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5 マーシェの秘密
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「リリアン様、一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
マーシェはこの半年間、誰にも相談できずに悩んでいた事を、初めて打ち明ける相手に夫の前妻を選んだ。
「はい、私に答えられることでしたら何でもお答えいたしますわ」
何かの決意が見て取れるマーシェにリリアンは力強く頷きながら請け負った。
「実は、フォスティーヌ様が一方的に話したカフェの帰りに私夫とすれ違ったのです」
「マーロウ公爵と?」
リリアンは聞き返しながら、その話がおかしな事に気付いた。マーシェの表現の仕方に違和感を感じたのだ。
「はい、リリアン様この先は他言無用に願います。初めて会った貴方に私の秘密を話すのです。どうかそれほど私が切羽詰まっていると考えて口を噤んでいただけないでしょうか?」
マーシェの懇願に否と言うことはリリアンには出来なかった。彼女の目はそれほどに真剣で少し潤んでもいた。
リリアンは浅く息を吐き、マーシェの目を見てもう一度コクンと大きく頷いた。
「私は産まれたときから鼻が異常な程に利くのです」
「鼻が利く?」
「はい、香水を有り得ない程大量に振りかければ多少なりとも隠せるかと思いますが、一度会った相手は匂いで分別出来るのです。その他にも嗅いだ匂いは忘れませんので、密かに隠れた相手も探す事ができます。まるで猟犬のように」
「⋯⋯それは」
リリアンはマーシェの秘密をとても稀有だとは思ったが、それが素晴らしいと褒め称えるものなのかは分からなかった。マーシェ自身が自分を猟犬のようだと比喩しているのだから、あまり歓迎している能力ではないのだと理解もした。だから二の句を告げる事が出来なかった。
だがマーシェはリリアンが言葉に詰まるのも構わずに話し続けた。
「だから私はその人が夫だと分かったのです。夫は変装していました、それも目の色も髪の色も変えて、変えられないのは背の高さくらいなのでしょうか?変装は完璧でしたから普通の人では分からなかったでしょう。私だから分かったのです」
「それは間違いではないのね?」
「はい、夫の匂いはわかります」
「そう」
夫の匂い、マーシェのその艶めかしい表現にリリアンは少し懐かしさを覚えてしまって、一瞬昔を思い出した、だが直ぐにフォスティーヌの憎らしい顔が脳裏に現れ、それを振り切るように頭を振った。
「どうかされましたか?」
「いえ、何でもないわ。それでマーロウ公爵は変装していただけなのかしら?それだけならばマーシェ様はそんなに悩んでおられないでしょう?」
「はい、そうなのです。実は結婚した当初から⋯」
マーシェはリリアンにマーロウ公爵アルマンが初夜以降、執務室に閉じ篭っている事を打ち明けた。
2年の婚姻期間でマーシェは夫の姿を見たのは片手で足りる程だと話した。
あまりのことにリリアンは目眩がしてきた。衣食住の全てを執務室で行うなんてことはリリアンとの婚姻期間では無かった事だ。もし自分がそんな対応をされたら直ぐに実家に帰ったことだろう。
きっとマーシェは王命の婚姻だから逃げずにいたのだと同情の眼差しで見つめた。
「そのすれ違った日はモリアもカリス(マーシェの護衛)もいましたから、あとは追いませんでした。ですが一緒にいた女性を「ちょっと待って」」
リリアンは聞き捨てならない言葉に反応して思わずマーシェの言葉を遮った。
「女性?女性と一緒に居たというの?」
「はい、並んでいらっしゃいました。ですがその時、エスコートはされていませんでした」
「エスコートをしていない?変ね」
女性と並んで歩いていてエスコートをしないなんて、考えられるのは使用人としか思えない。だがアルマンは公爵だ、使用人になどなるはずがない。
「ねぇマーシェ様。あなたの言葉も能力も疑うわけではないのだけど、本当に公爵だったの?」
リリアンの言葉を聞いてマーシェは尤もな質問だと思った。だがマーシェは自分の鼻を信じているしそれは譲れない。
「確かにお疑いになるのも分かりますが、絶対に夫でした。それにその後私も調べたのです」
「調べた?」
「はい、調べました。そして確信して夫の不可解な行動を知りました」
