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ナーチェ編
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「お久しぶりです、カールトン公爵令嬢」
面会希望のアンソニーは応接室で待っていて、ナーチェが部屋に入るとそんな挨拶をして微笑んだ。
その微笑みはどこかスッキリして見えて、半年前の彼とは全くの別人のようでナーチェは少しばかり混乱してしまった。
「お久しぶりです。ルーディスト侯爵様」
ナーチェが挨拶を返すと彼は再び微笑んだ。
「今日はお願いがあって参りました」
「お願いですか?」
「はい」
「何でしょう?」
「では単刀直入に。オルトやチェルシー達の所業を公表してくださいませんか?貴方が止めていると聞いてお願いしに参ったのです」
「ルーディスト侯爵はもう落ち着かれましたの?」
ナーチェはアンソニーを気遣って聞いたがアンソニーは首を傾げて不思議そうな顔をした、だがその後唇をキュッと引き結んでからナーチェを見つめた。
「カールトン公爵令嬢、貴方は私を慮る必要はないんです」
「?」
アンソニーの言葉がナーチェには分からなくて今度はナーチェが不思議そうに首を傾げた。
「貴方が責任を感じる必要はないんですよ。きっとまだはっきりしないので貴方の耳には入ってないかも知れませんし、罪だけを公表して詳細は知らされないかもしれませんので、私から言わせてもらいます」
アンソニーの回りくどい言い方にナーチェは益々不思議に思った。
「オルト達がこの国でカールトン公爵家に近づく足がかりにしたのが、前ルーディスト侯爵、つまり私の父のようです」
「えっ?」
「実は我が家の侍女長がターミルドという姓を覚えていたので、此方で父の残された書簡を調べてみました。一部が処分されていまして全容はハッキリとは分かりませんが、それらによって憶測を立てることは可能でした。一応それらは全て騎士団や陛下には渡していますので、カールトン公爵令嬢にはお話します」
「⋯⋯⋯はい」
「あいつ等はカールトン公爵家に近づく足掛かりにルーディスト侯爵家に目を付けたようです」
「えっ?」
「おそらくですがカールトン公爵の唯一の友が父だけだったからだと思われます。ルーディスト侯爵家に先ず近づき両親を殺めたと私は思っています」
「ええっ!!!それは本当ですか?」
「いえ、本当かどうかは分かりません。それに関しては口を割らないのです。だからこそ憶測でしか話せないんです。でも私はほぼ間違いないと思ってます、状況的に。だからカールトン公爵が私を巻き込んだのではなくて、ルーディスト侯爵家がオルト達に先に対応を間違えたのだと思います」
「それでも、父の友人という事で巻き込まれたのではないでしょうか?」
「それは、そうだと申し上げるしかありませんが、両親が、いや父が上手く立ち回れたのならこんな悲劇は起こらなかったのだと私は考えます。父はオルト達の計画を知っていたような言葉を残していました」
「そんな⋯」
「だから貴方達父娘が、特に貴方が私に責任を感じる必要はないんですよ」
アンソニーのその言葉にナーチェはフッと肩の力が抜けた気がした。今まで周りに散々同じ言葉を言われてもそんな気になれなかったのに。
「ルーディスト侯爵様、貴方はそれで良いのですか?発表されてしまったら⋯侯爵家は晒されます」
「元より覚悟しております。というよりやっと覚悟が出来たというところでしょうか」
アンソニーはそう言ってナーチェにまた微笑んだ。そこに迷いは一切無いようにナーチェには見えた。
「私は、私の選択は息子のランディです。彼がなるべく健やかに育つことが私の願いなので。その為に再婚が必要ならばしようと思って悪足掻きしてるのですが、信用ができるかどうか分からない相手に全てを話す事が困難なので、できれば公表してもらえると此方としても助かるんです」
「どういう事でしょうか?」
「私が再婚相手を探すのはルーディスト侯爵家を存続させる為だけです。お相手の方にはその点を分かって貰わなければならないんです。完全に政略になりますから。ただ今後チェルシーの事は公表される事は分かっていますのでお相手に説明しておかなければならないのですが、話してから断られても此方としても困る、だが黙って話を進める訳にもいかないので。お分かりでしょうか?途方にくれております」
「私が止めていることがルーディスト侯爵の枷になってしまったのですね」
「貴方の心遣いには感謝しております。急いで公表されなかった事で息子にも私にも考える時間を貰えて心に余裕ができましたから。ですが貴方にも幸せになってもらわないと私は、私が心苦しいのです。公表が遅れれば遅れるほど貴方の幸せも遅くなりますからね」
「そんな事⋯!」
「私は、貴方には誰よりも幸せになってほしいと願う一人なんです。いえ幸せになって貰わないと困るんです」
「でも⋯」
「そうでなければ私と息子は幸せに引け目を感じてしまいます」
アンソニーがそう言ってナーチェに微笑む。その微笑みにはナーチェへの気遣いが見えてナーチェの心の憂いと淀みが浄化されていくように思えた。
