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第二章 アトルス王国にて
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結局ユリアーナはお言葉に目一杯甘えて、次の休みも植物園に訪った。
植物園のどこで落ち合うかなんて話していなかったけれど、自然とそこにいる気がしてあの屋台の所までユリアーナが行くと、果たしてシモンはそこに居た。
しかも何故かシモンは前回会ったときに、ユリアーナが迷って結局飲まなかった方のジュースを購入して待っていた。
えっと⋯⋯エスパー?
「丁度よかった、どうぞ」
「何方かの分ではありませんか?」
「いや、なんとなく今日も来てくれるんじゃないかと思ったから」
「⋯⋯⋯⋯ありがとうございます」
シモンの言葉に戸惑うユリアーナは、待っていてくれたと喜んでいいのかよく分からなかった⋯喜ぶって何?
本気で自分の頭がよく回ってないように思えて、取り敢えず飲もう!とストローで一気に吸い上げてしまった。それを見たシモンが、チャームポイントをこれでもかと見せつけながら笑っていた。
「あぁ失礼、笑っちゃって。でも美味しそうにのむから、はは」
美味しそうと笑いの因果関係は全く分からなかったが、シモンが笑ってくれたなら良かったとユリアーナは思った⋯良かったって何?
今日のユリアーナは自分でもよく分からない感情に振り回されて、来たばかりなのに少し疲れてしまった。だから笑顔のシモンに何気なく聞いてその答えに玉砕したのだがまたもや玉砕って何故?と変な思考ループに陥った。
「でもどうしてこの時間にご用意下さったのですか?すごい勘ですね」
「いや、ファライナが来る時は大体この時間位だったから、ご令嬢はこのくらいかなって思って」
「⋯そうですか!氷が程よく溶けてとっても冷たくて美味しいです。ありがとうございます」
笑顔は引き攣ってなかっただろうか?
そんな事を思いながら、なんでもないように笑うシモンにツキンと胸が疼いた。
そういえば⋯⋯ファライナと護衛騎士って⋯。
いやそんな事は聞いては駄目だと、ユリアーナの心の警報がしっかりと危険を伝えたので聞かずにすんだ⋯聞かずにすんだって⋯もう!私何なの?
ユリアーナの脳と心の葛藤などお構いなしにシモンが立ち上がって、飲み終わったカップを屋台に返しに行っていた。戻ってくると「じゃあ行こうか」と本当になんでもないように言ってくるから、ユリアーナは自分のヤキモキしているよく分からない感情が、馬鹿馬鹿しくなってもう思考の停止を脳に命じた。
それからは只管メモを片手に本来の目的、お勉強の時間だった。
「これはカメルレイって言って主に薬草の繋ぎの役目をしてくれるんだ」
「繋ぎ?」
「あぁそうだな、例えばこの前説明したこれエンテッドは何だったかな?」
「えっとこれは熱を下げるのに良い薬草だったかな?」
前回はメモができなかったが、ユリアーナは屋敷に帰ってから出来るだけ覚えてる事を書き出して復習していた。それを思い浮かべながら答えた。
「正解!凄いなよく覚えられたね。結構沢山説明したのに。私の生徒は優秀だなぁ」
「ふふ、ありがとうございます師匠!」
「じゃあ次はこれ」
「えっとこれはルーライです、炎症を抑える為に使います」
「正解!じゃあこれは?」
「これですか?⋯⋯アレ?これ聞きました?ごめんなさい覚えてないです」
「はははそれも正解!これは先日は鉢植えの方にあったんだ、だから説明してない」
「⋯⋯⋯⋯試しましたね」
「ごめん、ごめん」
笑いながら謝罪するシモンが憎らしくて少し睨んでからユリアーナも笑った。楽しい!楽しい!
