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第三章 葛藤
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(この応接室ではだめだわ)
意識?を取り戻したユリアーナが真っ先に思ったのはその事だった。
ロッサルト公爵家には応接室が4部屋設えている。
その内の一つは王族だけを案内する王族専用、一つは王族の使いを案内する勅使専用、一つは公爵の客人を案内する当主専用、最後の一つがそれ以外の方を案内する応接室になっていた。
アイザットはユリアーナの客人という事で本来なら一般の応接室だが、現在ユリシーズが長期不在の為公爵代理のユリアーナの客人は当主専用の応接室に案内していた。
4つの部屋の違いは中に置かれた調度品や広さも関係しているが、一番の違いは防音設備だった。
4部屋の中で一番狭く防音設備が完璧に整っているのは勅使専用の応接室だった。
丁度良い所にアルホーンが入室していた為、ユリアーナは彼に部屋を移動する旨を告げる。
「アルホーン部屋を変えるわ、ラベンダーにお願い」
「なっ」
「⋯⋯⋯承知しました」
応接室に花の名を付けるのはライレーン王国では一般的だ、おそらくマホニー伯爵家でも用いられていて、その意味にアイザットも気付いたのだろう。
ユリアーナがその部屋を指定したのは、単に防音設備が整っているからだ。その一点のみで大袈裟なつもりはなかった。
だが真っ直ぐな気質のアイザットは違う意味で捉えたようで、自分の発言が重大な王家に纏わる物だったのかと冷や汗を掻いていた。
部屋を移動してお茶を淹れ直して貰ったが、それらは全てアルホーンが行った。
そして彼はそのままその場に控える。
再びアイザットと向かい合ったユリアーナは、アルホーンの手で淹れられた芳醇な香りの珈琲を一口口に含んだ。
「ふぅ」
思わず出る溜息にビクッと体を震わせたのは、かなりビビっているアイザットだった。
「マホニー伯爵令息、そんなに畏まらないで。この部屋にしたのは設備のせいであって、貴方を咎めるつもりはないのよ」
ユリアーナの言葉で一瞬だけ目を瞠ったアイザットは、途端にその緊張していた顔の強ばりが解けた。
「はぁ驚かさないでください、寿命が縮まりました」
「貴方の話に寿命が縮まったのは私の方よ。でも情報提供は有難かったわ。おそらくダイナス様がショーズ侯爵家を切らないのは、そのご令嬢の発想力故だと思うわ。かなり傾倒されていたから」
「発想力ですか?」
「えぇこんな事言うのもちょっと如何かと思わないでもないけれど、彼女はかなり変わったご令嬢なの。でも事業に関しては天才的な所があるらしくてね、それを高く評価されていたわ。序に言うとダイナス様は家の父も巻き込んでいるわ」
「えっロッサルト公爵をですか?」
「えぇ」
「そんな!益々断れないじゃないですか!」
「そんなにお断りしたいの?」
「うちの父は、マホニー伯爵は結構潔癖なんです。僕もオスカーのやらかしの時は、お前は何で黙って見過ごしたのかとかなり叱責されました。廃嫡になるかと思ったぐらいに」
アイザットは無自覚に結構ユリアーナの痛い所を毎回突いてくる。今回もオスカーの事を簡単に口にしたのだが、前回と違うのはユリアーナの心持ちが違っていた。苦笑はするけれどそこまで胸が痛まなくなっている。ユリアーナの中では確実に過去になっていた。
そして彼はその失言に全く気付いていないから指摘するのも馬鹿馬鹿しい程だった。
ただユリアーナの背後ではアルホーンが「ん、ん」と咳払いをしていた。
「そう、伯爵がそんなお方なら少し厳しいわね」
そうユリアーナは口にしたが、だからといってユリアーナがどうにか出来る問題でもない。あくまでもアトルス王国の貴族家の話だ。
「困っちゃったわね。貴方個人でも関わるのは難しいかしら?」
ユリアーナの言葉にブルブルと首を左右に振るアイザットは本気で怖がっているように見えた。
「せめて家督を継いでからならまだしも、僕はまだ学生ですから父に意見は言えません、まぁ言っても聞いてもらえませんね。今回もロッサルト公爵令嬢の所へ赴くのは僕が令嬢に面識があったからです。ダイナス様に取りなしてもらうにはロッサルト公爵令嬢の方がいいのではないかという、父の考えもありましたが」
「そう、困ってるのね」
「はい」
ユリアーナは如何したものかと思案する。
ダイナスに「マホニー伯爵家は断るそうよ」と言うのは簡単だ、だがそれでダイナスが諦めるとは思えなかった。
かなりファライナの手腕に感心していたし、おそらくシモンにも頼まれているのではないかとユリアーナは推察した。
国家事業を友人を絡めるのはダイナスらしくないが、その辺の事情はユリアーナの預かり知らぬ所だろう。
一番いいのはファライナがシモンとしっかりと婚約者として向き合う事なのだが。
そこまで考えてユリアーナは思った。
当事者のカインとやらは何も思わないのだろうか?
