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第二章 アトルス王国にて
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「こっちに」
咄嗟には慌てふためいたシモンだったが、少し冷静になってからユリアーナの背に手を添えて、端の方に在るベンチに誘導してユリアーナの涙を隠してくれた。
ベンチに腰掛けたユリアーナは、止まらぬ涙を押えながら、その時何故涙が出たのかわかってしまった。自分がオスカーとの出会いを思い出したのだと気付いたのだ。
出会った時の笑顔、涙を拭いてくれた胸元から出された白いハンカチ。全部オスカーとの思い出だった。
暫くするとユリアーナも冷静になってきて、涙は落ち着いた。
「ごめんなさい、突然」
「⋯⋯⋯いや、いいけど。どうしたの?何か嫌な気分にでもなったのかな?」
シモンにそう聞かれてユリアーナは首を振った。嫌な気分なんて、そんな事あるはずない!
「⋯⋯⋯昔を思い出したんです」
「昔?」
「えぇ。昔、むかしです」
「昔、昔かぁ」
「ふふ、シモン様、聞いてもらえますか?」
何故なのか分からないがユリアーナはシモンに話したいと思った。そんなユリアーナにシモンは「いいよ」と快諾してくれた。
ユリアーナはオスカーとの出会いから婚約解消まで、そして未練たらたらな今の自分の感情まで話してしまった。随分開けっぴろげに話してしまって、話した後に自分の今の執拗い位の未練まで話す必要あったかしら?と思って恥ずかしさに俯いた、そしてどうせかいた恥ならば序で聞いてしまおうと何故かそう思って勢いで質問した。
「どうしてでしょうか?どうして私はオスカー様に未練がましいのか、自分でもよく分からないのです。婚約していた時も何度も彼の行動には呆れたりしていたし、最後の最後までマリアンナのことばかりな彼に辟易もしていたんです。時には苛立ちも覚えて。それなのにどうしてこの気持ちが無くならないのか、そんなに好きだったのかなって自分で不思議に思ってしまうんです。これって初恋だからなのでしょうか?」
「そっか」
話を聞き終えたシモンは一言そう言って黙ってしまった。
暫くの沈黙。
でもその静かな時間をユリアーナは嫌じゃなかった。自分の中の感情を、醜く自分でも嫌悪してしまう感情までシモンに曝け出したというのに、ユリアーナはスッキリしていた、しかも図々しく自分で出せない答えまで、関係のないシモンに求めてしまっていた。
黙って隣で前を見ていたシモンだったが、いつの間にかユリアーナの方をジッと見つめていた。その事にユリアーナは気付いて二人は見つめ合った。
「それはきっとちゃんと決着出来なかったからだと私は思う」
「決着?」
「うん、ユリアーナ嬢は自分の気持ちを彼に伝えてないだろう?」
「⋯⋯⋯えぇ」
「だからだと思うよ」
「でも、言っても⋯⋯」
「うん、振られちゃうかもね。わからないけど」
辛辣に言い切るシモンにユリアーナはクシャリと眉を顰めた。
「振られるって分かってるのに言えません」
「どうして?振られても言ったほうがいい時もあるよ」
「それって、私は惨めじゃないですか?」
「うーん惨めになるかもね」
「⋯⋯⋯酷い」
「でもさ、惨めになるからって言わなかった結果が今だよ」
「えっ?」
「ユリアーナ嬢はちょっとプライド高いかな、あっ悪い意味じゃないんだよ。貴族の令嬢としては当たり前だし好ましいよ。でもさだからこそだよ」
