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第二章 アトルス王国にて
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思いもかけず気を利かせたダイナスのおかげで、薬草に精通しているシモンを紹介されたユリアーナだったが、彼の話は興味深く、学びの途中のユリアーナにとっては大変有難かった。
シモンは話し上手で聞き上手でもあった。
薬草の話に興味のないダイナスにも、自然と話に加われる様に、合間に冗談など交えて引き込んだりしていた。ユリアーナはシモンの貴重な薬草の話にメモを取るのを忘れない、そんなユリアーナにメモが遅れそうになっても、ゆっくり何度も繰り返し話して書くのを手助けしてくれた。
楽しい学びの時間はあっという間に過ぎて、気がつけばカフェの個室に珈琲3杯で3時間三人で粘っていた。
「ユリアーナ嬢、また何か分からない事があれば何時でもどうぞ」
「ありがとうございます、ダイナス様、シモン様」
送って行くというダイナスの言葉を、やんわりと辞退してユリアーナはご機嫌でホーレスト公爵家に帰宅した。
夕食の席でユリアーナは母に今日の事を話した。
「あぁゲートランの次男ね、お茶会で2、3回挨拶したかしら。薬師を目指して公爵に大目玉喰らったと聞いてるわ」
「えっ?薬草に精通されてる家なのに、反対されるのですか?」
「まぁね、薬師のバックアップは幾らでもするけれど、息子は経営の方に専念させたいんじゃないかしら?よくは分からないけどそう言う考え方もあるでしょう」
なるほど各家のお家事情というやつだ、ユリアーナはそう思った時、シモンの八重歯を思い出していた。自然に笑みが溢れていたのだろう、少し心配した母はユリアーナに一応の釘を刺した。
「彼には婚約者がお在りだったわ」
「まぁそうなのね」
あっけらかんとしたユリアーナの答えに、エリーヌは取り越し苦労だったと安堵した。
それからも母娘のお喋りは続いた。
この国に来てから夕食後、1日の出来事をユリアーナは母に語って聞かせている。というよりもユリアーナが母に語って聞かせたい。
期間限定ではあるが、その穏やかな時間がユリアーナは大好きで、ずっと続いて欲しいなと思いながら、今日もふかふかのお布団に包まれながら眠りについた。
◇◇◇
この国に来て1ヶ月経過したある休日に、ユリアーナは王都の散策に出かけた。
ホーレスト公爵家に来てから専属で付いた、侍女のマールと護衛のルーカスをお供にあちこち回って楽しんでいた。
ふと目に止まったのは雑貨屋の店頭のディスプレイだった。
「これは何かしら?」
「あぁこれはポプリですね、中には乾燥した花びらが入っていて匂袋として皆使っています」
「ポプリ?」
ユリアーナには初見の商品で惹かれて店内に入った。するとユリアーナの部屋のクローゼットに置いていた小瓶があった。
「これもポプリ?」
「はい、ユリアーナ様の部屋にも置かせてもらっています」
「えぇ何かしらと思っていたの、聞こうと思っていつも忘れていたわ」
笑いながらマールに答えて小瓶を眺めていたら、見覚えのある“色”が目に止まった。
その人は背を向けていたから違う人かもしれないと思ったが、その色を持つ人はそんなにいないんじゃないかなと考えながら、ユリアーナはその背を見つめていた。
その人は何かを購入したようで店員から受け取っているように見えた。そしてこちらを振り返る、やはり彼女だった。
この国に来た初日に出会った紫のストレートヘアーをユリアーナは忘れることはなかった。もう一度お礼を言いたかったが、彼女は連れと一緒だった。騎士服ではなく私服ではあったけれど帯剣をしていたので護衛かな?とも思ったが、二人の距離が単純な護衛騎士と主人には見えなくて、声をかけるのは躊躇った。
(やっぱり綺麗な人ね)
そう思ったユリアーナだったが、思いがけない一方的な再会は取り敢えず忘れる事にして、好みのポプリを幾つか購入して店を出た。
マールとルーカスはやはり王都には詳しくて、ユリアーナを楽しませてくれた。
王都でユリアーナはどうしてもやってみたい事があった。
三人で屋台で買い物をして噴水広場にやって来た。
噴水の縁に腰掛けて買ってきた串焼きとジュースを頬張る。ユリアーナは学園に入ってからは、休日に街に出て楽しむという事は殆どなかった。それはやはりオスカーと睦まじく出来なかった事も、原因ではあったかもしれない。
今思えば、自分からでも誘えばよかったのかもしれないと思うが、その時のユリアーナはそれすら思いつくことはなかった。
串焼きの香ばしい匂いを感じながら、街ゆく人々を眺めると、どうしてもカップルに目が行ってしまう。
(私って⋯⋯執拗いわね)
オスカーの事は吹っ切れたつもりだったのに、未だにそこかしこで思い出す。自分がこんなに未練がましい女だった事を発見して情けなく思った。
心の中では自嘲して表面は取り繕って笑う、自分がこんなだからオスカーを繋ぎ止められなかったのかと、また自嘲⋯⋯これは負のループだと頭では分かっていても心がついて行かない。
そんな事を考えていたら聞き覚えのある声がユリアーナを呼んだ。
「おい!そんなに上手いのか?何本目だ」
いつから見ていたのだろうか、膝に置いていた5本の串焼きは残り2本になっていた。
「ダイナス様、貴方の身分でそんなにフラフラ出歩くものじゃありませんわ。それに相変わらず趣味が悪い」
食いしん坊のように言われたユリアーナは反撃するつもりの嫌味をダイナスに言った。彼の服のセンスは実に個性的なのだ。
