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第二章 アトルス王国にて
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真っ直ぐなアイザットの相手をしたからか、ユリアーナの心はズタボロだった。
「無理するな」
そんなユリアーナにダイナスは優しく声をかけてくれる。その優しさが染みるユリアーナは先程のアイザットをもう一度思い出した。
彼は別れ際に真摯に謝罪してくれた。
「オスカーの勘違いを真に受けてマリアンナを虐げる義姉だと思ってました。本当に申しわけありませんでした」
それを聞いてからユリアーナの心はズタボロなのだ。オスカーとの婚約解消は結局書面を交わして終わったから、ユリアーナは彼とはあの晩餐以来会ってもいない。
だがついぞ彼からは、勘違いして虐げた姉だと誤解したことへの謝罪は無かった。
謝罪が無かったということが、彼の性格的には考えられないのだが、おそらくユリアーナに謝罪するよりも、もっと他に考えなければならない重要な事が彼には合ったのだと思った。だからそちらに気を取られユリアーナに手紙ですら謝罪してくれなかったのだと思った。
(きっとマリアンナの事を考えていたのよね)
ユリアーナはどうして自分はオスカーへの気持ちを消してしまえないのか、情けない恋心にしがみつく自分が哀れに思えてきた。
(早く忘れたいのに⋯どうして?)
その日は真っ直ぐ家に帰る気分じゃなかった。
だがダイナスはこの後、公務が入っていると聞いていた。
ダイナスと別れたあと後ろに控えていたマールがそそそっとユリアーナの側に来た。そしてきっとユリアーナの心を察してくれたのだろう、本当に優秀な侍女だ、ライレーンに連れて帰りたい程だと思う。
「ユリアーナ様、近くに植物園があるんです。良かったらご案内しましょうか?」
マールの言葉に思わず振り向くと後ろでルーカスも頷いてくれていた。
二人の好意にユリアーナは甘えることにした。
◇◇◇
植物園は思った以上に植物の宝庫だった。
図鑑で見た絵と同じような物が幾つもある、ユリアーナのズタボロの心が少しずつ浮上していくのを感じた。
庭園仕様になっていたり、大きな鉢植えで置かれたりと様々だった。入口辺りから既に歓喜していたユリアーナは途中で屋台を見つけて喉が乾いた事に気付いた。
「マール、ルーカス!喉が乾いたわね」
「お嬢様私が買ってまいりますよ」
「ううん、選びたいわ。植物園のジュースの屋台なんてどんなに珍しいか知りたいもの」
期待に胸を膨らませマールと屋台に向かう、ルーカスも後ろを着いてきていたが、そっとマールに耳打ちしていたのが聞こえてユリアーナは思わず笑ってしまった。
「ルーカス!草って!ふふふ、ふふ」
ユリアーナは人目も憚らず笑ってしまった。
当のルーカスの顔は真っ赤になって耳まで赤かった。
「お嬢様、揶揄わないでください」
何時までも笑うユリアーナにルーカスは「めっ!」というように言った。
「ごめんなさい、だって草は飲まないからなって。ふふふ、駄目よルーカス止まらないわ」
屋台までもうちょっとの所でユリアーナの笑いが止まらなくて、そこに3人は立ち止まっていた。
「誰の笑い声かと思ったら、ご機嫌だね」
声のする方を見るとシモンが八重歯を携えてやって来た。逆光で眩しく光る口元はキラリと光って見えた。
「シモン様!どうしてここへ?」
「ここには良く来るんだゲートラン公爵家が幾つか種を提供したりしてるし、買い付けたりもしてるんだよ。ユリアーナ嬢は?勉強の為?」
「いえ、ちょっと気晴らしに」
「そうか。どうかな?私が案内しようか?」
「いいんですか?あっ、でも」
「どうしたの?」
「夜会で噂を聞いたので⋯ご迷惑おかけして申し訳ありません。ファライナ様も耳にしたのではと思うと本当に軽率でした」
「あぁあんな噂を気にしているの?気にしなくていいよ、それにファライナは大丈夫だ。ユリアーナ嬢が嫌なら案内は辞退するけど⋯別に噂に振り回される必要はないんじゃない?軽率って言うなら私の方だろう、勝手に抱き上げたんだから」
シモンの言葉にマールとルーカスがギョッとしていた。そうか彼らはお迎えに来ただけでその前の事は知らなかったのだと、ユリアーナは驚かせてごめんなさいと心の中で呟いた。
その後、結局シモンに案内してもらうことにしたユリアーナは取り敢えず喉が乾いたのだと言って、ジュースを人数分購入して近くのテーブルで冷たいハーブティーを堪能した。勿論ルーカスにはアイスコーヒーを渡した。
思いがけない案内人は、やはり話し上手でユリアーナに実地で植物を教授してくれた。
あのカフェで話を聞いた時も詳しく説明してくれたが、実物があると尚更わかりやすくて、メモを携帯していなかった事をかなり悔やんだ。
別れ際馬車停で、今日案内してもらえたのは、植物園の3分の1程だと聞いた時ユリアーナは驚いた。どれ程広いのだやはり薬学に精通する先進国は違うなとユリアーナは感心した。
「良かったらこれからも案内しようか?私は休日は殆どここに居るから、ユリアーナ嬢が都合のいい時においで」
優しくシモンに声をかけられてユリアーナは頷いた。
勉強のためよ、領地領民の為よ。だってそれが目的でアトラスに来たんだもの。
心の中で反芻する声は、誰に言い訳しているのかユリアーナは分からない。
(出来るだけ通えたらいいな)
ユリアーナは、馬車の窓から見える見送りのシモンに軽く手を振っていた。
「無理するな」
そんなユリアーナにダイナスは優しく声をかけてくれる。その優しさが染みるユリアーナは先程のアイザットをもう一度思い出した。
彼は別れ際に真摯に謝罪してくれた。
「オスカーの勘違いを真に受けてマリアンナを虐げる義姉だと思ってました。本当に申しわけありませんでした」
それを聞いてからユリアーナの心はズタボロなのだ。オスカーとの婚約解消は結局書面を交わして終わったから、ユリアーナは彼とはあの晩餐以来会ってもいない。
だがついぞ彼からは、勘違いして虐げた姉だと誤解したことへの謝罪は無かった。
謝罪が無かったということが、彼の性格的には考えられないのだが、おそらくユリアーナに謝罪するよりも、もっと他に考えなければならない重要な事が彼には合ったのだと思った。だからそちらに気を取られユリアーナに手紙ですら謝罪してくれなかったのだと思った。
(きっとマリアンナの事を考えていたのよね)
ユリアーナはどうして自分はオスカーへの気持ちを消してしまえないのか、情けない恋心にしがみつく自分が哀れに思えてきた。
(早く忘れたいのに⋯どうして?)
