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ナーチェ編
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9歳になる少し前、ナーチェは父の書斎に呼ばれた。いつも話をする時はナーチェの部屋か執務室だったから書斎に入るのは初めてでナーチェは少しドキドキしながら侍女が扉をノックするのを見ていた。
入室の許可が出て中に入ると、少し薄暗い部屋の中は真ん中にロッキングチェアが置かれ、壁際には本棚が並んでいた。窓には濃い茶色のカーテンが昼間だというのに閉まっていた。
「ナーチェお入り」
部屋は薄暗くても優しい父の声はいつもと変わらずで、ナーチェはホッと息を吐き出し長椅子に座る父の前に立った。
ポンポンと隣を父が叩くからそこに座るとテーブルに置かれた紙の束を手に取って話し始めた。
「ナーチェ、今から母の遺言を読むね。君が理解できるか分からないけれどサインをしてもらわないといけないから」
「私がサインですか?」
父との授業でサインの練習を最近したのを思い出したナーチェは、あぁこの為に練習したのかなと思い父に頷いてみせた。
「遺言というよりお手紙かな。君宛だけど母はあの通りだったから、所々意味不明なんだ。でもそのまま読むからね」
「はいお父様」
そうして父が読んでくれた内容は、やはりナーチェには父が危惧したようによく分からなかった。
ただここにずっと住むことになったのは祖母のせいだったらしく申し訳なかったと謝罪が認めてあったのは分かった。そしてそのお詫びにと祖母の装飾品を譲渡する旨が遺言のようだった。
父に言われるがままサインをすると父は安堵したように「ふぅ」と息を吐いた。
ナーチェがサインした書類を大きな封筒に入れて書斎のチェストの引き出しに仕舞って鍵をかけていた。
その間、ナーチェは初めて入った父の書斎が興味深くてアチコチに視線が飛んでいた。
どうしてカーテンは開けないのかしら?
どうしてテーブルがこんなに小さいのかしら?
あの机のお花は何の花かしら?
ここにはどうしてソファを置いてないの?
絨毯も敷いてないのはどうしてかしら?
ナーチェは部屋の疑問を頭に浮かべて只管キョロリと見渡している。そんなナーチェを微笑みながら父のセルディストは見守っていた。
「ナーチェ、こんな所に閉じ込めてしまった父を恨んでるかな?」
父の問の意味がナーチェには分からなかった。
何故ならナーチェはここ以外知らないから閉じ込められてるという感覚をまるで持っていなかったからだ。
「お父様、ナーチェは閉じ込められてはいません。ちゃんと歩いてアチコチ行けます」
ナーチェの返事にセルディストはまたもや苦笑する。自分の人嫌いが今後のナーチェに影響を及ぼす事が分かっていても、どうしても社交を積極的にする気にはなれなかった。
幼いナーチェに一人で茶会になど行かせられないし、その為だけに再婚するつもりもない。
それをどうやってナーチェに説明するか、散々迷ってこの年まで来てしまった。
でもナーチェにも友は必要である事は分かっていた。
「ナーチェ友達が欲しいだろう?」
「お友達ですか?あっ!いえ⋯」
ナーチェは友達と聞いてユースティオが脳裏に浮かんだ。ユースティオと出会ってからもうすぐ一年が経つ。約束の一年だ。
その間、父にユースティオとの出会いを話せなかったのは、行ってはいけないと言われた場所に行ってしまっていたからだった。
今勢いでユースティオの事を言いかけて、それを思い出してまた言い淀んでしまったが、そんな言い方では直ぐにバレてしまった。
父のジッと見つめる目だけの詰問にナーチェは降参してユースティオとの出会いを白状した。
入室の許可が出て中に入ると、少し薄暗い部屋の中は真ん中にロッキングチェアが置かれ、壁際には本棚が並んでいた。窓には濃い茶色のカーテンが昼間だというのに閉まっていた。
「ナーチェお入り」
部屋は薄暗くても優しい父の声はいつもと変わらずで、ナーチェはホッと息を吐き出し長椅子に座る父の前に立った。
ポンポンと隣を父が叩くからそこに座るとテーブルに置かれた紙の束を手に取って話し始めた。
「ナーチェ、今から母の遺言を読むね。君が理解できるか分からないけれどサインをしてもらわないといけないから」
「私がサインですか?」
父との授業でサインの練習を最近したのを思い出したナーチェは、あぁこの為に練習したのかなと思い父に頷いてみせた。
「遺言というよりお手紙かな。君宛だけど母はあの通りだったから、所々意味不明なんだ。でもそのまま読むからね」
「はいお父様」
そうして父が読んでくれた内容は、やはりナーチェには父が危惧したようによく分からなかった。
ただここにずっと住むことになったのは祖母のせいだったらしく申し訳なかったと謝罪が認めてあったのは分かった。そしてそのお詫びにと祖母の装飾品を譲渡する旨が遺言のようだった。
父に言われるがままサインをすると父は安堵したように「ふぅ」と息を吐いた。
ナーチェがサインした書類を大きな封筒に入れて書斎のチェストの引き出しに仕舞って鍵をかけていた。
その間、ナーチェは初めて入った父の書斎が興味深くてアチコチに視線が飛んでいた。
どうしてカーテンは開けないのかしら?
どうしてテーブルがこんなに小さいのかしら?
あの机のお花は何の花かしら?
ここにはどうしてソファを置いてないの?
絨毯も敷いてないのはどうしてかしら?
ナーチェは部屋の疑問を頭に浮かべて只管キョロリと見渡している。そんなナーチェを微笑みながら父のセルディストは見守っていた。
「ナーチェ、こんな所に閉じ込めてしまった父を恨んでるかな?」
父の問の意味がナーチェには分からなかった。
何故ならナーチェはここ以外知らないから閉じ込められてるという感覚をまるで持っていなかったからだ。
「お父様、ナーチェは閉じ込められてはいません。ちゃんと歩いてアチコチ行けます」
ナーチェの返事にセルディストはまたもや苦笑する。自分の人嫌いが今後のナーチェに影響を及ぼす事が分かっていても、どうしても社交を積極的にする気にはなれなかった。
幼いナーチェに一人で茶会になど行かせられないし、その為だけに再婚するつもりもない。
それをどうやってナーチェに説明するか、散々迷ってこの年まで来てしまった。
でもナーチェにも友は必要である事は分かっていた。
「ナーチェ友達が欲しいだろう?」
「お友達ですか?あっ!いえ⋯」
ナーチェは友達と聞いてユースティオが脳裏に浮かんだ。ユースティオと出会ってからもうすぐ一年が経つ。約束の一年だ。
その間、父にユースティオとの出会いを話せなかったのは、行ってはいけないと言われた場所に行ってしまっていたからだった。
今勢いでユースティオの事を言いかけて、それを思い出してまた言い淀んでしまったが、そんな言い方では直ぐにバレてしまった。
父のジッと見つめる目だけの詰問にナーチェは降参してユースティオとの出会いを白状した。
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