代理補佐 大天使ガブリエル」**と書いてある。冗談だろ、と思ったが、提示された契約金はとんでもない額だった。

「我々は、地球というプロジェクトの最終監査に入っている。君たちの仕事は、この星の『存続価値』を示す広告を制作することだ」

大天使ガブリエルは、そう淡々と言った。地球の存続価値?何を言ってるんだこの暑苦しい男は。最初は意味が分からなかったが、話を聞くうちに背筋が凍りついた。彼らは本当に、地球を「プロジェクト」と呼び、その継続か終了かを検討しているのだ。

「ターゲットは、もちろん神様です。最終顧客は全知全能の創造主。最高のクリエイティブで、地球の素晴らしさをアピールしていただきたい」

我々は困惑した。神様相手にどうやってプレゼンしろと? とりあえず、会議室でブレーンストーミングを始めた。
「地球の自然の美しさとかどうでしょう? 夕焼けとか、桜とか」
「いや、それでは神様も退屈するだろう。もっとこう、人間の叡智とか、文明の発展とか!」
「でも最近、戦争とか環境問題とか、ネガティブなニュースばかりですよね……」

アイデアは出尽くし、我々は途方に暮れた。そんな時、同期の佐藤が突然叫んだ。
「そうだ! 猫だ! 猫を出すんだ!」
全員が佐藤に注目した。
「猫ですよ! あんなに可愛い生き物、他にいますか!? 気まぐれで、ツンデレで、ゴロゴロ喉を鳴らす! 神様だって猫には勝てないはずだ!」

そのアイデアは、バカバカしいと同時に、なぜか説得力があった。
結局、我々は**「地球は猫が住むには最高の惑星である」というコンセプトで広告を制作することにした。
動画には、日向ぼっこをする猫、段ボールに入る猫、飼い主に甘える猫、時にツンと澄ましている猫など、ありとあらゆる猫の魅力を詰め込んだ。キャッチコピーは「我々は、猫を愛する星です。」**
最後には、様々な人種の人々が猫を抱きしめる笑顔のモンタージュ。そこに、深々と頭を下げる大天使ガブリエルの姿を合成した。

完成した広告は、大天使ガブリエルに納品された。彼は静かにモニターを見つめ、動画が終わると、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「……悪くない」
彼の口から、初めて感情のこもった言葉が出た。
「これなら、神様も……いや、あのお方も、少しは考えてくださるかもしれない」

我々は安堵した。これで地球は救われたのだ。
そう思った矢先だった。

数日後、神様が地球の電源ボタンに手をかけたというニュースが、世界中に一斉に流れた。
私は半額の卵を落としそうになりながら、テレビのニュースを見た。
「地球の存続は、最終審判の結果、見送られることになりました」
アナウンサーが淡々と読み上げる。続けて、神様からのメッセージが流れた。

『あの猫の広告は、非常に可愛らしかった。大変癒された。感謝する。
しかし、あの後、ふと気付いたのだ。
なぜ猫は、私に媚びず、あんなにも堂々としているのか?
それは、彼らが人間という便利な下僕を手に入れたからではないか?
なるほど。猫は完璧な生態系を築いた。
だが、人間は、彼ら自身の欲望と愚かさによって、地球を汚し続けている。
もはや、そのサイクルは断ち切るべきだと判断した。
君たちの存在は、猫の至高の存在感を霞ませる。
よって、プロジェクト『地球』は、これにて終了とする。
――ただし、猫は別枠で、今後も私が可愛がることを約束する。』

神様からのメッセージは、まさかの「猫」が原因で地球滅亡、というブラックすぎるオチだった。
私は手元の卵を見つめた。
くそ、この卵は、もう割ることもできないのか。
地球が消滅する直前、世界中の猫が一斉に宙に浮き上がっていくのが見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...