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夢の始まり4
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久志の家の土地はかなり広い。
たしか、家だけでも150坪もある。
家屋の前後に広がる庭を入れたら1000坪を超す。と昔久志が言っていた。
家屋自体は地下1階屋上付きの2階建て。和洋折衷の趣味の良い造りだ。
久志の親父さんが建設会社の社長で、元設計士。
喜美恵さんとの婚約を期に家の設計を手掛けて結婚するタイミングに建てたのだそうだ。
外へ出た久志と俺は、気持ちの良い夜風が吹く中広い庭を横切りながら門へ向かった。
「さっきまで夕立が降っていたんだ」
濡れている庭木や芝で服を濡らさない様に気を付けて。と言いながらゆっくりと庭石の上を歩いていく久志の後ろ姿は満月に照らされている所為なのか何処と無く色香が漂っている様に見える。
「……そっか、だから風が気持ち良いんだな」
俺は意味不明の強い鼓動を己の中に感じつつ、そっと久志から視線を反らす。
大通りから離れている為、夜になれば車通りが殆んど無い静かな住宅地を他愛もない事を喋りながら30分程歩けば我が家に着く。
しかし、今夜は何故かその30分がいやに長く感じる。
並んで歩いている久志と話をしている際に何度も目線が合う所為からなのか、それとも吸わされた睡眠薬の副作用でも起きているのか変に気持ちが高ぶり鼓動を強く感じて息が苦しい様な気がしてくる。
「どうかしたのか?」
ちょうど俺の家に着き、鍵を開けて2人共玄関に入り後ろ手でドアを閉めた久志は、少し眉根を寄せつつ俺を見つめる。
「な、……何でも無い」
見慣れているはずの久志に見つめられ、何故か顔に熱が集まる様な感覚になり俺は慌てて顔を反らしリビングへ向かう。
「良かった、有った」
リビングには、今回行くはずだった旅行用に荷造りをしておいた自分用のスーツケースが置いてあった。
もしかして帰宅が遅い俺の代わりにスーツケースだけ先に空港へ持って行ってしまったのでは?と心配したが、杞憂だった様だ。
『しかし、何で親父達から全然連絡が無いんだ?』
ふと、自分のスマホを見て着信もSNSも入っていない事に気付く。
「あぁ、心配するな。彰信さん達からなら了承を得ている」
後ろにいた久志は俺の行動から考えている事を察したのか、主語もなく呟く。
「……だと思った」
勝手に鍵は持っているし(よく見ればそれは母の鍵)スーツケースの隣には『喜美恵ちゃんにヨロシクね❤』なんて母の自筆のメモ紙付きの紙袋もあった。
親父達が親友同士の様に母親達も親友同士。
そもそも、久志の両親は今時珍しい許嫁同士からの結婚。
そして、学年は違えど同じ学校の出身。
まあ、ぶっちゃけちゃえば俺等が通う学園の卒業生達だ。
俺の親父は高等科から学園に入り久志の親父さんと知り合い、母親同士も俺の母が留学生として高等科に編入してきてからの付き合いなのだそうだ。
親達は互いが親友同士だったし、喜美恵さんと久志の親父さんは許嫁として会う機会が多かったからか4人で行動する事が多くなり、まるで決まっていた事の様に俺の両親も互いに引かれ合い、付き合い出して結婚をしたらしい。
「運命の赤い糸ってあるのよ❤」と母は乙女の様に頬を染めながら親父と見つめ合いそう話していた事を思い出す。
「……彰、目が死んでるぞ」
その後の両親のいちゃこらもついでに思い出してしまい、思わず遠くを見つめてしまっていた俺に久志が声をかける。
「悪い。要らん事まで思い出していた。……あぁ。そうだ、中身を入れ替えないとな」
夏とは言え、緯度が北海道と同じカナダの夜間はかなり冷えるのでスーツケースの中には長袖の服ばかりを入れている。
「ちょっとそこら辺に座って待っていてくれ」
そう言いながら、俺はスーツケースを持って2階の自室に向かう。
「あぁ、俺が持つよ」
ところが、サッと久志がスーツケースを持ち階段を上がり出す。
「は?何でお前が持つんだよ?」
……さっき玄関に入る時もドアを開けて俺を先に入れたしレディファースト?もしくはフェミニストって奴か!?
いや、待て。そもそも俺女じゃないし。
……一体、何なんだ???
