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第二章 アトルス王国にて
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二人の出会いをダイナスとシモンに説明したユリアーナは、ファライナが少し戸惑っているようにも見えたが、直ぐに彼女は笑顔で話に加わったので気のせいかとやり過ごした。
ファライナはユリアーナと同じ年で、今は次期当主として侯爵家の家業に携わっていると言った、それが製紙事業だった。
印刷と言ったら紙というくらい密接な関係だ。
ダイナスはこの国で知り合ったシモンの婚約者がショーズ家の次期当主と聞いて、ずっと紹介されるのを心待ちにしていたそうだ。だがファライナはこの国では珍しく領地で学園に通っていたそうで、やっと会えたとダイナスの喜びは一入だった。
事業の話はまた侯爵も交えてと約束を取り付けたダイナスはホクホクの上機嫌で、ユリアーナにもう一曲踊るか?と無理難題を言ってくるから躱すのが一苦労だった。
これ以上の噂はご勘弁だ。
その後は二人と離れて各国の来賓と話していると母とも合流できた。母はダイナスに、早く婚約者を決めてユリアーナを解放しろと苦言まで呈していた。
なんだかんだ先程の噂を吹き飛ばすくらい楽しく過ごせていたユリアーナは、シャンパンの飲み過ぎも相俟って化粧室へと向かった。
その帰りの廊下の窓から見えたバルコニーに見覚えのあるジャケットの後ろ姿が見えた。
「シモン様?」
ユリアーナは何だか気になってそのバルコニーに向かった。
別に足音を忍ばせて歩いたつもりは無かったが、ユリアーナが近づいてくるのをシモンは振り返らなかった。只管庭園を見下ろしているようで、その方へユリアーナも自然と目が動いた。
庭園の夜会用の薄ぼんやりした灯りに映し出されて二人の男女が手を繋ぎ笑顔で話していた。
ユリアーナはその二人に見覚えがあった。
思わず口元を押さえた、声が出てしまいそうになる。
そこに居たのはファライナとあの日雑貨屋で見た護衛騎士だった。
ユリアーナに気付いたシモンは、庭園に釘付けになっている彼女の肩をトンと突いた。
そして人差し指を口元に当てる、黙っている様にという仕草だ。
ユリアーナはコクコクと何度も頭を縦に振って応えた。
その様子が可笑しかったのか「フッ」とシモンが笑ってユリアーナに掌を差し出した。
「ユリアーナ嬢、ここでダンスをお願いするのは失礼だろうか?」
本当なら失礼かもしれない、だけどユリアーナは小声で「喜んで」と答えていた。勝手に口が動いたのだ。自分でも信じられなかった。
バルコニーに出る扉が少し開いてるおかげで、ホールの楽団の音はここにも聞こえてくる。
その微かな音に合わせてユリアーナはシモンと二人の世界に没頭した。
一曲終わったタイミングでユリアーナがカーテシーをすると「ありがとう」と言ったシモンの声が震えているように感じた。
それに笑顔で応えたユリアーナはバルコニーを後にした、何故か胸の鼓動が早鐘を打っていて、この鼓動が何なのかユリアーナには分からなかった。
◇◇◇
善は急げとばかりに夜会から2日後、ユリアーナとダイナスは待ち合わせのカフェに来ていた。
呼び出したのはダイナスだったから、相手は相当ビビったらしく顔に緊張を携えてやって来た。
アイザット・マホニーはハーブティー派のようでレモングラスを注文した。いや、好きなのではなくてすでにこの状況が胃にきているのだろうか?
そんな事をユリアーナが考えていたら、前から来る視線が痛くなって、見るとやはりというかアイザットはユリアーナを睨んでいた。
「その目はお止めください、マホニー伯爵令息」
ユリアーナの苦言に、珈琲を黙って飲んでいたダイナスがアイザットを威圧した。
「マリアンナが可哀想だと思わないのですか?」
既視感を感じたユリアーナはオスカーと話している気分になって、思いっきりこの状況に辟易した。
「マホニー伯爵令息はルルベルド伯爵令息から婚約解消の経緯をお聞きになっていないのですか?」
ユリアーナはどうせ聞いていないだろうと思って聞いてみた。ちゃんと聞いていたらこんな事をユリアーナに言うはずがないのだから。
「聞いている。だが納得はしていない」
どうして貴方が納得する必要があるの?思わずユリアーナはキョトン顔で、心の中で反論したつもりだったが声に出ていたらしい。ダイナスが横で威厳が崩れて珈琲を吹き出していた。
「なっなにおぅ!」
その返しにはユリアーナも吹き出してしまった。二人は決してアイザットを馬鹿にするつもりは無かったが、彼は馬鹿にされたと捉えたらしい。だがそれは状況的にしょうがないかもしれない。
「ばっ馬鹿にしないで頂きたい!幾ら殿下でも、し、失礼です!」
毅然としたつもりでアイザットは言っていたが、声は震えていた。ユリアーナは彼に温情をかけようと上から目線で思った。
(私にはいないけど弟ってこんな感じ?)