何がだからこそなんだ?っと益々ユリアーナは眉間に皺が寄ってきた。
「玉砕した時はさ、そりゃあ落ち込むよ。でもね諦めがつくんだよ。終わったなって実感もできる。でもユリアーナ嬢は言わなかったから、そのチャンスを逃してしまった。だから、今でもひょっとしたら、もしかしたらって無意識に思ってしまってるんだよ」
「ひょっとしたら、もしかしたら?」
「うん、ひょっとしたら自分の気持ちを伝えたら元婚約者は自分の事を好きになるんじゃないか。もしかしたら初恋の相手は自分だといえばこちらを振り向いてくれるんじゃないかってね」
「あっ!」
ユリアーナはシモンの言葉を聞いて口元を両手で押さえた。思いっきり図星だった。
言っても無駄だなんて言いながら、心のどこかでそう思う自分が居たんだろうと思った。
そしてそのシモンの言葉が正解だと思えた。
それはただ単にユリアーナのプライドの問題だったのだとシモンは言い難いことを言ってくれた。
「シモン様、ありがとうございます」
「えっ?かなり失礼な事言ったと思うけど」
「いえ、それは私に必要だったかもしれません。だって⋯きっと正解なんです。私の⋯プライドがそこまで高いとは自分でも分かってなかった」
「さっきも言ったけど、それは悪いことじゃないよ」
「えぇそれも分かります。でも燻った気持ちに何時までも踏ん切りが付かなかった理由が分かって⋯⋯良かった。ずっと悶々としていたんです」
「スッキリした?」
「いえ、話せたことはスッキリしたかもしれないけど、気持ちはまだ落ち着かないかも」
「そっか、じゃあ薬師擬きから一言」
「薬師擬き?」
「うん、薬師にはなってないからね」
「ふふ、お願いします」
「時間は薬にもなるんだよ」
「時間?」
「そうだよ、今の感情は今そう思ってるって事だろうけど、時間が経てば薄れてくるんだ。そうやって思い出って物になって、その時に胸の中の箱に仕舞われるんだよ」
「時間が薬⋯⋯」
ユリアーナは俯きながら、シモンの言葉を噛み締めるように呟いていたら、フッと心が少し軽くなった気がした。そしてシモンの顔を再び見つめてお礼を言った。
「シモン様、ありがとうございます。何だか肩の力が抜けた気がします」
「良かった、私にも経験があったからね」
「シモン様にも?」
シモンは頷いて少し眉を顰めた。
でもそれは一瞬で直ぐに笑顔でユリアーナに八重歯を見せてくれた。
ユリアーナは、なんとなくシモンのその想い人はファライナで、まだ彼のその気持ちは現在進行系なのだと感じた。
それから暫く二人はベンチで何も言わずに目の前に広がる薬草達を眺めていた。
咄嗟には慌てふためいたシモンだったが、少し冷静になってからユリアーナの背に手を添えて、端の方に在るベンチに誘導してユリアーナの涙を隠してくれた。
ベンチに腰掛けたユリアーナは、止まらぬ涙を押えながら、その時何故涙が出たのかわかってしまった。自分がオスカーとの出会いを思い出したのだと気付いたのだ。
出会った時の笑顔、涙を拭いてくれた胸元から出された白いハンカチ。全部オスカーとの思い出だった。
暫くするとユリアーナも冷静になってきて、涙は落ち着いた。
「ごめんなさい、突然」
「⋯⋯⋯いや、いいけど。どうしたの?何か嫌な気分にでもなったのかな?」
シモンにそう聞かれてユリアーナは首を振った。嫌な気分なんて、そんな事あるはずない!
