Summer Vacation

セリーネス

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夢の始まり5

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「あと、入れる物は無いか?」

俺がクローゼットから色々と着替えを出していく中で、久志は何故かそれ等を一々手に取り物色しては「彰には似合わないな」とか「これよりもっと似合う奴を買ってやる」等と言って勝手に選別して綺麗に畳んでスーツケースに入れていった。

「いや…、無い。ただ、お前が勝手に選別したから持っていく服がかなり減ったぞ」

スーツケースの半分にも満たない量になり、むしろリュックか合宿用のスポーツバックで良いのではないだろうか?と思えてくる。
しかも、何故か下着系は一切入れさせてもらえなかった。

「あぁ、足り無い分は明日買い足すから大丈夫だ。あと、スーツケースは今後必要だからこのまま持って行く」

「買い足すって、金は?ってか、俺今夜からの下着が無いんですけど……?」

「金はリリーさんから預かっている。下着は……。まあ、後で大丈夫だ」

「………なんだそれ?」

金に関しては解ったが、下着は後って意味が解らん。
しかし、壁の時計を見ればもう22時を回っている。本来なら無人の我が家なのに、外に明かりが漏れて巡回依頼をしているSE○OMさんに見つかったらマズイ気がする。
仕方なく急ぎ久志の家に戻る事にした。
玄関を出る際、自分の荷物なので持とうとしたら「軽すぎるから問題ない」等と言って久志は一切スーツケースを俺に持たせないまま帰宅。

………こいつ、こんな奴だったか?

「今日は俺の部屋で休んでくれ。明日お前の部屋に案内する」

到着後、もう久志の家族は寝てしまったのか下の部屋の明かりは消されていて、廊下の足元を照らす明かりだけ点いていた。
てっきりさっきまで寝ていた部屋が今日から使わせてもらう所だと思っていたが、そうではなかった様だ。

「わかった。ありがとう」

そういえば久志の部屋に入ったのは久しぶりだ。 
荒れだしてからは久志が俺を部屋に入れたがらなくなったから、リビングや庭先で会っていた。

「風呂、こっちから行けるから」

実家の俺の部屋と同じ位の広さの部屋には机と本棚しかなく、何故か窓際の左右の壁に引き戸が付いている。
クローゼットか?と思っていたら、机のそばにスーツケースを置いた久志が俺を手招きして左側のドアを開ける。
なんと、ドアの先には脱衣場と洗面室とトイレがあった。
洗面室の横の棚には真っ白でフカフカそうなバスタオルが4つも籠に入っていて、更に下の籠には色々なアメニティが入っている。
そして、奥の薄曇りの戸の先は大人2人が余裕で入れる広さの湯船と洗い場。

なんだ?ここはどっかのリゾートホテルか?

「……お前、いつもこんな風呂に入っているのか?」

たしかに、水準的に恐らく久志の家はセレブの位置にあるのだろうが、部屋に風呂付きとか驚きだし過去何度かお邪魔した時には気付かなかったぞ。

「いや、ここはこの間改装してこうなった。だけど、使うのは今日が初めてなんだ」

引き気味の俺を見て苦笑しつつ、久志は俺の左手を引きながら今度は右側の引き戸を開ける。

「こっちが寝室な。とりあえず彰がベッドを使ってくれ。俺はスペアマットを出すから」

そこは俺が最初にいた部屋の倍はあるかと思える程広く、キングサイズ以上か?と思える用なデカイベッドが壁際に設置されていた。

「……は?何?お前王様かなんかか?」

恐らく俺の目は半目になり、久志を睨んでいたのだろう。

「……俺の希望じゃない」

そんな俺を、久志は更に苦笑いしながら見下ろす。

「お袋が、お前が来るって決まった途端に勝手に改装依頼して変えやがったんだ」

「………はぁ?」

部屋の改装って規模にもよるが、恐らく3部屋(にしては無駄に広いが)を行うには1~2ヶ月位では終らないよな?
何か?それってかなり前から俺の夏の計画は決まってしまっていたって事か???

「彰、とりあえず風呂入れ」

両親の裏切り(?)を知り、俺の背中から黒いオーラが吹き出しかけたのを素早く察した久志は話題を変える。

「……ん?あぁ、そうだな。いや、俺はお前の後で良いよ」

無理矢理とは言え、今日から居候させてもらう身としては何だか先に入るのは悪い気がしてそう言うと

「あぁ、俺は部活から帰った後直ぐに入ったから後で大丈夫だ」

「そうか、わかった。じゃあ先に入らせてもらう。……が、……その前にっ」

「ん?」

「何で、手を繋いだままなんだ!?」

先程寝室へ案内された際に手を引かれたのは判っていた。
小さな頃とか普通に繋いでいたからか違和感は湧かず、しかも久々に久志の部屋に入らせて貰えて嬉しかったからか繋がれた時は気にならなかったが、いつの間にか指が絡んだ手繋ぎ!

『野郎とカップル繋ぎ!?キモいわ!繋ぐなら俺より小さくて華奢な可愛い女子とが良い!!』

しかも、俺が突っ込んだ今もまだ繋いだままとか何故だ!
無理矢理手を離そうと振るのに何故か外れない。
しかも、久志は繋いだ手に若干力をいれやがったし!

「おい!離せよ!」

外れない手に力を込めて何度も振った為、息が少し上がり顔が赤くなる。
そんな俺の姿に、久志は一瞬嬉しそうに目を細めた表情を見せた気がして俺は顔を上げたが、見ればいつもの無表情。

「?」

「あぁ、悪い。……つい、…気持ち良くて」

「………は?」

後半のセリフがため息混じりで声が小さかった為、聞き取れず聞き返したが、久志は何も答えずサッと手を離して寝室から出て行く。
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