41 / 46
ユースティオ編
40
しおりを挟む
男爵位を賜ってユースティオはこの国では家名をソルバンジーからラッテと変更していた。
今の彼の地位はラッテ男爵だ。その時から王都の城近くに家を借りて住んでいた。
独り暮らしを決め込んでいたから邸宅を建てる必要性を感じなかったユースティオはルディックが隠れ屋にしていた場所を借り受けていた。
「旦那様おかえりなさいませ」
「あぁ、客室に案内してくれ。義弟のラオスだ」
「左様でしたか。初めましてラオス様、家令のルクソールです」
「あっはい⋯⋯あっよろしくお願いします」
ラオスは慣れない仕草で挨拶をして、ルクソールに連れられて客室へと向かった。その後ろ姿を見てユースティオはホッとひと息ついた。
いつの間にか後ろに控えているのは侍従のトルソーだ。
「旦那様おかえりなさいませ」
「急で悪いが食事を二人分用意してくれ、あと今日はデザートも出して欲しいとシェフに伝えてくれるか?」
「畏まりました、デザートのご希望はございますか?」
トルソーに聞かれてユースティオは少し考えて任せると言った、ラオスが子供の頃は甘い物なら何でも好きだと言っていたからだ。
自室に戻りユースティオは着替える。近衛の寮に入った時、通常の衣服は自身で着替えられるようになっていた、湯浴みを軽く済ませて食堂に向かった。
ルクソールがきちんと準備してくれたのか、ラオスは来た時とは違いこざっぱりとした服に着替えていた。
軽く湯浴みもしたのだろう、煤けて見えた顔もサッパリとして見える。
「ラオス、先ずは食事だ。食べてから話そう」
10数年ぶりに一緒に食事をする、心配していたがラオスの所作はきちんとしていてユースティオには意外だった。
食事のあとはラオスに充てがった客間に移動して義兄弟は漸く向き合った。
「相談だったな、だがその前にどうして死んだ事になったのかそれを聞きたいんだが」
ユースティオの問いかけにラオスは首を左右に振った。
「兄様、僕の事にも関係あるけど一番の相談は、ナーチェ様を探してほしいということなんだ」
「は?」
ラオスの口から出るはずのない名前が飛び出してユースティオは思わず口から乾いた声を発した。
「どういうことだ?何故ラオスがナーチェを知ってる?いやそれよりもナーチェは結婚したんだろう?それにどうして俺とナーチェの関係をラオスが知ってるんだ!」
聞きたいことが次々と飛び出してくる。
ラオスは膝に置いた拳をギュッと握りしめた。
「兄様落ち着いて聞いて、ごめんやっぱり初めから話す。ナーチェ様の件は僕にも良くわからない事が多すぎるんだ」
「分かった」
「ソルバンジー公爵家に引き取られて直ぐから僕は夫人から毎晩毒を飲まされていたんだ」
「は?毒?」
ユースティオは驚愕したが、あの母ならやりかねないとも思った。
「兄様が僕を可愛がってくれたから兄様が一緒の時は、飲ませられなかったんだと思う。毎晩部屋に来て薬だと言って飲まされていたんだけど、飲むまでずっと見てるから怖くなって、偶に袖口に流したりしてたんだ」
ソルバンジー公爵夫人がラオスに飲ませていたのは蓄積型の毒で直ぐに症状の出るものではなかった。だが毎日のようにラオスの部屋に夫人が訪えば屋敷の中では噂になる、不審に思ったユースティオの乳母が進言した為、公爵の知る事となった。公爵はラオスを領地の孤児院に避難させることにした。王命での結婚であった為、毒を盛った相手が庶子だったことから夫人を捕縛する事が公爵にはできなかった為だ。
そこでラオスは育つ事になったのだが、それを隠す為にその年から領地に行くのはやめる事にした。だがユースティオの必死の願いには勝てなかったし、自身の母親が可愛がってる義弟に毒を盛ってるなど聞かせられる話ではない。だから公爵は彼の領地行きを許してしまった、だがそのせいで夫人がラオスの行き先を知ることになってしまった。
そこで公爵はラオスを死んだ事にした、だが領地にいたらいつかバレるかもしれない、そこでソルバンジー公爵はカールトン公爵に頼んだ。
彼の公爵は領地に引き篭もりで社交をしない事、絶対に自分の妻と接触などしない事も計算した。
ラオスの境遇に甚く同情した公爵はラオスにドウンという名を与え庭師の息子としてカールトン公爵家に囲い込んでくれたのだった。
今の彼の地位はラッテ男爵だ。その時から王都の城近くに家を借りて住んでいた。
独り暮らしを決め込んでいたから邸宅を建てる必要性を感じなかったユースティオはルディックが隠れ屋にしていた場所を借り受けていた。
「旦那様おかえりなさいませ」
「あぁ、客室に案内してくれ。義弟のラオスだ」
「左様でしたか。初めましてラオス様、家令のルクソールです」
「あっはい⋯⋯あっよろしくお願いします」
ラオスは慣れない仕草で挨拶をして、ルクソールに連れられて客室へと向かった。その後ろ姿を見てユースティオはホッとひと息ついた。
いつの間にか後ろに控えているのは侍従のトルソーだ。
「旦那様おかえりなさいませ」
「急で悪いが食事を二人分用意してくれ、あと今日はデザートも出して欲しいとシェフに伝えてくれるか?」
「畏まりました、デザートのご希望はございますか?」
トルソーに聞かれてユースティオは少し考えて任せると言った、ラオスが子供の頃は甘い物なら何でも好きだと言っていたからだ。
自室に戻りユースティオは着替える。近衛の寮に入った時、通常の衣服は自身で着替えられるようになっていた、湯浴みを軽く済ませて食堂に向かった。
ルクソールがきちんと準備してくれたのか、ラオスは来た時とは違いこざっぱりとした服に着替えていた。
軽く湯浴みもしたのだろう、煤けて見えた顔もサッパリとして見える。
「ラオス、先ずは食事だ。食べてから話そう」
10数年ぶりに一緒に食事をする、心配していたがラオスの所作はきちんとしていてユースティオには意外だった。
食事のあとはラオスに充てがった客間に移動して義兄弟は漸く向き合った。
「相談だったな、だがその前にどうして死んだ事になったのかそれを聞きたいんだが」
ユースティオの問いかけにラオスは首を左右に振った。
「兄様、僕の事にも関係あるけど一番の相談は、ナーチェ様を探してほしいということなんだ」
「は?」
ラオスの口から出るはずのない名前が飛び出してユースティオは思わず口から乾いた声を発した。
