ミリアーナの恋人

maruko

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 分不相応な豪華な部屋でミリナはオドオドしながら過ごすこと5日。やっとサラが迎えに来た。
 ミリナは彼女の顔を見て思わず涙が溢れてしまった。

「お嬢様お待たせして申し訳ありません。まぁ如何されました?何か辛い目に遭われたのですか?ここで不快な目に?」

 サラの言葉にミリナは驚いて必要以上に頭をブンブン振った、いや振り回した。

「すっ凄くよっゆく⋯⋯良くして、も、貰ったの、だけれども」

 涙の序に鼻水までも危うく出そうで、ハンカチで口元を押さえてしゃくりあげながら、必死にホテルに落ち度はないと釈明していたミリナをサラは何だか幼い子供を相手にしているように感じた。

「ご、ごめんなさい。私こういう所に慣れなくて、何か壊すんじゃないか、汚すんじゃないか、そうしたら幾ら弁償すればいいのかなとか考えちゃって」

 ミリナの言葉にサラは、ミリナ彼女が平民として暮らした長さに思わず唇を噛んだ。

「お嬢様、弁償などと⋯何も壊されてはないじゃないですか」

 部屋を一回り見ながらサラはミリナに告げた、どちらかというとベッドのシーツはメイキングしたばかりのように、ピシッと糊のきいた様になっているし、敷かれた絨毯の上には塵一つない。
 まさかと思いサラはミリナに訊ねる。

「お嬢様、まさかとは思いますがお部屋の掃除をされましたか?」

 サラの言葉にミリナはピクッと肩を跳ねさせた。
 それを見てサラは大きく嘆息してから、これは早く大奥様から話をしてもらわなければと急いでここを出る決意をする。本当はサラにも2日ほどここで羽休めをする様にと言われていたのだが、一刻も早くお嬢様ミリナに自分の立場を理解して貰わなければならないと思った。

「お嬢様、大奥様のいらっしゃる別邸へと参りましょう」

「べってい?」

 ミリナに頷いて、サラは彼女の荷物を纏めようとしたが、何故かミリナは既に荷物を纏めていた。不思議に思うと、なんと毎日いつ追い出されてもいいように起きたらすぐ纏めていたのだとか。思わずサラは、お嬢様どんな生活されていたの?と不思議に思った。何故なら毎月サラがセルヴィの口座にミリナの養育費と2の生活費を送金していたのだ。
 侯爵家の口座から直接移動させられずに、毎回大奥様の代理でサラが手続きを行っていた。

 (あとでしっかりお嬢様に確かめなければ)

 そう心に思うサラだった。


 ◇◇◇


 ミリナは辻馬車以外の馬車に初めて乗った。
 それは比べるのも烏滸がましいほどに違っていて“辻馬車の達人”を自負していたミリナの心を折るのは早かった。
 今ミリナはになった自分に戸惑っている。
 ホテルを出る前にサラにこれに着替えましょうと出されたのは、ミリナが着たこともない上質なワンピースだった。靴も履きなれたペタンコ靴ではなく、少しだけ踵が高いミリナの憧れの靴を出してくれた。それは少しだけ大きかったがサラが先端に綿を詰めてくれた。後で買い直そうと言ってたがミリナはこれで十分だった。髪も丁寧に梳いてくれる。この5日間ミリナは毎日お風呂に入れて、それだけでも夢見心地だったし、たった5日で前よりもだいぶ艶のある髪になっていた。
 これで俄お姫様の誕生だ。ホテルの部屋の姿見で全身を映したときミリナはそう思った。

 何だかフワフワする気持ちのままサラの用意した馬車に乗ったのだが、座席が辻馬車の固い板にただ布を貼り付けただけのとは違い弾力があった。
 それは背凭れも同じで、凭れていいのか心配になる。
 そもそも馬車に乗る前に、ホテルに来たとき対応してくれた白スーツの男の人と他にも2、3人の人が見送ってくれてミリナはとても驚いた。

 サラは馬車の中でボーッとしているミリナを微笑ましく見ていた。

 ミリナが連れていかれたのは2階建ての大きな家だった。世間知らずで平民のミリナには喩えようがないが教会よりもずっとお金のかかってる建物だというのは分かる。
 門のところにルクオート侯爵家と同じ様に騎士がいて思わずミリナは馬車の中で怯んで体が固まったが、そもそもそこでは馬車は止まらなかった。門は騎士が黙って開けたしそのまま玄関まで進んで、そこで止まったのだ。

 何もかも違う対応が、これが平民と貴族の違いなのかとミリナは理解した。
 数日前までは違いも知らなかったのだからだいぶ進歩したと言ってもいい。

 屋敷の中に入ってミリナは再び違うホテルにでも来たのかと思うほどエントランスホールは広かった。
 そこには数人の男女が並んでいて同じ服を着ている。その中に他の人とは違いドレスを着ている髪の白い女性がいた。
 その人は涙ぐんでハンカチを握りしめていた。

「⋯⋯⋯ソフィア」

 ミリナを見て違う人の名を呼んだ。アレっとミリナが思っていたら、隣にいるサラが「大奥様です、足がお悪いのでお嬢様から側に行ってあげてもらえませんか」とミリナに告げた。

 ミリナは恐る恐るその人に近づく。

 近づくたびに心臓がドキンドキンと脈打ち、背中を汗が流れる。
 自分が緊張している事はわかるけど落ち着く方法はなかった。
 目の前まで辿り着いたはいいが、なんて挨拶すればいいのか分からなかった。

「こっ、こんにちは?」

 ミリナが言った途端、その人に抱きしめられた。



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