ユリアーナは心の中でアタフタしているアイザットが、それを必死に隠そうとするのが可愛く見えた。
だから、本来なら自分で調べろと突き放すつもりだったけれど全てを話した。
今後、彼が卒業して社交界に本格的に出たならば、必ず知るであろう事だから、今言っても知っても構わないだろうと思った。
マリアンナの口からは、絶対に言いたくないだろうと思ったのもある。
つらつらと話すユリアーナにダイナスも驚いていたが、目の前のアイザットはもっと驚いたようだ。
話し終えると、アイザットは泣きそうな顔をしていた。
「じゃあ、もうマリアンナはライレーンには帰れないのですか?」
「帰れるわよ、マリアンナが覚悟を持つことになるけれど。でも帰ることがマリアンナの最善なのか私には分からないわ」
ガックリと項垂れたアイザットは、何故彼が留学してきたのかをダイナスとユリアーナに話し始めた。
今、オスカーは学園でかなり遠巻きにされているようで側にいるのは数人の友人だけだという。でもオスカーは只管勉学に打ち込んでいて、友人達が心配していても乾いた笑みを浮かべるだけで全く動こうとしなかった。だから代わりにアイザットが動いたそうだ。
「動くとは?」
そこまで聞いたダイナスが疑問に思って訊ねた。ユリアーナも聞きたかったので丁度良かったと返事を待つ。
「マリアンナを迎えに行かないオスカーに周りは焦れていたんです、僕もそうです」
「は!何だそれ」
「いえもう分かりました。オスカーが何故今は動かないのかは。でも彼は嫡男じゃない、今後マリアンナを追ってこの国に来てもユリアーナ様は認められますか?」
こいつ痛いところを付いてくるな⋯。
ユリアーナはアイザットの真っ直ぐな瞳に嘘はつけないと思った、だが矛盾しているが、正直に言う事ではないとも思った。
「分かりません、ただ私にはもう関係ありませんわ」
オスカーに未だに燻る未練が僅かに残るユリアーナは、必死に心を隠してアイザットの目を見据えた。
ファライナはユリアーナと同じ年で、今は次期当主として侯爵家の家業に携わっていると言った、それが製紙事業だった。
印刷と言ったら紙というくらい密接な関係だ。
ダイナスはこの国で知り合ったシモンの婚約者がショーズ家の次期当主と聞いて、ずっと紹介されるのを心待ちにしていたそうだ。だがファライナはこの国では珍しく領地で学園に通っていたそうで、やっと会えたとダイナスの喜びは一入だった。
事業の話はまた侯爵も交えてと約束を取り付けたダイナスはホクホクの上機嫌で、ユリアーナにもう一曲踊るか?と無理難題を言ってくるから躱すのが一苦労だった。
これ以上の噂はご勘弁だ。
その後は二人と離れて各国の来賓と話していると母とも合流できた。母はダイナスに、早く婚約者を決めてユリアーナを解放しろと苦言まで呈していた。
なんだかんだ先程の噂を吹き飛ばすくらい楽しく過ごせていたユリアーナは、シャンパンの飲み過ぎも相俟って化粧室へと向かった。
その帰りの廊下の窓から見えたバルコニーに見覚えのあるジャケットの後ろ姿が見えた。
「シモン様?」
ユリアーナは何だか気になってそのバルコニーに向かった。
別に足音を忍ばせて歩いたつもりは無かったが、ユリアーナが近づいてくるのをシモンは振り返らなかった。只管庭園を見下ろしているようで、その方へユリアーナも自然と目が動いた。
庭園の夜会用の薄ぼんやりした灯りに映し出されて二人の男女が手を繋ぎ笑顔で話していた。
ユリアーナはその二人に見覚えがあった。
思わず口元を押さえた、声が出てしまいそうになる。
そこに居たのはファライナとあの日雑貨屋で見た護衛騎士だった。
ユリアーナに気付いたシモンは、庭園に釘付けになっている彼女の肩をトンと突いた。
そして人差し指を口元に当てる、黙っている様にという仕草だ。
ユリアーナはコクコクと何度も頭を縦に振って応えた。
その様子が可笑しかったのか「フッ」とシモンが笑ってユリアーナに掌を差し出した。
「ユリアーナ嬢、ここでダンスをお願いするのは失礼だろうか?」
本当なら失礼かもしれない、だけどユリアーナは小声で「喜んで」と答えていた。勝手に口が動いたのだ。自分でも信じられなかった。
バルコニーに出る扉が少し開いてるおかげで、ホールの楽団の音はここにも聞こえてくる。
その微かな音に合わせてユリアーナはシモンと二人の世界に没頭した。
一曲終わったタイミングでユリアーナがカーテシーをすると「ありがとう」と言ったシモンの声が震えているように感じた。
それに笑顔で応えたユリアーナはバルコニーを後にした、何故か胸の鼓動が早鐘を打っていて、この鼓動が何なのかユリアーナには分からなかった。
◇◇◇
善は急げとばかりに夜会から2日後、ユリアーナとダイナスは待ち合わせのカフェに来ていた。
呼び出したのはダイナスだったから、相手は相当ビビったらしく顔に緊張を携えてやって来た。
アイザット・マホニーはハーブティー派のようでレモングラスを注文した。いや、好きなのではなくてすでにこの状況が胃にきているのだろうか?
