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第二章 アトルス王国にて
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夜会が開催される日の3日前、ユリアーナは久しぶりにマリアンナと会った。
待ち合わせは王都に最近出来たという公園で、奥にはアトルスの王家が寄附したという種苗を育てて作った庭園が広がっていて、見応えがあるのだと聞いていた。
ライレーンでは同じ家に住んでいたから、外で待ち合わせなどしたこともなく、それだけで何だか新鮮な気持ちと二人の間に空いた距離を感じた。
「お姉様!」
少し小走りで、先に着いていたユリアーナに、手を振りながらやって来るマリアンナは、以前よりも明るくなったように思えた。
たった2ヶ月で随分変わったなと感じた。
今日二人が会うことになったのは、マリアンナから手紙で相談があると持ちかけられたからだ。何だかマリアンナに頼られる事が嬉しくて、ユリアーナはマリアンナの悩みは解決してあげなければと意気込んでいた。
◇◇◇
夜会当日は、打ち合わせがあるダイナスは送迎が出来ないので、ユリアーナは伯父夫婦と公爵家を出発した。母は各国から来賓が来るので本日は仕事も兼ねた参加になる為、朝から王宮に行き不在だった。王宮は馬車で10分も掛からないのだが、今日はパートナーが来賓なのでユリアーナは王族専用の出入り口から王宮に入る事になる。
控室ではダイナスが待っていて、自分達の入場まであと1時間はあると伝えられた。この時間を狙ってユリアーナは、マリアンナの相談を解決する為に動いた。
「ダイナス様、学園の方に急遽留学生が来ているのをご存知ですか?」
「あぁ連絡は来てるが知り合いか?」
「ルルベルド伯爵令息のご友人なのです、一度ご挨拶させて頂いてます」
「えっ?まさか前の婚約者絡みで留学してきたのか?」
「それは当たらずとも遠からずって言う所です。その件で私の義妹が絡まれているようでして、それが私に会わせろと息巻いてるみたいです」
「はぁ~なんでまた」
ダイナスは口元に手を当てて嘆息した。
マリアンナの相談は、オスカーの友人アイザット・マホニー伯爵令息の事だった。
彼とはまだオスカー達が学園に入学する前にユリアーナは紹介された事があった。その時はユリアーナにも親切に話してもらえたが、次に学園で見かけた時は目も合わせてもらえなかったし、合ってもツンケンされた。
きっと勘違いしてるオスカーから、マリアンナを虐める意地悪な姉だと聞いていたのだろうと推測できる。
そんな彼が急遽留学してきた事にも驚くが、直接ユリアーナに会いたいだなんて、ちょっと、いやだいぶウンザリするけれど、彼はマホニー伯爵家の嫡男なのだ。今後の事を考えると過去の因縁で付き合わないとかいう、選択肢を選ぶわけには行かない。
だけど、二人で会うのは嫌だ。マリアンナをこれ以上巻き込むのも気が引ける。おそらくマリアンナも嫌だろう。だからユリアーナに相談したのだ。彼もオスカーに似ているなと相談内容を聞いてユリアーナは思った。
「マリアンナをライレーンに戻したいようです」
「えっ?馬鹿なのか?」
「マリアンナが戻りたいなら勿論戻っても私は宜しいのですけれど、そこを何故か勘違いされてるようで」
「はあ?」
「私が邪魔をしてると思ってるんです。マリアンナの帰国を。そもそも彼女の留学も私の指示のようでして彼の中では」
「あいつ嫡男じゃなかったか?」
「はい、あっ!ダイナス様、釘を刺すだけで留めてくださいね。私もそうしますから。マホニー伯爵家を敵に回したいわけじゃないんです」
「その妹が言っても駄目って事だろう?」
ユリアーナは頷いた。
そうなのだ、アイザットは幾らマリアンナが、自分が留学したかったのだと言っても全く聞き入れないらしい。
