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15 マーシェの瞬間移動
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マーシェは二人と同じ馬車に乗った。
後をつけていると思われないように、なるたけ二人を視界に入れないように馬車の中で過ごした。
幸いにもどこ行きの馬車かは分からなかったが、8人乗りのこの辻馬車の乗客は多かった。
よっぽど人の行き交う領地なのだろうと想像していたマーシェは、馬車が停まり馭者からそこが終点だと聞かされて呆気に取られた。
そこは王都の西側に当たる場所で、マーシェが乗った中央の辻馬車乗り場から1時間ほどの場所だった。
王都すら出ていないご令嬢の家出先にマーシェは失望した。
前を歩く二人の後ろをこっそりついていきながらマーシェは、どこの家のご令嬢かしら? こんな近場に家出するということは本気ではなかったように感じた。
二人が入っていったのは王都でも比較的名のあるホテルの支店だった。中央広場の本店はそれなりの宿泊料だということをマーシェは知っていた。ごく稀に社交を必要とせずとも王家からの呼び出しでマーシェの父が領地から王都に来ることが以前からあった。ポリント家は必要性をあまり感じない為、王都にタウンハウスを持たない。その時に泊まるホテルだったから領地にいた時に領収書を処理した記憶が残っていた。
マーシェは迷ってその場所を後にした。
今のマーシェの手持ちではこんな高級なところには泊まれない。二人について来た自分の行き当たりばったりな決断を後悔した。
その日は少し歩いた所に偶然手頃な値段のホテルというより宿屋を発見してそこに泊まることにした。
出奔1日目にして早くも挫折気味のマーシェは、宿屋の共同風呂で湯船に浸かり天井を見上げて嘆息した。
そして漸くリリアンと話したアルマンの法律違反について思い起こした。あの時は頭が整理できずに言うことが出来なかったが、よく思い出してみると、殆どの事があの時アルマンに言った“侮辱罪”ばかりだった。
「結局言っても同じだったわね」
マーシェは呟いてから、そろそろ出ようと立ち上がったのだが、長く浸かっていたからだろうか、立ちくらみで目の前が暗くなりマーシェは湯船の中に沈んだ。
◇◇◇
目が覚めると豪華な装飾を施した模様が目に映った。はじめはぼんやりと、それから徐々にはっきりしてきた頃にはそれが天蓋だと分かった。分かったが自分の泊まる部屋にそんな物はなかったはずだった。
「ここってどこ?」
声は掠れていた。
だが近くに人が居たようでマーシェの小さな声に反応して、こちらに寄ってきた。
「気が付かれましたか?」
見知らぬ女性はお仕着せのようなものを着ていた。宿屋の従業員ではないのはすぐに理解した。それではここは本当にどこなのだろう?マーシェは共同風呂にいたはずが、どこかに突然飛んだように感じて、なんだか物語に出てくる魔法のようだと思った。
「医師を呼んでまいります」
マーシェがずっと見つめているとその女性はそう言って部屋を出ていった。
マーシェは半身を起こしてベッドの位置から部屋を見渡した。豪奢な家具や窓にかけられた重そうなカーテンが目に入る。
扉も驚く事に両開きになっており、ここはどこかの貴族の屋敷のように感じた。
少なくともマーロウ公爵家に帰ってきた訳でも、間違ってもマーシェが泊まろうとしていた宿屋でもない事は分かった。
しばらくすると白衣を着た背の高い白髪の男性と同じ様に白衣を着て妙に色っぽい女性が入ってきた。
マーシェの診察は女性の方が行った。
目の前に指を出されて何本か尋ねられたり目を思いっきり見開くように言われたりと、あまり経験したことのない事をさせられた。
その様子をじっと見ていた白髪の男性はマーシェの様子を観察しているようだった。
「脈も安定しているようですし頭も打ってはいないようですね。1日ほど安静にしていたら動いてもよろしいですよ」
白衣の女性が、いつの間にまた部屋に戻ったのか最初に居たお仕着せを着た女性に伝えていた。
「のぼせたようだね、今後は気をつけて長湯をしないように」
白髪の男性にマーシェは注意を受けたので黙って頷いた。だがまだ謎が解けていない。
「あの、ここはどこなのでしょうか?」
白衣の二人がそのまま部屋を出ようとしていたのでマーシェは慌てて質問した。今度は声は掠れていなかった。
マーシェの声に立ち止まった二人はお互いに顔を見合わせてから女性の方が教えてくれた。
「ここは王宮ですよ」
マーシェはどんな経緯で自分がここにいるのか分からず頭が混乱した。
王都の西側に居たはずなのにまるでひとっ飛びに王宮に飛んできたように思えた。
目を瞑り開けると違う場所だなんて瞬間移動の様だと呆然と自分の手を見つめた。
後をつけていると思われないように、なるたけ二人を視界に入れないように馬車の中で過ごした。
幸いにもどこ行きの馬車かは分からなかったが、8人乗りのこの辻馬車の乗客は多かった。
よっぽど人の行き交う領地なのだろうと想像していたマーシェは、馬車が停まり馭者からそこが終点だと聞かされて呆気に取られた。
そこは王都の西側に当たる場所で、マーシェが乗った中央の辻馬車乗り場から1時間ほどの場所だった。
王都すら出ていないご令嬢の家出先にマーシェは失望した。
前を歩く二人の後ろをこっそりついていきながらマーシェは、どこの家のご令嬢かしら? こんな近場に家出するということは本気ではなかったように感じた。
二人が入っていったのは王都でも比較的名のあるホテルの支店だった。中央広場の本店はそれなりの宿泊料だということをマーシェは知っていた。ごく稀に社交を必要とせずとも王家からの呼び出しでマーシェの父が領地から王都に来ることが以前からあった。ポリント家は必要性をあまり感じない為、王都にタウンハウスを持たない。その時に泊まるホテルだったから領地にいた時に領収書を処理した記憶が残っていた。
マーシェは迷ってその場所を後にした。
今のマーシェの手持ちではこんな高級なところには泊まれない。二人について来た自分の行き当たりばったりな決断を後悔した。
その日は少し歩いた所に偶然手頃な値段のホテルというより宿屋を発見してそこに泊まることにした。
出奔1日目にして早くも挫折気味のマーシェは、宿屋の共同風呂で湯船に浸かり天井を見上げて嘆息した。
そして漸くリリアンと話したアルマンの法律違反について思い起こした。あの時は頭が整理できずに言うことが出来なかったが、よく思い出してみると、殆どの事があの時アルマンに言った“侮辱罪”ばかりだった。
「結局言っても同じだったわね」
マーシェは呟いてから、そろそろ出ようと立ち上がったのだが、長く浸かっていたからだろうか、立ちくらみで目の前が暗くなりマーシェは湯船の中に沈んだ。
◇◇◇
目が覚めると豪華な装飾を施した模様が目に映った。はじめはぼんやりと、それから徐々にはっきりしてきた頃にはそれが天蓋だと分かった。分かったが自分の泊まる部屋にそんな物はなかったはずだった。
「ここってどこ?」
声は掠れていた。
だが近くに人が居たようでマーシェの小さな声に反応して、こちらに寄ってきた。
「気が付かれましたか?」
見知らぬ女性はお仕着せのようなものを着ていた。宿屋の従業員ではないのはすぐに理解した。それではここは本当にどこなのだろう?マーシェは共同風呂にいたはずが、どこかに突然飛んだように感じて、なんだか物語に出てくる魔法のようだと思った。
「医師を呼んでまいります」
マーシェがずっと見つめているとその女性はそう言って部屋を出ていった。
マーシェは半身を起こしてベッドの位置から部屋を見渡した。豪奢な家具や窓にかけられた重そうなカーテンが目に入る。
扉も驚く事に両開きになっており、ここはどこかの貴族の屋敷のように感じた。
少なくともマーロウ公爵家に帰ってきた訳でも、間違ってもマーシェが泊まろうとしていた宿屋でもない事は分かった。
しばらくすると白衣を着た背の高い白髪の男性と同じ様に白衣を着て妙に色っぽい女性が入ってきた。
マーシェの診察は女性の方が行った。
目の前に指を出されて何本か尋ねられたり目を思いっきり見開くように言われたりと、あまり経験したことのない事をさせられた。
その様子をじっと見ていた白髪の男性はマーシェの様子を観察しているようだった。
「脈も安定しているようですし頭も打ってはいないようですね。1日ほど安静にしていたら動いてもよろしいですよ」
白衣の女性が、いつの間にまた部屋に戻ったのか最初に居たお仕着せを着た女性に伝えていた。
「のぼせたようだね、今後は気をつけて長湯をしないように」
白髪の男性にマーシェは注意を受けたので黙って頷いた。だがまだ謎が解けていない。
「あの、ここはどこなのでしょうか?」
白衣の二人がそのまま部屋を出ようとしていたのでマーシェは慌てて質問した。今度は声は掠れていなかった。
マーシェの声に立ち止まった二人はお互いに顔を見合わせてから女性の方が教えてくれた。
「ここは王宮ですよ」
マーシェはどんな経緯で自分がここにいるのか分からず頭が混乱した。
王都の西側に居たはずなのにまるでひとっ飛びに王宮に飛んできたように思えた。
目を瞑り開けると違う場所だなんて瞬間移動の様だと呆然と自分の手を見つめた。
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