どうしてシモンといると楽しいのか、それとも薬草の知識を取り込めるのが嬉しいのか、ユリアーナは後者なのだと自分に言い聞かせた。
「はは、これはステッサランって言って血を止めるんだ」
「血止めですね、ステッサラン⋯⋯と」
効能と薬草の名をメモしながら葉の特徴なども書き込んでいく。そんなユリアーナを見ながらシモンも眩しそうにしていたのだがユリアーナは気付かなかった。
「今問題に出した3つの薬草を使って怪我を治す薬を作るんだけど、3つだけを混ぜても不思議なことにあまり効果がないんだ」
「そうなんですか?」
「うん、思ったよりもって位なんだけどね。ただここにこれ、さっきのカメルレイを混ぜると途端に効能が倍くらいに発揮するんだよ」
「ええっ!倍ですか?」
「あぁ植物の不思議だよね。だから薬草の研究は止められないよ」
「倍⋯凄い」
「ねぇユリアーナ嬢、もし良かったら簡単な薬の作り方も教えようか?」
「えっ?でも私は薬師には」
「うん、薬師になる必要はないよ。でもさ知識として蓄える分には邪魔にならないだろう?」
「⋯⋯そうですね!私が知ってる事でいつか役に立つかもしれませんし、教えて頂けますか?」
ユリアーナが聞くとシモンは何故か照れたように頷いた。
その笑顔を見て何故かユリアーナはオスカーを思い出した。どうしてなのか自分でも分からない感情が湧き上がって思わず涙が溢れてしまった。
そんなユリアーナを見てシモンは慌てふためいた。
それはそうだろう
今の今まで笑いながら薬草の話をしていたのに、突然泣き出したのだから。
「ど、どうしたんだ?えっ?ユリアーナ嬢?」
言いながらシモンは胸ポケットからハンカチを取り出してユリアーナの涙を拭こうとした。
その真っ白なハンカチを見てユリアーナは尚更涙が溢れた。
もう自分でもよく分からない。
今日の私はどうかしている!
心の中でユリアーナは自分の感情を理解できなくて、ただ溢れる涙をどうにか止めようと必死になるけれど、どうしても止まらない。
そんなジレンマに陥っていた。
植物園のどこで落ち合うかなんて話していなかったけれど、自然とそこにいる気がしてあの屋台の所までユリアーナが行くと、果たしてシモンはそこに居た。
しかも何故かシモンは前回会ったときに、ユリアーナが迷って結局飲まなかった方のジュースを購入して待っていた。
えっと⋯⋯エスパー?
「丁度よかった、どうぞ」
「何方かの分ではありませんか?」
「いや、なんとなく今日も来てくれるんじゃないかと思ったから」
「⋯⋯⋯⋯ありがとうございます」
シモンの言葉に戸惑うユリアーナは、待っていてくれたと喜んでいいのかよく分からなかった⋯喜ぶって何?
本気で自分の頭がよく回ってないように思えて、取り敢えず飲もう!とストローで一気に吸い上げてしまった。それを見たシモンが、チャームポイントをこれでもかと見せつけながら笑っていた。
「あぁ失礼、笑っちゃって。でも美味しそうにのむから、はは」
美味しそうと笑いの因果関係は全く分からなかったが、シモンが笑ってくれたなら良かったとユリアーナは思った⋯良かったって何?
今日のユリアーナは自分でもよく分からない感情に振り回されて、来たばかりなのに少し疲れてしまった。だから笑顔のシモンに何気なく聞いてその答えに玉砕したのだがまたもや玉砕って何故?と変な思考ループに陥った。
「でもどうしてこの時間にご用意下さったのですか?すごい勘ですね」
「いや、ファライナが来る時は大体この時間位だったから、ご令嬢はこのくらいかなって思って」
「⋯そうですか!氷が程よく溶けてとっても冷たくて美味しいです。ありがとうございます」
笑顔は引き攣ってなかっただろうか?