シモンの兄の従者として仕えていたはずで、嘗ての主の弟の婚約者と懇意にする事が、良い事だとは決して思っていないはずなのに、ユリアーナは二人の仲は数回見かけただけだが、かなり睦まじく思えた。
ファライナの距離の取り方にも問題はあるけれど、彼女のカインとシモンへの態度は明らかに違っていた。どちらとも睦まじいけれど、シモンへの態度は本当に姉弟の様に接しているとユリアーナには見えた。
今まではそれでも良かったのだろう。
でもここに来て次期ゲートラン公爵はご立腹なのだ。
あの3人の奇妙な三角関係を見直す時が来たのかもしれない。
アイザットの顔を見つめてユリアーナは重大な事にふと気付いて大きく溜息が溢れる。
「はぁ、マホニー伯爵令息。貴方私を巻き込んだ自覚御座いますか?こうなったら貴方も巻き込まれて下さいね」
「えっ?」
ユリアーナは奇天烈令嬢ファライナの、勢いに巻き込まれる自分を想像して泣きたくなった。
意識?を取り戻したユリアーナが真っ先に思ったのはその事だった。
ロッサルト公爵家には応接室が4部屋設えている。
その内の一つは王族だけを案内する王族専用、一つは王族の使いを案内する勅使専用、一つは公爵の客人を案内する当主専用、最後の一つがそれ以外の方を案内する応接室になっていた。
アイザットはユリアーナの客人という事で本来なら一般の応接室だが、現在ユリシーズが長期不在の為公爵代理のユリアーナの客人は当主専用の応接室に案内していた。
4つの部屋の違いは中に置かれた調度品や広さも関係しているが、一番の違いは防音設備だった。
4部屋の中で一番狭く防音設備が完璧に整っているのは勅使専用の応接室だった。
丁度良い所にアルホーンが入室していた為、ユリアーナは彼に部屋を移動する旨を告げる。
「アルホーン部屋を変えるわ、ラベンダーにお願い」
「なっ」
「⋯⋯⋯承知しました」
応接室に花の名を付けるのはライレーン王国では一般的だ、おそらくマホニー伯爵家でも用いられていて、その意味にアイザットも気付いたのだろう。
ユリアーナがその部屋を指定したのは、単に防音設備が整っているからだ。その一点のみで大袈裟なつもりはなかった。
だが真っ直ぐな気質のアイザットは違う意味で捉えたようで、自分の発言が重大な王家に纏わる物だったのかと冷や汗を掻いていた。
部屋を移動してお茶を淹れ直して貰ったが、それらは全てアルホーンが行った。
そして彼はそのままその場に控える。
再びアイザットと向かい合ったユリアーナは、アルホーンの手で淹れられた芳醇な香りの珈琲を一口口に含んだ。
「ふぅ」
思わず出る溜息にビクッと体を震わせたのは、かなりビビっているアイザットだった。
「マホニー伯爵令息、そんなに畏まらないで。この部屋にしたのは設備のせいであって、貴方を咎めるつもりはないのよ」
ユリアーナの言葉で一瞬だけ目を瞠ったアイザットは、途端にその緊張していた顔の強ばりが解けた。
「はぁ驚かさないでください、寿命が縮まりました」
「貴方の話に寿命が縮まったのは私の方よ。でも情報提供は有難かったわ。おそらくダイナス様がショーズ侯爵家を切らないのは、そのご令嬢の発想力故だと思うわ。かなり傾倒されていたから」
「発想力ですか?」
「えぇこんな事言うのもちょっと如何かと思わないでもないけれど、彼女はかなり変わったご令嬢なの。でも事業に関しては天才的な所があるらしくてね、それを高く評価されていたわ。序に言うとダイナス様は家の父も巻き込んでいるわ」
