公爵夫人マーシェのお悩み

maruko

文字の大きさ
46 / 59

45 秘密ではなかった

しおりを挟む
 ザイリスが途方に暮れて立ち竦んでいるとき、突然声をかけられた。

「お兄さん、お兄さん、何してるの?」

 振り向けば、仕立ての良いワンピースに身を包んだ女の子が立っていた。

「その制服学園生だよね、今日って試験の前の日なのに一番サボっちゃだめな日じゃない?」

「君は?」

「私は通りすがりの犬よ」

「は?」

「まぁ気にしないで、それよりも何故こんなところにいるのよ」

 女の子の発言が気にはなったものの、ザイリスは藁をも掴むように、経緯を説明した。

「じゃあ学園まで案内してあげる」

 そう言ってザイリスは彼女の馬車に乗せられた。
 思ったよりも学園から離れていた事に驚愕したザイリスだったが、彼女とはあまり会話ができなかった。
 それというのも、一緒の馬車に侍女らしき人が乗っていて、ずっと胡散臭そうにザイリスを睨んでいたからだ。
 助けてもらっている分際で身分を嵩に来て、その侍女の不敬を問うわけにもいかなかった。

「はい、着いたわよ。因みにその先生なら多分温室ね。学園案内に地図が載ってるはずよ。まぁもう遅いかな」

 ケラケラと闊達に話し笑う女の子に、ザイリスが眩しい物を感じたのはその時だった。
 お礼を言って名を聞こうとすると、またもや侍女に睨まれる。
 そしてその日は、そのまま名もなき少女は、自分を“犬”と表現して謎のまま帰って行った。

 因みにその時の結果だが、ザイリスは最下位で、試験問題はあまりものだった為、当然“Cツェー”だった。

 次に少女を見かけたのは、学園の休みの時だった。
 領都を案内するという学友に誘われて、ザイリスは街を案内してもらっていた。その時に何故か二人の女生徒も一緒で、宛らダブルデートみたいで、何だかザイリスは不快だった。
 それでも街には王都では見かけない物が溢れていて、それなりに楽しかった。
 ポリント辺境伯領は、王都を知るザイリスにとって、ここだけマッケンロウ王国であってマッケンロウ王国ではない、という不思議な気分にさせられる所だった。

 そんな時、街歩きをしている少女を見かけた。
 ザイリスがカフェでお茶をしている時だった。

 窓辺のその席は2階にあり眺めも良くて、快適な席だった。予約をしてくれていた学友に感謝しつつも、やはりダブルデートのつもりだったかと、心の中で苦笑していた。おそらくはじめから言えば、ザイリスが断るとわかっていたからの騙し討だったのかと思った。
 ザイリスは少し濃いめの茶髪で地味目ではあるが、その顔立ちは侯爵家の出自でもあるからかなり整っていた。緑の瞳も一般的なのに、キラキラしています!なんてよく令嬢たちからキャーキャー言われている自覚もあった。

 ここが王都なら、巫山戯るな!と学友に怒鳴っていたかもしれないが、それは出来なかった。
 何故ならザイリスはここへストナム王国の王太子のことを探りに来ているのだから、騒ぎを起こしたり、学友に嫌われて情報を遮断されたりするわけにはいかなかった。

 適当に、学友や一緒に来た令嬢たちの話に相槌を打って、カフェの2階から窓の外を眺めていた。
 すると二人の少女と少年が、三人並びで歩いているのを見かけた。
 一人は先日会った女の子だった。
 親しげに話す三人を見て、あの男が羨ましいなと、そんな事を考えていたら、ザイリスの視線に気づいた学友が「アレッ?」と声を出した。

「あの人を知ってるのか?」

 当然ザイリスの言う“あの人”は先日会った少女のつもりだったが、学友の情報は違う人物の事だった。だがその流れで少女の素性も分かった。

「あぁあの方はよくポリントに来るからな、ここでは有名人だよ。あっ!知らぬ間に不敬で手打ちなんて事になったらいけないな、ザイリスにも教えておこう。あの方はストナム王国の王太子のエリザイル様だ」

「えっ?」

 突然、今回の目的の人物を教えられて、ザイリスは戸惑った。

「よく来るんだよ、ライツハート様の隣の女性は、ポリント辺境伯のご長女のラーシェ様だ。反対側の方はその妹のマーシェ様だよ」

「⋯⋯⋯マーシェ様」

「ん?」

 ザイリスは無意識にマーシェの名を呟いていた。慌てて誤魔化したが変に思われなかっただろうか?
 そんな事を考えながらも、学友を誘導して王太子の情報を聞きたいと思ったのに、彼は自分からペラペラと話しだした。それにつられてなのか令嬢たちもペラペラだった。
 どうやら、この話は秘密でも何でもなく、ポリント辺境伯領では、周知の事実のようだった。

「王太子が辺境伯の長女を見初めていたのか」

 三人から代わる代わる話しを聞かされたザイリスの言葉に、三人ともキラキラした顔で頷いていた。
 何がそんなにキラキラなのかわからないが、あの辺境伯の長女のラーシェが、この地では憧れの的なのだそうだ。

「ラーシェ様は来年から学園に通うの、それに合わせてエリザイル様も留学されるのですって、他国ではあるけれど、ストナム王国は、マッケンロウの王都よりも近いし、その王太子様に幼少期に見初められるなんて!流石ラーシェ様だわ、あんなに綺麗ですもの。二人の恋物語!あぁ素敵よねぇ」

 紹介されたが名を覚えていない対面に座る令嬢が、うっとりしながらそう話す。

 なんてこった!

 早々にザイリスと父の目的が達成されてしまった瞬間だった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

処理中です...