ミリアーナの恋人

maruko

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「お嬢様、お騒がせして大変申し訳ございませんでした」

 サラは呆然とするミリアーナを再びソファに座る様に誘導して謝罪を重ねた。執事は一礼して退出して行った。するとサラはミリアーナの座るソファとテーブルの間に跪きミリアーナの手を握り、その手に懇願する様に自身のオデコに当てた。
 その動作にミリアーナは戸惑う。

「サラどうしたの?」

 ミリアーナの問いにサラは頭を上げ彼女を見やる。

「お嬢様、大切なお話があります、本来なら大奥様がお話する予定であったのですが、俄に身辺慌ただしく御成で手が離せなくなりました。代わりに私に一任されましたのでお話したいと思います」

 サラはそう言うと目で、よろしいですか?と言うように首を傾げている。ミリアーナはルーカスの事も心配だったので、その話だろうと思いサラにソファに座るように薦めた。
 ミリアーナの薦めに珍しくサラが従ったので、きっと長い話なのだろうとミリアーナは背筋をピンと伸ばし覚悟した。

「先程はリーガン父娘の愚行に驚いたと思います、吃驚させまして改めてお詫びします」

 それにミリアーナが頷いて答えるとサラはアリーラの意図を話してくれた。

「お嬢様にはもう少し貴族の事を理解してからお話するつもりでありましたが、ここに来て些かのんびりとした対応が出来なくなりましたので、早々に追い出すことにしましたの」

「やっぱり何か理由が合ったのでしょう?」

「お気付きとは思いましたが。まぁあの娘は勘違い甚だしい娘で分かりやすかったですしね。ただお嬢様に付けたのは2つ理由がありました。一つは悪い見本として、もう一つはボロを出させるためにです」

 サラの言葉にミリアーナは、思わず「クスッ」と笑ってしまった。

「シャルウィット様がお話されていたの、あの侍女は貴族令嬢の悪い見本の様だと」

「まぁそうでしたか、流石でございますね。リーガン子爵令嬢に対してハンセル伯爵令嬢は良いお手本の様ですね。お嬢様はたった半年で言葉遣いも所作もだいぶ上達されておりますから」

「そう?それは嬉しいわ」

 ミリアーナがニコリとサラに笑いかけた様子は、ソフィアにそっくりでサラは懐かしく思った。

「お嬢様、あの大変言い難い事ではありますが、あのルーカスという男とはこれ以上親しくならぬ様にとの大奥様のお言葉です」

「えっ?どうして?⋯⋯⋯いえ今までもお会いしただけで、そんな近づいたりしたつもりはないし、それに節度は守ってくださってるようだし、私も、その、話していて嫌ではないし、会うくらいならいいのではないの?これからはちゃんと言動に気をつけて、その、側妃様の事も言わないよう気をつけるから!」

 ミリアーナは言葉を選びながらも必死にサラに訴えた。自分の恋心を隠し切れていると信じているので、そう取られないようにと一生懸命だった。
 そんなミリアーナを不敬と思いながらもサラは不憫に思った。それに戸籍上だけとはいえミリアーナはサラの孫にもあたる。

「お嬢様」

 必死でサラに言い募るミリアーナは、威厳にも満ちたサラの声掛けに口を噤んだ。優しい声では有るけれど有無を言わせない気迫にも思えて、ミリアーナは黙るしかなかった。

「あの男の名はレイビン・ルーカス・ストライトと申します。ですが生まれた時の名はレイビン・コーラル、元伯爵家の者です」

「えっと、ルーカス様は私に偽名を?」

 ミリアーナは色々な名を繰り出したサラに思わずついて行けなくて首を傾げながら問うた。

「いえ、偽名ではありません。ミドルネームを名乗っていただけで、嘘を付いた訳ではないという大義名分の元に素性を隠して社交界に居ただけです」

「では男爵家の」
「それも本当です」

 ミリアーナは先程のユノの件も、このルーカスの件も段々と理解が追いつかずに困惑しきりで、何故か汗まで出てきた。

「ごめんサラ、もう口を挟まないから全部説明して、私よく分からないわ」

 ミリアーナに言われサラはルーカスの素性と目的を話した、そしてルクオート侯爵家の件も話し始めた。

「ルクオート侯爵家は、本来なら4年前に今本邸に居るジャルバイリ様に家督が継承される予定でした」

 ジャルバイリというのは、前ルクオート侯爵が養子にしたルクオートの分家から迎えた男で、何事もなければ4年前に家督が譲られルクオート侯爵になる予定だったが、その数年前に彼の背後にソフィアの誘拐に加担したのではないかという疑いが持たれる者が浮上したのだという。丁度泳がせている時に前侯爵が病に倒れそのまま亡くなってしまったそうだ。だがその遺言によってルクオート侯爵の家督はアリーラ預かりになった。アリーラが指名した者が家督とルクオートの財産を受け継ぐ事になるのだと遺言に認められていた。

「ですから今ルクオート侯爵家の実権は大奥様にあります」

 サラは淡々とそう話すがミリアーナは頭の整理で忙しかった。では何故本邸にアリーラは住んで居なかったのだろうか?
 そんな疑問が湧いて訊ねるとまたもやサラが驚くことを言う。

「その辺が貴族のイザコザでお嬢様には全て片がついてから話したかったのです、ですがあの男コーラルの息子が現れた為、話さざるおえなくなりました」

 サラの話では前侯爵の遺言は、アリーラの命をも危ぶまれる内容だった事と、実は秘密裏にアリーラはソフィアの誘拐事件を調べてミリアーナの父親を特定しようとしていたのだと聞いた。

「私のお父さん、あっお父様ですか?わかるのですか?」

「はい、わかるか分からないかで言えば分かってきたとしか、まだ言えません。ただ元コーラル伯爵令息は別の視点で姉の敵を探しておりました」

 先程ルーカスの素性をサラに聞いたミリアーナはルーカスが何故自分に近づいたのかを、しっかりと理解した。

「あの男は、今から帝国の娘の所に向けて出発します」

「娘とはサラの?私の戸籍上のお母様の所ですか?隣国って帝国だったの?」

 サラは頷いて言った。

「娘は、ソフィア様を攫った者達を探る為に帝国に医者として潜入しているのです」

 あまりの危険な行為に、ミリアーナはサラの隣に座り直しその手をギュッと握った。





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