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第二章 アトルス王国にて
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サンルームに当たる陽射しが、話し始めた時とは少し違う方から差し掛かる。まだファライナの話は続いている。
どれくらい時間が経過しているのだろうか?ユリアーナのカップはもうすぐ3杯目が尽きそうだ。
ファライナの話の大半はあの護衛騎士との惚気だ。彼女にその気はないかもしれない、ただ今まであった事を話してるつもりかもしれないが、ユリアーナには充分惚気に聞こえた。
その話を簡潔に纏めるのはユリアーナの方が上手いかもしれない。
要はファライナとカインという人物は既にお互いを将来の伴侶と認めていて、二人の障害は彼女の父であるショーズ侯爵のみ、あろうことかシモンとシモンの兄は二人を応援してるのだとファライナは言う。
でも本当に?
本当にシモン様は心から応援しているの?
本当はその胸の内は苦しいのではないの?
以前シモンが言っていた“時間が薬”とはこの事だとユリアーナは分かった。だけどその時、ユリアーナはこうも思った。
『現在進行系』と。
シモンはファライナが好きで、それでも好きな人の幸せを願って応援しているのではないか?
ユリアーナはあの夜会のバルコニーのシモンの背中を思い出した。他の誰かに見られないように見張ってくれていたと彼女は言うけど、それが正解なの?それってかなりシモン様に失礼じゃない?
勝手なファライナの言葉にユリアーナは益々自分が憤るのを感じる。だけど怒る資格が今の所ユリアーナにはなかった。
3人の関係性にどうしてユリアーナが口を出せるというのか。
ただこの苦痛の伴う話を聞かされる事にだけは怒っていいのではないかと思い始めたその時、漸くファライナがユリアーナに返事を求めた。今まではファライナは一方的に話していただけだった。
「それでね、私考えたの」
「⋯⋯⋯⋯」
「ユリアーナ様?」
ファライナへの憤りを鎮めるために別の事を考えて呆けていたから返事を返せなくて、気付いたら何度か名を呼ばれているようだった。
「ユリアーナ様?!」
「⋯⋯あっごめんなさい、ファライナ様」
「いえ、私のお話退屈したかしら?」
「⋯⋯⋯そうではありませんわ」
頭を振って本音を隠して微笑みながらユリアーナは否定した。本音は退屈ではなく怒りだ!と言いたい。
「私ね、家を捨てようと思うの」
「えっ?」
「吃驚した?」
笑いながら言うファライナにユリアーナは唖然とした。
「ふふ、直ぐとかではないわ。このままだったらって話」
「このまま?」
「えぇ私、何度も父にお願いしてるの、シモンと婚約の解消をして欲しいって。でもねなかなか首を縦には振ってくれないわ。もう万策尽きたって感じよ。でもここに来て名案が浮かんだから、それをご相談に来たのよ」
「相談ですか?」
これまでの話でユリアーナはファライナがその神秘的な見かけと違って、かなりなお花畑脳の持ち主だと感じていた。今まで2度しか会話をしていなかったが、その時はそんな印象は受けなかった。
それなのに今日の彼女はまるで別人のように思える。それ位違って見えたから、何を言い出すのか分からずに、ユリアーナはかなり不安な気持ちが胸の内に押し寄せてきていた。
「ユリアーナ様の事、噂で聞いたのだけれど婚約を破棄されたのって本当?」
ユリアーナは頭をトンカチで殴られたような衝撃を受けた。ファライナは侯爵家の嫡女の筈で今は家業も手伝っていると以前聞いていたから、教育は受けているはずなのに、こんなに不躾な質問の仕方をしてきた事が信じられなかった。
それでも間違いは訂正しなければと思った。
「それは違います、婚約は解消して頂きました」
「あぁやっぱりシモンの言ったことが本当なのね。貴方の名誉を慮っているのだとちょっと勘ぐったわ。そうねシモンが私に嘘をつくはずないわ」
ファライナは笑顔で事も無げに言ったが、その言葉はユリアーナの気持ちを抉った、何故かザックリ抉ったと感じてしまった。
「⋯⋯いい加減にしてもらえませんか?」
「えっ?」
「ファライナ様が何が仰りたいか全く分からないのですが、私に怒っていらっしゃるのですか?」
「そんな!怒ってなんかいないわ」
ファライナは必死で首と手を同時に左右に振る。そんな子供じみた動作もユリアーナの琴線に触れた。
「では、何ですか?どうして今日はここへ?」
「ユリアーナ様は私が嫌いですか?」
「えっ?どうしてそんな話になるのですか?」
「だって、最後まで聞かずに怒りだすのですもの。私貴方がなにに怒ってるか分からないわ。私嘘なんか言ってないもの!」
そう言ってファライナは立ち上がり部屋を出ていった。慌ててマールが走って追いかけるのがユリアーナの目の端に映っていたけれど、ユリアーナはただ呆然としていた。
何だろう
噛み合わない
そんな感じ
ユリアーナはどうしていいか分からなくなった。
シモンに付き纏うユリアーナに対して、怒っているからあんな事を言い出したのかと思ったから聞いただけ。
嘘を付いているとファライナを責めてなどいなかったはず、ただユリアーナはシモンの事や嫡女という事を軽んじるファライナに腹が立っただけだ。自分の怒りの正当性は正直分からない。ユリアーナが怒っていい話ではなかったのかもしれない。
自分の言い方が悪かったのか?