あまり自身の親の醜聞を口にする事などしたくなくて、事情を知ってるのか知らないのかマリアンナは確かめきれなかったみたいだ。
「お姉様ごめんなさい」
そう言って涙ぐむマリアンナがユリアーナは可哀想でならない。マリアンナには何の瑕疵もない醜聞なのに、何時までもあの業突伯爵が諦めないせいで未だに消えないのだ。噂ではなく真実だからなのかもしれない。
親の因縁がどこまでも続く国に帰ってこいなんてどれだけ無慈悲なの!とユリアーナはアイザットに説教したいのだが、二人では同じ空間にいたくない。
だからここは王族の力を借りようとダイナスに頼った。
「いいぞ!一緒にお灸を据えてやろう」
「ふふふ、よろしくお願いします」
一つ心配事が減ってユリアーナは安堵した。
◇◇◇
夜会が始まり各国の来賓達に交じりユリアーナ達も入場した。入場する前は控室で話したこともあり、あまり感じなかったユリアーナだったが、ダンスの時間になって足元から震えが来た。
「何だユリアーナ、緊張してるのか?」
「⋯⋯⋯ダイナス様、私興奮していてすっかり忘れていたのですが」
「何だ?」
「私こういった夜会などの参加は今日で3回目なのです」
「は?お前公爵家嫡女だろう!いやそういえばお前を見た覚えはなかったな」
「えぇ、マリアンナもお義母様も出ませんので、序に私もいいかなと遠慮してました。デビュタントで1回、お父様のお供で1回、今日で3回目です」
「元婚約者とは?」
「デビュタントで一緒に。あとは⋯誘ってもらえると思いますか?」
「⋯⋯⋯⋯すまん」
ユリアーナとオスカーの事はダイナスは知っている。ユリアーナが内情まで話したからだ。
だが今はそんな事を思い出してる場合ではない。
「もう一度言う、すまん、踊らないという選択肢はない。行くぞ!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい」
ユリアーナは震える足で、ダイナスと共にダンスホールへと向かった。
待ち合わせは王都に最近出来たという公園で、奥にはアトルスの王家が寄附したという種苗を育てて作った庭園が広がっていて、見応えがあるのだと聞いていた。
ライレーンでは同じ家に住んでいたから、外で待ち合わせなどしたこともなく、それだけで何だか新鮮な気持ちと二人の間に空いた距離を感じた。
「お姉様!」
少し小走りで、先に着いていたユリアーナに、手を振りながらやって来るマリアンナは、以前よりも明るくなったように思えた。
たった2ヶ月で随分変わったなと感じた。
今日二人が会うことになったのは、マリアンナから手紙で相談があると持ちかけられたからだ。何だかマリアンナに頼られる事が嬉しくて、ユリアーナはマリアンナの悩みは解決してあげなければと意気込んでいた。
◇◇◇
夜会当日は、打ち合わせがあるダイナスは送迎が出来ないので、ユリアーナは伯父夫婦と公爵家を出発した。母は各国から来賓が来るので本日は仕事も兼ねた参加になる為、朝から王宮に行き不在だった。王宮は馬車で10分も掛からないのだが、今日はパートナーが来賓なのでユリアーナは王族専用の出入り口から王宮に入る事になる。
控室ではダイナスが待っていて、自分達の入場まであと1時間はあると伝えられた。この時間を狙ってユリアーナは、マリアンナの相談を解決する為に動いた。
「ダイナス様、学園の方に急遽留学生が来ているのをご存知ですか?」
「あぁ連絡は来てるが知り合いか?」
「ルルベルド伯爵令息のご友人なのです、一度ご挨拶させて頂いてます」
「えっ?まさか前の婚約者絡みで留学してきたのか?」
「それは当たらずとも遠からずって言う所です。その件で私の義妹が絡まれているようでして、それが私に会わせろと息巻いてるみたいです」
「はぁ~なんでまた」
ダイナスは口元に手を当てて嘆息した。
