【本編完結】婚約を解消いたしましょう

maruko

文字の大きさ
22 / 80
第二章 アトルス王国にて

22

しおりを挟む
 体が覚えていると云うのはこういうことか、とユリアーナはダイナスとの初めてのダンスで実感することになる。
 人生で3度目の本番ダンス、楽団の音楽にユリアーナの体は自然に動いて軽やかに踏むステップに、流石の王子は完璧に合わせた、調子に乗ってターンまでバッチリ決めたユリアーナは興奮の中ダンスを終了した。
 目の端に見えるズラリと並ぶ男性達は自分の気のせいだと、久しぶりのでガクガクする限界な足を叱咤しながら、ダイナスのエスコートでホールを抜けた。

「いいのか?次の申し込みが来てたようだけど」

「私のこの可弱いブルブルの足にこれ以上の負担はかけられません」

「ブハッ!可弱い~」

 揶揄うダイナスを睨みながらそのまま、彼のエスコートで壁際に誘導された。生憎壁に置かれた椅子は満員御礼で座れなかったが、丁度シャンパンを持って給仕が近づいて来たので喉は潤す事が出来た。

「あ~美味しい~運動のあとの一杯は最高ってこういう事を言うんですね」

「あぁこれは上手いな、後でどこ産か聞いておこう」

 純粋に味を楽しむユリアーナの横で、ダイナスは外交の顔をチラつかせていた、殿下流石です!褒めるのは心の中だけに留めておいた。
 そこへ、ダイナスがこの国へ来た目的、印刷技術をアトラスに伝授した国の来賓がやって来た。ユリアーナも一緒に挨拶をしたのだが、その後は仕事関係の話になったのでソッと離れた。

 ダイナスとの距離は5歩分位しか離れないように努めていたら、今まで聞こえなかった声が聞こえてきた。

「あの人、先日はシモン様、今日は自国の王族。あちらこちらに媚びて大変ですわね」

「しょうがありませんわ、されたばかりらしいです。幾ら公爵家でも性格に⋯ねぇ」

「あらなぁに?」

「どうやら妹を虐げていたらしいわ。血は繋がってないようですけど」

「まぁ酷い!それじゃあ」

「えぇ理由らしいですわ」

「自国の王族だけで留めておいて欲しいものですわね。シモン様には婚約者がお有りですのに」

「仮病で抱き上げてもらうなんて、大した公爵令嬢ですこと」

 ユリアーナはダイナスにも言ったが、夜会への出席は今回で3回目だ。最初はデビュタントで周りとか全く見えなかった、次はユリシーズと一緒だった為、この手の噂はシャットダウンだ、義母の話だけ微かに聞こえたくらいだった。
 こんなにも噂というのはあからさまで根拠の無いものなのだと初めて知った。そしてシモンの件は1ヶ月前のルビィン伯爵令嬢との揉め事の時に助けてもらった時の事を当て擦られているのだと分かった。あの時はこんな噂が飛び交うことになるとは思わず、呆けすぎていたからユリアーナはうっかりしていた。

 (直ぐにおろしてもらっていれば良かったわ、シモン様、婚約者様と揉めていないかしら?私が迂闊だったわね)

 今もコソコソと令嬢達は話しているがユリアーナに聞こえるように言ってるのは明白だった。ユリアーナはふとマリアンナに思いを馳せた。やはりマリアンナはそう思った。
 ただでさえ気弱なマリアンナだ、帰るなら相当の覚悟と気持ちの強さを持たなければ、途端に心がバキバキに折れるだろう。
 何故なら既にユリアーナが折れそうだから。
 悪意というのは苦しいほどに刃を心に突き刺す。

 (婚約は破棄じゃないわ解消よ!)
 (シモン様やダイナス様に色目なんか使ってないわ!)
 (義妹を虐めてるなんてそんな事あるはずないじゃない!)

 反論は全て心の中、一つも声に出せずそのままそこに静かにユリアーナは佇んでいた。

 話の終わったダイナスがソッと肩を引き寄せてくれた時、ユリアーナは噂にヤキモキしていたから彼が近くに来た事に気付かなかった。

「大丈夫か?」

「あぁ、えぇ。お話は終わった?」

「あぁ。悪かったなこんな時に引っ張り出したから」

「ダイナス様のせいではないわ。噂ってこんなものよね、でも侮れないわね、シモン様にご迷惑かかるかしら?」

「大丈夫だろう、ほらこっちにやって来た」

 そう言ったダイナスの視線を追うとシモンがパートナーとこちらに向かってくる所が見えた。
 (あらっ?)ユリアーナはシモンの隣の人物から目が離せない。
 到頭二人は近づいてシモンが挨拶をしてきた。

「やぁダイナス!ご機嫌よう!ロッサルト公爵令嬢も夜会を楽しんでますか?」

「おう!シモン、隣の方を紹介してくれるんだろ?」

「焦るなよ!ダイナス!こちらが僕の婚約者ファライナだ。ファライナ、こちらが話していたライレーンの第二王子ダイナス殿下とロッサルト公爵令嬢だよ」

「初めましてファライナです。ショーズ侯爵家の嫡女でございます。ダイナス殿下お会い出来て光栄です。ロッサルト公爵令嬢、あらっ?」

「ダイナスだ!ショーズ侯爵令嬢はユリアーナと知り合いか?」

「お名前をお伺い出来て光栄です、ショーズ侯爵令嬢。ライレーン王国ロッサルト公爵家の嫡女ユリアーナです。その節はありがとうございました。再びお会い出来るなんてとても嬉しいです」

 特徴のある紫色のストレートヘアーで黒い瞳の綺麗な女性。その方の名前をここで聞けるとは思わず、ユリアーナは嬉しくて満面の笑みで挨拶をした。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】あなた方は信用できません

玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。 第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?

婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ
恋愛
婚約破棄―― それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。 けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。 「……では、私は日常に戻ります」 派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。 彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。 王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。 誰かが声高に称えられることもなく、 誰かが悪役として裁かれることもない。 それでも―― 混乱は起きず、争いは減り、 人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。 選ばない勇気。 変えない決断。 名を残さず、英雄にならない覚悟。 これは、 婚約破棄をきっかけに 静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、 その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。 派手ではない。 けれど、確かに強い。 ――それでも、日常は続く。

悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。

ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」  ぱんっ。  愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。  甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。  ──え?  打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。 「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」 シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。 妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。 でも、それなら側妃でいいのではありませんか? どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

処理中です...