たしか、家だけでも150坪もある。
家屋の前後に広がる庭を入れたら1000坪を超す。と昔久志が言っていた。
家屋自体は地下1階屋上付きの2階建て。和洋折衷の趣味の良い造りだ。
久志の親父さんが建設会社の社長で、元設計士。
喜美恵さんとの婚約を期に家の設計を手掛けて結婚するタイミングに建てたのだそうだ。
外へ出た久志と俺は、気持ちの良い夜風が吹く中広い庭を横切りながら門へ向かった。
「さっきまで夕立が降っていたんだ」
濡れている庭木や芝で服を濡らさない様に気を付けて。と言いながらゆっくりと庭石の上を歩いていく久志の後ろ姿は満月に照らされている所為なのか何処と無く色香が漂っている様に見える。
「……そっか、だから風が気持ち良いんだな」
俺は意味不明の強い鼓動を己の中に感じつつ、そっと久志から視線を反らす。
大通りから離れている為、夜になれば車通りが殆んど無い静かな住宅地を他愛もない事を喋りながら30分程歩けば我が家に着く。
しかし、今夜は何故かその30分がいやに長く感じる。
並んで歩いている久志と話をしている際に何度も目線が合う所為からなのか、それとも吸わされた睡眠薬の副作用でも起きているのか変に気持ちが高ぶり鼓動を強く感じて息が苦しい様な気がしてくる。
「どうかしたのか?」
ちょうど俺の家に着き、鍵を開けて2人共玄関に入り後ろ手でドアを閉めた久志は、少し眉根を寄せつつ俺を見つめる。
「な、……何でも無い」
見慣れているはずの久志に見つめられ、何故か顔に熱が集まる様な感覚になり俺は慌てて顔を反らしリビングへ向かう。
「良かった、有った」
リビングには、今回行くはずだった旅行用に荷造りをしておいた自分用のスーツケースが置いてあった。
もしかして帰宅が遅い俺の代わりにスーツケースだけ先に空港へ持って行ってしまったのでは?と心配したが、杞憂だった様だ。
『しかし、何で親父達から全然連絡が無いんだ?』
ふと、自分のスマホを見て着信もSNSも入っていない事に気付く。
「あぁ、心配するな。彰信さん達からなら了承を得ている」
後ろにいた久志は俺の行動から考えている事を察したのか、主語もなく呟く。
「……だと思った」
勝手に鍵は持っているし(よく見ればそれは母の鍵)スーツケースの隣には『喜美恵ちゃんにヨロシクね❤』なんて母の自筆のメモ紙付きの紙袋もあった。
親父達が親友同士の様に母親達も親友同士。
そもそも、久志の両親は今時珍しい許嫁同士からの結婚。
そして、学年は違えど同じ学校の出身。
まあ、ぶっちゃけちゃえば俺等が通う学園の卒業生達だ。
俺の親父は高等科から学園に入り久志の親父さんと知り合い、母親同士も俺の母が留学生として高等科に編入してきてからの付き合いなのだそうだ。
親達は互いが親友同士だったし、喜美恵さんと久志の親父さんは許嫁として会う機会が多かったからか4人で行動する事が多くなり、まるで決まっていた事の様に俺の両親も互いに引かれ合い、付き合い出して結婚をしたらしい。
「運命の赤い糸ってあるのよ❤」と母は乙女の様に頬を染めながら親父と見つめ合いそう話していた事を思い出す。
「……彰、目が死んでるぞ」
その後の両親のいちゃこらもついでに思い出してしまい、思わず遠くを見つめてしまっていた俺に久志が声をかける。
「悪い。要らん事まで思い出していた。……あぁ。そうだ、中身を入れ替えないとな」
夏とは言え、緯度が北海道と同じカナダの夜間はかなり冷えるのでスーツケースの中には長袖の服ばかりを入れている。
「ちょっとそこら辺に座って待っていてくれ」
そう言いながら、俺はスーツケースを持って2階の自室に向かう。
「あぁ、俺が持つよ」
ところが、サッと久志がスーツケースを持ち階段を上がり出す。
「は?何でお前が持つんだよ?」
……さっき玄関に入る時もドアを開けて俺を先に入れたしレディファースト?もしくはフェミニストって奴か!?
いや、待て。そもそも俺女じゃないし。
……一体、何なんだ???
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