「まぁ」
リリアンはマーシェの目に宿る猜疑心を見つけてしまい、驚愕のあまり両掌で口を覆った。
マーシェはこの半年間、誰にも相談できずに悩んでいた事を、初めて打ち明ける相手に夫の前妻を選んだ。
「はい、私に答えられることでしたら何でもお答えいたしますわ」
何かの決意が見て取れるマーシェにリリアンは力強く頷きながら請け負った。
「実は、フォスティーヌ様が一方的に話したカフェの帰りに私夫とすれ違ったのです」
「マーロウ公爵と?」
リリアンは聞き返しながら、その話がおかしな事に気付いた。マーシェの表現の仕方に違和感を感じたのだ。
「はい、リリアン様この先は他言無用に願います。初めて会った貴方に私の秘密を話すのです。どうかそれほど私が切羽詰まっていると考えて口を噤んでいただけないでしょうか?」
マーシェの懇願に否と言うことはリリアンには出来なかった。彼女の目はそれほどに真剣で少し潤んでもいた。
リリアンは浅く息を吐き、マーシェの目を見てもう一度コクンと大きく頷いた。
「私は産まれたときから鼻が異常な程に利くのです」
「鼻が利く?」
「はい、香水を有り得ない程大量に振りかければ多少なりとも隠せるかと思いますが、一度会った相手は匂いで分別出来るのです。その他にも嗅いだ匂いは忘れませんので、密かに隠れた相手も探す事ができます。まるで猟犬のように」
「⋯⋯それは」
リリアンはマーシェの秘密をとても稀有だとは思ったが、それが素晴らしいと褒め称えるものなのかは分からなかった。マーシェ自身が自分を猟犬のようだと比喩しているのだから、あまり歓迎している能力ではないのだと理解もした。だから二の句を告げる事が出来なかった。
だがマーシェはリリアンが言葉に詰まるのも構わずに話し続けた。
「だから私はその人が夫だと分かったのです。夫は変装していました、それも目の色も髪の色も変えて、変えられないのは背の高さくらいなのでしょうか?変装は完璧でしたから普通の人では分からなかったでしょう。私だから分かったのです」
「それは間違いではないのね?」
「はい、夫の匂いはわかります」
「そう」
夫の匂い、マーシェのその艶めかしい表現にリリアンは少し懐かしさを覚えてしまって、一瞬昔を思い出した、だが直ぐにフォスティーヌの憎らしい顔が脳裏に現れ、それを振り切るように頭を振った。
「どうかされましたか?」
「いえ、何でもないわ。それでマーロウ公爵は変装していただけなのかしら?それだけならばマーシェ様はそんなに悩んでおられないでしょう?」
「はい、そうなのです。実は結婚した当初から⋯」
マーシェはリリアンにマーロウ公爵アルマンが初夜以降、執務室に閉じ篭っている事を打ち明けた。
2年の婚姻期間でマーシェは夫の姿を見たのは片手で足りる程だと話した。
あまりのことにリリアンは目眩がしてきた。衣食住の全てを執務室で行うなんてことはリリアンとの婚姻期間では無かった事だ。もし自分がそんな対応をされたら直ぐに実家に帰ったことだろう。
きっとマーシェは王命の婚姻だから逃げずにいたのだと同情の眼差しで見つめた。
「そのすれ違った日はモリアもカリス(マーシェの護衛)もいましたから、あとは追いませんでした。ですが一緒にいた女性を「ちょっと待って」」
リリアンは聞き捨てならない言葉に反応して思わずマーシェの言葉を遮った。
「女性?女性と一緒に居たというの?」
「はい、並んでいらっしゃいました。ですがその時、エスコートはされていませんでした」
「エスコートをしていない?変ね」
女性と並んで歩いていてエスコートをしないなんて、考えられるのは使用人としか思えない。だがアルマンは公爵だ、使用人になどなるはずがない。
「ねぇマーシェ様。あなたの言葉も能力も疑うわけではないのだけど、本当に公爵だったの?」
リリアンの言葉を聞いてマーシェは尤もな質問だと思った。だがマーシェは自分の鼻を信じているしそれは譲れない。
「確かにお疑いになるのも分かりますが、絶対に夫でした。それにその後私も調べたのです」
「調べた?」
「はい、調べました。そして確信して夫の不可解な行動を知りました」
「まぁ」
リリアンはマーシェの目に宿る猜疑心を見つけてしまい、驚愕のあまり両掌で口を覆った。
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