知らされた真実〜それぞれの選択〜

アンソニー編

19

「ちちうえはぼくをしゅてるのでしゅか？」

見上げたランディは、涙を乱暴に袖で拭ってからアンソニーに問いかけた。睨まれた事にも驚いていたアンソニーはそのランディの言葉にも衝撃を受けた。
(しまった！軽率だった)

母親がいなくなり自分と会話をしなくなった父親が、急に孤児院に出かけると言ったからランディは勘違いしてしまったのだとアンソニーは慌てた。
前までならこんな勘違いも起きなかっただろう、だがランディの気持ちをアンソニーは慮ってやる事が出来ていなかった。
常に自分の感情だけを考えていたからだ。
慌てたアンソニーは思わずランディを膝に乗せて抱きしめた。

「ランディ、すまない。勘違いさせてしまった、お前を捨てるなんてあるはずないじゃないか」

左手で小さな震える背を撫でながら右手はランディの頭を撫でる。アンソニーの言葉に「ヒック、ヒック」とランディは、しゃくりあげながら泣いていた。
ランディの心に傷を付けたとアンソニーは自分の軽率な行いを反省しながら、ふと気付いた。
何故ランディは孤児院を知っているのかと。
今は家庭教師の選別を1年ほど前から始めていて、候補者の調査を行っている段階だった。
ランディの幼児教育は5歳からと決めていた、それまでは簡単に駄目な事と良いことだけを教えるようにしようとアンソニーはチェルシーには話していたので、孤児院の知識を知るのはチェルシーからだとアンソニーはランディに聞いてみた。

「ランディ、お前は孤児院がどういうところか知っているのか？」

本当なら今日連れて行って、ランディとの違いを見せてから説明するつもりだった。アンソニーはそうして母に教えてもらっていたから、ランディにもそうしてやるつもりだった。
チェルシーからランディを孤児院に連れて行くと許可も報告もされた事がないから、てっきりまだ知らないのだと思っていた。

「⋯っく⋯っく、まちゃーがいりゅといっちぇいまちた」

ジェインを連れて来ればよかったとアンソニーは頭を抱えた。
ランディが話している言葉が分からないのだ。
思わずサントスを見るとサントスはアンソニーに抱かれているランディをじっと見ていた。

「サントスわかるか？」

「⋯⋯アンソニー様、申し訳ありません。憶測ですがなんとなく」

「私はまちゃーが分からない、誰かの事を言っているんだろう事はわかるのだが」

「まちゃー？」

アンソニーの胸に顔を埋めていたランディが、そこから顔を上げてアンソニーを見ながらもう一度その名を呼んだ。
すると確信を得たというように、頷きながらサントスがアンソニーに言った。

「マジェルノの事ではないでしょうか？」

「乳母か！？」

ランディの乳母は病を理由に2年前に辞めていた。彼女は辞めて孤児院で働いているのだろうか？だが孤児院で働けるなら、乳母を辞める必要はなかったのではないだろうか？
病が治ったのか？
アンソニーが思案しているとランディがまたもや頭を抱える事を言った。

「おちおきなの、らんでぃがわるいこだかりゃ」

「ランディが悪い子？誰がそんなことを言ったんだ！」

小さなランディに少しは配慮したつもりだったが、それでも怒りで我慢できずに低い声が出てしまった。
そんなアンソニーに、またしてもランディは怯えてサントスを振り返り、彼に手を伸ばしていた。