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アンソニー編
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「申し訳ございません、申し訳ございません」
座り込んだ侍女長は急にアンソニーに懇願するように謝罪を始めた。何度も何度も繰り返し、アンソニーが止めても繰り返す、おそらく周りの言葉など聞こえておらず、何かの罪の意識から逃れるように謝罪を口にしていた。
侍女長の異様な行動に呆気にとられていた執事が彼女の背をバシンと勢い良く叩いた、加減はしているだろうが侍女長の体が少し前に傾げた。
その時に床に手を付いたのが功を奏したのか、彼女が正気に戻った。
涙に塗れ呆然とする侍女長にアンソニーは訊ねた。
「侍女長、どうしたのだ。そんなに取り乱しては話ができない」
「あぁ⋯⋯旦那様、アンソニー様申し訳ありません。私はその名を今の今までスッカリと忘れていて。もしも私がちゃんと覚えていたならば防げたかもしれません」
「⋯⋯⋯何があった?」
侍女長は嘗てはアンソニーの母の専属侍女だった。
両親が亡くなってからも若く頼りない侯爵に、付き従って支えてくれた者の一人だ、アンソニーは彼女を信頼している。
「ターミルドその名を聞いたのは先代侯爵様の事故の半年ほど前だったと思います。前の執事と共に耳にしました」
前の執事は両親が亡くなってから暫くして殉死している。アンソニーは彼にもまた支えてほしいと思っていた矢先だった為、酷く辛かったのを覚えていた。今の執事は前の執事の弟になる。
「旦那様が執務室で手紙を読んだあと『ターミルド許さない、始めからそのつもりだったのか』そう仰ってインク瓶を壁に投げつけておいででした」
「なっ!父上が?」
「はい、もしやアンソニー様、旦那様と奥様の事故にターミルドは関わりがあるのではないでしょうか?私は今まですっかりそんな事があったのを忘れていましたので結びつけて考えたこともありませんでした。そもそも執事の殉死も変です」
アンソニーの父親である前侯爵は、名をメルハヴィルと書いて穏やかと読ませるほどに、争いごとに無縁の男だった。
そんな父が声を荒げてましてやインク瓶を壁に投げつけるなど珍しいにも程がある。
その事を指摘すると侍女長は事も無げにアンソニーに言った。
「アンソニー様の前で見せなかっただけで、私は3回ほど見たことがありますので、奥様に止められておりましたから口外もしませんでした。確かに珍しいことではありましたが、その場には奥様もいらっしゃいましたので、直ぐに怒りを鎮めてもいました。ですから尚の事覚えてなかった事が私は悔しいです」
「はっきりした日付などわかるだろうか?」
「日記を奥様の日記はありませんか?そういった出来事でしたら奥様が付けていたかと存じますが」
そういえば両親の書き残したものが遺品の中に極端に少なかったのをアンソニーは思い出す。
「この件は騎士団長に相談してみよう」
アンソニーはそこで一旦話を於いてランディの件について話そうと冷めたお茶を口に含んだ。
座り込んだ侍女長は急にアンソニーに懇願するように謝罪を始めた。何度も何度も繰り返し、アンソニーが止めても繰り返す、おそらく周りの言葉など聞こえておらず、何かの罪の意識から逃れるように謝罪を口にしていた。
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その時に床に手を付いたのが功を奏したのか、彼女が正気に戻った。
涙に塗れ呆然とする侍女長にアンソニーは訊ねた。
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「あぁ⋯⋯旦那様、アンソニー様申し訳ありません。私はその名を今の今までスッカリと忘れていて。もしも私がちゃんと覚えていたならば防げたかもしれません」
「⋯⋯⋯何があった?」
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「ターミルドその名を聞いたのは先代侯爵様の事故の半年ほど前だったと思います。前の執事と共に耳にしました」
前の執事は両親が亡くなってから暫くして殉死している。アンソニーは彼にもまた支えてほしいと思っていた矢先だった為、酷く辛かったのを覚えていた。今の執事は前の執事の弟になる。
「旦那様が執務室で手紙を読んだあと『ターミルド許さない、始めからそのつもりだったのか』そう仰ってインク瓶を壁に投げつけておいででした」
「なっ!父上が?」
「はい、もしやアンソニー様、旦那様と奥様の事故にターミルドは関わりがあるのではないでしょうか?私は今まですっかりそんな事があったのを忘れていましたので結びつけて考えたこともありませんでした。そもそも執事の殉死も変です」
アンソニーの父親である前侯爵は、名をメルハヴィルと書いて穏やかと読ませるほどに、争いごとに無縁の男だった。
そんな父が声を荒げてましてやインク瓶を壁に投げつけるなど珍しいにも程がある。
その事を指摘すると侍女長は事も無げにアンソニーに言った。
「アンソニー様の前で見せなかっただけで、私は3回ほど見たことがありますので、奥様に止められておりましたから口外もしませんでした。確かに珍しいことではありましたが、その場には奥様もいらっしゃいましたので、直ぐに怒りを鎮めてもいました。ですから尚の事覚えてなかった事が私は悔しいです」
「はっきりした日付などわかるだろうか?」
「日記を奥様の日記はありませんか?そういった出来事でしたら奥様が付けていたかと存じますが」
そういえば両親の書き残したものが遺品の中に極端に少なかったのをアンソニーは思い出す。
「この件は騎士団長に相談してみよう」
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