【本編完結】婚約を解消いたしましょう

maruko

文字の大きさ
43 / 80
第三章 葛藤

43

しおりを挟む
 (この応接室ではだめだわ)

 意識?を取り戻したユリアーナが真っ先に思ったのはその事だった。
 ロッサルト公爵家には応接室が4部屋設えている。
 その内の一つは王族だけを案内する王族専用、一つは王族の使いを案内する勅使専用、一つは公爵の客人を案内する当主専用、最後の一つがそれ以外の方を案内する応接室になっていた。

 アイザットはユリアーナの客人という事で本来なら一般の応接室だが、現在ユリシーズが長期不在の為公爵代理のユリアーナの客人は当主専用の応接室に案内していた。

 4つの部屋の違いは中に置かれた調度品や広さも関係しているが、一番の違いは防音設備だった。
 4部屋の中で一番狭く防音設備が完璧に整っているのは勅使専用の応接室だった。

 丁度良い所にアルホーンが入室していた為、ユリアーナは彼に部屋を移動する旨を告げる。

「アルホーン部屋を変えるわ、ラベンダーにお願い」

「なっ」

「⋯⋯⋯承知しました」

 応接室に花の名を付けるのはライレーン王国では一般的だ、おそらくマホニー伯爵家でも用いられていて、その意味にアイザットも気付いたのだろう。
 ユリアーナがその部屋を指定したのは、単に防音設備が整っているからだ。その一点のみで大袈裟なつもりはなかった。
 だが真っ直ぐな気質のアイザットは違う意味で捉えたようで、自分の発言が重大な王家に纏わる物だったのかと冷や汗を掻いていた。


 部屋を移動してお茶を淹れ直して貰ったが、それらは全てアルホーンが行った。
 そして彼はそのままその場に控える。

 再びアイザットと向かい合ったユリアーナは、アルホーンの手で淹れられた芳醇な香りの珈琲を一口口に含んだ。

「ふぅ」

 思わず出る溜息にビクッと体を震わせたのは、かなりビビっているアイザットだった。

「マホニー伯爵令息、そんなに畏まらないで。この部屋にしたのは設備のせいであって、貴方を咎めるつもりはないのよ」

 ユリアーナの言葉で一瞬だけ目を瞠ったアイザットは、途端にその緊張していた顔の強ばりが解けた。

「はぁ驚かさないでください、寿命が縮まりました」

「貴方の話に寿命が縮まったのは私の方よ。でも情報提供は有難かったわ。おそらくダイナス様がショーズ侯爵家を切らないのは、そのご令嬢の発想力故だと思うわ。かなり傾倒されていたから」

「発想力ですか?」

「えぇこんな事言うのもちょっと如何かと思わないでもないけれど、彼女はかなり変わったご令嬢なの。でも事業に関しては天才的な所があるらしくてね、それを高く評価されていたわ。序に言うとダイナス様は家の父も巻き込んでいるわ」

「えっロッサルト公爵をですか?」

「えぇ」

「そんな!益々断れないじゃないですか!」

「そんなにお断りしたいの?」

「うちの父は、マホニー伯爵は結構潔癖なんです。僕もオスカーのやらかしの時は、お前は何で黙って見過ごしたのかとかなり叱責されました。廃嫡になるかと思ったぐらいに」

 アイザットは無自覚に結構ユリアーナの痛い所を毎回突いてくる。今回もオスカーの事を簡単に口にしたのだが、前回と違うのはユリアーナの心持ちが違っていた。苦笑はするけれどそこまで胸が痛まなくなっている。ユリアーナの中では確実に過去になっていた。
 そして彼はその失言に全く気付いていないから指摘するのも馬鹿馬鹿しい程だった。
 ただユリアーナの背後ではアルホーンが「ん、ん」と咳払いをしていた。

「そう、伯爵がそんなお方なら少し厳しいわね」

 そうユリアーナは口にしたが、だからといってユリアーナがどうにか出来る問題でもない。あくまでもアトルス王国の貴族家の話だ。

「困っちゃったわね。貴方個人でも関わるのは難しいかしら?」

 ユリアーナの言葉にブルブルと首を左右に振るアイザットは本気で怖がっているように見えた。

「せめて家督を継いでからならまだしも、僕はまだ学生ですから父に意見は言えません、まぁ言っても聞いてもらえませんね。今回もロッサルト公爵令嬢の所へ赴くのは僕が令嬢に面識があったからです。ダイナス様に取りなしてもらうにはロッサルト公爵令嬢の方がいいのではないかという、父の考えもありましたが」

「そう、困ってるのね」

「はい」

 ユリアーナは如何したものかと思案する。
 ダイナスに「マホニー伯爵家は断るそうよ」と言うのは簡単だ、だがそれでダイナスが諦めるとは思えなかった。
 かなりファライナの手腕に感心していたし、おそらくシモンにも頼まれているのではないかとユリアーナは推察した。

 国家事業を友人を絡めるのはダイナスらしくないが、その辺の事情はユリアーナの預かり知らぬ所だろう。
 一番いいのはファライナがシモンとしっかりと婚約者として向き合う事なのだが。

 そこまで考えてユリアーナは思った。

 当事者のカインとやらは何も思わないのだろうか?

 シモンの兄の従者として仕えていたはずで、嘗ての主の弟の婚約者と懇意にする事が、良い事だとは決して思っていないはずなのに、ユリアーナは二人の仲は数回見かけただけだが、かなり睦まじく思えた。

 ファライナの距離の取り方にも問題はあるけれど、彼女のカインとシモンへの態度は明らかに違っていた。どちらとも睦まじいけれど、シモンへの態度は本当に姉弟の様に接しているとユリアーナには見えた。

 今まではそれでも良かったのだろう。
 でもここに来て次期ゲートラン公爵はご立腹なのだ。
 あの3人の奇妙な三角関係を見直す時が来たのかもしれない。

 アイザットの顔を見つめてユリアーナは重大な事にふと気付いて大きく溜息が溢れる。

「はぁ、マホニー伯爵令息。貴方私を巻き込んだ自覚御座いますか?こうなったら貴方も巻き込まれて下さいね」

「えっ?」

 ユリアーナは奇天烈令嬢ファライナの、勢いに巻き込まれる自分を想像して泣きたくなった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】あなた方は信用できません

玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。 第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?

婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ
恋愛
婚約破棄―― それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。 けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。 「……では、私は日常に戻ります」 派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。 彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。 王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。 誰かが声高に称えられることもなく、 誰かが悪役として裁かれることもない。 それでも―― 混乱は起きず、争いは減り、 人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。 選ばない勇気。 変えない決断。 名を残さず、英雄にならない覚悟。 これは、 婚約破棄をきっかけに 静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、 その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。 派手ではない。 けれど、確かに強い。 ――それでも、日常は続く。

悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。

ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」  ぱんっ。  愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。  甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。  ──え?  打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。 「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」 シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。 妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。 でも、それなら側妃でいいのではありませんか? どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

処理中です...