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14 マーシェの出奔
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昨夜の客間に駆け込んだマーシェは、取り繕うことも出来ずにベッドに潜り込んだ。
この部屋を離れてあまり時間が経っていないにも拘わらず、部屋はいつもの客間に変わっていた。
シーツも掛布も取り替えられてベッドメイキングが完璧に施されていたのだが、マーシェはそんな事にその時は気付いていなかった。
暫く蹲っていても昨夜と違ってアルマンは追いかけて部屋に来ることはなかった。
それに気づいたとき、マーシェは起き上がり呆然と叩かれない扉を見つめた。
自分が夫の愛を欲していた事を自覚した途端、背を向けられて相手にされない自分をも自覚してしまった。
「愛のない婚姻は当たり前じゃない」
呟くマーシェの頭の中にリリアンの言葉が思い出される。
『愛もなく子を設けたが、そこに長年の信頼関係があると思っていたのは自分だけだった』
それでもリリアンには子どもが残っている、マーシェには何もないのだ。
「私って何の為にここにいるの?」
ここでの生活はマーシェには意味がないのだと思った、そしてここの人達にもマーシェの存在は意味がないのだ。
辺境からやってきたお飾りの妻
フォスティーヌ避けの名ばかりの妻
都合のいい女だと苦笑したが、段々と惨めさが込み上げてきて声を上げて笑い出した。
涙があとからあとから溢れて止まらない。
笑いながら泣く、そんな経験をしたことがなかったマーシェ。
ますます苦しい胸は今にも張り裂けそうだった。
(法律なんてもう関係ない、もうここを出て行こう。こんな所居たくないわ)
どんなに贅沢が出来ても今のマーシェには全く価値がなかった。
いやマーシェこそが価値がないと思えた。
マーシェは掌で涙を拭い、立ち上がった。
昨日から着替えていないしわくちゃのルームドレスのまま部屋を出た。
そのままマーロウ公爵家をも出て行った。
それに誰も気付かないのが、マーシェがマーロウ公爵家で孤立していた事の証明だった。
◇◇◇
公爵家を出たマーシェはトボトボと辻馬車乗り場への道を歩いていた。
手に何の荷物も持たずに衝動的に家を出た事は、門を抜けても誰にも止められなかった時に我に返って思い出していたが、戻る気にはなれなかった。
「所詮私はこんなもの」
声に出すとますます惨めになってきた。
胸のポケットにあるのは姉からの手紙と少しのお金。
胸元に母から貰ったネックレス。
指には辛うじて結婚の証明になる結婚指輪。
マーシェの今の手持ちはそれだけだった。
どこに行く当てもなく辻馬車乗り場についたマーシェだったが、辺境への道のりを考えていた。
いくつの馬車を乗り継げばいいのか分からない。
いつもは家の馬車で移動するから乗り換えなどしないのだ。
直通で行く馬車がないことなど今までは知るよしもなかった。
辻馬車乗り場で自分が世間知らずだったと改めて気付かされたマーシェは、乗り場の待合室でぼんやりとしていた。
幸いだったのは今が夜ではないという事だった。
待合室にも数人の馬車を待つ人達が、おしゃべりをしていた。
その二人組はどこかの家の侍女なのだろう、旅装の格好をしていて邸の話をしている。
勤めている家の事を口外する事は、どこの家でもご法度な事は当たり前だが、それにも拘わらずおしゃべりしているのは、下位貴族の家の使用人なのだろうと、話に耳を傾けながらマーシェは考えていた。
彼女たちが話しているのは奇しくもフォスティーヌが関係している事のようだ。
どうやらフォスティーヌがその家のお嬢様に酷いことをしたらしい。
だが当主は娘にされた事をちゃんと把握しておらず娘を叱責したようだ。
それでお嬢様が家出をしたから手助けしようと向かっているのだと言っている。
マーシェは、こんなところでそんな話をしてしまえば、手助けどころか居場所を教えるようなものだとその失態を咎めたくなった。
そのお嬢様は内容はよくわからないが、マーシェと似たようなものだと思えて同情してしまった。
