23 / 46
アンソニー編
22
しおりを挟む
馬車の中で打ち合わせが終わり、アンソニーは隣に渋々座った息子ランディを見ると、悪路で激しく揺れていたにも関わらずスヤスヤと寝入っているのに気付いた。
「サイラス、マジェルノを調べようと決めたが、これはランディの為になるのだろうか?」
「さぁ?ですが少なくともランディ様の不安要素は潰しておかなければなりません。先程も何か考えて居られる様子でしたから。旦那様、一つお聞きしても?」
「何だ?」
「ランディ様の件、如何されるおつもりでしょうか?それによっては諸々事情が変わりますので」
「そうだな、言っておこう。私は今後もランディと共にいようと思う。親子として」
「庶子でも構いませんか?」
「あぁ家督を渡せなくはなるがそれはしょうがない。この国の法律だからな。だが息子である事は変わらない、それに⋯私はランディを変わらず愛していると思える、それが嬉しかった」
「迷いはないと?」
「あぁ、ない」
「それでは新しい奥様を探さなければなりませんね」
「はぁ~そうなるな。おそらく難しいかもしれないが、なんせ長年妻に騙されていた男だから」
「それは旦那様だけではありません、私もそして屋敷中の皆も同様です」
「ランディにとっていい方向に向かえる婚姻であれば何も言うことはないのだが」
アンソニーは言いながら窓の外を眺める。
夕暮れ時のオレンジの光が馬車に当たり、屈折した光がアンソニーの顔にも反射していた。
その顔には一つの選択をした決意が見えて、サイラスは改めてアンソニーを今後も微力ながらお支えしようと心に決めた。
程無くしてもう一か所の孤児院がある街に着いたが、訪問するには遅い時間だと判断したアンソニーは宿に泊まることにした。
起こされたばかりのランディを抱き上げ案内された部屋に入る。
その頃には目を擦りながらもランディは目が覚めていた。
床に下ろすと物珍しそうにキョロキョロとして、部屋の探検を開始していた。
「ランディ此処は部屋ではなくて下で食べるんだ。お腹空いただろう?」
アンソニーの言葉にランディが振り返りコクリと頷く。そしてそのままジッとアンソニーを見上げている。
「どうした?」
「ちちうえはぼくゅのこちょは⋯⋯ちゅてまちぇんか?」
「捨てるわけ無いだろう、何を言ってるんだ。誰かから何か言われたのか?」
「ははうえはぼくゅをちゅてたのょで」
「いや、捨てたと言うより捕まったのだ」
アンソニーはランディがどこまで理解できるか分からないが、誤魔化さずに話そうと思った。
どうやって切り出そうかと数日思案していたのだが、ランディから話題が出たのでいい機会だと今から話そうかと口を開こうとした。だが話し始めようとした時、ランディが首を左右に振り始めた。
「ちがうのょ、ずっちょまえからちゅてられてりゅのでちゅ」
「は?⋯⋯⋯前から?」
アンソニーが聞くとランディは頷いた。詳しく聞こうとアンソニーは膝をついてランディの目線に合わせた。
するとランディは必死にアンソニーに今までの事を話すのだが、吃音で聞き取りにくかった為アンソニーは半分ほどは正確に理解するのは難しかった。
だがランディの必死さにチェルシーが彼を精神的に虐待していたのだというのは理解した。
それに1ミリも気付かなかった事をアンソニーは悔やんだ。そしてランディに申し訳ないと思った。
「ランディごめん、私は何も分かってなかったな。お前を可愛がるだけじゃなく、ちゃんと見るべきだった。いや見ているつもりになっていただけだった。だがこれからは何でも私に話してくれないか?」
アンソニーの謝罪と懇願にランディは戸惑いながら頷いた。その様子にアンソニーは嬉しくなって頭を撫でると、ランディは捨てられない事を確認した安堵からなのか久し振りに心の底からの笑顔をアンソニーにくれた。
「サイラス、マジェルノを調べようと決めたが、これはランディの為になるのだろうか?」
「さぁ?ですが少なくともランディ様の不安要素は潰しておかなければなりません。先程も何か考えて居られる様子でしたから。旦那様、一つお聞きしても?」
「何だ?」
「ランディ様の件、如何されるおつもりでしょうか?それによっては諸々事情が変わりますので」
「そうだな、言っておこう。私は今後もランディと共にいようと思う。親子として」
「庶子でも構いませんか?」
「あぁ家督を渡せなくはなるがそれはしょうがない。この国の法律だからな。だが息子である事は変わらない、それに⋯私はランディを変わらず愛していると思える、それが嬉しかった」
「迷いはないと?」
「あぁ、ない」
「それでは新しい奥様を探さなければなりませんね」
「はぁ~そうなるな。おそらく難しいかもしれないが、なんせ長年妻に騙されていた男だから」
「それは旦那様だけではありません、私もそして屋敷中の皆も同様です」
「ランディにとっていい方向に向かえる婚姻であれば何も言うことはないのだが」
アンソニーは言いながら窓の外を眺める。
夕暮れ時のオレンジの光が馬車に当たり、屈折した光がアンソニーの顔にも反射していた。
その顔には一つの選択をした決意が見えて、サイラスは改めてアンソニーを今後も微力ながらお支えしようと心に決めた。
程無くしてもう一か所の孤児院がある街に着いたが、訪問するには遅い時間だと判断したアンソニーは宿に泊まることにした。
起こされたばかりのランディを抱き上げ案内された部屋に入る。
その頃には目を擦りながらもランディは目が覚めていた。
床に下ろすと物珍しそうにキョロキョロとして、部屋の探検を開始していた。
「ランディ此処は部屋ではなくて下で食べるんだ。お腹空いただろう?」
アンソニーの言葉にランディが振り返りコクリと頷く。そしてそのままジッとアンソニーを見上げている。
「どうした?」
「ちちうえはぼくゅのこちょは⋯⋯ちゅてまちぇんか?」
「捨てるわけ無いだろう、何を言ってるんだ。誰かから何か言われたのか?」
「ははうえはぼくゅをちゅてたのょで」
「いや、捨てたと言うより捕まったのだ」
アンソニーはランディがどこまで理解できるか分からないが、誤魔化さずに話そうと思った。
どうやって切り出そうかと数日思案していたのだが、ランディから話題が出たのでいい機会だと今から話そうかと口を開こうとした。だが話し始めようとした時、ランディが首を左右に振り始めた。
「ちがうのょ、ずっちょまえからちゅてられてりゅのでちゅ」
「は?⋯⋯⋯前から?」
アンソニーが聞くとランディは頷いた。詳しく聞こうとアンソニーは膝をついてランディの目線に合わせた。
するとランディは必死にアンソニーに今までの事を話すのだが、吃音で聞き取りにくかった為アンソニーは半分ほどは正確に理解するのは難しかった。
だがランディの必死さにチェルシーが彼を精神的に虐待していたのだというのは理解した。
それに1ミリも気付かなかった事をアンソニーは悔やんだ。そしてランディに申し訳ないと思った。
「ランディごめん、私は何も分かってなかったな。お前を可愛がるだけじゃなく、ちゃんと見るべきだった。いや見ているつもりになっていただけだった。だがこれからは何でも私に話してくれないか?」
アンソニーの謝罪と懇願にランディは戸惑いながら頷いた。その様子にアンソニーは嬉しくなって頭を撫でると、ランディは捨てられない事を確認した安堵からなのか久し振りに心の底からの笑顔をアンソニーにくれた。
52
あなたにおすすめの小説
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
たのしい わたしの おそうしき
syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。
彩りあざやかな花をたくさん。
髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。
きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。
辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。
けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。
だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。
沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。
ーーーーーーーーーーーー
物語が始まらなかった物語。
ざまぁもハッピーエンドも無いです。
唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*)
こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄)
19日13時に最終話です。
ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
貴方が私を嫌う理由
柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。
その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。
カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。
――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。
幼馴染であり、次期公爵であるクリス。
二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。
長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。
実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。
もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。
クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。
だからリリーは、耐えた。
未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。
しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。
クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。
リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。
――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。
――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。
真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。
【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る
甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。
家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。
国王の政務の怠慢。
母と妹の浪費。
兄の女癖の悪さによる乱行。
王家の汚点の全てを押し付けられてきた。
そんな彼女はついに望むのだった。
「どうか死なせて」
応える者は確かにあった。
「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」
幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。
公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。
そして、3日後。
彼女は処刑された。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした
珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……?
基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる