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第二章 アトルス王国にて
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アトルス王国に来て先ずユリアーナとマリアンナが行うべきは学園(院)編入試験だった。
2日に分けて行われる試験は、学問は勿論の事、面接が有り、アトルス王国ではその面接が重要視されていた。留学してくる者は誰の後ろ盾なのかが肝心で、これは二人ともユリアーナの母エリーヌが請負った。
これにマリアンナも義母エリーヌも大層恐縮していた。
「だから気にしなくていいのよ、頑張って学んで頂戴。それに貴方がこの国でやっていくのか、それとも他の国に移るのか、それも決めなければならないでしょう?それならば煩わしい回りの噂はシャットダウンするに限るわ」
母エリーヌがマリアンナの手を両手で包みながらそう伝えた。そうだった、マリアンナはライレーン王国にはもう戻らないつもりで、アトルスに来たのだとユリアーナは思い出した。
1年後に帰国する事が決まっているユリアーナとは、留学の考え方も違ってくるのだ。
現にイザベラは帰国せず、この国に留まっている。今は王宮の外務部に勤めて居てその寮で生活していると母に聞いた。
1日目の学科の試験をユリアーナは難なく熟した。
マリアンナも必死に勉強していたから、おそらく大丈夫だろうと、控えめなマリアンナにしては珍しく自信があるようでユリアーナは安心した。
二人でユリアーナの部屋で明日の面接に備えて衣装の相談をしている時に、今日は義母を連れて出勤していた母エリーヌが帰宅した。
「エリーヌ様は今日はイザベラの所に泊まるそうよ」
夕食の席で母の報告を受けた時、マリアンナは少し肩がビクッと震えた。まだイザベラに会うのは無理そうだ。
「お義母様は泣いていらした?」
「⋯⋯えぇ、それはそうでしょう。それにイザベラはもう大丈夫だと思うわ。今日エリーヌ様との対面を見てそう思ったから。だけどマリアンナ様、貴方が急いで会う必要はないわよ。いつか貴方が許してもいいと思えた時に会ってあげて頂戴」
ユリアーナの問に母は答えてから、マリアンナに向けてそう言った。
その言葉にマリアンナは涙ぐみながら頷いていた。
「それはそうと二人とも夕食後に執務室に来てくれるかしら、良い物を貰ってきたの」
「良い物?」
「ふふ楽しみにしていて!」
◇◇◇
「お母様、これが良い物なの?」
「良いものでしょう?今一番貴方達二人に必要なものだわ」
執務室に二人で行くと母からは2、3枚の書類を二人は其々手渡された。
それは明日の面接に備えて、過去の留学生達が主に聞かれた事を纏めたものだった。
「ねぇ、これ!これ見て」
母がマリアンナに渡した書類の方に、指を差して見るように促された所には、父の名がサインされていた。その上には女王陛下のサインだったが、畏れ多いので見ないように努めた。
「お父様の学生時代の字なのですね」
ユリアーナもマリアンナもそれを興味深々で見つめた。父の字は癖は同じだろうが、昔の方が丁寧に書いているように見えた。
「一つの問に2つずつ程、答えを用意しておけば臨機応変に対応できるわ。面接官は落とそうとするのが仕事だから、質問の仕方を変えて来たりするのよ。これは私のアドバイスね」
「落とされたらどうすればいいの?」
「ユリアーナ達は気にしなくていいわよ、重きは誰の推薦かと言うことにあるから、私が居て落ちることはないわ」
「でも、落とそうとするって」
ユリアーナは面接の意味が納得出来なくて、母に執拗く質問した。
「これはマリアンナ様に関係するかもしれないわね。落とすのは寮で付く侍女の質よ」
「あぁそういうこと」
