知らされた真実〜それぞれの選択〜

maruko

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アンソニー編

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院長に渡された帳簿をチェックする。
何の不正もないのは分かっていた、ただ来訪者の訪いもそこに記載してある。
律儀な院長はお茶1杯の提供も帳簿に記載していた。茶葉の節約の為にそうしていたのだろう。それ程にこの孤児院は困窮していた。

その帳簿から分かったことはアンソニーの妻であったチェルシーは2ヶ月起きに訪っていたはずなのに、3年前アンソニーと共に訪ってから一度も此方には来ていないことが判明した。

「ふぅ~」

「旦那様、侯爵家のお金の流れが不自然ですね」

「そうだな、これはもう訴えよう」

「左様ですか」

サイラスの無機質とも思える返答にアンソニーは苦笑した。言い訳をさせてもらえるなら『妻を信じて何が悪い』と言いたい。
それは心の中だけに今は留め置く。

「院長、今日の訪問で寄附を持ってきている。なる丈早く体制を整えるので一度王都に出てきてもらえないか?」

「侯爵様⋯ありがとうございます」

「此方こそこんなになるまで手立てもせずすまなかった。息子は見学しているのかな?」

「はい職員が案内しております」

「それと院長、つかぬ事を聞くがこの孤児院にマジェルノという名の職員はいるかな?ひょっとしたら下働きかもしれないが」

「マジェルノさんはいらっしゃいませんが、その娘さんなら預かっています」

「娘?」

「はい、今年5歳になる娘さんです。マジェルノさんは体を壊して今はずっと寝たきりだと聞いております」

「なっ!家はこの辺なのか?」

「家まではわかりません。預かっている娘さんの歳の離れたお姉さんがそう仰っていました。本来なら預かるのはお断りするような案件ですが、お姉さんも働かなければならないと仰ってましたし、その働き先が、ってアレ?侯爵様はご存じなかったですか?」

「⋯?」

院長の言葉にアンソニーが訝しんでいると、途端に院長は慌てだした。

「もしかして違うのでしょうか?まさかそんな嘘を付いてるなんて思いもしませんでした」

「院長、貴方の知ってる事を教えてください」

アンソニーがお願いすると院長は何度も頷いて話してくれた。

「始めはもう一つの孤児院にマジェルノさんが2年前に避難してきたんです」

そう繰り出した院長の話は、アンソニーの全く知らない事だった。

ランディの乳母のマジェルノは幼い子供を二人連れて孤児院に避難してきた。その時彼女の体はボロボロで体中に鞭の跡が夥しく残っていたという。子供も男の子は無傷であったが、女の子の足に3本ほど鞭の跡が見て取れたという。
本来なら教会に避難した方がいいとは思ったが、それ以上マジェルノが動けそうになかった為、孤児院で保護した。
連絡してほしいと言うのでマジェルノの言うとおり娘に連絡を取ったという。
2日ほどで娘が迎えに来たのだが、それから1ヶ月後に二人の子供を連れて預かって欲しいと娘が言ってきたのだと言う。

「マジェルノさんは取りあえず自宅療養になったみたいなんです。ですが治療費もかかりますし子供のこともあります。お父さんは亡くなっているようで、娘さんが弟妹の面倒を見ていたら働けないので預かって欲しいと言ってきました」

「他に親戚などは?」

「あったのかも知れませんが娘さんは無いと言ってました。それで二人とも預かるのは予算的に無理だからともう一人は此方に預けに来たんです。毎月ちゃんと養育費としてお金を送ってくれてましたし、働き先がしっかりしていましたので預かっていました」

「どこで働いていると?」

「それが⋯ルーディスト侯爵家です」

「うちで?」

「はい、ランディ様の侍女をしていると聞いていました」

「「!」」

一緒に話を聞いていたアンソニーとサイラスは顔を見合わせた。
ジョインがマジェルノの娘だったということだ。ではなぜ彼女はその事を隠していたのだろうか?

アンソニーはもう一つの方の孤児院へも向かう事に決めた。

「院長有意義な話をありがとう、近いうちに迎えを寄越すので話し合いに参加してほしい。その時に幾らぐらい運営費がかかるかの算出も纏めて来てくれ」

「あっ、ありがとうございます、お待ちしております」

アンソニーは急いでもう一つの孤児院に向かった。もう一つの孤児院は領地の端にある為、今日中に侯爵家に帰るのは無理そうだった。
サイラスと日程の調整の話をしている間、馬車の中でランディは黙りこんでいた。





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