─私、幸せになってもいいのね─
ナーチェは事件が起こってから初めてそう思えたのだった。
面会希望のアンソニーは応接室で待っていて、ナーチェが部屋に入るとそんな挨拶をして微笑んだ。
その微笑みはどこかスッキリして見えて、半年前の彼とは全くの別人のようでナーチェは少しばかり混乱してしまった。
「お久しぶりです。ルーディスト侯爵様」
ナーチェが挨拶を返すと彼は再び微笑んだ。
「今日はお願いがあって参りました」
「お願いですか?」
「はい」
「何でしょう?」
「では単刀直入に。オルトやチェルシー達の所業を公表してくださいませんか?貴方が止めていると聞いてお願いしに参ったのです」
「ルーディスト侯爵はもう落ち着かれましたの?」
ナーチェはアンソニーを気遣って聞いたがアンソニーは首を傾げて不思議そうな顔をした、だがその後唇をキュッと引き結んでからナーチェを見つめた。
「カールトン公爵令嬢、貴方は私を慮る必要はないんです」
「?」
アンソニーの言葉がナーチェには分からなくて今度はナーチェが不思議そうに首を傾げた。
「貴方が責任を感じる必要はないんですよ。きっとまだはっきりしないので貴方の耳には入ってないかも知れませんし、罪だけを公表して詳細は知らされないかもしれませんので、私から言わせてもらいます」
アンソニーの回りくどい言い方にナーチェは益々不思議に思った。
「オルト達がこの国でカールトン公爵家に近づく足がかりにしたのが、前ルーディスト侯爵、つまり私の父のようです」
「えっ?」
「実は我が家の侍女長がターミルドという姓を覚えていたので、此方で父の残された書簡を調べてみました。一部が処分されていまして全容はハッキリとは分かりませんが、それらによって憶測を立てることは可能でした。一応それらは全て騎士団や陛下には渡していますので、カールトン公爵令嬢にはお話します」
「⋯⋯⋯はい」
「あいつ等はカールトン公爵家に近づく足掛かりにルーディスト侯爵家に目を付けたようです」
「えっ?」
「おそらくですがカールトン公爵の唯一の友が父だけだったからだと思われます。ルーディスト侯爵家に先ず近づき両親を殺めたと私は思っています」
「ええっ!!!それは本当ですか?」
「いえ、本当かどうかは分かりません。それに関しては口を割らないのです。だからこそ憶測でしか話せないんです。でも私はほぼ間違いないと思ってます、状況的に。だからカールトン公爵が私を巻き込んだのではなくて、ルーディスト侯爵家がオルト達に先に対応を間違えたのだと思います」
「それでも、父の友人という事で巻き込まれたのではないでしょうか?」
「それは、そうだと申し上げるしかありませんが、両親が、いや父が上手く立ち回れたのならこんな悲劇は起こらなかったのだと私は考えます。父はオルト達の計画を知っていたような言葉を残していました」
「そんな⋯」
「だから貴方達父娘が、特に貴方が私に責任を感じる必要はないんですよ」
アンソニーのその言葉にナーチェはフッと肩の力が抜けた気がした。今まで周りに散々同じ言葉を言われてもそんな気になれなかったのに。
「ルーディスト侯爵様、貴方はそれで良いのですか?発表されてしまったら⋯侯爵家は晒されます」
「元より覚悟しております。というよりやっと覚悟が出来たというところでしょうか」
アンソニーはそう言ってナーチェにまた微笑んだ。そこに迷いは一切無いようにナーチェには見えた。
「私は、私の選択は息子のランディです。彼がなるべく健やかに育つことが私の願いなので。その為に再婚が必要ならばしようと思って悪足掻きしてるのですが、信用ができるかどうか分からない相手に全てを話す事が困難なので、できれば公表してもらえると此方としても助かるんです」
「どういう事でしょうか?」
「私が再婚相手を探すのはルーディスト侯爵家を存続させる為だけです。お相手の方にはその点を分かって貰わなければならないんです。完全に政略になりますから。ただ今後チェルシーの事は公表される事は分かっていますのでお相手に説明しておかなければならないのですが、話してから断られても此方としても困る、だが黙って話を進める訳にもいかないので。お分かりでしょうか?途方にくれております」
「私が止めていることがルーディスト侯爵の枷になってしまったのですね」
「貴方の心遣いには感謝しております。急いで公表されなかった事で息子にも私にも考える時間を貰えて心に余裕ができましたから。ですが貴方にも幸せになってもらわないと私は、私が心苦しいのです。公表が遅れれば遅れるほど貴方の幸せも遅くなりますからね」
「そんな事⋯!」
「私は、貴方には誰よりも幸せになってほしいと願う一人なんです。いえ幸せになって貰わないと困るんです」
「でも⋯」
「そうでなければ私と息子は幸せに引け目を感じてしまいます」
アンソニーがそう言ってナーチェに微笑む。その微笑みにはナーチェへの気遣いが見えてナーチェの心の憂いと淀みが浄化されていくように思えた。
─私、幸せになってもいいのね─
ナーチェは事件が起こってから初めてそう思えたのだった。
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