ユリアーナは漸く納得した。要はマリアンナが高位貴族らしいか、らしくないかを判断する物だという事だ。平民よりな思想ならば平民寄りの侍女を用意して、高位貴族ならばそれなりの侍女を用意する。学園寮の侍女は学園が用意すると決められていると聞いていた。それに後ろ盾が誰かというのが重要だというのも、きっとその観点からの理由なのだと理解した。
寮に入らないユリアーナにはその点は関係ないかもしれない。
そう思ってユリアーナは自分に渡された書類に目を通すと、懐かしい名前があった。
ユリアーナの倶楽部の先輩でライレーン王国第二王子ダイナスの署名を見つけた。思わずその字に微笑んでいると母が覗き込んできた。
「なぁに知ってる人がいるの?」
「ここに。先輩っていうのも畏れ多いかな、ダイナス王子の名があるの」
ユリアーナが指差す先には流れる様なサインが認めてあり、母エリーヌは流石王子ねと感心していた。
「あぁダイナス様ね」
そういえば、母エリーヌはダイナスの父である王配と又従兄の関係だったなとユリアーナは思い至った。
「お母様、ダイナス様はホーレスト公爵家にはいらっしゃったりは?」
「最初にご挨拶に来て下さったあとのご訪問はないわね。それ以降は偶に王宮で会うくらいかしら」
「ふうん、じゃあご挨拶するなら学院でしかできないかぁ」
「そうかもね、それよりもユリアーナ。貴方この質問は抑えときなさい。これは全員に聞かれるのだから。マリアンナ様もおそらくこの質問は聞かれますわ、出来れば質の良い侍女に付いて貰ったほうが、その後も何かとよろしいと思うから」
「はい、エリーヌ様」
素直に返事をしてメモを取るマリアンナを母は微笑ましそうに眺めているのを、横目で見ながらユリアーナは自分の書類に引き続き目を通していた。
母が指摘した面接で必ず聞かれるという質問
『態々この国に来てまで学びたかった事は?』
皆が態々と必ず書いてあるのが辛辣ね、きっとそのままを言われたのだ。
ユリアーナはそう思った。
だが彼女はそれを見ながら母に安心させるように告げた。
「大丈夫よお母様。私アトラスには目的があって学びに来たのだから」
ユリアーナは、そう言って書類にレ点でチェックを入れた。
2日に分けて行われる試験は、学問は勿論の事、面接が有り、アトルス王国ではその面接が重要視されていた。留学してくる者は誰の後ろ盾なのかが肝心で、これは二人ともユリアーナの母エリーヌが請負った。
これにマリアンナも義母エリーヌも大層恐縮していた。
「だから気にしなくていいのよ、頑張って学んで頂戴。それに貴方がこの国でやっていくのか、それとも他の国に移るのか、それも決めなければならないでしょう?それならば煩わしい回りの噂はシャットダウンするに限るわ」
母エリーヌがマリアンナの手を両手で包みながらそう伝えた。そうだった、マリアンナはライレーン王国にはもう戻らないつもりで、アトルスに来たのだとユリアーナは思い出した。
1年後に帰国する事が決まっているユリアーナとは、留学の考え方も違ってくるのだ。
現にイザベラは帰国せず、この国に留まっている。今は王宮の外務部に勤めて居てその寮で生活していると母に聞いた。
1日目の学科の試験をユリアーナは難なく熟した。
マリアンナも必死に勉強していたから、おそらく大丈夫だろうと、控えめなマリアンナにしては珍しく自信があるようでユリアーナは安心した。
二人でユリアーナの部屋で明日の面接に備えて衣装の相談をしている時に、今日は義母を連れて出勤していた母エリーヌが帰宅した。
「エリーヌ様は今日はイザベラの所に泊まるそうよ」
夕食の席で母の報告を受けた時、マリアンナは少し肩がビクッと震えた。まだイザベラに会うのは無理そうだ。
「お義母様は泣いていらした?」
「⋯⋯えぇ、それはそうでしょう。それにイザベラはもう大丈夫だと思うわ。今日エリーヌ様との対面を見てそう思ったから。だけどマリアンナ様、貴方が急いで会う必要はないわよ。いつか貴方が許してもいいと思えた時に会ってあげて頂戴」