二人の言葉の応酬に、ダイナスの後ろにいたシモンが大笑いしながら、チャームポイントの八重歯をキラリと光らせていた。
シモンは話し上手で聞き上手でもあった。
薬草の話に興味のないダイナスにも、自然と話に加われる様に、合間に冗談など交えて引き込んだりしていた。ユリアーナはシモンの貴重な薬草の話にメモを取るのを忘れない、そんなユリアーナにメモが遅れそうになっても、ゆっくり何度も繰り返し話して書くのを手助けしてくれた。
楽しい学びの時間はあっという間に過ぎて、気がつけばカフェの個室に珈琲3杯で3時間三人で粘っていた。
「ユリアーナ嬢、また何か分からない事があれば何時でもどうぞ」
「ありがとうございます、ダイナス様、シモン様」
送って行くというダイナスの言葉を、やんわりと辞退してユリアーナはご機嫌でホーレスト公爵家に帰宅した。
夕食の席でユリアーナは母に今日の事を話した。
「あぁゲートランの次男ね、お茶会で2、3回挨拶したかしら。薬師を目指して公爵に大目玉喰らったと聞いてるわ」
「えっ?薬草に精通されてる家なのに、反対されるのですか?」
「まぁね、薬師のバックアップは幾らでもするけれど、息子は経営の方に専念させたいんじゃないかしら?よくは分からないけどそう言う考え方もあるでしょう」
なるほど各家のお家事情というやつだ、ユリアーナはそう思った時、シモンの八重歯を思い出していた。自然に笑みが溢れていたのだろう、少し心配した母はユリアーナに一応の釘を刺した。
「彼には婚約者がお在りだったわ」
「まぁそうなのね」
あっけらかんとしたユリアーナの答えに、エリーヌは取り越し苦労だったと安堵した。
それからも母娘のお喋りは続いた。
この国に来てから夕食後、1日の出来事をユリアーナは母に語って聞かせている。というよりもユリアーナが母に語って聞かせたい。
期間限定ではあるが、その穏やかな時間がユリアーナは大好きで、ずっと続いて欲しいなと思いながら、今日もふかふかのお布団に包まれながら眠りについた。
◇◇◇
この国に来て1ヶ月経過したある休日に、ユリアーナは王都の散策に出かけた。
ホーレスト公爵家に来てから専属で付いた、侍女のマールと護衛のルーカスをお供にあちこち回って楽しんでいた。
ふと目に止まったのは雑貨屋の店頭のディスプレイだった。
「これは何かしら?」
「あぁこれはポプリですね、中には乾燥した花びらが入っていて匂袋として皆使っています」
「ポプリ?」
ユリアーナには初見の商品で惹かれて店内に入った。するとユリアーナの部屋のクローゼットに置いていた小瓶があった。
「これもポプリ?」
「はい、ユリアーナ様の部屋にも置かせてもらっています」
「えぇ何かしらと思っていたの、聞こうと思っていつも忘れていたわ」
笑いながらマールに答えて小瓶を眺めていたら、見覚えのある“色”が目に止まった。
その人は背を向けていたから違う人かもしれないと思ったが、その色を持つ人はそんなにいないんじゃないかなと考えながら、ユリアーナはその背を見つめていた。
その人は何かを購入したようで店員から受け取っているように見えた。そしてこちらを振り返る、やはり彼女だった。
この国に来た初日に出会った紫のストレートヘアーをユリアーナは忘れることはなかった。もう一度お礼を言いたかったが、彼女は連れと一緒だった。騎士服ではなく私服ではあったけれど帯剣をしていたので護衛かな?とも思ったが、二人の距離が単純な護衛騎士と主人には見えなくて、声をかけるのは躊躇った。
(やっぱり綺麗な人ね)
そう思ったユリアーナだったが、思いがけない一方的な再会は取り敢えず忘れる事にして、好みのポプリを幾つか購入して店を出た。
マールとルーカスはやはり王都には詳しくて、ユリアーナを楽しませてくれた。
王都でユリアーナはどうしてもやってみたい事があった。
三人で屋台で買い物をして噴水広場にやって来た。
噴水の縁に腰掛けて買ってきた串焼きとジュースを頬張る。ユリアーナは学園に入ってからは、休日に街に出て楽しむという事は殆どなかった。それはやはりオスカーと睦まじく出来なかった事も、原因ではあったかもしれない。
今思えば、自分からでも誘えばよかったのかもしれないと思うが、その時のユリアーナはそれすら思いつくことはなかった。
串焼きの香ばしい匂いを感じながら、街ゆく人々を眺めると、どうしてもカップルに目が行ってしまう。
(私って⋯⋯執拗いわね)
オスカーの事は吹っ切れたつもりだったのに、未だにそこかしこで思い出す。自分がこんなに未練がましい女だった事を発見して情けなく思った。
心の中では自嘲して表面は取り繕って笑う、自分がこんなだからオスカーを繋ぎ止められなかったのかと、また自嘲⋯⋯これは負のループだと頭では分かっていても心がついて行かない。
そんな事を考えていたら聞き覚えのある声がユリアーナを呼んだ。
「おい!そんなに上手いのか?何本目だ」
いつから見ていたのだろうか、膝に置いていた5本の串焼きは残り2本になっていた。
「ダイナス様、貴方の身分でそんなにフラフラ出歩くものじゃありませんわ。それに相変わらず趣味が悪い」
食いしん坊のように言われたユリアーナは反撃するつもりの嫌味をダイナスに言った。彼の服のセンスは実に個性的なのだ。
二人の言葉の応酬に、ダイナスの後ろにいたシモンが大笑いしながら、チャームポイントの八重歯をキラリと光らせていた。
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