その日は真っ直ぐ家に帰る気分じゃなかった。
だがダイナスはこの後、公務が入っていると聞いていた。
ダイナスと別れたあと後ろに控えていたマールがそそそっとユリアーナの側に来た。そしてきっとユリアーナの心を察してくれたのだろう、本当に優秀な侍女だ、ライレーンに連れて帰りたい程だと思う。
「ユリアーナ様、近くに植物園があるんです。良かったらご案内しましょうか?」
マールの言葉に思わず振り向くと後ろでルーカスも頷いてくれていた。
二人の好意にユリアーナは甘えることにした。
◇◇◇
植物園は思った以上に植物の宝庫だった。
図鑑で見た絵と同じような物が幾つもある、ユリアーナのズタボロの心が少しずつ浮上していくのを感じた。
庭園仕様になっていたり、大きな鉢植えで置かれたりと様々だった。入口辺りから既に歓喜していたユリアーナは途中で屋台を見つけて喉が乾いた事に気付いた。
「マール、ルーカス!喉が乾いたわね」
「お嬢様私が買ってまいりますよ」
「ううん、選びたいわ。植物園のジュースの屋台なんてどんなに珍しいか知りたいもの」
期待に胸を膨らませマールと屋台に向かう、ルーカスも後ろを着いてきていたが、そっとマールに耳打ちしていたのが聞こえてユリアーナは思わず笑ってしまった。
「ルーカス!草って!ふふふ、ふふ」
ユリアーナは人目も憚らず笑ってしまった。
当のルーカスの顔は真っ赤になって耳まで赤かった。
「お嬢様、揶揄わないでください」
何時までも笑うユリアーナにルーカスは「めっ!」というように言った。
「ごめんなさい、だって草は飲まないからなって。ふふふ、駄目よルーカス止まらないわ」
屋台までもうちょっとの所でユリアーナの笑いが止まらなくて、そこに3人は立ち止まっていた。
「誰の笑い声かと思ったら、ご機嫌だね」
声のする方を見るとシモンが八重歯を携えてやって来た。逆光で眩しく光る口元はキラリと光って見えた。
「シモン様!どうしてここへ?」
「ここには良く来るんだゲートラン公爵家が幾つか種を提供したりしてるし、買い付けたりもしてるんだよ。ユリアーナ嬢は?勉強の為?」
「いえ、ちょっと気晴らしに」
「そうか。どうかな?私が案内しようか?」
「いいんですか?あっ、でも」
「どうしたの?」
「夜会で噂を聞いたので⋯ご迷惑おかけして申し訳ありません。ファライナ様も耳にしたのではと思うと本当に軽率でした」
「あぁあんな噂を気にしているの?気にしなくていいよ、それにファライナは大丈夫だ。ユリアーナ嬢が嫌なら案内は辞退するけど⋯別に噂に振り回される必要はないんじゃない?軽率って言うなら私の方だろう、勝手に抱き上げたんだから」
シモンの言葉にマールとルーカスがギョッとしていた。そうか彼らはお迎えに来ただけでその前の事は知らなかったのだと、ユリアーナは驚かせてごめんなさいと心の中で呟いた。
その後、結局シモンに案内してもらうことにしたユリアーナは取り敢えず喉が乾いたのだと言って、ジュースを人数分購入して近くのテーブルで冷たいハーブティーを堪能した。勿論ルーカスにはアイスコーヒーを渡した。
思いがけない案内人は、やはり話し上手でユリアーナに実地で植物を教授してくれた。
あのカフェで話を聞いた時も詳しく説明してくれたが、実物があると尚更わかりやすくて、メモを携帯していなかった事をかなり悔やんだ。
別れ際馬車停で、今日案内してもらえたのは、植物園の3分の1程だと聞いた時ユリアーナは驚いた。どれ程広いのだやはり薬学に精通する先進国は違うなとユリアーナは感心した。
「良かったらこれからも案内しようか?私は休日は殆どここに居るから、ユリアーナ嬢が都合のいい時においで」
優しくシモンに声をかけられてユリアーナは頷いた。
勉強のためよ、領地領民の為よ。だってそれが目的でアトラスに来たんだもの。
心の中で反芻する声は、誰に言い訳しているのかユリアーナは分からない。
(出来るだけ通えたらいいな)
ユリアーナは、馬車の窓から見える見送りのシモンに軽く手を振っていた。
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