22 / 46
アンソニー編
21
しおりを挟む
院長に渡された帳簿をチェックする。
何の不正もないのは分かっていた、ただ来訪者の訪いもそこに記載してある。
律儀な院長はお茶1杯の提供も帳簿に記載していた。茶葉の節約の為にそうしていたのだろう。それ程にこの孤児院は困窮していた。
その帳簿から分かったことはアンソニーの妻であったチェルシーは2ヶ月起きに訪っていたはずなのに、3年前アンソニーと共に訪ってから一度も此方には来ていないことが判明した。
「ふぅ~」
「旦那様、侯爵家のお金の流れが不自然ですね」
「そうだな、これはもう訴えよう」
「左様ですか」
サイラスの無機質とも思える返答にアンソニーは苦笑した。言い訳をさせてもらえるなら『妻を信じて何が悪い』と言いたい。
それは心の中だけに今は留め置く。
「院長、今日の訪問で寄附を持ってきている。なる丈早く体制を整えるので一度王都に出てきてもらえないか?」
「侯爵様⋯ありがとうございます」
「此方こそこんなになるまで手立てもせずすまなかった。息子は見学しているのかな?」
「はい職員が案内しております」
「それと院長、つかぬ事を聞くがこの孤児院にマジェルノという名の職員はいるかな?ひょっとしたら下働きかもしれないが」
「マジェルノさんはいらっしゃいませんが、その娘さんなら預かっています」
「娘?」
「はい、今年5歳になる娘さんです。マジェルノさんは体を壊して今はずっと寝たきりだと聞いております」
「なっ!家はこの辺なのか?」
「家まではわかりません。預かっている娘さんの歳の離れたお姉さんがそう仰っていました。本来なら預かるのはお断りするような案件ですが、お姉さんも働かなければならないと仰ってましたし、その働き先が、ってアレ?侯爵様はご存じなかったですか?」
「⋯?」
院長の言葉にアンソニーが訝しんでいると、途端に院長は慌てだした。
「もしかして違うのでしょうか?まさかそんな嘘を付いてるなんて思いもしませんでした」
「院長、貴方の知ってる事を教えてください」
アンソニーがお願いすると院長は何度も頷いて話してくれた。
「始めはもう一つの孤児院にマジェルノさんが2年前に避難してきたんです」
そう繰り出した院長の話は、アンソニーの全く知らない事だった。
ランディの乳母のマジェルノは幼い子供を二人連れて孤児院に避難してきた。その時彼女の体はボロボロで体中に鞭の跡が夥しく残っていたという。子供も男の子は無傷であったが、女の子の足に3本ほど鞭の跡が見て取れたという。
本来なら教会に避難した方がいいとは思ったが、それ以上マジェルノが動けそうになかった為、孤児院で保護した。
連絡してほしいと言うのでマジェルノの言うとおり娘に連絡を取ったという。
2日ほどで娘が迎えに来たのだが、それから1ヶ月後に二人の子供を連れて預かって欲しいと娘が言ってきたのだと言う。
「マジェルノさんは取りあえず自宅療養になったみたいなんです。ですが治療費もかかりますし子供のこともあります。お父さんは亡くなっているようで、娘さんが弟妹の面倒を見ていたら働けないので預かって欲しいと言ってきました」
「他に親戚などは?」
「あったのかも知れませんが娘さんは無いと言ってました。それで二人とも預かるのは予算的に無理だからともう一人は此方に預けに来たんです。毎月ちゃんと養育費としてお金を送ってくれてましたし、働き先がしっかりしていましたので預かっていました」
「どこで働いていると?」
「それが⋯ルーディスト侯爵家です」
「うちで?」
「はい、ランディ様の侍女をしていると聞いていました」
「「!」」
一緒に話を聞いていたアンソニーとサイラスは顔を見合わせた。
ジョインがマジェルノの娘だったということだ。ではなぜ彼女はその事を隠していたのだろうか?
