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アンソニー編
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かなり遅い時間になって帰宅したアンソニーを迎えたのは執事と侍従、そしてトーニャだった。
突然訪問した騎士団長と出かけた主人と、前触れなく居なくなった侯爵夫人を心配していたのだろう、3人とも顔色が悪かった。だがアンソニーの無事な姿を見て安堵もしていた。
「おかえりなさいませ」
「うん、ちょっと疲れた。だが早急に対処しなければならないことがあるから君達にも話がある。遅い時間に申し訳ないが執務室に集まってくれないか?あとトーニャ、侍女長も呼んできてくれ。それと話は長くなる」
アンソニーの言葉に3人とも従ったが、困惑しているのをアンソニーは見て取れた。陛下たちの前で自分もこんな顔をしていたのかもしれないと心の中で自嘲する。
話が長くなると予告していた為、4人は急ぎ執務室に集まり侍女長はアンソニーの好きな茶葉でお茶を淹れてくれた。
「今日、ナーチェが王宮騎士団に捕縛された、今は両親とともに地下牢に収監されている」
「「「「っ!」」」」
4人は言葉もなく息を呑んだ。
最初に声を出したのは執事だった。
「奥様は何をされたのでしょうか?」
それに答えるにはアンソニーは少し躊躇った、言葉を選ぶつもりはなかったが、全てが嘘だった女にまんまと騙された間抜けな男だと告白するのが、アンソニーのプライドを刺激した。
だが話さなければ始まらない、この事件を陛下は秘密裏に処理するつもりは皆無だったからだ。
「アレはナーチェ・カールトンでは無かった。別人だったんだ、始めから騙すつもりで私に近づいていた」
「「「⋯⋯⋯」」」
「何ですって!」
アンソニーの言葉に執事以外の3人が微妙な顔をしているのが気になった、まさか知っていたのか?そんな疑問が湧き憤ったが何とか堪えた。取り敢えずは彼等の罪を説明しなければならない。結婚云々の話はせずに罪だけを話したあとアンソニーは気になった事を訊ねた。
「君達は知っていたのか?」
憤りを抑えながらも質問すると、先ず答えたのは侍女長だった。
「いえ存じませんでした、ですが⋯不審に思った事はあります」
侍女長の言葉にアンソニーは目を瞠る、侍従とトーニャの方に目を向けると二人も頷いていた。
「どういう事だ?」
「あの、私は奥様の専属侍女ですが、公爵家に雇用された時、執事さん以外の使用人が全員新しく雇われたばかりで不思議に思っていたんです。ですがそれを少しでも話すと直ぐに馘首になってしまうのでもう誰も口にしていませんでした。ですから今旦那様からお聞きしてあぁそうだったのかと思いました」
「私はランディ様の件で奥様と話をした時に少し可怪しいと感じました」
トーニャの後に侍従も進言した。
「どういう事だ?」
「ランディ様の家庭教師の手配の時です、私の生家もそうでしたが普通の貴族はあまり新しい人物に依頼したりはしないと思うのです。旦那様の幼少の頃の家庭教師のヒクサー先生がご高齢と聞いた時、奥様は伝が無いとポツリと仰いました、それが引っかかっていて」
それは確かに侍従が可怪しいと思うのも不思議ではないとアンソニーも思った。
普通貴族の家庭教師は紹介制が一般的だ、ヒクサー教授が高齢を理由に教えられないのであれば、ヒクサー教授が紹介した人物にお願いする。
勿論ヒクサー教授が信用の於けない人物なら他に探さなければならないが、そんな事はなかった。
それなのに伝等と言っていたとはアンソニーは初耳だった。
「何故その時に報告しなかった」
「あの場では旦那様もいらっしゃいましたので何か奥様に事情があるのかと思いましたし、その後はヒクサー先生から紹介された方の選別に話が移りましたので言いませんでした」
「あぁあの時、そんな事を言っていたのか。私には聞こえていなかったんだな」
「おそらくそうなのかもしれません」
「侍女長は?何か思う所があったのか?」
侍女長に目を向けると彼女は震えていた。
「どうしたんだ?」
「旦那様、先程の説明で奥様の名はチェルシー・ターミルドと言いましたか?」
「あぁそれが本当の名前らしい、だが既にターミルドは隣国に返納しているから彼女もその家族も平民だった」
「あぁ旦那様!奥様!」
アンソニーの言葉に侍女長は急に天に向け声を上げた、そしてその場にヘナヘナと座り込んだ。
突然訪問した騎士団長と出かけた主人と、前触れなく居なくなった侯爵夫人を心配していたのだろう、3人とも顔色が悪かった。だがアンソニーの無事な姿を見て安堵もしていた。
「おかえりなさいませ」
「うん、ちょっと疲れた。だが早急に対処しなければならないことがあるから君達にも話がある。遅い時間に申し訳ないが執務室に集まってくれないか?あとトーニャ、侍女長も呼んできてくれ。それと話は長くなる」
アンソニーの言葉に3人とも従ったが、困惑しているのをアンソニーは見て取れた。陛下たちの前で自分もこんな顔をしていたのかもしれないと心の中で自嘲する。
話が長くなると予告していた為、4人は急ぎ執務室に集まり侍女長はアンソニーの好きな茶葉でお茶を淹れてくれた。
「今日、ナーチェが王宮騎士団に捕縛された、今は両親とともに地下牢に収監されている」
「「「「っ!」」」」
4人は言葉もなく息を呑んだ。
最初に声を出したのは執事だった。
「奥様は何をされたのでしょうか?」
それに答えるにはアンソニーは少し躊躇った、言葉を選ぶつもりはなかったが、全てが嘘だった女にまんまと騙された間抜けな男だと告白するのが、アンソニーのプライドを刺激した。
だが話さなければ始まらない、この事件を陛下は秘密裏に処理するつもりは皆無だったからだ。
「アレはナーチェ・カールトンでは無かった。別人だったんだ、始めから騙すつもりで私に近づいていた」
「「「⋯⋯⋯」」」
「何ですって!」
アンソニーの言葉に執事以外の3人が微妙な顔をしているのが気になった、まさか知っていたのか?そんな疑問が湧き憤ったが何とか堪えた。取り敢えずは彼等の罪を説明しなければならない。結婚云々の話はせずに罪だけを話したあとアンソニーは気になった事を訊ねた。
「君達は知っていたのか?」
憤りを抑えながらも質問すると、先ず答えたのは侍女長だった。
「いえ存じませんでした、ですが⋯不審に思った事はあります」
侍女長の言葉にアンソニーは目を瞠る、侍従とトーニャの方に目を向けると二人も頷いていた。
「どういう事だ?」
「あの、私は奥様の専属侍女ですが、公爵家に雇用された時、執事さん以外の使用人が全員新しく雇われたばかりで不思議に思っていたんです。ですがそれを少しでも話すと直ぐに馘首になってしまうのでもう誰も口にしていませんでした。ですから今旦那様からお聞きしてあぁそうだったのかと思いました」
「私はランディ様の件で奥様と話をした時に少し可怪しいと感じました」
トーニャの後に侍従も進言した。
「どういう事だ?」
「ランディ様の家庭教師の手配の時です、私の生家もそうでしたが普通の貴族はあまり新しい人物に依頼したりはしないと思うのです。旦那様の幼少の頃の家庭教師のヒクサー先生がご高齢と聞いた時、奥様は伝が無いとポツリと仰いました、それが引っかかっていて」
それは確かに侍従が可怪しいと思うのも不思議ではないとアンソニーも思った。
普通貴族の家庭教師は紹介制が一般的だ、ヒクサー教授が高齢を理由に教えられないのであれば、ヒクサー教授が紹介した人物にお願いする。
勿論ヒクサー教授が信用の於けない人物なら他に探さなければならないが、そんな事はなかった。
それなのに伝等と言っていたとはアンソニーは初耳だった。
「何故その時に報告しなかった」
「あの場では旦那様もいらっしゃいましたので何か奥様に事情があるのかと思いましたし、その後はヒクサー先生から紹介された方の選別に話が移りましたので言いませんでした」
「あぁあの時、そんな事を言っていたのか。私には聞こえていなかったんだな」
「おそらくそうなのかもしれません」
「侍女長は?何か思う所があったのか?」
侍女長に目を向けると彼女は震えていた。
「どうしたんだ?」
「旦那様、先程の説明で奥様の名はチェルシー・ターミルドと言いましたか?」
「あぁそれが本当の名前らしい、だが既にターミルドは隣国に返納しているから彼女もその家族も平民だった」
「あぁ旦那様!奥様!」
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