ミリアーナの恋人

maruko

文字の大きさ
24 / 26

24

「ふっ相変わらず植物に話しかける癖は健在だな」

 不意に後ろから声をかけられた。
 ミリアーナはピタリと体の動きが止まる、どれ位時間が経過したかわからない頃、再び声が掛かる。

「私の声⋯⋯忘れてしまった?」

 戸惑う言葉にミリアーナは首を振る。
 忘れてない、忘れるわけがない、忘れたくなんかない。

「忘れるわけ、ないじゃない!」

 振り返りながらそう言ってミリアーナはその胸に飛び込んだ。
 3年前必死で鍵を開け飛び出したバルコニーの時のように。
 そしてその時と同じ様にレイ、レイビンは難なく彼女を抱き留めた。

「⋯⋯⋯⋯⋯レイ」

 息が詰まるほど驚いたミリアーナは抱きとめられながら、その人の名を呼ぶのが精一杯だった。

「ミリアーナ会いたかった」

 3年の間、一度だけ旅装の商人から受け取った封筒。中には小さなマラカイトで出来たピアスが入っていた。言葉は何も認められていなかった。
 でもミリアーナにはそれが誰からなのかすぐに分かり、その日ミリアーナはピアスの穴を開けた。

 その深緑の石が今もミリアーナの耳朶を飾っている。

「とても似合う」

 レイビンはミリアーナの耳朶に手で触れ、そのまま耳元でそう囁いた。
 耳元で囁かれた言葉にミリアーナは擽ったくて、真っ赤な顔でレイビンを見上げる。

 王宮の庭園で不埒な行為はご法度だ、レイビンはミリアーナの手を引いてそのまま馬車停まりまで歩いていく。
 ルクオート家の馬車に近づいた時、ミリアーナはセルヴィを思い出した。

「あっ!お父さん」

 つい平民の時に呼んでいたように言ってしまい、繋いでいない方の手で口元を慌てて隠す。
 その様子を見てレイビンは可愛くて堪らないという風にクスリと笑った。

「大丈夫、ちゃんと話してるから」

 二人は馬車に乗り込み夜の闇に消えていった。


 ‧⁺ ⊹˚.⋆ ˖ ࣪⊹‧⁺ ⊹˚.⋆ ˖ ࣪⊹

 翌朝、新聞の一面を大きく飾ったのは帝国皇帝の交代だった。
 第六皇子が皇帝の座を勝ち取ったと載せられている。

 レイビンは、ベットにすやすやと眠るミリアーナの顔を視界に入れながら、新聞記事を見て珈琲を口に含んだ。

「さて、マダムに怒られに行かないと」

 レイビンは湯を張りにバスルームに向かった。

 ‧⁺ ⊹˚.⋆ ˖ ࣪⊹‧⁺ ⊹˚.⋆ ˖ ࣪⊹

 ルクオート侯爵家の執務室では、羞恥に下を向く孫娘と飄々とした態度を変えない元伯爵子息を向かい側のソファに座らせ、懇懇と説教をしているアリーラの姿があった。

「全く帰国したその日に事に及ぶとは油断も隙もないわね」

「お褒めの言葉と取らせて頂きますマダム」

「その呼び名はもう必要ないわよね」

 アリーラは帝国でマダムアリーという名で暗躍していた。サラの娘で戸籍上のミリアーナの母ルティアの後押しをする為に、必要な処置だった。

 医師として帝国に向かったルティアは、なかなか皇室に手が届かず苦戦を強いられていた為、医師からのアプローチではなく商人として皇室へと入り込む事にした。アリーラの作った商会のおかげで皇室に入り込む事に成功はしたが、それでも肝心な中枢には入り込めなかった。だがレイビンが帝国へ派遣された事で事態が急変した。

 そして諸悪の根源、帝国第三皇子を倒しミリアーナの父である第六皇子に皇帝の冠を齎したのだった。

「ミリアーナ、レイビンから昔の話を聞きましょう」

 下を向く孫娘の顔を上げさせアリーラは微笑んだ。

「ミリアーナ、今からの話は皇帝から聞いた話だからおそらく間違っていない、だけど被害者の私の姉アイリスと君の母ソフィア様からは証言が取れない為、こちら側からの話は犯人達の主観の話しかないんだ。それを踏まえて聞いてほしい」

 今から約20年前、廃妃になった前王妃は当時の第二王子に横恋慕していた。
 そんな事実はなかったが、ソフィアに決まるまで自身も婚約者候補だったと何故か信じていた。
 実際は最初から王家ではソフィア一択であった。
 そんな時、ルクオート侯爵家の嫡男の病気が悪化したとの噂が実しやかに流された。
 そこで野心を持ち計画を立てたのがルクオート侯爵家の分家筋だ。
 ルースライアは病弱ではあったが、そこまで酷いとは皆思ってなかった、普通に侯爵家を継ぐだろうと思っていたし、ソフィアは第二王子が臣籍降下ないし王家に連なる身分になるから、ルクオートからは確実に離れると思っていた。
 だったらルースライアが継いだあと、分家筋から忠臣として入り込み実権を握るつもりだった。
 だが思ったよりもルースライアの病状が思わしくない、このままではルクオート侯爵家は第二王子がソフィアの婿として入ってしまう。
 それではルクオートの分家筋は入り込む事は不可能になる。そこで彼等は一計を案じた。
 それが第二王子の妻の座を欲していたミセトナル公爵家を唆す事だった。そこからは公爵家主導になる。

 彼らの計画はソフィアの誘拐の時点で狂った。
 アイリスが思ったよりもソフィアから離れなかったのだ、しょうがないから二人まとめて誘拐した。
 そしてその頃帝国の皇子たちが作ったハーレムに二人を売った。

 その後無事にミセトナル公爵家の公女がソフィアの後釜に納まったし、ルースライアは何とか持ち直してはいたがソフィアの件で病状も悪化していった、ひょっとしたら養子という手も使えるかもしれないと益々野心に燃えたルノー伯爵家だった。
 ただ王太子のやらかしだけは偶然だったという。

 ここまでがこの国で起きた事だ、ソフィアが見つかったあとの話はミリアーナ達は既に知っている。

「ここから第六皇子、いや皇帝から聞いた話をするね」

 レイビンはサラが淹れたお茶を一口飲んで続きを話し始めた。


✎ ------------------------

本日完結予定です
残り2話1時間おきに投稿致します😊


あなたにおすすめの小説

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。 平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。 そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。 厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。 アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。 お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。 番外編始めました。 世界観は緩めです。 ご都合主義な所があります。 誤字脱字は随時修正していきます。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして

Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。 伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。 幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。 素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、 ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。 だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。 記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、 また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──…… そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。 ※婚約者をざまぁする話ではありません ※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。