「えっロッサルト公爵をですか?」
「えぇ」
「そんな!益々断れないじゃないですか!」
「そんなにお断りしたいの?」
「うちの父は、マホニー伯爵は結構潔癖なんです。僕もオスカーのやらかしの時は、お前は何で黙って見過ごしたのかとかなり叱責されました。廃嫡になるかと思ったぐらいに」
アイザットは無自覚に結構ユリアーナの痛い所を毎回突いてくる。今回もオスカーの事を簡単に口にしたのだが、前回と違うのはユリアーナの心持ちが違っていた。苦笑はするけれどそこまで胸が痛まなくなっている。ユリアーナの中では確実に過去になっていた。
そして彼はその失言に全く気付いていないから指摘するのも馬鹿馬鹿しい程だった。
ただユリアーナの背後ではアルホーンが「ん、ん」と咳払いをしていた。
「そう、伯爵がそんなお方なら少し厳しいわね」
そうユリアーナは口にしたが、だからといってユリアーナがどうにか出来る問題でもない。あくまでもアトルス王国の貴族家の話だ。
「困っちゃったわね。貴方個人でも関わるのは難しいかしら?」
ユリアーナの言葉にブルブルと首を左右に振るアイザットは本気で怖がっているように見えた。
「せめて家督を継いでからならまだしも、僕はまだ学生ですから父に意見は言えません、まぁ言っても聞いてもらえませんね。今回もロッサルト公爵令嬢の所へ赴くのは僕が令嬢に面識があったからです。ダイナス様に取りなしてもらうにはロッサルト公爵令嬢の方がいいのではないかという、父の考えもありましたが」
「そう、困ってるのね」
「はい」
ユリアーナは如何したものかと思案する。
ダイナスに「マホニー伯爵家は断るそうよ」と言うのは簡単だ、だがそれでダイナスが諦めるとは思えなかった。
かなりファライナの手腕に感心していたし、おそらくシモンにも頼まれているのではないかとユリアーナは推察した。
国家事業を友人を絡めるのはダイナスらしくないが、その辺の事情はユリアーナの預かり知らぬ所だろう。
一番いいのはファライナがシモンとしっかりと婚約者として向き合う事なのだが。
そこまで考えてユリアーナは思った。
当事者のカインとやらは何も思わないのだろうか?
シモンの兄の従者として仕えていたはずで、嘗ての主の弟の婚約者と懇意にする事が、良い事だとは決して思っていないはずなのに、ユリアーナは二人の仲は数回見かけただけだが、かなり睦まじく思えた。
ファライナの距離の取り方にも問題はあるけれど、彼女のカインとシモンへの態度は明らかに違っていた。どちらとも睦まじいけれど、シモンへの態度は本当に姉弟の様に接しているとユリアーナには見えた。
今まではそれでも良かったのだろう。
でもここに来て次期ゲートラン公爵はご立腹なのだ。
あの3人の奇妙な三角関係を見直す時が来たのかもしれない。
アイザットの顔を見つめてユリアーナは重大な事にふと気付いて大きく溜息が溢れる。
「はぁ、マホニー伯爵令息。貴方私を巻き込んだ自覚御座いますか?こうなったら貴方も巻き込まれて下さいね」
「えっ?」
ユリアーナは奇天烈令嬢ファライナの、勢いに巻き込まれる自分を想像して泣きたくなった。
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