そんな事を思いながら、なんでもないように笑うシモンにツキンと胸が疼いた。
そういえば⋯⋯ファライナと護衛騎士って⋯。
いやそんな事は聞いては駄目だと、ユリアーナの心の警報がしっかりと危険を伝えたので聞かずにすんだ⋯聞かずにすんだって⋯もう!私何なの?
ユリアーナの脳と心の葛藤などお構いなしにシモンが立ち上がって、飲み終わったカップを屋台に返しに行っていた。戻ってくると「じゃあ行こうか」と本当になんでもないように言ってくるから、ユリアーナは自分のヤキモキしているよく分からない感情が、馬鹿馬鹿しくなってもう思考の停止を脳に命じた。
それからは只管メモを片手に本来の目的、お勉強の時間だった。
「これはカメルレイって言って主に薬草の繋ぎの役目をしてくれるんだ」
「繋ぎ?」
「あぁそうだな、例えばこの前説明したこれエンテッドは何だったかな?」
「えっとこれは熱を下げるのに良い薬草だったかな?」
前回はメモができなかったが、ユリアーナは屋敷に帰ってから出来るだけ覚えてる事を書き出して復習していた。それを思い浮かべながら答えた。
「正解!凄いなよく覚えられたね。結構沢山説明したのに。私の生徒は優秀だなぁ」
「ふふ、ありがとうございます師匠!」
「じゃあ次はこれ」
「えっとこれはルーライです、炎症を抑える為に使います」
「正解!じゃあこれは?」
「これですか?⋯⋯アレ?これ聞きました?ごめんなさい覚えてないです」
「はははそれも正解!これは先日は鉢植えの方にあったんだ、だから説明してない」
「⋯⋯⋯⋯試しましたね」
「ごめん、ごめん」
笑いながら謝罪するシモンが憎らしくて少し睨んでからユリアーナも笑った。楽しい!楽しい!
どうしてシモンといると楽しいのか、それとも薬草の知識を取り込めるのが嬉しいのか、ユリアーナは後者なのだと自分に言い聞かせた。
「はは、これはステッサランって言って血を止めるんだ」
「血止めですね、ステッサラン⋯⋯と」
効能と薬草の名をメモしながら葉の特徴なども書き込んでいく。そんなユリアーナを見ながらシモンも眩しそうにしていたのだがユリアーナは気付かなかった。
「今問題に出した3つの薬草を使って怪我を治す薬を作るんだけど、3つだけを混ぜても不思議なことにあまり効果がないんだ」
「そうなんですか?」
「うん、思ったよりもって位なんだけどね。ただここにこれ、さっきのカメルレイを混ぜると途端に効能が倍くらいに発揮するんだよ」
「ええっ!倍ですか?」
「あぁ植物の不思議だよね。だから薬草の研究は止められないよ」
「倍⋯凄い」
「ねぇユリアーナ嬢、もし良かったら簡単な薬の作り方も教えようか?」
「えっ?でも私は薬師には」
「うん、薬師になる必要はないよ。でもさ知識として蓄える分には邪魔にならないだろう?」
「⋯⋯そうですね!私が知ってる事でいつか役に立つかもしれませんし、教えて頂けますか?」
ユリアーナが聞くとシモンは何故か照れたように頷いた。
その笑顔を見て何故かユリアーナはオスカーを思い出した。どうしてなのか自分でも分からない感情が湧き上がって思わず涙が溢れてしまった。
そんなユリアーナを見てシモンは慌てふためいた。
それはそうだろう
今の今まで笑いながら薬草の話をしていたのに、突然泣き出したのだから。
「ど、どうしたんだ?えっ?ユリアーナ嬢?」
言いながらシモンは胸ポケットからハンカチを取り出してユリアーナの涙を拭こうとした。
その真っ白なハンカチを見てユリアーナは尚更涙が溢れた。
もう自分でもよく分からない。
今日の私はどうかしている!
心の中でユリアーナは自分の感情を理解できなくて、ただ溢れる涙をどうにか止めようと必死になるけれど、どうしても止まらない。
そんなジレンマに陥っていた。
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