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第二章 アトルス王国にて
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体が覚えていると云うのはこういうことか、とユリアーナはダイナスとの初めてのダンスで実感することになる。
人生で3度目の本番ダンス、楽団の音楽にユリアーナの体は自然に動いて軽やかに踏むステップに、流石の王子は完璧に合わせた、調子に乗ってターンまでバッチリ決めたユリアーナは興奮の中ダンスを終了した。
目の端に見えるズラリと並ぶ男性達は自分の気のせいだと、久しぶりの運動でガクガクする限界な足を叱咤しながら、ダイナスのエスコートでホールを抜けた。
「いいのか?次の申し込みが来てたようだけど」
「私のこの可弱いブルブルの足にこれ以上の負担はかけられません」
「ブハッ!可弱い~」
揶揄うダイナスを睨みながらそのまま、彼のエスコートで壁際に誘導された。生憎壁に置かれた椅子は満員御礼で座れなかったが、丁度シャンパンを持って給仕が近づいて来たので喉は潤す事が出来た。
「あ~美味しい~運動のあとの一杯は最高ってこういう事を言うんですね」
「あぁこれは上手いな、後でどこ産か聞いておこう」
純粋に味を楽しむユリアーナの横で、ダイナスは外交の顔をチラつかせていた、殿下流石です!褒めるのは心の中だけに留めておいた。
そこへ、ダイナスがこの国へ来た目的、印刷技術をアトラスに伝授した国の来賓がやって来た。ユリアーナも一緒に挨拶をしたのだが、その後は仕事関係の話になったのでソッと離れた。
ダイナスとの距離は5歩分位しか離れないように努めていたら、今まで聞こえなかった声が聞こえてきた。
「あの人、先日はシモン様、今日は自国の王族。あちらこちらに媚びて大変ですわね」
「しょうがありませんわ、婚約破棄されたばかりらしいです。幾ら公爵家でも性格に⋯ねぇ」
「あらなぁに?」
「どうやら妹を虐げていたらしいわ。血は繋がってないようですけど」
「まぁ酷い!それじゃあ」
「えぇそれが理由らしいですわ」
「自国の王族だけで留めておいて欲しいものですわね。うちのシモン様には婚約者がお有りですのに」
「仮病で抱き上げてもらうなんて、大した公爵令嬢ですこと」
ユリアーナはダイナスにも言ったが、夜会への出席は今回で3回目だ。最初はデビュタントで周りとか全く見えなかった、次はユリシーズと一緒だった為、この手の噂はシャットダウンだ、義母の話だけ微かに聞こえたくらいだった。
こんなにも噂というのはあからさまで根拠の無いものなのだと初めて知った。そしてシモンの件は1ヶ月前のルビィン伯爵令嬢との揉め事の時に助けてもらった時の事を当て擦られているのだと分かった。あの時はこんな噂が飛び交うことになるとは思わず、呆けすぎていたからユリアーナはうっかりしていた。
(直ぐにおろしてもらっていれば良かったわ、シモン様、婚約者様と揉めていないかしら?私が迂闊だったわね)
今もコソコソと令嬢達は話しているがユリアーナに聞こえるように言ってるのは明白だった。ユリアーナはふとマリアンナに思いを馳せた。やはりマリアンナは帰るべきではないそう思った。
ただでさえ気弱なマリアンナだ、帰るなら相当の覚悟と気持ちの強さを持たなければ、途端に心がバキバキに折れるだろう。
何故なら既にユリアーナが折れそうだから。
悪意というのは苦しいほどに刃を心に突き刺す。
(婚約は破棄じゃないわ解消よ!)
(シモン様やダイナス様に色目なんか使ってないわ!)
(義妹を虐めてるなんてそんな事あるはずないじゃない!)
反論は全て心の中、一つも声に出せずそのままそこに静かにユリアーナは佇んでいた。
話の終わったダイナスがソッと肩を引き寄せてくれた時、ユリアーナは噂にヤキモキしていたから彼が近くに来た事に気付かなかった。
「大丈夫か?」
「あぁ、えぇ。お話は終わった?」
「あぁ。悪かったなこんな時に引っ張り出したから」
「ダイナス様のせいではないわ。噂ってこんなものよね、でも侮れないわね、シモン様にご迷惑かかるかしら?」
「大丈夫だろう、ほらこっちにやって来た」
そう言ったダイナスの視線を追うとシモンがパートナーとこちらに向かってくる所が見えた。
(あらっ?)ユリアーナはシモンの隣の人物から目が離せない。
到頭二人は近づいてシモンが挨拶をしてきた。
「やぁダイナス!ご機嫌よう!ロッサルト公爵令嬢も夜会を楽しんでますか?」
「おう!シモン、隣の方を紹介してくれるんだろ?」
「焦るなよ!ダイナス!こちらが僕の婚約者ファライナだ。ファライナ、こちらが話していたライレーンの第二王子ダイナス殿下とロッサルト公爵令嬢だよ」
「初めましてファライナです。ショーズ侯爵家の嫡女でございます。ダイナス殿下お会い出来て光栄です。ロッサルト公爵令嬢、あらっ?」
「ダイナスだ!ショーズ侯爵令嬢はユリアーナと知り合いか?」
「お名前をお伺い出来て光栄です、ショーズ侯爵令嬢。ライレーン王国ロッサルト公爵家の嫡女ユリアーナです。その節はありがとうございました。再びお会い出来るなんてとても嬉しいです」