ユリアーナの問に母は答えてから、マリアンナに向けてそう言った。
その言葉にマリアンナは涙ぐみながら頷いていた。
「それはそうと二人とも夕食後に執務室に来てくれるかしら、良い物を貰ってきたの」
「良い物?」
「ふふ楽しみにしていて!」
◇◇◇
「お母様、これが良い物なの?」
「良いものでしょう?今一番貴方達二人に必要なものだわ」
執務室に二人で行くと母からは2、3枚の書類を二人は其々手渡された。
それは明日の面接に備えて、過去の留学生達が主に聞かれた事を纏めたものだった。
「ねぇ、これ!これ見て」
母がマリアンナに渡した書類の方に、指を差して見るように促された所には、父の名がサインされていた。その上には女王陛下のサインだったが、畏れ多いので見ないように努めた。
「お父様の学生時代の字なのですね」
ユリアーナもマリアンナもそれを興味深々で見つめた。父の字は癖は同じだろうが、昔の方が丁寧に書いているように見えた。
「一つの問に2つずつ程、答えを用意しておけば臨機応変に対応できるわ。面接官は落とそうとするのが仕事だから、質問の仕方を変えて来たりするのよ。これは私のアドバイスね」
「落とされたらどうすればいいの?」
「ユリアーナ達は気にしなくていいわよ、重きは誰の推薦かと言うことにあるから、私が居て落ちることはないわ」
「でも、落とそうとするって」
ユリアーナは面接の意味が納得出来なくて、母に執拗く質問した。
「これはマリアンナ様に関係するかもしれないわね。落とすのは寮で付く侍女の質よ」
「あぁそういうこと」
ユリアーナは漸く納得した。要はマリアンナが高位貴族らしいか、らしくないかを判断する物だという事だ。平民よりな思想ならば平民寄りの侍女を用意して、高位貴族ならばそれなりの侍女を用意する。学園寮の侍女は学園が用意すると決められていると聞いていた。それに後ろ盾が誰かというのが重要だというのも、きっとその観点からの理由なのだと理解した。
寮に入らないユリアーナにはその点は関係ないかもしれない。
そう思ってユリアーナは自分に渡された書類に目を通すと、懐かしい名前があった。
ユリアーナの倶楽部の先輩でライレーン王国第二王子ダイナスの署名を見つけた。思わずその字に微笑んでいると母が覗き込んできた。
「なぁに知ってる人がいるの?」
「ここに。先輩っていうのも畏れ多いかな、ダイナス王子の名があるの」
ユリアーナが指差す先には流れる様なサインが認めてあり、母エリーヌは流石王子ねと感心していた。
「あぁダイナス様ね」
そういえば、母エリーヌはダイナスの父である王配と又従兄の関係だったなとユリアーナは思い至った。
「お母様、ダイナス様はホーレスト公爵家にはいらっしゃったりは?」
「最初にご挨拶に来て下さったあとのご訪問はないわね。それ以降は偶に王宮で会うくらいかしら」
「ふうん、じゃあご挨拶するなら学院でしかできないかぁ」
「そうかもね、それよりもユリアーナ。貴方この質問は抑えときなさい。これは全員に聞かれるのだから。マリアンナ様もおそらくこの質問は聞かれますわ、出来れば質の良い侍女に付いて貰ったほうが、その後も何かとよろしいと思うから」
「はい、エリーヌ様」
素直に返事をしてメモを取るマリアンナを母は微笑ましそうに眺めているのを、横目で見ながらユリアーナは自分の書類に引き続き目を通していた。
母が指摘した面接で必ず聞かれるという質問
『態々この国に来てまで学びたかった事は?』
皆が態々と必ず書いてあるのが辛辣ね、きっとそのままを言われたのだ。
ユリアーナはそう思った。
だが彼女はそれを見ながら母に安心させるように告げた。
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