アンソニーはもう一つの方の孤児院へも向かう事に決めた。
「院長有意義な話をありがとう、近いうちに迎えを寄越すので話し合いに参加してほしい。その時に幾らぐらい運営費がかかるかの算出も纏めて来てくれ」
「あっ、ありがとうございます、お待ちしております」
アンソニーは急いでもう一つの孤児院に向かった。もう一つの孤児院は領地の端にある為、今日中に侯爵家に帰るのは無理そうだった。
サイラスと日程の調整の話をしている間、馬車の中でランディは黙りこんでいた。
何の不正もないのは分かっていた、ただ来訪者の訪いもそこに記載してある。
律儀な院長はお茶1杯の提供も帳簿に記載していた。茶葉の節約の為にそうしていたのだろう。それ程にこの孤児院は困窮していた。
その帳簿から分かったことはアンソニーの妻であったチェルシーは2ヶ月起きに訪っていたはずなのに、3年前アンソニーと共に訪ってから一度も此方には来ていないことが判明した。
「ふぅ~」
「旦那様、侯爵家のお金の流れが不自然ですね」
「そうだな、これはもう訴えよう」
「左様ですか」
サイラスの無機質とも思える返答にアンソニーは苦笑した。言い訳をさせてもらえるなら『妻を信じて何が悪い』と言いたい。
それは心の中だけに今は留め置く。
「院長、今日の訪問で寄附を持ってきている。なる丈早く体制を整えるので一度王都に出てきてもらえないか?」
「侯爵様⋯ありがとうございます」
「此方こそこんなになるまで手立てもせずすまなかった。息子は見学しているのかな?」
「はい職員が案内しております」
「それと院長、つかぬ事を聞くがこの孤児院にマジェルノという名の職員はいるかな?ひょっとしたら下働きかもしれないが」
「マジェルノさんはいらっしゃいませんが、その娘さんなら預かっています」
「娘?」
「はい、今年5歳になる娘さんです。マジェルノさんは体を壊して今はずっと寝たきりだと聞いております」
「なっ!家はこの辺なのか?」
「家まではわかりません。預かっている娘さんの歳の離れたお姉さんがそう仰っていました。本来なら預かるのはお断りするような案件ですが、お姉さんも働かなければならないと仰ってましたし、その働き先が、ってアレ?侯爵様はご存じなかったですか?」
「⋯?」
院長の言葉にアンソニーが訝しんでいると、途端に院長は慌てだした。
「もしかして違うのでしょうか?まさかそんな嘘を付いてるなんて思いもしませんでした」
「院長、貴方の知ってる事を教えてください」
アンソニーがお願いすると院長は何度も頷いて話してくれた。
「始めはもう一つの孤児院にマジェルノさんが2年前に避難してきたんです」
そう繰り出した院長の話は、アンソニーの全く知らない事だった。
ランディの乳母のマジェルノは幼い子供を二人連れて孤児院に避難してきた。その時彼女の体はボロボロで体中に鞭の跡が夥しく残っていたという。子供も男の子は無傷であったが、女の子の足に3本ほど鞭の跡が見て取れたという。
本来なら教会に避難した方がいいとは思ったが、それ以上マジェルノが動けそうになかった為、孤児院で保護した。
連絡してほしいと言うのでマジェルノの言うとおり娘に連絡を取ったという。
2日ほどで娘が迎えに来たのだが、それから1ヶ月後に二人の子供を連れて預かって欲しいと娘が言ってきたのだと言う。
「マジェルノさんは取りあえず自宅療養になったみたいなんです。ですが治療費もかかりますし子供のこともあります。お父さんは亡くなっているようで、娘さんが弟妹の面倒を見ていたら働けないので預かって欲しいと言ってきました」
「他に親戚などは?」
「あったのかも知れませんが娘さんは無いと言ってました。それで二人とも預かるのは予算的に無理だからともう一人は此方に預けに来たんです。毎月ちゃんと養育費としてお金を送ってくれてましたし、働き先がしっかりしていましたので預かっていました」
「どこで働いていると?」
「それが⋯ルーディスト侯爵家です」
「うちで?」
「はい、ランディ様の侍女をしていると聞いていました」
「「!」」
一緒に話を聞いていたアンソニーとサイラスは顔を見合わせた。
ジョインがマジェルノの娘だったということだ。ではなぜ彼女はその事を隠していたのだろうか?
アンソニーはもう一つの方の孤児院へも向かう事に決めた。
「院長有意義な話をありがとう、近いうちに迎えを寄越すので話し合いに参加してほしい。その時に幾らぐらい運営費がかかるかの算出も纏めて来てくれ」
「あっ、ありがとうございます、お待ちしております」
アンソニーは急いでもう一つの孤児院に向かった。もう一つの孤児院は領地の端にある為、今日中に侯爵家に帰るのは無理そうだった。
サイラスと日程の調整の話をしている間、馬車の中でランディは黙りこんでいた。
64
あなたにおすすめの小説
たのしい わたしの おそうしき
syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。
彩りあざやかな花をたくさん。
髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。
きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。
辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。
けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。
だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。
沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。
ーーーーーーーーーーーー
物語が始まらなかった物語。
ざまぁもハッピーエンドも無いです。
唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*)
こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄)
19日13時に最終話です。
ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
(完結)私が貴方から卒業する時
青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。
だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・
※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
夫は家族を捨てたのです。
クロユキ
恋愛
私達家族は幸せだった…夫が出稼ぎに行かなければ…行くのを止めなかった私の後悔……今何処で何をしているのかも生きているのかも分からない……
夫の帰りを待っ家族の話しです。
誤字脱字があります。更新が不定期ですがよろしくお願いします。
【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る
甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。
家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。
国王の政務の怠慢。
母と妹の浪費。
兄の女癖の悪さによる乱行。
王家の汚点の全てを押し付けられてきた。
そんな彼女はついに望むのだった。
「どうか死なせて」
応える者は確かにあった。
「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」
幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。
公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。
そして、3日後。
彼女は処刑された。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる