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45 秘密ではなかった
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ザイリスが途方に暮れて立ち竦んでいるとき、突然声をかけられた。
「お兄さん、お兄さん、何してるの?」
振り向けば、仕立ての良いワンピースに身を包んだ女の子が立っていた。
「その制服学園生だよね、今日って試験の前の日なのに一番サボっちゃだめな日じゃない?」
「君は?」
「私は通りすがりの犬よ」
「は?」
「まぁ気にしないで、それよりも何故こんなところにいるのよ」
女の子の発言が気にはなったものの、ザイリスは藁をも掴むように、経緯を説明した。
「じゃあ学園まで案内してあげる」
そう言ってザイリスは彼女の馬車に乗せられた。
思ったよりも学園から離れていた事に驚愕したザイリスだったが、彼女とはあまり会話ができなかった。
それというのも、一緒の馬車に侍女らしき人が乗っていて、ずっと胡散臭そうにザイリスを睨んでいたからだ。
助けてもらっている分際で身分を嵩に来て、その侍女の不敬を問うわけにもいかなかった。
「はい、着いたわよ。因みにその先生なら多分温室ね。学園案内に地図が載ってるはずよ。まぁもう遅いかな」
ケラケラと闊達に話し笑う女の子に、ザイリスが眩しい物を感じたのはその時だった。
お礼を言って名を聞こうとすると、またもや侍女に睨まれる。
そしてその日は、そのまま名もなき少女は、自分を“犬”と表現して謎のまま帰って行った。
因みにその時の結果だが、ザイリスは最下位で、試験問題はあまりものだった為、当然“C”だった。
次に少女を見かけたのは、学園の休みの時だった。
領都を案内するという学友に誘われて、ザイリスは街を案内してもらっていた。その時に何故か二人の女生徒も一緒で、宛らダブルデートみたいで、何だかザイリスは不快だった。
それでも街には王都では見かけない物が溢れていて、それなりに楽しかった。
ポリント辺境伯領は、王都を知るザイリスにとって、ここだけマッケンロウ王国であってマッケンロウ王国ではない、という不思議な気分にさせられる所だった。
そんな時、街歩きをしている少女を見かけた。
ザイリスがカフェでお茶をしている時だった。
窓辺のその席は2階にあり眺めも良くて、快適な席だった。予約をしてくれていた学友に感謝しつつも、やはりダブルデートのつもりだったかと、心の中で苦笑していた。おそらくはじめから言えば、ザイリスが断るとわかっていたからの騙し討だったのかと思った。
ザイリスは少し濃いめの茶髪で地味目ではあるが、その顔立ちは侯爵家の出自でもあるからかなり整っていた。緑の瞳も一般的なのに、キラキラしています!なんてよく令嬢たちからキャーキャー言われている自覚もあった。
ここが王都なら、巫山戯るな!と学友に怒鳴っていたかもしれないが、それは出来なかった。
何故ならザイリスはここへストナム王国の王太子のことを探りに来ているのだから、騒ぎを起こしたり、学友に嫌われて情報を遮断されたりするわけにはいかなかった。
適当に、学友や一緒に来た令嬢たちの話に相槌を打って、カフェの2階から窓の外を眺めていた。
すると二人の少女と少年が、三人並びで歩いているのを見かけた。
一人は先日会った女の子だった。
親しげに話す三人を見て、あの男が羨ましいなと、そんな事を考えていたら、ザイリスの視線に気づいた学友が「アレッ?」と声を出した。
「あの人を知ってるのか?」
当然ザイリスの言う“あの人”は先日会った少女のつもりだったが、学友の情報は違う人物の事だった。だがその流れで少女の素性も分かった。
「あぁあの方はよくポリントに来るからな、ここでは有名人だよ。あっ!知らぬ間に不敬で手打ちなんて事になったらいけないな、ザイリスにも教えておこう。あの方はストナム王国の王太子のエリザイル様だ」
「えっ?」
突然、今回の目的の人物を教えられて、ザイリスは戸惑った。
「よく来るんだよ、ライツハート様の隣の女性は、ポリント辺境伯のご長女のラーシェ様だ。反対側の方はその妹のマーシェ様だよ」
「⋯⋯⋯マーシェ様」
「ん?」
ザイリスは無意識にマーシェの名を呟いていた。慌てて誤魔化したが変に思われなかっただろうか?
そんな事を考えながらも、学友を誘導して王太子の情報を聞きたいと思ったのに、彼は自分からペラペラと話しだした。それにつられてなのか令嬢たちもペラペラだった。
どうやら、この話は秘密でも何でもなく、ポリント辺境伯領では、周知の事実のようだった。
「王太子が辺境伯の長女を見初めていたのか」
三人から代わる代わる話しを聞かされたザイリスの言葉に、三人ともキラキラした顔で頷いていた。
何がそんなにキラキラなのかわからないが、あの辺境伯の長女のラーシェが、この地では憧れの的なのだそうだ。
「ラーシェ様は来年から学園に通うの、それに合わせてエリザイル様も留学されるのですって、他国ではあるけれど、ストナム王国は、マッケンロウの王都よりも近いし、その王太子様に幼少期に見初められるなんて!流石ラーシェ様だわ、あんなに綺麗ですもの。二人の恋物語!あぁ素敵よねぇ」
紹介されたが名を覚えていない対面に座る令嬢が、うっとりしながらそう話す。
なんてこった!
早々にザイリスと父の目的が達成されてしまった瞬間だった。
「お兄さん、お兄さん、何してるの?」
振り向けば、仕立ての良いワンピースに身を包んだ女の子が立っていた。
「その制服学園生だよね、今日って試験の前の日なのに一番サボっちゃだめな日じゃない?」
「君は?」
「私は通りすがりの犬よ」
「は?」
「まぁ気にしないで、それよりも何故こんなところにいるのよ」
女の子の発言が気にはなったものの、ザイリスは藁をも掴むように、経緯を説明した。
「じゃあ学園まで案内してあげる」
そう言ってザイリスは彼女の馬車に乗せられた。
思ったよりも学園から離れていた事に驚愕したザイリスだったが、彼女とはあまり会話ができなかった。
それというのも、一緒の馬車に侍女らしき人が乗っていて、ずっと胡散臭そうにザイリスを睨んでいたからだ。
助けてもらっている分際で身分を嵩に来て、その侍女の不敬を問うわけにもいかなかった。
「はい、着いたわよ。因みにその先生なら多分温室ね。学園案内に地図が載ってるはずよ。まぁもう遅いかな」
ケラケラと闊達に話し笑う女の子に、ザイリスが眩しい物を感じたのはその時だった。
お礼を言って名を聞こうとすると、またもや侍女に睨まれる。
そしてその日は、そのまま名もなき少女は、自分を“犬”と表現して謎のまま帰って行った。
因みにその時の結果だが、ザイリスは最下位で、試験問題はあまりものだった為、当然“C”だった。
次に少女を見かけたのは、学園の休みの時だった。
領都を案内するという学友に誘われて、ザイリスは街を案内してもらっていた。その時に何故か二人の女生徒も一緒で、宛らダブルデートみたいで、何だかザイリスは不快だった。
それでも街には王都では見かけない物が溢れていて、それなりに楽しかった。
ポリント辺境伯領は、王都を知るザイリスにとって、ここだけマッケンロウ王国であってマッケンロウ王国ではない、という不思議な気分にさせられる所だった。
そんな時、街歩きをしている少女を見かけた。
ザイリスがカフェでお茶をしている時だった。
窓辺のその席は2階にあり眺めも良くて、快適な席だった。予約をしてくれていた学友に感謝しつつも、やはりダブルデートのつもりだったかと、心の中で苦笑していた。おそらくはじめから言えば、ザイリスが断るとわかっていたからの騙し討だったのかと思った。
ザイリスは少し濃いめの茶髪で地味目ではあるが、その顔立ちは侯爵家の出自でもあるからかなり整っていた。緑の瞳も一般的なのに、キラキラしています!なんてよく令嬢たちからキャーキャー言われている自覚もあった。
ここが王都なら、巫山戯るな!と学友に怒鳴っていたかもしれないが、それは出来なかった。
何故ならザイリスはここへストナム王国の王太子のことを探りに来ているのだから、騒ぎを起こしたり、学友に嫌われて情報を遮断されたりするわけにはいかなかった。
適当に、学友や一緒に来た令嬢たちの話に相槌を打って、カフェの2階から窓の外を眺めていた。
すると二人の少女と少年が、三人並びで歩いているのを見かけた。
一人は先日会った女の子だった。
親しげに話す三人を見て、あの男が羨ましいなと、そんな事を考えていたら、ザイリスの視線に気づいた学友が「アレッ?」と声を出した。
「あの人を知ってるのか?」
当然ザイリスの言う“あの人”は先日会った少女のつもりだったが、学友の情報は違う人物の事だった。だがその流れで少女の素性も分かった。
「あぁあの方はよくポリントに来るからな、ここでは有名人だよ。あっ!知らぬ間に不敬で手打ちなんて事になったらいけないな、ザイリスにも教えておこう。あの方はストナム王国の王太子のエリザイル様だ」
「えっ?」
突然、今回の目的の人物を教えられて、ザイリスは戸惑った。
「よく来るんだよ、ライツハート様の隣の女性は、ポリント辺境伯のご長女のラーシェ様だ。反対側の方はその妹のマーシェ様だよ」
「⋯⋯⋯マーシェ様」
「ん?」
ザイリスは無意識にマーシェの名を呟いていた。慌てて誤魔化したが変に思われなかっただろうか?
そんな事を考えながらも、学友を誘導して王太子の情報を聞きたいと思ったのに、彼は自分からペラペラと話しだした。それにつられてなのか令嬢たちもペラペラだった。
どうやら、この話は秘密でも何でもなく、ポリント辺境伯領では、周知の事実のようだった。
「王太子が辺境伯の長女を見初めていたのか」
三人から代わる代わる話しを聞かされたザイリスの言葉に、三人ともキラキラした顔で頷いていた。
何がそんなにキラキラなのかわからないが、あの辺境伯の長女のラーシェが、この地では憧れの的なのだそうだ。
「ラーシェ様は来年から学園に通うの、それに合わせてエリザイル様も留学されるのですって、他国ではあるけれど、ストナム王国は、マッケンロウの王都よりも近いし、その王太子様に幼少期に見初められるなんて!流石ラーシェ様だわ、あんなに綺麗ですもの。二人の恋物語!あぁ素敵よねぇ」
紹介されたが名を覚えていない対面に座る令嬢が、うっとりしながらそう話す。
なんてこった!
早々にザイリスと父の目的が達成されてしまった瞬間だった。
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