マリアンナの相談は、オスカーの友人アイザット・マホニー伯爵令息の事だった。
彼とはまだオスカー達が学園に入学する前にユリアーナは紹介された事があった。その時はユリアーナにも親切に話してもらえたが、次に学園で見かけた時は目も合わせてもらえなかったし、合ってもツンケンされた。
きっと勘違いしてるオスカーから、マリアンナを虐める意地悪な姉だと聞いていたのだろうと推測できる。
そんな彼が急遽留学してきた事にも驚くが、直接ユリアーナに会いたいだなんて、ちょっと、いやだいぶウンザリするけれど、彼はマホニー伯爵家の嫡男なのだ。今後の事を考えると過去の因縁で付き合わないとかいう、選択肢を選ぶわけには行かない。
だけど、二人で会うのは嫌だ。マリアンナをこれ以上巻き込むのも気が引ける。おそらくマリアンナも嫌だろう。だからユリアーナに相談したのだ。彼もオスカーに似ているなと相談内容を聞いてユリアーナは思った。
「マリアンナをライレーンに戻したいようです」
「えっ?馬鹿なのか?」
「マリアンナが戻りたいなら勿論戻っても私は宜しいのですけれど、そこを何故か勘違いされてるようで」
「はあ?」
「私が邪魔をしてると思ってるんです。マリアンナの帰国を。そもそも彼女の留学も私の指示のようでして彼の中では」
「あいつ嫡男じゃなかったか?」
「はい、あっ!ダイナス様、釘を刺すだけで留めてくださいね。私もそうしますから。マホニー伯爵家を敵に回したいわけじゃないんです」
「その妹が言っても駄目って事だろう?」
ユリアーナは頷いた。
そうなのだ、アイザットは幾らマリアンナが、自分が留学したかったのだと言っても全く聞き入れないらしい。
あまり自身の親の醜聞を口にする事などしたくなくて、事情を知ってるのか知らないのかマリアンナは確かめきれなかったみたいだ。
「お姉様ごめんなさい」
そう言って涙ぐむマリアンナがユリアーナは可哀想でならない。マリアンナには何の瑕疵もない醜聞なのに、何時までもあの業突伯爵が諦めないせいで未だに消えないのだ。噂ではなく真実だからなのかもしれない。
親の因縁がどこまでも続く国に帰ってこいなんてどれだけ無慈悲なの!とユリアーナはアイザットに説教したいのだが、二人では同じ空間にいたくない。
だからここは王族の力を借りようとダイナスに頼った。
「いいぞ!一緒にお灸を据えてやろう」
「ふふふ、よろしくお願いします」
一つ心配事が減ってユリアーナは安堵した。
◇◇◇
夜会が始まり各国の来賓達に交じりユリアーナ達も入場した。入場する前は控室で話したこともあり、あまり感じなかったユリアーナだったが、ダンスの時間になって足元から震えが来た。
「何だユリアーナ、緊張してるのか?」
「⋯⋯⋯ダイナス様、私興奮していてすっかり忘れていたのですが」
「何だ?」
「私こういった夜会などの参加は今日で3回目なのです」
「は?お前公爵家嫡女だろう!いやそういえばお前を見た覚えはなかったな」
「えぇ、マリアンナもお義母様も出ませんので、序に私もいいかなと遠慮してました。デビュタントで1回、お父様のお供で1回、今日で3回目です」
「元婚約者とは?」
「デビュタントで一緒に。あとは⋯誘ってもらえると思いますか?」
「⋯⋯⋯⋯すまん」
ユリアーナとオスカーの事はダイナスは知っている。ユリアーナが内情まで話したからだ。
だが今はそんな事を思い出してる場合ではない。
「もう一度言う、すまん、踊らないという選択肢はない。行くぞ!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい」
ユリアーナは震える足で、ダイナスと共にダンスホールへと向かった。
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