「どういうことだ?何故ラオスがナーチェを知ってる?いやそれよりもナーチェは結婚したんだろう?それにどうして俺とナーチェの関係をラオスが知ってるんだ!」
聞きたいことが次々と飛び出してくる。
ラオスは膝に置いた拳をギュッと握りしめた。
「兄様落ち着いて聞いて、ごめんやっぱり初めから話す。ナーチェ様の件は僕にも良くわからない事が多すぎるんだ」
「分かった」
「ソルバンジー公爵家に引き取られて直ぐから僕は夫人から毎晩毒を飲まされていたんだ」
「は?毒?」
ユースティオは驚愕したが、あの母ならやりかねないとも思った。
「兄様が僕を可愛がってくれたから兄様が一緒の時は、飲ませられなかったんだと思う。毎晩部屋に来て薬だと言って飲まされていたんだけど、飲むまでずっと見てるから怖くなって、偶に袖口に流したりしてたんだ」
ソルバンジー公爵夫人がラオスに飲ませていたのは蓄積型の毒で直ぐに症状の出るものではなかった。だが毎日のようにラオスの部屋に夫人が訪えば屋敷の中では噂になる、不審に思ったユースティオの乳母が進言した為、公爵の知る事となった。公爵はラオスを領地の孤児院に避難させることにした。王命での結婚であった為、毒を盛った相手が庶子だったことから夫人を捕縛する事が公爵にはできなかった為だ。
そこでラオスは育つ事になったのだが、それを隠す為にその年から領地に行くのはやめる事にした。だがユースティオの必死の願いには勝てなかったし、自身の母親が可愛がってる義弟に毒を盛ってるなど聞かせられる話ではない。だから公爵は彼の領地行きを許してしまった、だがそのせいで夫人がラオスの行き先を知ることになってしまった。
そこで公爵はラオスを死んだ事にした、だが領地にいたらいつかバレるかもしれない、そこでソルバンジー公爵はカールトン公爵に頼んだ。
彼の公爵は領地に引き篭もりで社交をしない事、絶対に自分の妻と接触などしない事も計算した。
ラオスの境遇に甚く同情した公爵はラオスにドウンという名を与え庭師の息子としてカールトン公爵家に囲い込んでくれたのだった。
32
あなたにおすすめの小説
たのしい わたしの おそうしき
syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。
彩りあざやかな花をたくさん。
髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。
きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。
辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。
けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。
だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。
沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。
ーーーーーーーーーーーー
物語が始まらなかった物語。
ざまぁもハッピーエンドも無いです。
唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*)
こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄)
19日13時に最終話です。
ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*
【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る
甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。
家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。
国王の政務の怠慢。
母と妹の浪費。
兄の女癖の悪さによる乱行。
王家の汚点の全てを押し付けられてきた。
そんな彼女はついに望むのだった。
「どうか死なせて」
応える者は確かにあった。
「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」
幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。
公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。
そして、3日後。
彼女は処刑された。
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした
珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……?
基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。
(完結)私が貴方から卒業する時
青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。
だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・
※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。
どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~
クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。
同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。
ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した…
誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる