公爵夫人マーシェのお悩み

maruko

文字の大きさ
14 / 59

13 マーシェの本心

しおりを挟む
 お互いに話さなければと思っていても、どちらも話す事を頭で整理できずに言い兼ねていた。
 マーシェは結婚以来、夫とこんなにも会話が続いた事があっただろうかと内心で苦笑していた。
 やはり彼は王命でなければ話そうと思わないほど、マーシェに興味はなかったのかと自嘲する。
 その時になってマーシェの中でリリアンが羨ましいと思う感情が初めて芽生えてしまった。図書館で話すリリアンは一つ上でも出産を経験しているからだろうか、マーシェから見るとかなり落ち着いて気持ち的にどっしりしていると思えた。
 それが姉のように感じて、マーシェの中で彼女は“王都の姉”そう思って慕っていた。

 リリアンはマーシェの事を同じ被害者だと言ってくれたけれど、被害者はリリアンの方が相応しく感じた。
 だが、それもマーシェの中では羨ましいと思える要素だった。
 それが愛された者と愛されない者の違いなんだとマーシェは感じていたが、リリアンにしてみれば愛があって子を設けたとは思っていないから、マーシェの思い込みが過ぎると言うものだ。

 悶々と自分の立場がかなり惨めなものだと感じてきたマーシェは、唐突に胸の内から言い知れない痛みが襲ってきた。
 苦しい⋯胸が痛い。
 それはマーシェがマーロウ公爵家ここに来て初めて感じる痛みだった。いや生まれてこの方こんな痛みには身に覚えがない。
 思わず胸を押さえてうつむいていたマーシェにアルマンが気付いた。

「胸が苦しいのか?」

「⋯⋯⋯少し」

「水が飲めるか?」

 そう言ってアルマンが水差しからコップに移しマーシェの手にそっと握らせる。
 受け取ったマーシェはその時に初めて夫の手が大きいと感じた。
 この2年で数えるほどではあるが、夜会でのエスコートやそういえば初夜の時など、手の大きさを感じる事はあったのに、今日ほど実感として感じたことはなかった。

 マーシェは不思議な感覚にとらわれながらも渡された水を飲んだ。

 痛みは変わらなかったが少し落ち着いた。
 眉間にしわを寄せたまま心配そうにしているアルマンの顔を見る。

 相変わらず精悍な顔立ちをしている。

 そのままアルマンの澄み渡った晴れの日の空のような青い瞳を見つめた時、今までマーシェの中になかった感情が不意に胸の内からあふれて呟いてしまった。
 言ってすぐに自分が何を言ったか気付いて口を慌てて右手で塞いだ。

 自分の口から出た言葉が自分で信じられなかった。
 そして途端に惨めな気持ちになり、昨夜籠った部屋へと走って逃げた。

 アルマンはマーシェのその行動に目を見開く。

 そして自分達の、否した事に初めて罪悪感を覚えた。

「⋯⋯マーシェ」

 取り残されたアルマンは自分の耳に聞こえたマーシェの本心からの呟きが脳内で繰り返されていた。

『愛されたい』

 アルマンはマーシェを自分の都合に巻き込んだのだと強く反省するのだが、立ち上がって追いかける事は出来なかった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

処理中です...