そこで突発的に思いついた。
(この人について行ってみよう)
マーシェの目的地が本人にも分からないまま決定した。
この部屋を離れてあまり時間が経っていないにも拘わらず、部屋はいつもの客間に変わっていた。
シーツも掛布も取り替えられてベッドメイキングが完璧に施されていたのだが、マーシェはそんな事にその時は気付いていなかった。
暫く蹲っていても昨夜と違ってアルマンは追いかけて部屋に来ることはなかった。
それに気づいたとき、マーシェは起き上がり呆然と叩かれない扉を見つめた。
自分が夫の愛を欲していた事を自覚した途端、背を向けられて相手にされない自分をも自覚してしまった。
「愛のない婚姻は当たり前じゃない」
呟くマーシェの頭の中にリリアンの言葉が思い出される。
『愛もなく子を設けたが、そこに長年の信頼関係があると思っていたのは自分だけだった』
それでもリリアンには子どもが残っている、マーシェには何もないのだ。
「私って何の為にここにいるの?」
ここでの生活はマーシェには意味がないのだと思った、そしてここの人達にもマーシェの存在は意味がないのだ。
辺境からやってきたお飾りの妻
フォスティーヌ避けの名ばかりの妻
都合のいい女だと苦笑したが、段々と惨めさが込み上げてきて声を上げて笑い出した。
涙があとからあとから溢れて止まらない。
笑いながら泣く、そんな経験をしたことがなかったマーシェ。
ますます苦しい胸は今にも張り裂けそうだった。
(法律なんてもう関係ない、もうここを出て行こう。こんな所居たくないわ)
どんなに贅沢が出来ても今のマーシェには全く価値がなかった。
いやマーシェこそが価値がないと思えた。
マーシェは掌で涙を拭い、立ち上がった。
昨日から着替えていないしわくちゃのルームドレスのまま部屋を出た。
そのままマーロウ公爵家をも出て行った。
それに誰も気付かないのが、マーシェがマーロウ公爵家で孤立していた事の証明だった。
◇◇◇
公爵家を出たマーシェはトボトボと辻馬車乗り場への道を歩いていた。
手に何の荷物も持たずに衝動的に家を出た事は、門を抜けても誰にも止められなかった時に我に返って思い出していたが、戻る気にはなれなかった。
「所詮私はこんなもの」
声に出すとますます惨めになってきた。
胸のポケットにあるのは姉からの手紙と少しのお金。
胸元に母から貰ったネックレス。
指には辛うじて結婚の証明になる結婚指輪。
マーシェの今の手持ちはそれだけだった。
どこに行く当てもなく辻馬車乗り場についたマーシェだったが、辺境への道のりを考えていた。
いくつの馬車を乗り継げばいいのか分からない。
いつもは家の馬車で移動するから乗り換えなどしないのだ。
直通で行く馬車がないことなど今までは知るよしもなかった。
辻馬車乗り場で自分が世間知らずだったと改めて気付かされたマーシェは、乗り場の待合室でぼんやりとしていた。
幸いだったのは今が夜ではないという事だった。
待合室にも数人の馬車を待つ人達が、おしゃべりをしていた。
その二人組はどこかの家の侍女なのだろう、旅装の格好をしていて邸の話をしている。
勤めている家の事を口外する事は、どこの家でもご法度な事は当たり前だが、それにも拘わらずおしゃべりしているのは、下位貴族の家の使用人なのだろうと、話に耳を傾けながらマーシェは考えていた。
彼女たちが話しているのは奇しくもフォスティーヌが関係している事のようだ。
どうやらフォスティーヌがその家のお嬢様に酷いことをしたらしい。
だが当主は娘にされた事をちゃんと把握しておらず娘を叱責したようだ。
それでお嬢様が家出をしたから手助けしようと向かっているのだと言っている。
マーシェは、こんなところでそんな話をしてしまえば、手助けどころか居場所を教えるようなものだとその失態を咎めたくなった。
そのお嬢様は内容はよくわからないが、マーシェと似たようなものだと思えて同情してしまった。
そこで突発的に思いついた。
(この人について行ってみよう)
マーシェの目的地が本人にも分からないまま決定した。
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