「⋯⋯⋯昔を思い出したんです」
「昔?」
「えぇ。昔、むかしです」
「昔、昔かぁ」
「ふふ、シモン様、聞いてもらえますか?」
何故なのか分からないがユリアーナはシモンに話したいと思った。そんなユリアーナにシモンは「いいよ」と快諾してくれた。
ユリアーナはオスカーとの出会いから婚約解消まで、そして未練たらたらな今の自分の感情まで話してしまった。随分開けっぴろげに話してしまって、話した後に自分の今の執拗い位の未練まで話す必要あったかしら?と思って恥ずかしさに俯いた、そしてどうせかいた恥ならば序で聞いてしまおうと何故かそう思って勢いで質問した。
「どうしてでしょうか?どうして私はオスカー様に未練がましいのか、自分でもよく分からないのです。婚約していた時も何度も彼の行動には呆れたりしていたし、最後の最後までマリアンナのことばかりな彼に辟易もしていたんです。時には苛立ちも覚えて。それなのにどうしてこの気持ちが無くならないのか、そんなに好きだったのかなって自分で不思議に思ってしまうんです。これって初恋だからなのでしょうか?」
「そっか」
話を聞き終えたシモンは一言そう言って黙ってしまった。
暫くの沈黙。
でもその静かな時間をユリアーナは嫌じゃなかった。自分の中の感情を、醜く自分でも嫌悪してしまう感情までシモンに曝け出したというのに、ユリアーナはスッキリしていた、しかも図々しく自分で出せない答えまで、関係のないシモンに求めてしまっていた。
黙って隣で前を見ていたシモンだったが、いつの間にかユリアーナの方をジッと見つめていた。その事にユリアーナは気付いて二人は見つめ合った。
「それはきっとちゃんと決着出来なかったからだと私は思う」
「決着?」
「うん、ユリアーナ嬢は自分の気持ちを彼に伝えてないだろう?」
「⋯⋯⋯えぇ」
「だからだと思うよ」
「でも、言っても⋯⋯」
「うん、振られちゃうかもね。わからないけど」
辛辣に言い切るシモンにユリアーナはクシャリと眉を顰めた。
「振られるって分かってるのに言えません」
「どうして?振られても言ったほうがいい時もあるよ」
「それって、私は惨めじゃないですか?」
「うーん惨めになるかもね」
「⋯⋯⋯酷い」
「でもさ、惨めになるからって言わなかった結果が今だよ」
「えっ?」
「ユリアーナ嬢はちょっとプライド高いかな、あっ悪い意味じゃないんだよ。貴族の令嬢としては当たり前だし好ましいよ。でもさだからこそだよ」
何がだからこそなんだ?っと益々ユリアーナは眉間に皺が寄ってきた。
「玉砕した時はさ、そりゃあ落ち込むよ。でもね諦めがつくんだよ。終わったなって実感もできる。でもユリアーナ嬢は言わなかったから、そのチャンスを逃してしまった。だから、今でもひょっとしたら、もしかしたらって無意識に思ってしまってるんだよ」
「ひょっとしたら、もしかしたら?」
「うん、ひょっとしたら自分の気持ちを伝えたら元婚約者は自分の事を好きになるんじゃないか。もしかしたら初恋の相手は自分だといえばこちらを振り向いてくれるんじゃないかってね」
「あっ!」
ユリアーナはシモンの言葉を聞いて口元を両手で押さえた。思いっきり図星だった。
言っても無駄だなんて言いながら、心のどこかでそう思う自分が居たんだろうと思った。
そしてそのシモンの言葉が正解だと思えた。
それはただ単にユリアーナのプライドの問題だったのだとシモンは言い難いことを言ってくれた。
「シモン様、ありがとうございます」
「えっ?かなり失礼な事言ったと思うけど」
「いえ、それは私に必要だったかもしれません。だって⋯きっと正解なんです。私の⋯プライドがそこまで高いとは自分でも分かってなかった」
「さっきも言ったけど、それは悪いことじゃないよ」
「えぇそれも分かります。でも燻った気持ちに何時までも踏ん切りが付かなかった理由が分かって⋯⋯良かった。ずっと悶々としていたんです」
「スッキリした?」
「いえ、話せたことはスッキリしたかもしれないけど、気持ちはまだ落ち着かないかも」
「そっか、じゃあ薬師擬きから一言」
「薬師擬き?」
「うん、薬師にはなってないからね」
「ふふ、お願いします」
「時間は薬にもなるんだよ」
「時間?」
「そうだよ、今の感情は今そう思ってるって事だろうけど、時間が経てば薄れてくるんだ。そうやって思い出って物になって、その時に胸の中の箱に仕舞われるんだよ」
「時間が薬⋯⋯」
ユリアーナは俯きながら、シモンの言葉を噛み締めるように呟いていたら、フッと心が少し軽くなった気がした。そしてシモンの顔を再び見つめてお礼を言った。
「シモン様、ありがとうございます。何だか肩の力が抜けた気がします」
「良かった、私にも経験があったからね」
「シモン様にも?」
シモンは頷いて少し眉を顰めた。
でもそれは一瞬で直ぐに笑顔でユリアーナに八重歯を見せてくれた。
ユリアーナは、なんとなくシモンのその想い人はファライナで、まだ彼のその気持ちは現在進行系なのだと感じた。
それから暫く二人はベンチで何も言わずに目の前に広がる薬草達を眺めていた。
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