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第二章 アトルス王国にて
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侯爵父娘の朝の急訪で色々と話して、彼らが帰ったあと、ユリアーナは摩訶不思議な会話を理解する事にかなり疲れてしまい、すっかり学院に行く気が失せていた。二人が馬車に乗るのを見送ったあと、気の毒そうに見る執事に、ユリアーナは今日は学院を休む旨を伝えた。母エリーヌは外交官補佐の仕事だから、スケジュールの変更は有り得ない。背中に疲れを漂わせながら、ユリアーナを羨ましそうに見つめてそのまま王宮に出勤して行った。
少し遅めの朝食を取り、そういえばお母様は朝食も召し上がられなかったわねと、エリーヌが気の毒で側に控えていたメイドに王宮へ差し入れを持っていくように命じる。
その後は体からどっと疲れが溢れてきて、伯父の趣味部屋へと癒やされに向かった。
伯父の趣味はオルゴール収集で、外交で他国に行く度に買ってきた物が、その部屋には所狭しと置かれている。
その中の一つを手に取り撥条を巻いてそっと蓋を開ける。
中にはアクセサリーを入れられるような仕様になっているけれど、伯父は何も入れていなかった。
小さな丸テーブルの上にオルゴールを置いて、その横の安楽椅子に腰掛けて、その音に耳を傾ける。
懐かしいその音はこの国に来た時に、記憶の底から蘇った。
それはユリアーナが幼い頃耳元で聞かされていた母の子守唄だった。
物心もついていなかった幼い頃の記憶で、無意識に覚えていた子守唄にユリアーナの気持ちがゆっくりと落ち着いて行った。
あのファライナのパワーを受け止めるのは容易ではない。それに対応できるシモンやカイル、そして会った事がないシモンの兄を尊敬せずにはいられない。そんな風にユリアーナは感じていた。
朝のたった1時間で3日分くらいのエネルギーを使った様に思う、今日のお母様は仕事にならないのではないかと、母の体調を気遣いながらも一人目を閉じ音に身を任せていた。
◇◇◇
あれから、何故かユリアーナはファライナに友人枠に入れられたようで、何かと彼女はユリアーナの前に現れる。
いや、言い方が可笑しかったかも知れない。
ユリアーナが植物園に行くと必ずファライナがいる様になったのだった。ファライナはユリアーナの顔を見ると嬉しそうに近寄ってきて話しかける。それをシモンが苦笑しながらも微笑ましそうに二人を見る。
そんな構図が出来上がってきていた。
ただそれを苦痛に思うのはユリアーナだけだった。
だが本来、婚約しているのはシモンとファライナで、周りから見るなら二人の間をユリアーナが毎週邪魔をしているように見えるのだ。
だからファライナがユリアーナの前に現れるのではなく、ユリアーナが二人の前に現れているのだ。
そんな3人が噂にならないはずはなかった。
◇◇◇
ファライナと話すのはかなり骨が折れる。それでもユリアーナは疲れるだけで、彼女を嫌ってるわけではない。現にシモンが居ないところでは、彼女との会話は面白いのだ、ただエネルギーがいるだけ。
彼女の突拍子もない言葉を聞いて、どうやったらその言葉になるのかを推理するのは、本を読んでいるようで面白い。
だが3人で会話をするのが苦痛なのだ。
シモンは必ずファライナが話すと食い入るように彼女を見つめている。その事には直ぐにユリアーナは気付いた。
シモンはファライナが好きなのだと婚約者なのだから当たり前だと、改めてユリアーナは思い知ってしまった。
そしてそれと同時にユリアーナは、自分がシモンの事を異性として好ましいと思っていると分かってしまった。
だが、まだ間に合う。
そう思った。
まだ自分の気持ちは、きっと淡い恋にもなっていない、今なら大丈夫ユリアーナはそう自分に言い聞かせていた。
丁度そうやって何とか自分の気持ちを誤魔化しつつ過ごしている時に、義母エリーヌからお誘いの手紙が届いた。
義母エリーヌは今、ユリアーナの母エリーヌの個人所有の家を借りて住んでいる。
流石に契約婚とはいえ夫の元妻の実家に世話になる程、義母エリーヌは厚顔ではなかった。
当初は自身で部屋を借りようと不動産などを見て回っていたが、偶々それを知った母エリーヌが自分所有の使ってない屋敷を提供すると言い出した。
遠慮した義母に母はどうせ誰かに借りるなら自分のでも同じだろうと言い出した為、それ以上は依怙地出来ずにそのまま言葉に甘える事になった。
その家にユリアーナは久しぶりに訪った。
義母の引っ越しを手伝った以来だった。
「お義母様、お久しぶりです」
義母とは手紙のやり取りは頻繁にしていたが、会うのは実に5ヶ月ぶりだった。
「ユリアーナ、如何したの?だいぶ痩せたんじゃない?」
久しぶりに会った義母は優しくユリアーナを抱きしめて、その背中を擦りながらユリアーナを労ってくれた。
「痩せたかしら?自分では分からないわ」
ユリアーナの返答に納得してない顔をしながらも、義母エリーヌはサロンに案内してくれた。今ここに義母は少ない使用人と住んでいる。
お茶の準備も手ずから行っていた。
「美味しいです」
義母のお茶は優しく甘い味がして、ユリアーナはホッと一息吐いた。
「良かった、沢山練習したの」
久しぶりの笑顔は5ヶ月前のままだった。
今日は話があるとここへ誘われたのだが、義母は本題にはなかなか入らなかった。
お互いに近況を報告していたのだが、ユリアーナは義母がアトルスへ移住しようとしている事に気付いた。
「お義母様、ライレーンには」
帰らないつもり?言いかけて、義母の笑顔でユリアーナは言葉に詰まった。
「ユリアーナ、私旦那様をそろそろ解放してあげようと思ってるの」
──カシャン──
義母の言葉にユリアーナは驚きすぎて指が震え、ソーサーにスプーンを落としてしまった。
奇しくもあの日の義母を擬えてしまっていた。
少し遅めの朝食を取り、そういえばお母様は朝食も召し上がられなかったわねと、エリーヌが気の毒で側に控えていたメイドに王宮へ差し入れを持っていくように命じる。
その後は体からどっと疲れが溢れてきて、伯父の趣味部屋へと癒やされに向かった。
伯父の趣味はオルゴール収集で、外交で他国に行く度に買ってきた物が、その部屋には所狭しと置かれている。
その中の一つを手に取り撥条を巻いてそっと蓋を開ける。
中にはアクセサリーを入れられるような仕様になっているけれど、伯父は何も入れていなかった。
小さな丸テーブルの上にオルゴールを置いて、その横の安楽椅子に腰掛けて、その音に耳を傾ける。
懐かしいその音はこの国に来た時に、記憶の底から蘇った。
それはユリアーナが幼い頃耳元で聞かされていた母の子守唄だった。
物心もついていなかった幼い頃の記憶で、無意識に覚えていた子守唄にユリアーナの気持ちがゆっくりと落ち着いて行った。
あのファライナのパワーを受け止めるのは容易ではない。それに対応できるシモンやカイル、そして会った事がないシモンの兄を尊敬せずにはいられない。そんな風にユリアーナは感じていた。
朝のたった1時間で3日分くらいのエネルギーを使った様に思う、今日のお母様は仕事にならないのではないかと、母の体調を気遣いながらも一人目を閉じ音に身を任せていた。
◇◇◇
あれから、何故かユリアーナはファライナに友人枠に入れられたようで、何かと彼女はユリアーナの前に現れる。
いや、言い方が可笑しかったかも知れない。
ユリアーナが植物園に行くと必ずファライナがいる様になったのだった。ファライナはユリアーナの顔を見ると嬉しそうに近寄ってきて話しかける。それをシモンが苦笑しながらも微笑ましそうに二人を見る。
そんな構図が出来上がってきていた。
ただそれを苦痛に思うのはユリアーナだけだった。
だが本来、婚約しているのはシモンとファライナで、周りから見るなら二人の間をユリアーナが毎週邪魔をしているように見えるのだ。
だからファライナがユリアーナの前に現れるのではなく、ユリアーナが二人の前に現れているのだ。
そんな3人が噂にならないはずはなかった。
◇◇◇
ファライナと話すのはかなり骨が折れる。それでもユリアーナは疲れるだけで、彼女を嫌ってるわけではない。現にシモンが居ないところでは、彼女との会話は面白いのだ、ただエネルギーがいるだけ。
彼女の突拍子もない言葉を聞いて、どうやったらその言葉になるのかを推理するのは、本を読んでいるようで面白い。
だが3人で会話をするのが苦痛なのだ。
シモンは必ずファライナが話すと食い入るように彼女を見つめている。その事には直ぐにユリアーナは気付いた。
シモンはファライナが好きなのだと婚約者なのだから当たり前だと、改めてユリアーナは思い知ってしまった。
そしてそれと同時にユリアーナは、自分がシモンの事を異性として好ましいと思っていると分かってしまった。
だが、まだ間に合う。
そう思った。
まだ自分の気持ちは、きっと淡い恋にもなっていない、今なら大丈夫ユリアーナはそう自分に言い聞かせていた。
丁度そうやって何とか自分の気持ちを誤魔化しつつ過ごしている時に、義母エリーヌからお誘いの手紙が届いた。
義母エリーヌは今、ユリアーナの母エリーヌの個人所有の家を借りて住んでいる。
流石に契約婚とはいえ夫の元妻の実家に世話になる程、義母エリーヌは厚顔ではなかった。
当初は自身で部屋を借りようと不動産などを見て回っていたが、偶々それを知った母エリーヌが自分所有の使ってない屋敷を提供すると言い出した。
遠慮した義母に母はどうせ誰かに借りるなら自分のでも同じだろうと言い出した為、それ以上は依怙地出来ずにそのまま言葉に甘える事になった。
その家にユリアーナは久しぶりに訪った。
義母の引っ越しを手伝った以来だった。
「お義母様、お久しぶりです」
義母とは手紙のやり取りは頻繁にしていたが、会うのは実に5ヶ月ぶりだった。
「ユリアーナ、如何したの?だいぶ痩せたんじゃない?」
久しぶりに会った義母は優しくユリアーナを抱きしめて、その背中を擦りながらユリアーナを労ってくれた。
「痩せたかしら?自分では分からないわ」
ユリアーナの返答に納得してない顔をしながらも、義母エリーヌはサロンに案内してくれた。今ここに義母は少ない使用人と住んでいる。
お茶の準備も手ずから行っていた。
「美味しいです」
義母のお茶は優しく甘い味がして、ユリアーナはホッと一息吐いた。
「良かった、沢山練習したの」
久しぶりの笑顔は5ヶ月前のままだった。
今日は話があるとここへ誘われたのだが、義母は本題にはなかなか入らなかった。
お互いに近況を報告していたのだが、ユリアーナは義母がアトルスへ移住しようとしている事に気付いた。
「お義母様、ライレーンには」
帰らないつもり?言いかけて、義母の笑顔でユリアーナは言葉に詰まった。
「ユリアーナ、私旦那様をそろそろ解放してあげようと思ってるの」
──カシャン──
義母の言葉にユリアーナは驚きすぎて指が震え、ソーサーにスプーンを落としてしまった。
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