特徴のある紫色のストレートヘアーで黒い瞳の綺麗な女性。その方の名前をここで聞けるとは思わず、ユリアーナは嬉しくて満面の笑みで挨拶をした。
人生で3度目の本番ダンス、楽団の音楽にユリアーナの体は自然に動いて軽やかに踏むステップに、流石の王子は完璧に合わせた、調子に乗ってターンまでバッチリ決めたユリアーナは興奮の中ダンスを終了した。
目の端に見えるズラリと並ぶ男性達は自分の気のせいだと、久しぶりの運動でガクガクする限界な足を叱咤しながら、ダイナスのエスコートでホールを抜けた。
「いいのか?次の申し込みが来てたようだけど」
「私のこの可弱いブルブルの足にこれ以上の負担はかけられません」
「ブハッ!可弱い~」
揶揄うダイナスを睨みながらそのまま、彼のエスコートで壁際に誘導された。生憎壁に置かれた椅子は満員御礼で座れなかったが、丁度シャンパンを持って給仕が近づいて来たので喉は潤す事が出来た。
「あ~美味しい~運動のあとの一杯は最高ってこういう事を言うんですね」
「あぁこれは上手いな、後でどこ産か聞いておこう」
純粋に味を楽しむユリアーナの横で、ダイナスは外交の顔をチラつかせていた、殿下流石です!褒めるのは心の中だけに留めておいた。
そこへ、ダイナスがこの国へ来た目的、印刷技術をアトラスに伝授した国の来賓がやって来た。ユリアーナも一緒に挨拶をしたのだが、その後は仕事関係の話になったのでソッと離れた。
ダイナスとの距離は5歩分位しか離れないように努めていたら、今まで聞こえなかった声が聞こえてきた。
「あの人、先日はシモン様、今日は自国の王族。あちらこちらに媚びて大変ですわね」
「しょうがありませんわ、婚約破棄されたばかりらしいです。幾ら公爵家でも性格に⋯ねぇ」
「あらなぁに?」
「どうやら妹を虐げていたらしいわ。血は繋がってないようですけど」
「まぁ酷い!それじゃあ」
「えぇそれが理由らしいですわ」
「自国の王族だけで留めておいて欲しいものですわね。うちのシモン様には婚約者がお有りですのに」
「仮病で抱き上げてもらうなんて、大した公爵令嬢ですこと」
ユリアーナはダイナスにも言ったが、夜会への出席は今回で3回目だ。最初はデビュタントで周りとか全く見えなかった、次はユリシーズと一緒だった為、この手の噂はシャットダウンだ、義母の話だけ微かに聞こえたくらいだった。
こんなにも噂というのはあからさまで根拠の無いものなのだと初めて知った。そしてシモンの件は1ヶ月前のルビィン伯爵令嬢との揉め事の時に助けてもらった時の事を当て擦られているのだと分かった。あの時はこんな噂が飛び交うことになるとは思わず、呆けすぎていたからユリアーナはうっかりしていた。
(直ぐにおろしてもらっていれば良かったわ、シモン様、婚約者様と揉めていないかしら?私が迂闊だったわね)
今もコソコソと令嬢達は話しているがユリアーナに聞こえるように言ってるのは明白だった。ユリアーナはふとマリアンナに思いを馳せた。やはりマリアンナは帰るべきではないそう思った。
ただでさえ気弱なマリアンナだ、帰るなら相当の覚悟と気持ちの強さを持たなければ、途端に心がバキバキに折れるだろう。
何故なら既にユリアーナが折れそうだから。
悪意というのは苦しいほどに刃を心に突き刺す。
(婚約は破棄じゃないわ解消よ!)
(シモン様やダイナス様に色目なんか使ってないわ!)
(義妹を虐めてるなんてそんな事あるはずないじゃない!)
反論は全て心の中、一つも声に出せずそのままそこに静かにユリアーナは佇んでいた。
話の終わったダイナスがソッと肩を引き寄せてくれた時、ユリアーナは噂にヤキモキしていたから彼が近くに来た事に気付かなかった。
「大丈夫か?」
「あぁ、えぇ。お話は終わった?」
「あぁ。悪かったなこんな時に引っ張り出したから」
「ダイナス様のせいではないわ。噂ってこんなものよね、でも侮れないわね、シモン様にご迷惑かかるかしら?」
「大丈夫だろう、ほらこっちにやって来た」
そう言ったダイナスの視線を追うとシモンがパートナーとこちらに向かってくる所が見えた。
(あらっ?)ユリアーナはシモンの隣の人物から目が離せない。
到頭二人は近づいてシモンが挨拶をしてきた。
「やぁダイナス!ご機嫌よう!ロッサルト公爵令嬢も夜会を楽しんでますか?」
「おう!シモン、隣の方を紹介してくれるんだろ?」
「焦るなよ!ダイナス!こちらが僕の婚約者ファライナだ。ファライナ、こちらが話していたライレーンの第二王子ダイナス殿下とロッサルト公爵令嬢だよ」
「初めましてファライナです。ショーズ侯爵家の嫡女でございます。ダイナス殿下お会い出来て光栄です。ロッサルト公爵令嬢、あらっ?」
「ダイナスだ!ショーズ侯爵令嬢はユリアーナと知り合いか?」
「お名前をお伺い出来て光栄です、ショーズ侯爵令嬢。ライレーン王国ロッサルト公爵家の嫡女ユリアーナです。その節はありがとうございました。再びお会い出来るなんてとても嬉しいです」
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