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アンソニー編
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ジェインの不可解な態度やランディの件の他にもアンソニーは考えなければならない事があった。
それは事業の件だった。
今ルーディスト侯爵家が携わる事業の中にチェルシーが仲介していた事業があった。
それはルーディスト侯爵家が持つ山林の木材を卸しているのだが、利益の4分の1を慈善事業として孤児院に寄附することにしていた物だった。
寄附先に指定していた孤児院も特定していて、運営も順調だという報告を受けていたが、仲介がチェルシーという事もあり、1回見直そうと執事に調べさせていた。
「旦那様、孤児院に視察に行ってみませんか?」
「視察は⋯⋯あぁそうだな。あの女が定期的に行っていたから信用できないな」
アンソニーの言葉に執事が頷く。
それから少し思案してアンソニーは先触れなしで訪問する事を決めた。
「ランディを連れて行こうか」
「えっ!ランディ様ですか?」
「あぁ孤児院だから子供が大勢いるだろう」
「はぁ」
気乗りしない執事の顔を見て、アンソニーは、まぁそうだろうなとは思ったが、アンソニーの思惑は別のところにあった。
(孤児院の子を見せてランディの反応が見たい)
変に大人びた物言いをしていたランディ、話しぶりから何か達観した感じを受けたアンソニーは、ランディに孤児院の子の生活を見せて彼がどう感じるのかを知りたいと思った。
アンソニー自身も8歳の頃に母に連れられて孤児院に初めて訪った時、その生活ぶりを見て衝撃を受けた。
そして自分の身の上が、貴族として生まれ両親に慈しんで育てて貰っていることに感謝という気持ちが湧いたのもその時だった。
自分は恵まれているのだと肌で感じた。
その歳よりも幼いがランディはどう感じるのだろうか?そんな事を考えていた。
それと同時に今まで見ていたランディとは違う視点で彼を見てみたいとも思っていた。
孤児院視察の当日はジェインは置いていくことにした。
馬車の中でアンソニーとサントスが向かい合わせで座りランディはアンソニーの隣に座らせた。
「ランディ、今日は孤児院に視察に行くんだ」
敢えて何処に出かけるか言わずに連れてきていた為、馬車の中で行き先を告げた。
窓枠に肘をついて外を眺めていたアンソニーだったが、暫くしてそれに気付いた。
ランディは震えていたのだ。
その軽い振動がアンソニーに伝わってきて、思わずランディの後頭部に目が行く。
「ランディ寒いのか?」
季節は晩春で、確かに外はまだ少し寒さを感じる日もある。だが今日は薄手の上着も着せていたし、アンソニーは狭い馬車の中では却って蒸し暑さを感じる程だというのに、ランディは膝に置いた手で拳を作って震えているのだ。
「ランディ?」
今朝は久し振りに朝食を共にして、その席でアンソニーが一緒に出かける事を言うと、ランディは大変喜んでいたようにアンソニーは感じていた。だから正直アンソニー自体も嬉しかったのだ。
あの日からまともに向き合うことが出来ずに、また向き合った時に息子を見て自分は嫌悪してしまうのではないかという恐れもあった。
だから今朝の食事時からアンソニーも緊張していたのだ。一緒に出かけるという丁度いい話題があったから思い切って誘えた。
思ったよりも前のようにちゃんと話せたことにアンソニーも拍子抜けしたし、そして嬉しくもあった。
自分が息子を愛せるのだということに、愛は変わらなかったという事が嬉しかった。
だからランディの震えている体に戸惑った。
寒いというより怯えているように見えたのだ、
「ランディ?どうしたんだ、寒いのか?」
アンソニーの再三の問いかけに俯いていたランディがアンソニーを見上げた。
その顔を見てアンソニーはギョッとした。
ランディの顔には怒りが浮かび、そして涙を流していた。
それは事業の件だった。
今ルーディスト侯爵家が携わる事業の中にチェルシーが仲介していた事業があった。
それはルーディスト侯爵家が持つ山林の木材を卸しているのだが、利益の4分の1を慈善事業として孤児院に寄附することにしていた物だった。
寄附先に指定していた孤児院も特定していて、運営も順調だという報告を受けていたが、仲介がチェルシーという事もあり、1回見直そうと執事に調べさせていた。
「旦那様、孤児院に視察に行ってみませんか?」
「視察は⋯⋯あぁそうだな。あの女が定期的に行っていたから信用できないな」
アンソニーの言葉に執事が頷く。
それから少し思案してアンソニーは先触れなしで訪問する事を決めた。
「ランディを連れて行こうか」
「えっ!ランディ様ですか?」
「あぁ孤児院だから子供が大勢いるだろう」
「はぁ」
気乗りしない執事の顔を見て、アンソニーは、まぁそうだろうなとは思ったが、アンソニーの思惑は別のところにあった。
(孤児院の子を見せてランディの反応が見たい)
変に大人びた物言いをしていたランディ、話しぶりから何か達観した感じを受けたアンソニーは、ランディに孤児院の子の生活を見せて彼がどう感じるのかを知りたいと思った。
アンソニー自身も8歳の頃に母に連れられて孤児院に初めて訪った時、その生活ぶりを見て衝撃を受けた。
そして自分の身の上が、貴族として生まれ両親に慈しんで育てて貰っていることに感謝という気持ちが湧いたのもその時だった。
自分は恵まれているのだと肌で感じた。
その歳よりも幼いがランディはどう感じるのだろうか?そんな事を考えていた。
それと同時に今まで見ていたランディとは違う視点で彼を見てみたいとも思っていた。
孤児院視察の当日はジェインは置いていくことにした。
馬車の中でアンソニーとサントスが向かい合わせで座りランディはアンソニーの隣に座らせた。
「ランディ、今日は孤児院に視察に行くんだ」
敢えて何処に出かけるか言わずに連れてきていた為、馬車の中で行き先を告げた。
窓枠に肘をついて外を眺めていたアンソニーだったが、暫くしてそれに気付いた。
ランディは震えていたのだ。
その軽い振動がアンソニーに伝わってきて、思わずランディの後頭部に目が行く。
「ランディ寒いのか?」
季節は晩春で、確かに外はまだ少し寒さを感じる日もある。だが今日は薄手の上着も着せていたし、アンソニーは狭い馬車の中では却って蒸し暑さを感じる程だというのに、ランディは膝に置いた手で拳を作って震えているのだ。
「ランディ?」
今朝は久し振りに朝食を共にして、その席でアンソニーが一緒に出かける事を言うと、ランディは大変喜んでいたようにアンソニーは感じていた。だから正直アンソニー自体も嬉しかったのだ。
あの日からまともに向き合うことが出来ずに、また向き合った時に息子を見て自分は嫌悪してしまうのではないかという恐れもあった。
だから今朝の食事時からアンソニーも緊張していたのだ。一緒に出かけるという丁度いい話題があったから思い切って誘えた。
思ったよりも前のようにちゃんと話せたことにアンソニーも拍子抜けしたし、そして嬉しくもあった。
自分が息子を愛せるのだということに、愛は変わらなかったという事が嬉しかった。
だからランディの震えている体に戸惑った。
寒いというより怯えているように見えたのだ、
「ランディ?どうしたんだ、寒いのか?」
アンソニーの再三の問いかけに俯いていたランディがアンソニーを見上げた。
その顔を見てアンソニーはギョッとした。
ランディの顔には怒りが浮かび、そして涙を流していた。
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