でもあれ以上聞きたくなかった、でも相談って何だったのだろう?それにどうしてそんなに親しくもないユリアーナにファライナは色々と話したのだろう。
「私⋯⋯⋯」
呟く言葉も続かない程ユリアーナは混乱を極めていた。
ファライナとカインが駆け落ちしたとダイナスに密かに聞かされたのは、それから3日後の事だった。
どれくらい時間が経過しているのだろうか?ユリアーナのカップはもうすぐ3杯目が尽きそうだ。
ファライナの話の大半はあの護衛騎士との惚気だ。彼女にその気はないかもしれない、ただ今まであった事を話してるつもりかもしれないが、ユリアーナには充分惚気に聞こえた。
その話を簡潔に纏めるのはユリアーナの方が上手いかもしれない。
要はファライナとカインという人物は既にお互いを将来の伴侶と認めていて、二人の障害は彼女の父であるショーズ侯爵のみ、あろうことかシモンとシモンの兄は二人を応援してるのだとファライナは言う。
でも本当に?
本当にシモン様は心から応援しているの?
本当はその胸の内は苦しいのではないの?
以前シモンが言っていた“時間が薬”とはこの事だとユリアーナは分かった。だけどその時、ユリアーナはこうも思った。
『現在進行系』と。
シモンはファライナが好きで、それでも好きな人の幸せを願って応援しているのではないか?
ユリアーナはあの夜会のバルコニーのシモンの背中を思い出した。他の誰かに見られないように見張ってくれていたと彼女は言うけど、それが正解なの?それってかなりシモン様に失礼じゃない?
勝手なファライナの言葉にユリアーナは益々自分が憤るのを感じる。だけど怒る資格が今の所ユリアーナにはなかった。
3人の関係性にどうしてユリアーナが口を出せるというのか。
ただこの苦痛の伴う話を聞かされる事にだけは怒っていいのではないかと思い始めたその時、漸くファライナがユリアーナに返事を求めた。今まではファライナは一方的に話していただけだった。
「それでね、私考えたの」
「⋯⋯⋯⋯」
「ユリアーナ様?」
ファライナへの憤りを鎮めるために別の事を考えて呆けていたから返事を返せなくて、気付いたら何度か名を呼ばれているようだった。
「ユリアーナ様?!」
「⋯⋯あっごめんなさい、ファライナ様」
「いえ、私のお話退屈したかしら?」
「⋯⋯⋯そうではありませんわ」
頭を振って本音を隠して微笑みながらユリアーナは否定した。本音は退屈ではなく怒りだ!と言いたい。
「私ね、家を捨てようと思うの」
「えっ?」
「吃驚した?」
笑いながら言うファライナにユリアーナは唖然とした。
「ふふ、直ぐとかではないわ。このままだったらって話」
「このまま?」
「えぇ私、何度も父にお願いしてるの、シモンと婚約の解消をして欲しいって。でもねなかなか首を縦には振ってくれないわ。もう万策尽きたって感じよ。でもここに来て名案が浮かんだから、それをご相談に来たのよ」
「相談ですか?」
これまでの話でユリアーナはファライナがその神秘的な見かけと違って、かなりなお花畑脳の持ち主だと感じていた。今まで2度しか会話をしていなかったが、その時はそんな印象は受けなかった。
それなのに今日の彼女はまるで別人のように思える。それ位違って見えたから、何を言い出すのか分からずに、ユリアーナはかなり不安な気持ちが胸の内に押し寄せてきていた。
「ユリアーナ様の事、噂で聞いたのだけれど婚約を破棄されたのって本当?」
ユリアーナは頭をトンカチで殴られたような衝撃を受けた。ファライナは侯爵家の嫡女の筈で今は家業も手伝っていると以前聞いていたから、教育は受けているはずなのに、こんなに不躾な質問の仕方をしてきた事が信じられなかった。
それでも間違いは訂正しなければと思った。
「それは違います、婚約は解消して頂きました」
「あぁやっぱりシモンの言ったことが本当なのね。貴方の名誉を慮っているのだとちょっと勘ぐったわ。そうねシモンが私に嘘をつくはずないわ」
ファライナは笑顔で事も無げに言ったが、その言葉はユリアーナの気持ちを抉った、何故かザックリ抉ったと感じてしまった。
「⋯⋯いい加減にしてもらえませんか?」
「えっ?」
「ファライナ様が何が仰りたいか全く分からないのですが、私に怒っていらっしゃるのですか?」
「そんな!怒ってなんかいないわ」
ファライナは必死で首と手を同時に左右に振る。そんな子供じみた動作もユリアーナの琴線に触れた。
「では、何ですか?どうして今日はここへ?」
「ユリアーナ様は私が嫌いですか?」
「えっ?どうしてそんな話になるのですか?」
「だって、最後まで聞かずに怒りだすのですもの。私貴方がなにに怒ってるか分からないわ。私嘘なんか言ってないもの!」
そう言ってファライナは立ち上がり部屋を出ていった。慌ててマールが走って追いかけるのがユリアーナの目の端に映っていたけれど、ユリアーナはただ呆然としていた。
何だろう
噛み合わない
そんな感じ
ユリアーナはどうしていいか分からなくなった。
シモンに付き纏うユリアーナに対して、怒っているからあんな事を言い出したのかと思ったから聞いただけ。
嘘を付いているとファライナを責めてなどいなかったはず、ただユリアーナはシモンの事や嫡女という事を軽んじるファライナに腹が立っただけだ。自分の怒りの正当性は正直分からない。ユリアーナが怒っていい話ではなかったのかもしれない。
自分の言い方が悪かったのか?
でもあれ以上聞きたくなかった、でも相談って何だったのだろう?それにどうしてそんなに親しくもないユリアーナにファライナは色々と話したのだろう。
「私⋯⋯⋯」
呟く言葉も続かない程ユリアーナは混乱を極めていた。
ファライナとカインが駆け落ちしたとダイナスに密かに聞かされたのは、それから3日後の事だった。
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