そんな事をユリアーナが考えていたら、前から来る視線が痛くなって、見るとやはりというかアイザットはユリアーナを睨んでいた。
「その目はお止めください、マホニー伯爵令息」
ユリアーナの苦言に、珈琲を黙って飲んでいたダイナスがアイザットを威圧した。
「マリアンナが可哀想だと思わないのですか?」
既視感を感じたユリアーナはオスカーと話している気分になって、思いっきりこの状況に辟易した。
「マホニー伯爵令息はルルベルド伯爵令息から婚約解消の経緯をお聞きになっていないのですか?」
ユリアーナはどうせ聞いていないだろうと思って聞いてみた。ちゃんと聞いていたらこんな事をユリアーナに言うはずがないのだから。
「聞いている。だが納得はしていない」
どうして貴方が納得する必要があるの?思わずユリアーナはキョトン顔で、心の中で反論したつもりだったが声に出ていたらしい。ダイナスが横で威厳が崩れて珈琲を吹き出していた。
「なっなにおぅ!」
その返しにはユリアーナも吹き出してしまった。二人は決してアイザットを馬鹿にするつもりは無かったが、彼は馬鹿にされたと捉えたらしい。だがそれは状況的にしょうがないかもしれない。
「ばっ馬鹿にしないで頂きたい!幾ら殿下でも、し、失礼です!」
毅然としたつもりでアイザットは言っていたが、声は震えていた。ユリアーナは彼に温情をかけようと上から目線で思った。
(私にはいないけど弟ってこんな感じ?)
ユリアーナは心の中でアタフタしているアイザットが、それを必死に隠そうとするのが可愛く見えた。
だから、本来なら自分で調べろと突き放すつもりだったけれど全てを話した。
今後、彼が卒業して社交界に本格的に出たならば、必ず知るであろう事だから、今言っても知っても構わないだろうと思った。
マリアンナの口からは、絶対に言いたくないだろうと思ったのもある。
つらつらと話すユリアーナにダイナスも驚いていたが、目の前のアイザットはもっと驚いたようだ。
話し終えると、アイザットは泣きそうな顔をしていた。
「じゃあ、もうマリアンナはライレーンには帰れないのですか?」
「帰れるわよ、マリアンナが覚悟を持つことになるけれど。でも帰ることがマリアンナの最善なのか私には分からないわ」
ガックリと項垂れたアイザットは、何故彼が留学してきたのかをダイナスとユリアーナに話し始めた。
今、オスカーは学園でかなり遠巻きにされているようで側にいるのは数人の友人だけだという。でもオスカーは只管勉学に打ち込んでいて、友人達が心配していても乾いた笑みを浮かべるだけで全く動こうとしなかった。だから代わりにアイザットが動いたそうだ。
「動くとは?」
そこまで聞いたダイナスが疑問に思って訊ねた。ユリアーナも聞きたかったので丁度良かったと返事を待つ。
「マリアンナを迎えに行かないオスカーに周りは焦れていたんです、僕もそうです」
「は!何だそれ」
「いえもう分かりました。オスカーが何故今は動かないのかは。でも彼は嫡男じゃない、今後マリアンナを追ってこの国に来てもユリアーナ様は認められますか?」
こいつ痛いところを付いてくるな⋯。
ユリアーナはアイザットの真っ直ぐな瞳に嘘はつけないと思った、だが矛盾しているが、正直に言う事ではないとも思った。
「分かりません、ただ私にはもう関係ありませんわ」
オスカーに未だに燻る未練が僅かに残るユリアーナは、必死に心を隠してアイザットの目を見据えた。
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